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第53話:魔族シャルルとの戦い①(最初の攻防)

◆前回までのあらすじ◆

国境街「ジャネーロ」を訪れたリュウジ。

領主に呼び出されて、領主宅へと赴いたリュウジは使用人のシャルルと戦闘となる。


戦いの中、ついに女給仕長シャルルが本来の魔族の姿を見せるのであった。

その際に体内の魔力を放出し、周囲を破壊する大爆発を巻き起こしたのだった。


≪登場人物≫

・リュウジ … 本作の主人公。冥界竜として転生し、現在は人間の少年に擬態している。

・ノイン  … リュウジの仲間であるヒュドラ。現在は人間の女冒険者に擬態している。

・ロック  … リュウジの仲間であるゴーレム。


・シャバート … 国境街「ジャネーロ」の領主。魔族と契約し生贄を捧げている。

・シャルル  … 領主の女給仕長。人間に擬態した魔族である。

 瞬時に吹き出した魔力が衝撃波となって周囲のものを破壊し、爆風にも似た魔力の波がそれら瓦礫を諸共に吹き飛ばす。


 それはまるで大型の爆弾が炸裂したかのように一瞬にして周囲のものを破壊し尽くした。


 僕たちは領主宅の応接室にいたのだが、その爆発で建物が一瞬で吹き飛び、一気に視界がひらけた。


 領主邸宅どころか、周辺の建物も巻き込まれ破壊され、その範囲に居た毒によって苦しんていた住民たちや衛兵ゴーレムも、爆風に吹き飛ばされたのであった。


 辺りは瓦礫と死体が転がる死屍累々とした荒野へと化していた。


「怪我はありませんか? リュウジ様」


 凄まじい爆発であったが、それに巻き込まれる寸前にノインが僕を庇い目の前に移動しスキル【絶対の盾(イージス)】を展開し防御した。


 さすが最高峰の防御スキル【絶対の盾(イージス)】だ。すさまじい爆風の中、盾に防がれたこの場所は熱風どころか、よそ風すら吹かない安全地帯となっていた。


「シャル、ル…… な、ぜ――」


 吹き飛んだがれきの中、かろうじて生き残った領主のシャバートが言葉を漏らす。


 身体の至る所が焼け爛れ、さらにノインの放った毒にて肌は不吉な斑点模様を浮かべたその姿はまさに瀕死の状態だ。


「なぜ、だと?

 ワタシは貴様らと仲良しになったつもりなど無い。利用できるから利用していた、それだけだ。妖刀を失い、利用価値が無くなったので切り捨てた。それだけだ」


 そう答える姿は異形――


 美しいブロンド髪の給仕娘(メイド)の姿は見る影もなく。金色(こんじき)の瞳の異形へと変貌していた。

 白磁の様にきめ細かかった肌は、蒼く爬虫類の様な硬質なものへと変貌し、額には二本の角。給仕服は先ほどの爆発で吹き飛び、昆虫の外骨格に似た濃紺色の硬い外皮(よろい)に包まれた蒼い地肌が露出していた。


 その姿を僕は知っている。


 僕をこの世界に召喚した『魔族』の姿だ。


――気を付けて、リュウジ。奴は戦闘タイプの魔族。身体能力だけで言えば前に闘った黒髪の勇者より格上だ。


 (アレクス)の注意喚起に、僕は気を引き締める。


「この街に薄汚い魔族が紛れ込んでいたか。

 まぁ私の主人にたてついたならば、種族など関係なく滅ぼすのみだ」


 ノインが本性を現した目の前の魔族へと挑発の言葉を放つ。


「フン。人に化けた畜生の分際で、誇り高き我が一族を貶すとは。身の程を教えてやる」


 その挑発の言葉を受けて、目の前の魔族は不快感を露にすると、右手の爪を刃へと変化させ斬撃を放つ。

 シュインという空気を切り裂く音と共に斬撃が飛来するが、その攻撃はノインの生み出した半透明の盾によって防がれる。


「何だそれは? 私の絶対の盾(スキル)の前ではそよ風以下だな」


 ノインは余裕の態度で言葉を返す。


 しかし、その言葉を意に介さずに魔族は斬撃を続ける。


 シュイン――

   シュイン――


  シュバ シュバ


 シュン、シュン

  シュ、シュイン、シュバ、シュ――


   シュババババババ――


 その斬撃は速度が上がっていき、気づくと斬撃の嵐。間隙の無い超連撃の波となって押し寄せる。


「どんなに攻撃しても無駄だ」


 そう告げるノインの表情に僅かに焦りの色が見えた。なにか不安要素があるのかもしれない。


「ノイン――」


「大丈夫です!

 相手は毒に対する高い耐性がある様ですが、それでも奴が毒の状態になっているのは確実。このまま奴の攻撃を防ぎ続ければ、勝機はこちらにあります」


 不安を読み取り声をかけると、ノインは力強く言葉を返してくれた。


 凄まじい攻撃を続ける相手に目を向けると、その口元に一筋、血が流れていた。どうやらノインの言う通りあの魔族は毒状態となっている様だ。


 だがそれでも嫌な予感は払拭できない。


 あの魔族の目、なにかを狙っている。


――ノインの扱う【絶対の盾(イージス)】は強力な防御スキルだが、他のスキルとの併用が出来ない。それを攻撃を続けることで奴が確かめているのかもしれない。気づかれたらマズいな。


 状況を解析して(アレクス)が脳内で告げる。


「ユニークスキル【創造神(クヌムス・)の鋳型(テンプレート)】」


 魔族は斬撃の嵐を放ちながらスキルを発動させる。すると、先ほどの大爆発で吹き飛んだゴーレムの残骸が組み合わされ元の姿へと戻っていく。


 それを見て思い出す。

 あの爆発に巻き込まれてロックは大丈夫だったのだろうか?


(ご心配頂き感謝いたします。

 我については無事ではあるのですが、先ほどの爆発の影響で身体が大きく破損してしまい、【自己再生】にて修復中です。

 稼働可能になるまであと76秒必要となります)


 僕の心配が伝わったのか、ロックから思念伝達での言葉が届く。


 その思念の方向へと視線を向けると、片膝を付き両腕で全身を護った状態で回復に集中しているロックの姿があった。身体のあちこちが大きなダメージによってヒビが入り、砕けている部分もあったが、命には別状はない様だ。


 良かったと思う反面、しばらくはロックからの支援は期待できない状況であることが分かった。


「その盾を展開しながら、ゴーレムの攻撃を防ぐことが出来るかな?」


 魔族の口元がニヤリと歪み、ノインの顔が焦りの色が鮮明になる。どうやら魔族の予測は当たっていた様だ。


「紫髪の女を殺せ」


 魔族がゴーレムへの命令を飛ばす。

 命令を受けたゴーレム達は一斉に「ウォォォォ」と唸るような声を発し、ノインへ向かって駆けだす。


 だが――次の瞬間、ノインに向かって駆けだしたゴーレム達が真っ二つになり吹き飛ぶ。


「「なっ――」」


 ノインと魔族が驚きの声を漏らす。


 いやいや、なんでノインも驚くんだよ。少し苦笑しながら口を開き


「僕のことを忘れてもらっちゃ困るな。斬撃を飛ばせるのはあんただけじゃなからね」


 そう告げる。


 勇者パーティーとの戦闘で覚えた『お手軽斬撃飛ばし技』だ。人間の姿であっても、思い切り手刀を振るう事で斬撃効果を持った衝撃波を撃ち出せるのだ。


 単純に襲いかかってくるだけのゴーレムぐらいだったら、戦闘経験が乏しい僕にだって対処可能だ。


 僕は連続で素早く手刀を振るう事で襲い来るゴーレム達を一掃したのだった。

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