第51話:国境街「ジャネーロ」➉(参戦)
◆前回までのあらすじ◆
ジャネーロ領主宅で、領主であるシャバートは冒険者二人と対峙していた。
不意を突いて冒険者を屠ろうとしたのだが、少年には刃が通らず、女は信じられない速度で傷を回復し反撃してきたのだ。
そんな戦いの中、魔族との契約の要である『妖刀』が女冒険者に奪われ、しかも喰われてしまったのだった。
信じられない光景に、皆が言葉を失う。
ボリ、ボリ…… ゴクン……
部屋に咀嚼音だけが響き、そしてそれが飲み込まれる。
紫髪の美女は、手に持った武器をなんと捕食したのだ。
禍々しい瘴気を孕んでいた妖刀は歯の形に欠け、さらにひと口、ふた口と齧りつき妖刀の形がどんどんと欠損していく。
三度嚙り付いた時点で、その妖刀は付与されていた効果が消え去り、武器としてだけでなく魔道具の体すら為さなくなった。
――条件を満たしました。種族名:ヒュドラは、ユニークスキル【魂喰冥王】を取得しました――
そして、≪世界の言葉≫が響く。
紫髪の美女は武器を捕食することで新たなスキルを手に入れたのだ。
「ははは。これで貴様の望みである武器の奪還は不可能になったな」
美女が蛇の様にニヤリと笑い、さらに刀へと食らいつく。
「貴様ぁぁぁぁぁぁっ!!!」
その態度に、シャルルが激高する。
紫髪の女が捕食し修復不能にした刀は、シャルルの上司より下賜された大切ものなのであった。
それを奪われた挙句、破壊されたのだ。そして女のその態度も相まって、怒りの沸点を超えたのだった。
シャルルは床を蹴り、美女に斬りかかる。
爪を変化させた刃で、目にも止まらぬ斬撃を繰り出す。怒りのままの攻撃は、そのほとんどが空を切る。感情のままに振るわれた攻撃は完全に相手に見切られている。
しかし、戦闘能力はシャルルの方が上回っているため、いくつかの斬撃が美女を切り裂き血しぶきが舞う。
その様子を領主であるシャバートは冷静に、そして戦々恐々とそれを見ていた。
(シャルルは激高して冷静さを欠いている。
それよりも先ほどの≪世界の言葉≫だ。先ほどスキル取得の通知――種族名を『ヒュドラ』と告げていた)
あの女はやはり『人間ではない』のだ。
シャルルに切り裂かれた傷が凄まじい速度で再生していた。それは再生竜とも称されるヒュドラの特性そのものだ。
ならば、目の前の少年も『人間ではない』のかもしれない……
その可能性にたどり着いたシャバートはゆっくりと少年に視線を向ける。
「はぁ、やっぱり僕達に敵対するのか……
どうしてこっちの世界の《《人間》》はこうも好戦的なんだよ。敵対するというならば、この街、潰すよ?」
静かに告げられた言葉に、シャバートは戦慄する。その言葉の言い回しが、彼が人間でないことを決定づけていたからだ。
スキルにて解析した限りでは『普通の人間』であった少年――たが、その鑑定結果は間違っていたのだ。
高度な隠蔽スキルや妨害用魔道具にて鑑定スキルを欺くことは可能だ。
恐らくこの少年はそのいずれかの手段を用いて、入国審査時の鑑定を突破したのだ。
考えたくなかったが、さらにもうひとつの可能性が頭を掠める。
この少年が、フェバリエ王国に突如現れた特有魔獣なのではないか、ということを――
改めて【詳細解析】をするのは愚策だ。
解析すること自体が魔獣にとっては敵対意志と捉えられるのだ。
それ以上に【隠蔽解除】など以ての外だ。もし相手が強力な魔獣だった場合、正体を現されてしまったら手が付けられなくなる。
今ならば――
魔法の使用が封じられた結界内で、人間の姿であるこの現状が僅かな勝機なのだ。
そう判断したシャバートは、素早く行動を起こす。
「鎧ゴーレム、すぐにこの少年を殺せ! 弱点は目と口内だ」
先ほど起動させた鎧ゴーレムに命令を出す。それはシャルルの【創造神の鋳型】にて造られ、命令権を与えられた鎧ゴーレムだ。
見たところ、この少年の動きは戦闘経験の乏しい素人のモノであった。
高い戦闘力を有した鎧ゴーレムが相手の弱点を突けば斃すことが出来るはず――
そう思ったシャバートの想いは瞬時に打ち砕かれることとなる。
ズドォォォォォォォォォォォォォォン
鎧ゴーレムが動き出そうとしたその瞬間、部屋の窓が眩しく輝き、屋敷の外から凄まじい破壊の波が押し寄せた。
魔術によって強化された屋敷の壁を易々と突き破った破壊の波が、部屋の一部を消し飛ばして吹き抜ける。
その衝撃と轟音がシャバートの身体と鼓膜を震わせる。
その破壊の波に鎧ゴーレムが巻き込まれ、瞬時にしてシャバートが扱うことが出来る最高戦力の一つが塵へと変わった。
それどころか屋敷の一部がごっそりと削り取られたかのように吹き飛んだのだ。
「な、なにが起きたのだ――」
屋敷に大きな風穴を作った破壊の波。一瞬のうちに起きた破壊劇に意識が追い付かない。
だが、今起きた現実を受け入れなくてはいけないと、ぽっかりと空いた風穴からその破壊の元凶の方へと視線を向ける。
「――我が主に敵対する勢力を感知した。速やかに排除する」
部屋に出来た大きな風穴から覗く先は隣の建物へと続いており。破壊の波を放った元凶が、その先からゆっくりとこちらに向かって歩き出す。
それは体長三メートル程の人型の影。その瞳部分は左右で異なる光を灯し、その手には大型の長銃と思われる武器が握られていた。
「な、なな、なんと、騎乗機が人型にっ……」
その人型の影の周りには腰を抜かした検査官たちの姿があった。
その反応を見て、破壊の光を放った人型の正体が『少年が持ち込んだ騎乗機』であることを悟る。
「ま、ささか、あの乗り物が変形したというのか!? 乗り物型のゴーレムではなかった、ということなのか……」
シャバートが驚愕の言葉を漏らす。そう、あの乗り物自体も驚異の対象だったのだ。
こうしてこの街の最大戦力のシャルルと来訪者の戦いに新たな魔物が参戦したのであった。
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