第48話:国境街「ジャネーロ」⑦(来訪者)
◆前回までのあらすじ◆
国境街『ジャネーロ』は、領主シャバートと魔族のシャルルが契約を交わし
平和に見えるがその裏では定期的に魔族へ生贄を捧げていた。
そんな偽りの平和を謳歌するその街に、一組の冒険者が訪れるのであった。
魔族への協力を惜しまぬシャバート=ジャネーロと、数多のスキルを所有する魔族のシャルル=ロンギヌス。
その二人の歪な協力関係で国境都市ジャネーロは発展を遂げる。
シャルルのスキル【創造神の鋳型】にて生成されたゴーレムにて街の警備は強化され、その一環としてゴーレムが街の住人以外に【解析】を行使しても不自然ではない体制を作り上げる。
そして、その【解析】にてこの先の旅で命を落とす確率の高い者を選定し、街を出たところでゴーレムによって捕縛し贄とした。
贄とされた人間は旅の途中で行方不明になったものとして処理され、不審とならぬ程度に贄とした者の装備品を遺品として故郷へと届けたのだった。
さらに一部のゴーレムに新たに命令し、この街を通らずに国境を越えようとする密入国者も厳しく取り締まった。もちろん、捕らえた者は容赦なく贄とした。
また街の中で大きな犯罪を犯した者も、贄の対象となった。
こうして次々に贄となる人間を選定しては、シャルルの『処刑人の妖刀』の糧としたことで、契約条件とした年間の贄の数を優に超えるペースで魔族へと魔力が供給されたのだった。
それと同時に街も大きな発展を遂げ、ゴーレムを利用した警備によって治安が保たれた街となっていく。
その裏では多くの人間の命が散っていることは隠されたまま――
この繁栄はいつまでも続くと思われたが、その栄華が脅かされる事件が発生する。
それは、とある旅人が街に訪れたことが起因となる。
その旅人は特殊なゴーレムを騎乗機として使用してこの街に訪れた。
それは『少年』と『美女』の二人組だった。
街の郊外に配置したゴーレムが【解析】した結果を見ると、それなりの能力を有した者であった。
少年は【状態変化無効】【精神攻撃無効】と無効系のスキルを有しており、さらに上位スキルである【固有領域】も所持していた。
固有領域を展開しているようで、その他の詳しいスキルについては解析不能であったが、護身や防御に特化したスキル構成であることが予測できた。
そして女性の方は【猛毒生成】と【妙薬生成】、さらに【味覚解析】のスキルを所持していた。
こちらについても、解析を阻害する魔道具を装備しているようでその他のキルまでは見抜けなかった。
解析できた内容から読み解くと『薬師』に該当するスキル構成の様だ。毒による攻撃サポートと薬による回復とバランスの取れた能力だ。
両者とも有用なスキルを持っており、それなりの戦闘能力を有している事が分かる。
それ以上に興味を惹かれたのはその二人が騎乗していたゴーレムであった。
念のためにと【解析】をした結果――
種族「進化型可変型人形」
保有スキル……【武具融合】、【魔力貯蔵】、【身体変形】、【幻影創造】、【精神浸食】、【鑑定眼】、【音響操作】、【空間収納(小)】、【浮遊】、【突風】、【精神攻撃耐性】、【劣化効果無効】、【自己再生】
とてつもない数のスキルを保有したゴーレムであった。
そのスキルから読み取れたのは、【身体変形】によって騎乗機として最適化した形状となったのであろうということだ。
さらに注目なのは【武具融合】だ。
武具を取り込むことによって、無限にスキルを増やすことが出来るのだ。このゴーレムの所有者である二人が効率よく武具を吸収させ、有用なスキルを会得させたのだということが推測できた。
特に【空間収納】や【鑑定眼】は、有能スキルの中でも破格なものであった。
このゴーレムについて、領主であるシャバートは一つの情報を持っていた。
ドワーフの王国『ロックヘルム』――そこで秘密裏に開発していた人造魔物・進化型鉱石人形の存在だ。
おそらくこのゴーレムは、その人造魔物の亜種――いや、進化系なのではないかと予測いていた。
その予測が正しければ、とても貴重な個体である。調査すれば門外不出とされているドワーフ王国の技術を知ることが出来るのだ。
シャバートは入国監査員に命じて、騎乗機を詳細に監査をさせる。
監査のために騎乗機を接収し調査をさせた技術班から、とんでもない報告が上がってくる。
『騎乗機の形状は、浮遊空圧移動に適した画期的なものである』
そう記載された報告書には、その騎乗機の詳細な情報が記載されていた。
シャバートはその情報に目を奪われる。
スキル【浮遊】と【突風】を利用した浮遊空圧移動。それを実現させるための理想的な構造。
その全てが先進的で画期的なものであった。
さらに可能性があると予測していた変形機構だが、艦頭が展開し砲身が出現するものであった。
その砲身からは圧縮した空気を撃ち出せ、現状では緊急ブレーキや敵への威嚇にしか使えないが、ゆくゆくは騎乗者の魔法を志向性を持って撃ち出す事も可能となるだろう。
「こ、これは、まだ世に出回っていない最新鋭の騎乗機ではないか……」
思わず言葉が漏れる。
これだけの最新技術が詰まった騎乗機がどれだけの価値があるのか、数多の商人と交渉経験があるシャバートが気付かない訳がない。
報告書の最後に記載された『所有者権限による制限にて、動作検証は実施できず』の文言に歯噛みする。
「さすが最新鋭の騎乗機、安全性も担保されているか……」
目の前に宝があるにも関わらず、肝心な部分の調査が出来ないことに悔しさを滲ませながら、それでもシャバートは計画を練る。
「技術班の班長と、顧問魔導士を呼べ」
すぐさま使用人に指示を出す。
「なにか面白いことがあるのかしら?」
シャバートの命令で慌ただしく動き出す使用人たちの中にあって、余裕の表情を浮かべた女使用人が問いかける。
「ああ。我が街の発展に大きく寄与する機材が持ち込まれた。
今度の対応はシャルルにも協力してもらうかも知れない」
その女使用人――人間に化けた魔族のシャルル=ロンギヌス――にシャバートが告げる。
「ワタシの手を煩わせる様な案件なのかしら?」
「最新鋭の機材とは、最新技術が詰め込まれたゴーレムだ。
そのゴーレムを手に入れられれば、街の発程だけではなく、シャルルのスキル【創造神の鋳型】の進化にも繋がるはずだ」
「ふぅん。分かったわ。
領主様の御心のままに――」
シャルルが慇懃に頭を下げる。
この街を襲い住民を恐怖のどん底まで叩き落とした魔族であるシャルルは見事にメイドを演じてみせる。
元々はシャバートをすぐ傍で監視するための、名目上だけのメイドであった。
最初は気まぐれでメイドの真似事をした程度であったのだが、能力の高いシャルルはいつの間にかメイドの仕事を全て覚えてしまい実力でメイド長まで登り詰めたのだった。
いつでも自分の命を奪うことができる強者が、部下のフリをして近くにいるのだ。ここ数年でシャバートは老け込んでしまった。目の下のクマは濃くなり、頭髪も白髪が目立つ様になった。
それでもこれまで積み上げてきた実績と経験で正気を保ちつつ、非人道的な政策を続けてこれたのは、心の中の大事な何かが壊れてしまったからなのかもしれない。
今となってしまえば、もうどうなでもいいがな……
シャバートは自傷気味に笑い、今回の計画を進める。
国境を越えようとしている二人組。
まさかその二人の旅人がこの街を脅かすような存在である事など、この時のシャバートは知る由もないのであった。
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