第47話:国境街「ジャネーロ」⑥(偽りの平和)
◆前回までのあらすじ◆
国境街「ジャネーロ」を魔族が襲撃した。
圧倒的な戦闘力に手も足も出ずに窮地と陥る中、対峙した領主のシャバートは街を護るため、命を賭けた一世一代の契約を持ちかける。
その内容は「定期的に人間を贄に捧げるので、街の住民の命を見逃してくれ」というものだった。
魔族・シャルル=ロンギヌスが急襲した辺境の街で、面白い人間と出会うこととなる。
『私と今ここにいる市民の命を見逃してくれるのであれば、私は貴公に毎年500人の人間を贄に差し出そう』
その人間は事もあろうか自分に対して交渉を持ちかけて来たのだ。
スキルにて強制的に思考加速させ、無理矢理に交渉の時間を作り出しての提案であった。
幾多のスキルを持つ自分に対してスキルにて交渉の時間を作り出した相手の戦略に感心しつつも、下手な命乞いかとその申し出を一蹴しようとしたが、さらにその男の交渉が続いた。
「この先、危険を冒さずに安定した魔力供給が望めるのだ。
今の様に人の命を乱獲するような場当たりな魔力収集を続けたら、いつか狩場が無くなり危険を冒す事になるだろう。
そのリスクを回避するために、この契約は貴公にとっても有意義なものとなるはずだ」
思考加速の効果にて相手を殺すまでの時間が数百倍にまで引き伸ばされていた。その僅かな時間を利用してその男は自らが提示した条件の優位性を説いたのだった。
人間など一匹たりとも見逃す気が無かったシャルルも、相手の言葉を聞くとその言葉の信憑性の高さに唸るしか無かった。
この男の指摘の通り呪具への魔力蓄積はあと少しで満杯となる状態であった。悔しいがこの男の言っていることは的を射ていた。
その悔しさを晴らすため、シャルルは無慈悲な選択を男に突きつける。
「この刀はあと数十程度の贄を与えれば魔力が充填される。この中の誰を差し出す?」
護りたいと言っていたその街の住民を選別しろ、と告げたのだ。
どうせ「誰も差し出せない」と甘いことを言うたろうが、シャルルはそれを突っぱねるつもりでいた。無理難題を課され、苦悩する男の姿を楽しもうと思ったのだ。
しかし、その男は一瞬だけその瞳に苦悩の色を見せたが、すぐさま贄とする者を差し出したのだ。
この男、なかなかに面白いではないか。
そう思ったシャルルは、その男の交渉に乗ることにした。と言っても、完全にこの男を信じるわけでなく、しっかりと楔を刺しておく。
ユニークスキル【創造神の鋳型】にて完全自立制御のゴーレムを残し、この街の住人が逃げ出さない様に監視させたのだ。
どうせ皆殺しにするつもりであった街だ。もしこの男が言うように、毎年一定数の贄を捧げられるのならば御の字。半信半疑のまま、シャルルは魔力が満ちた妖刀を手にその場を後にしたのだった。
そして、次にその街を訪れた時、目に飛び込んできた光景に目を丸くする。
なんとその街は大きな発展を成し得ていたのだ。
どうせ逃げ出そうと無駄に足掻いて監視につけたゴーレムによって滅亡しているか、絶望に苛まれ活気を失った街へと落ちぶれているかかと思っていたのだ。
まさか何事もなかったかの様に、いやそれ以上に街が発展し活気付いているなんて予想だにしていなかった。
どうしてこうなったのか興味を持ったシャルルは、スキル【擬態】により人間に化けて街へと入り込み様子を見ることとする。
街に入る時に入念なチェックがあったが、すんなりと中へと入れた。そしてシャルルは街の様子を見て目を見開くこととなる。
なんと監視用に置いていったゴーレムを労働力として活用し、見事なまでに発展を果たしていたのだ。
住人が逃げ出さない様に配置したゴーレム。その要件の範囲内であれば領主の命令を聞く様にとしていたが、まさかこの様に活用されるとは思っていなかった。
この街の住人は、領主が提示した要件を満たせなかった場合の人質。逃げる事が許されず生殺与奪の権利を握られた者たちである。そんな者たちをゴーレムの武力を使い恐怖で縛るのでは無く、まさか『街を発展させ住み良い環境を作る』事でこの街に留めていたのだ。
街の住人たちには笑顔が溢れ、不満のなく幸福に満ちていた。
時折、街の住人が旅人に向ける視線が見下す様な哀れみが混じるものとなるのは、ここの住民たちが『余所者は贄の対象である』ことを認識しているからであろう。
なかなかに面白い事となっているな、と感心しつつシャルルは領主を訪ねる。
領主は多忙で邸宅の警備も厳しいものであったが、「シャルル」の名を出すと速やかにかつ丁重に領主の元へと案内された。
「シャルル様。わざわざのご足労いただき、恐れ入ります」
シャルルの前に現れたこの街の領主シャバートは、人払いをすると深々と頭を下げ最敬礼する。現在は人間の女の姿なのだが、シャバートは特にそれについて追及することはなかった。
「構わん。ここまで来るまでに街の様子を見せてもらった。なかなかに面白い事をしている様だな……」
相手の言葉を無下に聞き流し、シャルルは自分の感想を述べる。
「もし下賜いただいたゴーレムの用途がシャルル様の気に障ってしまったのならば罰は受けましょう」
「ふん。そんなことは言っていないだろう。単純に感心したと言っているのだ」
媚びへつらうようなシャバートの態度を不快に思いながらシャルルは言葉を続ける。
「で、貴様が提示した契約の進捗状況はどうだ?
詳細を聞かせろ」
上司の態度に倣い、端的に相手へと報告を促す。
年間500の贄を差し出す、という大まかな内容しか決めていなかったので詳細についてもここで聞いてしまおうと思うシャルルに、シャバートは想定以上の報告を上げる。
「はい。現時点で131名の贄の準備が出来ております。
すぐにでも贄の元へと案内できますが、いかがいたしましょうか?」
前回襲撃から幾何も日にちが経っていないのに想定以上の贄が用意されていた。
こいつ、思った以上に有能なのかもしれん……
その想定を上回る成果報告を聞き僅かに口元を緩める。
「ああ。案内しろ」
そして、案内された屋敷の地下。表向きには罪人を捕らえておく牢と称した秘密の部屋には、生きたまま保管するため氷像にされた人間が整然と並べられていた。
「街の復興にかこつけて火事場泥棒を行おうとした蛮族どもが集まったので、短期間にこれだけの数が集まりました」
ここに並ぶ贄についてシャバートが説明する。
この街を脅かした蛮族なのかもしれないが、同種族をこうも易々と贄として差し出したのだ。
有能という言葉では表しきれない。こいつは、人間としては、ある意味で壊れているのだ。そのイカれ具合を好ましく思う。
「くくく。気に入った。
人間などと協力しようなどとは思っていなかったが、貴様とならば構わないだろう」
それはシャルルが、シャバートという人間を認めた瞬間であった。
こうして、国境都市ジャネーロは魔族『シャルル=ロンギヌス』と壊れた人間『シャバート=ジャネーロ』によって仮初の平和と繁栄をもたらすのであった。
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