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第46話:冥獣召喚《ネクロスサモン》

 シャルルが、妖刀に魔力が満たせたのは、呪具を与えられて二カ月後であった。


「ほう。しっかりと魔力を貯めて来たようだな」


 魔力がたまった処刑人の妖刀(エクスキューショナー)を受け取ったラムダールは一つ頷いてみせる、


「ふむ。よい働きだ。

 貴様ならば、集めた魔力をどのように使うのか知ってもいいだろう。

 ついて来い」


 ラムダールは滅多な事では部下を労うことはないのだが、その時は機嫌が良かったのかシャルルに声をかけた。

 そして連れられて来たのは魔術儀式用に用意された地下の部屋てあった。


 そこにはラムダールの精鋭部下が集まっており、複雑な紋様が描かれた魔法陣と様々な呪具が組み合わされて造られた祭壇が鎮座していた。

 その祭壇に魔力の充填された『処刑人の妖刀(エクスキューショナー)』を収める。すると部屋全体に妖刀から溢れた魔力が満ちる。


「では、儀式を始める」


 厳かな声で告げられたラムダールの言葉に、精鋭部下たちが一斉に呪文詠唱を開始する。それは、まさに一糸乱れぬ詠唱であった。


「これから使用するのは禁呪『冥獣召喚(ネクロスサモン)』だ」


 ラムダールはシャルルにそう説明する。


 禁呪『冥獣召喚(ネクロスサモン)』――強制的に植え付けられた知識の中にその情報があった。

 それは『黄泉の国』から未知なる冥獣(モンスター)を召喚するものであった。


 ラムダールは呪具に満ちた膨大な魔力を複雑な呪言で制御し、『冥獣召喚(ネクロスサモン)』を発動させる。魔導の深奥とも呼べる緻密かつ繊細で強大な魔術を目の当たりにして、シャルルは言葉を失う。


 召喚されたのは見たこともない複数の魔獣を合成したかのような巨大な獅子の姿の冥獣であった。


「グオォォォォォォォォォォッ!!!」


 召喚された冥獣は凄まじい魔力とともに咆哮する。

 しかし、その冥獣の動きはは事前に設置されていた捕縛用の軍隊魔法により動きが封じられていた。

 冥獣が必死にその束縛を解こうと藻掻くが、複数の魔術にて編み込まれた魔力の鎖はその獣を逃さない。


「チッ…… 知能すらない畜生か」


 召喚された冥獣を見下してラムダールが吐き捨てる。

 シャルルから見ればその冥獣は脅威でしかない。ビリビリと肌を刺す威圧感と、凄まじい魔力。自分ひとりであれば到底敵うはずもない超魔獣である。

 そんな脅威の存在も、ラムダールの前では『ただの畜生』でしかないのだ。


「使い捨ての駒としてしか利用方法はないな。

 お前ら、計画通りに軍隊魔法を発動させろ」


 ラムダールが指示すると、精鋭部下が再度一糸乱れぬ詠唱を始め、軍隊魔法『過剰狂強化(バーサクエンハンス)』を発動させる。

 強力な冥獣(モンスター)をさらに強化、暴走状態にしたのだ。


「――次」


「「「軍隊魔法『空間転移』」」」


 そして、次の合図でその暴走状態とした冥獣を人間の国へと送り付けたのだった。


「ククク……

 これで人間の国に甚大なダメージを与えるだろう」


 部下が運んできた魔道具『遠隔視の魔鏡(ボヤージュミラー)』にて映された、暴走冥獣が人間の国で暴れる姿を視てラムダールは笑みを見せる。


 ラムダールの戦術とは、人間の集落を壊滅させて集めた贄を使い、その魔力にて召喚した冥獣(モンスター)に、人間の国を襲わせるという奇襲作戦だった。


 魔族側には何のリスクもなく、人間側に甚大な被害を与える狡猾な作戦であった。


 しかも人間側はこの世界に存在する魔獣と異界から召喚した冥獣の見分けがつかないため『魔獣(モンスター)狂化暴走(スタンピード)』と認識されるのだ。


 この魔獣(モンスター)狂化暴走(スタンピード)魔族(われわれ)が仕組んだ作戦だと気づいた時には人間側の戦力は大きく削がれ疲弊しているだろう。その頃には魔族側は戦闘準備は整い、有利な状況で次の戦争を仕掛けられるのだ。


 シャルルは、その作戦の狡猾さに感嘆するとともに、上司に対する畏敬の念を深くした。


 そして、シャルルが何度か呪具に魔力を満たす間に、ラムダールは効率化を図るためにもう一本『処刑人の妖刀(エクスキューショナー)』を製作し、二本の呪具を交互に渡すことによって魔力供給の速度を上げたのであった。


 こうしてシャルルはひたすらに人間を殺し、魔力を集める日々が続けた。


 呪具に魔力を満たす回数が10を数えると、目ぼしい人間の小さな集落は狩り尽くしてしまった。


 そして、少し大きな街を襲う様になる。

 シャルルが次に狙いを定めたのは、都市国家ジャンビエの国境にある辺境の街ジャネーロであった。

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