第44話:国境街「ジャネーロ」⑤(魔族との契約)
◆前回までのあらすじ◆
国境街「ジャネーロ」を魔族が強襲する。
圧倒的な戦闘力を持つ魔族に手も足も出ずに窮地と陥る中、対峙した領主のシャバートは街を護るため、命を賭けた一世一代の交渉を開始するのであった。
『寛大な心に感謝する』
シャバートは一つ礼を述べて、提案を口にする。
『私からの提案は一つ。私と今ここにいる市民の命を見逃してくれるのであれば、私は貴公に「毎年500の人間の贄」を差し出そう』
それは魔族が予想だにもしていなかった、とんでもない条件であった。
『ハッ! なかなか面白い条件だが、話にならんな。
我がこの集落の人間を見逃すメリットが見当たらん』
『本当にそうか?』
にべもなく要求を却下しようとする魔族に対して、シャバートが反論を返す。
『貴公の本来の目的は「この街を壊滅させる」ではないのではないか?』
『何を根拠に――』
『貴公が先ほど使用した炎を操るスキルを使えば市民たちを一網打尽に出来たはずだ。だがそれをせずに、一人ずつその武器で人間を殺している。
本来の目的は「その武器によって人間を大量に殺す」ことではなのか?』
冷静に分析結果を告げる。
『……ほう。なかなかの推察だ。
だが、それが当たっていたとして、たからどうだというのだ?』
否定しない、ということはその推察が当たっていたのであろう。
『その武器は儀式用のものだろう。その武器で人間を殺せば、その魂が魔力に変換されその武器に貯蔵される。それがその武器の特性なのだろう?
人を殺すたびにその刀が帯びる魔力がどんどん上がっているのがその証拠だ。
おそらくその武器を使用した儀式は、大量の魔力を使用する軍隊魔法か、もしくは禁忌とされる生贄魔術か――
いずれにせよ、本来の目的は「その武器を使った大量の魔力収集」なのだろう』
『……』
魔族はその言葉を否定することもなく、シャバートの言葉を聞いている。
『そしてその武器に貯蔵できる魔力には限界がある。私の【解析】の結果では、あと数十人の命を奪えば満タンになるだろう。
そうなると、残ったこの街の人間の命は無駄になる。そうなると無駄な殺しとなる、もし見逃したとしても次回襲撃するまでに軍備を増強させるだろう。
貴公にとってみれば魔力が貯まってしまえば、無駄な作業が待っている。
ならば私と契約をしないか?
この街は国境を構える中継都市。多くの旅人が訪れ、その旅の途中で何名も命を落としている。
旅人の不慮の死を装い貴公に贄を献上することは簡単だ。
この先、危険を冒さずに安定した魔力供給が望めるのだ。今の様に人の命を乱獲するような場当たりな魔力収集を続けたら、いつか狩場が無くなり危険を冒す事になるだろう。
そのリスクを回避するために、この契約は貴公にとっても有意義なものとなるはずだ』
シャバートは街の命運をかけた交渉を持ちかけた。
それは人間側からすれば『裏切り行為』に等しいものであったが、彼の中では『この街を護ること』が第一優先であったのだ。
魔族はその言葉に反応せずゆっくりとシャバートに近づき、右手に持った禍々しい刀を突き出してくる。
やはり、魔族との交渉など無理だったのか……
諦めかけたその時に魔族の笑い声が脳内に響く。
『クハハハハ!!!
面白い。貴様の案、乗ってやろうではないか』
魔族の繰り出した兇刃はシャバートに突き刺さる直前で止まっていた。
シャバートはその言葉に張り詰めていた緊張が解け腰砕きになりかけるのをギリギリのところで堪えた。
緊張の糸が途切れたことにより、発動させていたスキルが解除される。
凍りついていた時が一気に流れ出す。
「貴様を見逃してやろう。その代わり貴様はワタシに贄を差し出すのだ。
では、まず手始めに貴様へ問おう。
この刀はあと数十程度の贄を与えれば魔力が充填される。この中の誰を差し出す?」
魔族はニタリと嗤いシャバートへ問う。
市民の中から生贄を差し出せ、と言っているのだ。
「冒険者ならばいくらでも補充が効く。
今、防具をつけ武器を持っている者ならば殺してもらって構わない……」
ここで怯めば相手に付け入れられる。シャバートは一瞬のうちに脳をフル回転させ、冷徹に切り捨てる者を選別する。
「あぁ、分かった」
そう言い残すと、魔族は目の前から消え、シャバートが伝えた言葉通り冒険者たちを屠っていった。
これは仕方ない事なんだ。これが私のとり得た最善の手段だったんだ。
自らの言葉で死を迎えることになった者がいることに押しつぶされそうな心を、そう想うことで押し留める。
そして、しばしの惨殺劇が続き、魔族の持つ武器に魔力が充填されると、魔族はゆっくりとシャバートの元へと戻ってくる。
「くくく、これで十分な魔力が補完できた」
魔族は満足そうに呟くと、シャバートの目の前に魔法文字で描かれた契約の方陣を展開する。
「貴様が提示した内容だ。ここに貴様の魔力を流すことで契約は成立する」
シャバートは自らの【鑑定眼】にてその内容を確認し、魔力を流して契約を結ぶ。
人間同士の契約ならば、契約時に罠を仕込む事があるが、魔族との契約にはその様なことは一切無かった。
「これで契約成立だ」
そう告げる魔族に、シャバートは僅かながら良い印象を持った。
欲に塗れて、相手を騙す様な契約を行う人間に比べ、魔族との契約は遥かに紳士的であったのだ。
「ワタシは一度、本国に帰る。
が、その間に贄どもに逃げられては困るからな……
貴様らに枷を付けよう。
スキル発動【創造神の鋳型】!」
魔族は自らのスキルを発動させる。
すると、いたる所の地面が盛り上がり、人の形を成していく。
みるみる間に五十体の土人形が生み出される。
「木偶人形ども。貴様らに『命令』を与える。
一つ、今この街にいる人間がこの街を出ようとしたら殺せ。
二つ、この男が我に翻意を持ったと判断したら、この街の住人を皆殺しにしろ。
三つ、上記の二つに抵触しない範囲で、この男の命令を聞け」
魔族がそう告げると、生み出されたゴーレムの瞳部分に光が宿り、唸り声に似た声を轟かせる。
「これでここの住人たちの命は我が手の内だ。余計な事を考えるなよ?
ゴーレムの命令権については、まぁ施しみたいなもんだ。貴様には手に余る力かもしれんが、精々上手く扱うんだな」
「私は約束を破らん……」
真摯な契約には、真摯な対応を。
「貴公より預かったゴーレムも使いこなし、多くの贄を捧げると誓うよ」
そう答えるシャバートの顔には狂気に似た暗い陰が差していた。
「くくく……
シャバートと言ったな。なかなかに面白い男よ」
魔族はニヤリと口元を歪ませると、転移の魔法陣を足元に展開する。
「我が名はシャルル=ロンギヌス。
贄が必要になれば、またここへ訪れよう。それまでにこの集落がゴーレムに滅ぼされてない事を祈るよ」
そう言葉を残して、『シャルル』と名乗った魔族は転移魔法にて姿を消したのであった。
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