第42話:国境街「ジャネーロ」③(街の成り立ち)
都市国家『ジャンビエ』――
その都市群の一つ、極東に位置する辺境の都市『ジャネーロ』は、ここ数十年で一気に発展した都市である。
国境ということで中央都市群からも離れ、国境の先には険しい岩石山脈である「イルォル山脈」が広がっていた。
その山脈群の一部はジャンビエの領地ではあるものの、その先は別の国の領土となっている。
山脈の東側に越えた先。そこには魔物が跳梁跋扈する『逢魔の森』があり、その魔の森を領地の一角とする冒険者の国『フェバリエ王国』が存在していた。
それ以外にも、山脈の北部――特に厳しい山々が広がっているのだが――その険しい山々に囲まれた難攻不落の要塞都市、ドワーフ族の王国『ロックヘルム』がある。
当初は「イルォル山脈」で採取される魔鉱石の採掘を主とした鉱夫たちの小さな村であった。
だが、地理的に『国境』でもあり二つの他国と接する『要所』でもあったため、その小さな村に『辺境伯』が派遣され、都市国家の一都市として扱われる様になったのであった。
派遣されたのは中央都市群でも秀才と名高かかった子爵家の嫡男である『シャバート=ジャネーロ』であった。
その村はその男の家名から都市名を『ジャネーロ』とされた。
辺境伯として派遣された『彼』は、幼少時からその才能を覗かせていた。
しかし、その実直過ぎる性格から権力争いの末、様々な思惑から左遷とも取れる辺境への異動を言い渡されることとなったのだった。
辺境へと異動となっても、シャバートは腐らずにその手腕を振るった。
『伯爵』へと陞爵した事で得た権力を存分に活用し、様々な改革を推し進めた。
まずは、国のいち都市として認められたことにより生み出された国内物流の活性化を推進し、多くの物資が流れてくる様にしたのだ。
それにより、村人は鉱夫ではなくとも生計が立てられる様になったのだった。
さらに、村に城壁を建築して国を行き来する者たちを管理。入出国に当たっては税金を徴収し財源を確保することで、都市としての形を形成させたのだった。
見事な手腕で村を発展させたシャバートだが、問題も多々発生していた。
一つは『魔物の活性化』だ。
主たる産業であった採掘資源の発掘元であるイルォル山脈に、多くの魔物が出没するようになったのだ。
その要因の一つは山脈の先に広がる『逢魔の森』に住む魔物たちの活動範囲の拡大だ。
山岳部には食料となるものがないのだが、魔物の糧となる魔素が採掘のために空けた洞窟内で補充できてしまったため、いくつかの採掘場に逢魔の森から移動してきた魔物が住み着いてしまったのだ。
そのため魔鉱石の採掘産業は危険を伴うようになり、衰退を余儀なくされた。その代わりに、魔物を狩り素材を手に入れる狩猟産業が活性化していく。
街には鉱夫より冒険者の数が上回るようになった。
魔物が増えたもう一つの要因は北方に位置するドワーフの王国『ロックヘルム』による人工魔物の不法投棄だ。
職人の国であるロックヘルムでは人工的な魔物である自動人形を作り出す技術が発達しており、労働力や戦力としてゴーレムを作り出していた。
その中でわずかながら発生する失敗作を、簡単に捨てる手段として不毛な山岳地帯に投棄していたのだ。
投棄されたゴーレムは動力源である魔核は抜かれていたのだが、こちらも魔鉱石採掘場から漏れ出る魔素を廃棄ゴーレムが長い間をかけて吸収したことで新たな核が結晶化したのだ。
そのことによりゴーレムが再起動し、暴走する事象が続いたのだ。
こちらについても討伐対象として指定され、冒険者たちの食い扶持となっていた。
そして問題点の二つ目は『人魔対戦』の勃発だ。
人間軍と魔族軍の戦いが激化し、魔族による脅威が高まったのだ。
魔族の侵攻は神出鬼没だ。
軍隊魔法を利用した『転送魔法』。それを駆使した奇襲作成。それが数的不利である魔族軍が扱う戦略の常套手段であった。
そして、その転送魔法の出入り口に指定さる場所は魔素の強い場所てあることが条件となっていた。
そう、街の近くの『イルォル山脈』もその対象となってしまっていたのだ。
無害な山岳地帯であった『イルォル山脈』が魔鉱石の発掘により、山中に埋まっていた魔鉱石が発する魔素が地上へと流れ出るようになったことの弊害。
魔素により危険地帯となったイルォル山脈に隣接する街として、軍事的な重要性が更に強まったのであった。
この二つの問題を解決するため、シャバートは街の戦力強化を推し進めた。
多くの冒険者を受けてれ、物流についても武器や兵器を多く集め、街の軍事力を強化していった。
いずれ来る驚異のために、坑夫の村は冒険者の町へと発展を遂げたのだった。
こうして発展を遂げた『ジャネーロの町』は、人魔戦争をも乗り越えたのであった。
しかし、人魔戦争が終結してしばらくして、シャバートの運命が狂わす大きな事件が発生する。
魔族の襲撃――ついに、シャバートが恐れていた事が起きたのだ。




