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第41話:交渉③(結末)

◆前回までのあらすじ◆

国境街「ジャネーロ」の領主から、最新鋭の技術が詰まった『騎乗機』を買い取らせてくれと提案を受けた。

だが、その『騎乗機』は大切な仲間であるため、リュウジはキッパリとその提案を断るのであった。

 僕は否定の言葉を告げた。


 その言葉を正面から受け止めたシャバートは、その答えが想定外だったようで、しばし沈黙した後に一つ息を吐いて口を開く。


「なるほど。君の意見は分かったよ」


 シャバートが交渉決裂を受け入れ、了承の言葉を告げる。

 これにてロックを引き渡す件についての交渉は終了した……と思われたが、シャバートは言葉を続ける。


「私は油断さえすれば利権を奪われかねない交渉のプロである商人たちとばかり交渉していた。なので、話の裏を探る事が癖になっていたのが仇となって君を穿った目で見てしまっていた。申し訳ない。

 交渉は決裂――という事だね」


 シャバートの口から交渉決裂が告げられ、金を運んできた老執事に合図を出して金貨が大量に乗ったカートが下げさせる。

 ノインはそれを少しもの惜しそうに見送っていた。まったくこの娘は、と僕はその姿を見て苦笑する。


「そちらの麗人は未練がありそうだが、本当にこの交渉は決裂でよいのだね?

 いまならばまだ契約は可能だよ?」


 シャバートが未だ机の上に残る契約書を指さして訊いてくる。


「っ、そんなことはありません!

 リュウジ様の決定は絶対です。用件(はなし)が終わったならば、私達は退席させていもらいます」


 お金に目がくらんでいたのが見抜かれて恥ずかしかったのか、ノインは少し顔を赤らめさせつつ言葉をまくしたてる。


「いや、すまない。揶揄(からか)った訳ではないのだ。

 騎乗機の受け渡し方法の説明もあるので、あと少しだけ時間を頂けないか」


 シャバートはそう言ってノインを落ち着かせる。


 そして、少しの沈黙を挟んで口を開く。


「騎乗機の受け渡しについて伝える前に、私の本当の気持ちを伝えさせてくれ。

 虚々実々の駆け引きをする商人との交渉ばかりで、本音で語る事が久しく無かったことをリュウジくんとのやり取りで思い出させてもらえたよ――」


 そう前置きをするシャバート。

 それと同時に、彼の纏う雰囲気が変わる。なんだか嫌な予感が沸き上がり、肌が粟立つ。


「本音を言えば、私は人間が好きなのだ。ここは安全な国と危険地域を隔てる境界の街。多くの人間が行き交い、その旅の途中で命を落とす姿は何度も見てきている」


 急な話題に戸惑う。その意図が分からない。


「なので人間には幸福のうちにその命を終えてもらいたいと思っているんだ。なので残念だよ……」


 シュバートが再度大きくため息を吐き出す。その瞳に映るのは狂気に染まった禍々しき炎。


 瞬間、嫌な予感が、確信に変わる。


「大金を手に入れ幸福絶頂の内にその生を終えてもらいたかった。

 実に、実に残念だ――」


 その言葉と共に部屋の奥に佇んでした鎧型のゴーレムに魔力が宿る。


「君たちには我が街の《《平和のための犠牲》》となってもらうのは、すでに決定事項なのだ」


 狂気に塗れたシャバートの言葉が響き、強大な魔力を宿した鎧ゴーレムの手には魔力で形成された剣が生み出される。


「リュウジ様っ!」


 異変に気付いたノインが素早く僕を護るように前に立ち塞がる。


 この屋敷に入る時に僕たちの武器は没収されている。

 戦闘になれば無手での対応になり、迎撃するには不利だ。


「私があの鎧ゴーレムを食い止めます。リュウジ様は先にお逃げくださ――」


 ノインの言葉は最後まで告げられることはなかった。魔力の剣を構えた鎧ゴーレムへの対処のため意識をそちらに集中していたノイン。その意識外から迫る影――いつの間にか禍々しい形の短刀を手にしたシャルルの一撃によってその喉元が深々と切り裂かれたのだ。


「まず一人」


 心まで凍てつかせるような昏い声で告げるシャルル。

 首を切り裂かれたノインは大量の血を噴き出して床に伏せる。


「ノイン!」


 目の前で起きた凄惨な出来事に僕は声を上げるが、その間にメイド服の刺客が目の前まで迫っていた。


――リュウジ!


 ザシュゥゥゥゥッ!!


 (アレクス)の声に反応する間もなく、僕の体は禍々しい瘴気を纏う凶刃により逆袈裟に切り裂かれたのであった。

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