第40話:交渉②(決裂)
◆前回までのあらすじ◆
国境街「ジャネーロ」の領主から、最新鋭の技術が詰まった『騎乗機』を買い取らせてくれと提案を受けた。
だが、その『騎乗機』はリュウジの大切な仲間が変形した姿なのである。
シャバートが買収の提案をしてくる。
この世界の金銭の価値が分からないが、金色に輝く大量の硬貨は絶対すごい価値あるもののはずだ。運んできた使用人のビビり方でもそれが伺える。
――元の世界でいえば金貨一枚が約十万円。この世界の価値観でいえば、一人が一カ月充分に暮らしていけるだけの金額だね。500枚もあれば一生お金には苦労しないだろう。
やはりすごい額の様だ。一枚十万円ということは500枚だと五千万円相当の価値だ。
前世では寝たきりでお金を使う経験がほとんどなかったけど、こっそりと売店でお菓子を買ったときは250円だったから、そのお菓子がどれだけ帰るのか。
前世でも相当な金額なのだがこちらの世界ではものすごい価値なのだろう。その所為か、ノインの目の色が変わっていた。
さらに「これだけの金額があれば世界中の料理を食べて回ることができる」と心の声が漏れてしまっている。
おいおい、思いっきり心が揺らいでるじゃないか。ロックは大切な仲間だろ?
ノインの様子に心の中でツッコミを入れつつ、それでも揺るがない僕の意思を口にする。
「どれだけ金を積まれても所有権を譲ることは出来ません」
シャバートの眉がピクリと動く。
その視線は僕をとらえたまま、しばしの沈黙が流れる。
「ふむ。譲れぬ理由を聞かせてもらえるかな?
研究班だけでなく、報告を受けた私もあのゴーレムの構造については高く評価している。一度断られたからと早々にひくことは出来ないのだ。
できうる限りの条件を飲もうと思っているのだが、なにが足りない?」
シャバートが僕へと問う。
「いや、ですから――」
どう説明したらいいかと迷い、言葉が詰まる。まさか「あれは乗り物ではなくて仲間のモンスターなんです」とは言えない。
そんな僕の反応を見て、シャバートは得心した様に頷き言葉を続ける。
「どうやら君には商談能力はあまりないようだね。
誰かからの助言で金額を吊り上げようとしたみたいだが、ここで言葉に詰まるような交渉力ではこの先上手くいかないよ」
しどろもどろになった僕に向かってシャバートがそう告げる。
いや、そんなことは思っていなくて――
「私も領主として商人との交渉の場数は踏んでいる。
鍛冶王国ロックヘルムが生産する人造ゴーレムの相場も調査済みだ。最新型のゴーレムとしても金貨500枚は破格の値段だと思うがね。
金貨が嵩張る様ならば、星金貨としても良いし、【空間収納】と【重量軽減】が付与された魔法袋も付けよう。
もし、移動手段が無くなることを危惧しているならば、この街に訪れる商人の馬車への同乗を可能とする推薦状も発行しよう」
僕が反論を口にする前に、次々に外堀を埋めるような条件を提示してくる。
詳しい条件については分からないが、かなり破格な条件を提示してくれているのは分かる。
「魔術契約書も用意してある。これに魔力もしくは血液による印を押すだけで全てが完了する。
君が決断すれば手続きはすぐに終わる」
シャバートは首尾よく契約が出来るようにと、羊皮紙に魔法文字が刻まれた契約書と、そこに刻印するための判子に似た器具を取り出して目の前の机に置く。
「さぁ、どうだい?
先ほど私が追加した条件も契約に含めるならば、すぐにでも契約書に追記可能だ」
シャバートが畳みかける様に告げ、まっすぐに視線を向ける。
戦闘とは別の、商談における圧が僕を襲う。
――この商談は褒められたものではないね。商談の経験の乏しい素人ならば、この空気に飲まれて判を押してしまうかもしれない。けど、リュウジには私が付いている。こんな強引な交渉に流されず、しっかりと「NO」を突き付けてやればいい。その後の対応については私がフォローするよ。
この場の空気に飲まれそうになる僕に友が言葉をかけてくれる。
やはり友が居てくれてよかった。僕一人だったらこの空気に飲まれてしまっていたかもしれない……
「どのような条件を出されてもお譲りすることは出来ません。
ロック――いや、あの騎乗機は僕にとっては大切な相棒。思い入れのある愛機なので、他人に譲る事は出来ない。それが本音です」
僕はしっかりと相手に「NO」を告げたのであった。
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