第39話:交渉①(提案)
◆前回までのあらすじ◆
騎乗機の持ち込み審査結果を聞きに領主宅へと訪れたリュウジは、領主であるシャバートと対面するのであった。
この街の領主であるシャバート=ジャネーロが部屋に入ってくる。
歳の頃は五十前後であろうシャバート。その顔つきは精悍なものであるが、その顔には年齢とともに苦労を重ねたのであろう、深い皺が刻まれ、目の下には濃いクマが浮かんでいた。その所為か、貴族の威厳ある雰囲気に微かに不穏なものが混じっている様に感じられた。領主とは元の世界で言うところのブラック企業体質なのかも、と勘繰ってしまう。
街の様子から敏腕な領主なのは明らかではあるが、もしかしたらかなり無理して仕事をこなしているのかもしれない。
精悍な顔つきであるため、シャバートはもしかしたら気難し屋で礼節に厳しい人なのかもしれない、と慌てて居住まいを正そうとするが
「あぁ、そのままで構わないよ」
シャバートがそれを手で制して、対面のソファーへゆっくりと腰を掛けた。
一息ついた領主にメイド頭のシャルルが近寄り「お飲み物は?」と声をかけるが、「いや、私は結構」と断りを入れる。
領主の纏う為政者の雰囲気に飲み込まれているのを自覚しつつ相手の様子を伺うと、シャバートと目が合う。
「急に呼び立てて申し訳なかったね。リュウジ=ケトーインくんとノインくんでいいかな?」
こちらの緊張を察してか、優しい口調で問いかけてくる。
その言葉に、僕は「はい」と答える。
「ふむ。まずは君たちが一番知りたいであろう騎乗型ゴーレムの国内持込に対する審査結果を伝えよう。
結果は『危険性なし』、持込可能となった」
雑談などは無しに、端的に僕たちが知りたかった情報を告げる。
領主に呼び出されたため何か問題があったのかと身構えていたが、審査結果は「問題なし」であった。
その朗報に僕はほっと胸をなでおろす。
「入国審査OKということならば、私たちはすぐにこの街を出発します」
結果を聞いたノインがすぐさま話を切り上げる様にそう告げる。
端的に話を進めるシャバートに対して、ノインの対応はにべもないものだ。
あまり褒められた対応ではないのだが、審査結果が出たらすぐにこの街を出ようと決めていたので、僕も咎めなかった。
もしかしたら彼女は嫌な予感を感じ取ったのかもしれない。という僕も具体的にに「どこが」とは言えないが心に微かなざわめきを覚えていた。
そんな僕たちの冷たい対応に、領主の横に控えたメイド頭のシャルルが少し眉を顰める。
「少し待ってもらえないかな。
それを伝えるだけならば、君たちを呼び出す様なことはしていない。分かるよね?」
立ち上がろうとするノインを領主であるシャバートが有無を言わさない口調でそれ制する。
その言動に警戒を強めるが、それを感じ取ったシャバートはわざとらしく口元を緩めて笑みをみせつつ言葉を続ける。
「すまないね。強い言葉で警戒させてしまたみたいだが、そう身構える必要はないよ。
ここからは私からの相談、というよりビジネスの話だ」
そう前置きをすると、表情を真剣なものに戻す。
「審査をした我が領の技術者から、君たちの持ち込もうとしている騎乗型ゴーレムについて興味深い報告が上がっていてね。どうやらあのゴーレムはとても『革新的な作り』をしているみたいだね」
それはそうだろうね。ロックは僕の前世である別世界の技術の粋が詰まったものだ。ロックの進化に使用した情報は『アニメの設定』から流用したものだとしても、そこには流体力学や航空工学の概念が含まれているのだ。しっかりと設定が練りこまれているというのが僕が好きなアニメ『機神戦記ガンヴォルバー』の特徴なのだ。
「あのゴーレムの『所有権』を私に譲ってはいただけないだろうか?」
シャバートがこちらをまっすぐに見据えて要件を告げる。
なるほど。彼はロックの身体構造から得れる情報の重要性をしっかりと認識し、それを入手したいという思いに至ったようだ。
だが、ロックは『ただの乗り物』ではなく『僕の大切な仲間』なのだ。譲るなんてできない。
パチン!
断りの言葉を口にしようとした時、シャバートが指を鳴らした。
「し、失礼いたします」
それを合図に使用人が部屋に入ってくる。
その使用人はティーカートの様なものを押している。そのカートには布がかかっており、それを押す使用人は、緊張しているのかその手が少し震えており目も少し泳いている。
なんだろう……
何を運んできたのだろうかと思っていると、シャバートがその上の布を取り上げる。そして、布の下にあったものは黄金色に輝く大量の硬貨であった。
「ここに金貨が500枚ある。
これであのゴーレムを買い取らせてくれ」
そして、この街の領主であるシャバートはまっすぐにこちらに視線を向け、交渉を持ちかけたのであった。
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