第3話:人の国との初邂逅
◆前回までのあらすじ◆
異世界に転生したリュウジは、特有魔集と認定され自らを召喚した魔族を一蹴する。
制御不能と悟った魔族は転送魔法で、リュウジを別の場所へと飛ばしたのであった。
◆登場人物◆
リュウジ
魔族に召喚された冥界竜。前世は病弱な少年であった。
光に塗りつぶされた視界が元に戻ると、目の前は大空であった。
それと同時に全身を浮遊感が襲う。風圧が下から上へと駆け抜ける。
魔族たちの魔法によって僕はどこかの上空に飛ばされたようだ。
体が重力に引かれて落下するが、本能的に翼を広げて空中にとどまる。
バサッ、バサッ……
無意識であったが空を飛んだことで、自分に翼が生えていることを自覚する。
墜落の心配がなくなったため、僕は改めて自らの身体を確認する。
目に見える両腕や体は漆黒の鱗に覆われており、爬虫類に似た体つきである。
やはり、僕はドラゴンに転生してしまったみたいだ。
状況を確認しつつ、この後どうしようかと考える。
訳も分からず、何も知らない世界へと転生したのだ。ここがどこかも、何をしていいかもわからない。
僕の知る異世界転生アニメみたいに、異世界人に召還されて王様から「魔王を倒してくれ」と願われたならば、勇者として魔王討伐の冒険へと旅立つのだろうが、僕はそれがなかった。
いや、正確には、魔族に召還され「人類を滅亡させてくれ」と頼まれたのだが、それを断ったがため、目的がなくなった状態なのだ。
うーん、この身体だと冒険者として異世界を旅する、なんてことはできないし、どうしたものかな……
そう考えていると『カンカンカン』と鐘が鳴る音が聞こえてきた。
それは下方からの音で、見下ろすと眼下に城壁に囲まれた街――いや、国かな――が広がっていたのだ。
魔族は僕を人間の国の上空に転移させたのだ。
その国の中で多くの人たちが慌ただしく動き回っている。
どうやら先ほどから響いている鐘の音は、警鐘の音の様だ。
一般人はみな建物に退避していき、鎧を付けた騎士や杖を携えた魔導士が城壁の各所に設置された高台へと集結し始めていた。
その人達はみなこちらを見ているような気がする。
――眼下の人々の口の動きから会話の内容を読み取ったけど、どうやら彼らはリュウジを敵と認識しているみたいだね。
距離が離れているため、僕の目からは人々が慌ただしく動き回っているなぐらいにしか見えないが、友にはその口の動きまで解析できたみたいだ。
――マズい、奴らはリュウジに対して【解析】のスキルを使用している。
頭に友の警告の声が響く。
え、【解析】されるって何か問題があるの?
――この世界で【解析】を使用されるという事は、元の世界でいえば『ミサイルのロックオンをされる』のと同意だよ。奴らリュウジに炎と雷が効かないって分かって氷系の攻撃魔法を詠唱し始めた。
なんでだよ。僕は何もしていないのに。これ、マズいよね。
――そうだね。とりあえず、スキルの【固有領域】を発動すことをお勧めするよ。
僕の疑問に友が答え、的確な対処方法を提案してくれる。
固有領域って?
――スキルの内容は、リュウジに有利となるような効果を付与した結界を作り出すスキルだよ。
友が解説してくれている間に、眼下の魔導士が攻撃魔法を放ってきた。
いくつもの氷の塊が僕を襲う。
「痛っ、痛たたたたっ……」
尖った氷がいくつも僕の体に当たり痛みが襲う。石をぶつけられた程度の痛みで、命に係わるほどのものではないが、それでも痛いものは痛いのだ。
とりあえず、アレクスの提案通りスキルを発動させよう。
僕が心の中で「スキル発動」と念じると、僕の体を中心に半径五メートル程の結界が展開される。
それにより、氷の攻撃は結界に弾かれ、僕の体まで届かなくなる。
これで大丈夫。あとは敵意がないってことだけ伝えて、ここから離れれば――
――リュウジ、避けて!!!
脳内に響いた珍しく慌てた様な友の声に、僕は咄嗟に翼をはためかせて旋回する。
次の瞬間、城壁の各所に配置された機器が煌めき巨大な杭が放たれる。
凄まじい勢いで杭が先程まで僕がいた場所目掛けて飛来する。
友が警告をくれたため、その殆どを回避することが出来たが――
ズシュウゥゥゥッ!!
その中の一本が僕の右腿に突き刺さる。
「ガァアアァァァァァァッ!!!」
凄まじい痛みに悲痛の声が漏れ、翼の操作が疎かになりガクリと失速し墜落しかける。
――大丈夫っ、リュウジ!?
大丈夫、だよ。これくらいの痛み、僕は何度も病気で苦しく痛い思いをしてきたから、慣れてるよ。
――慣れている、と言っても、リュウジを傷つけたことは許せないな。【竜の息吹】で反撃しよう。【竜の息吹】を使えば一撃でこの国の三分の二は消し飛ばせる。
友の提案を僕は首を振って否定する。
そんなことしたら人が死んじゃうよ。人殺しはダメだよ。
――そんなこと言っても
珍しく友が僕の意見に反論しようとするが、すぐに別の提案を告げる。
――分かったよ。ならばすぐにこの場を離れよう。右に見える山岳地域ならばあいつらも追ってこれないはずだ。
僕はその提案に頷くと、翼を大きくはためかせてその場を去るのであった。