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第37話:応接室

◆前回までのあらすじ◆

騎乗機の持ち込み審査結果を聞きに、領主宅へと訪れた。

 僕たちの歩く速度に合わせて先導するその背中は隙が全く無い完璧な使用人であった。


「……この使用人、相当の使い手ですね」


 その背中を見て、ノインが小さく言葉を零す。正体が分からない旅人(ぼくたち)を単身で案内するというだけでただの使用人ではないと思ったが、やはりすごい人の様だ。


――アニメでは「メイド服は戦闘服」と揶揄されていたけど、こちらの世界はそれが現実になっている様だね。何かスキルを使おうとすれば、魔素の流れから発動前に制圧されるだろう。


「シャバート様はご多忙であるため、しばらく応接室でお待ちいただくこととなります。しばしお時間を頂くこととなることを先に謝罪いたします」


 メイド頭のシャルルが移動しながらそう告げる。


「リュウジ様に無駄な時間を使わせるなんて無礼ね。あまり長く待たされるようなら帰るから、そう領主に伝えてくれ」


 その言葉にノインが強い言葉を返す。


 なんでそんなに角が立つような対応なんだよ。と僕の方がハラハラするが、シャルルは気を悪くした様子もなく「承知いたしました。シャバート様も客人を長時間待たせることはないと思いますが、その言葉をお伝えしておきます」と大人な対応をしてくれた。


 綺麗に手入れされた庭を進む。


 敷地内にはいくつかの建物があるが、正面の建物が領主が住む居住宅の様だ。


「正面がシャバート様が居られる居住宅兼事務所となっています。そちらの応接室で面会いただくこととなります」


 シャルルが丁寧に説明してくれる。ちなみに右に見える堅牢なつくりの建物は研究機関の様で、未知の素材等が手に入ったときはそこで研究解析し市内にその素材を流通させるか判断をしている様だ。

 それはもちろん僕らが持ち込んだ『未知の騎乗機』も例外でなく、そこで騎乗機(ロック)の国内持込審査が行われたらしい。


「こちらがジャネーロ伯爵邸となります。申し訳ないのですが邸宅内への武器の持ち込みは禁止されているので、武装についてはこちらで預からせていただきます」


 入口でそう告げられ、昨日購入した剣を預けることとなった。

 建物の中は豪奢な造りで、多くの執事と使用人が客人である僕達を出迎える。

 その中の一人が歩み寄り僕たちの武器を回収する。


「……くっ、この剣は大切なものです。丁重に扱ってくださいね。少しでも傷つけたら容赦しないからね」


 ノインは少し渋りながらも僕の鱗を変化させて造った剣を渡す。剣を大切にしてくれているのがちょっとありがたい。


「承知いたしました。こちらの装備については丁重にお預かりさせていただきます」


 武器を受け取った使用人――執事服の老紳士は恭しく一礼すると預かった武器を持ってその場を離れる。


「では、応接室へと案内いたします。皆は職務に戻りなさい」


 メイド頭のシャルルは出迎えた使用人たちに指示を飛ばすと、僕達を案内する。


 屋敷の内部は綺麗な装飾が施された装飾品が所々にちりばめられており、それらが多くの使用人の手で手入れされていて思わず感嘆の声で出そうになる。


「そこまで警戒せずとも、何かがあればリュウジ様は私が護りますので安心してください」


 建物のあちこちに視線を泳がせていたら、隣を歩くノインが小声でそう言葉をかけてくれた。


「え、あ、うん。ありがとう」


 その言葉に僕は頷いて返す。警戒している、というより、初めて見る貴族の屋敷が珍しかっただけなのだけど、やはりキョロキョロしすぎたかなと反省する。


――この建物の装飾に魔素浄化の刻印が施されているね。魔法や外気の魔素を使用するスキルの発動が制限されているみたいだ。さすが貴族の住む邸宅、安全対策が徹底されているね。


 (アレクス)が状況を解析した結果を報告してくれる。どうやらこの建物は豪奢な見た目というだけでなく、しっかりと安全対策がされているらしい。まぁ領主の屋敷で戦闘行為をするつもりはないし、逆に外敵から守られたここは僕達からしても安全だということだ。

 難しい言葉があったため(アレクス)に確認したのだが、『外気の魔素を使用するスキル』とは大気中に含まれる魔素を変換して使用するもので、スキルの大半がそれに該当するらしい。炎を発生させたり、凍結させたりする様なスキルは全てそれに当たるらしい。逆にこの建物内で制限されないスキルは、自身の魔力のみで発動できるもの。例でいえば『身体強化』や現在使用中の『擬態』などがそれに当たるらしい。

 ちなみに僕のスキルでいえば【亜空切断】が使用不能で、【固有結界】も解除していまったら再発動は不可能の様だ。それ以外の【竜の息吹】や【鱗牙再生】などは問題なく使用可能であるため、僕自身についてはこの場にいてもほとんど影響がないと(アレクス)が伝えてくれた。


「こちらが応接室になります。こちらでしばらくお待ちいただければと思います」


 メイド頭のシャルルが応接室の扉を開けて中へ僕らを誘導する。


 案内された応接室は僕の宿泊している宿の部屋の倍ぐらいの広さで、アンティーク調の机と革製のソファーが配置された上品な部屋であった。奥には大きな窓と観葉植物と金の意匠が施された鎧が飾られていた。


「あの鎧、装飾品ではないですね。私達から武器を取り上げておいて、こんな物騒なものが置かれた場所で待機させるとは、不躾ではないですか?」


 ノインが鋭い視線をメイド頭のシャルルに送る。


「気付かれましたか。申し訳ございません、我々は領主様の安全を第一に考えています。貴方達を信用していないわけではないのですが、領主様の安全を確保するため護衛戦力として配置させていただいております」


 その視線を受け流してシャルルが告げる。やはりあの鎧は装飾に偽装されたゴーレムの様だ。かっこいい鎧の姿であるが、ゴーレムとしてみれば仲間(ロック)の方がカッコイイな、とどうでもいいことを夢想する。


――メイドの言葉の通り、あの鎧型ゴーレムは護衛用のようだし、もし起動して襲い掛かってきたとしても我々ならば歯牙にもかからないだろう。


「ノイン。僕ならば大丈夫だよ。ゆっくりと待たせてもらおう」


 (アレクス)の言葉を受けて一触即発の様な状態になっているノインをなだめる。


「リュウジ様がそう言うならば……」


 少し不満が残るようだが、僕の言葉にノインが怒りの矛を収める。


「ご理解いただきありがとうございます。

 お待ちいただく間、簡単な飲食物をご用意いたしますのでよろしければそちらを召し上がっていただければと思います」


 シャルルが告げると、別のメイドがティーカートを押して部屋に入ってきて、洗練された動きで紅茶と焼き菓子を机の上に配置する。


「それではしばしお待ちください。

 私は部屋の外で待機していますので、何かあれば声をかけていただければと思います」


 こうして、僕たちは領主邸宅の応接室にて領主様を待つこととなった。

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