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第36話:領主邸宅へ

◆前回までのあらすじ◆

仲間と共に旅を始めたリュウジは、国境の街『ジャローネ』に滞在。

騎乗機として審査を付けていたロックの審査が終わったとの連絡があったため、領主宅へと向かうこととなったのであった。

 国境の街ジャネーロに滞在して三日目。

 僕は朝日の光とともに目を覚ます。


――おはよう、リュウジ。昨日もゆっくりと眠れたみたいだね。


 目覚めとともに(アレクス)が声をかけてくれ、それに「おはよう」と答える。これは病弱だった前世から変わらぬ朝のルーティーンだ。


 こちらの世界に転生してから新たな経験が続いた。


 僕にとっては、体を動かすってだけでも新鮮な経験なのだ。

 なのに、それどころかいきなり戦闘を経験し、そして人間の街では食事や買い物を経験した。病室の中での生活しか知らなかった僕からすれば、本当に夢のような目くるめく経験だ。

 心身共に疲れが溜まったが、ふかふかなベッドも用意されていたため、夜はぐっすりと眠れていた。


 ぐぐぐっと体を伸ばして、軽く体を動かす。


 そんなことをしている間に部屋をノックする音が響く。朝食の時間だ。

 僕は隣の部屋から迎えに来てくれたノインと共に、宿で提供してくれる食事を摂る。


「リュウジ様、この後すぐに領主邸宅に向かいますか?」


 ノインが今日の予定について確認してくる。


 入国審査が終わったならば、すぐにロックと合流したかったので、僕は「うん」と頷いて返す。


 そして、僕たちは朝食を食べ終わるとこの街の領主であるシャバート=ジャネーロ卿の屋敷へと向かった。


「それにしても、この街は平和だね。街の人たちもみんな穏やかだ。人間の国はみんなこんな感じなのかな?」


 領主宅へ向かう道すがら、何か話題をと思いノインに話しかける。いまだに女性と二人で歩くのはドキドキする。


「いえ、この街の治安は人間の街としてはかなり治安がいいですね。私が知っている人間の国は、無法者や貧民街など危険な区域がありました。リュウジ様が創る国の参考には十分な街と思います」


 毒舌なノインが珍しく賞賛の言葉を告げる。やはりこの街は理想に近いもののようだ。


――私も同感だ。警備体制や食糧自給のライフサイクルなど参考になる点は多い。あとは教育機関や税制などが知れればさらに国造りの参考になるだろう。


 (アレクス)もこの街については参考になる点が多いと意見をくれる。うん、やっぱり最初に訪れた街がここで良かったかもしれない。ってか、なんか僕が国を興すってことで話が進んでるんだけど。


――だが、この街が()()()()()というのが少し気がかりだな……


 なんだか(アレクス)が不穏なことをつぶやく。ちょっ、それ『フラグ』じゃないよね?


――ごめん、ごめん。不安にさせちゃったね。この平和になにか裏があったとしてもリュウジは影響ないから、気にしなくていいよ。ロックの審査が終わり次第、この街を出ることになるからね。


 そう、だよね。でも、もし審査が通らなかったらどうする?


――そうしたら、素直に引き返して、別の国に向かえばいいさ。なにもこの国に必ず入国する必要はないからね。リュウジ達はなにも人間の国に依存する必要はないし、この二日の滞在でだいぶ国造りについての情報は収集できた。必要以上ここの滞在に拘るとはないさ。


 さらりと(アレクス)が答える。


 まぁ、言われれば、そうだなと思う。

 あまり難しく考える必要はないのだ。


「リュウジ様?」


 少しの間、(アレクス)と脳内でやり取りしていたため黙り込んでしまった、不安に思ったノインが僕に声をかける。


「ああ、ごめん。そうだね、この街はとても参考になるよ。でも、あまり長居はよくないのでロックの審査が終わり次第、この街を出る事にしよう」


「はい」


 これからの事について伝えると、ノインはその言葉を受け入れる。なんだかまだやり取りが堅苦しいが、徐々にでも打ち解けられればなと思う。


 そんな話をしている間に領主宅へと到着する。


 ジャネーロ卿の住む邸宅は見上げるほどの豪邸だ。さすが貴族の居城といった装いだった。入口となる門も豪奢でその前にいる門番も厳つい戦士風の男とゴーレムで近づくのも気が引ける、と思っていたのは僕だけだったようで、ノインはズンズンと突き進んでいく。


 ちょ、ちょっと――


 まだ心の準備ができていなかったため慌ててその後に続く。


「ここは領主様の邸宅だ。関係ない者は去れ」


 門番をしていた屈強な男が近づいた僕たちに威嚇するような態度で声をかける。思わず委縮しかけるが、それより先にノインが対応する。


「その領主に呼ばれて来たんだ。そうでなければこんなところに用はない」


 ノインはいつも通り僕以外には冷たい態度でそう応対して懐から昨日預かっていた呼び出し状を見せる。


「領主様からの呼び出し状か……」


 門番はチラリとゴーレムへと視線を向ける。


「書状ノ解析――刻印ニ込メラレタ魔力ノ固有波長ヲ照合……一致率98パーセント。正式ナ書状ト判定。

 スキル【思念伝達】ニテ案内役ノ使用人ヲ呼ビ出シ致シマス」


 ゴーレムがすぐさまその書状を解析し、その真贋を判定。それが正式なものと判断されると、すぐさま案内役を呼び出しを行った。

 しばらく待つと、邸宅から案内役の使用人が出てきて、入口の門が開く。


「よくぞお越しいただきました。ワタシは案内役を致しますジャネーロ家のメイド頭のシャルルと申します。領主様の所へは私が責任を持ってご運内致します」


 案内役として現れたのはブロンドの髪が特徴の美しい美女であった。

 ヴィクトリアンメイド型のメイド服をきっちりと着こなした美女は軽く会釈すると、僕達を邸宅へと案内してくれた。

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