第35話:国境街「ジャネーロ」②(滞在2日目)
◆前回までのあらすじ◆
仲間と共に旅を始めたリュウジは、国境の街『ジャローネ』に滞在することなった。
人間の街「ジャネーロ」の滞在二日目は、徒歩にて街を見て回ることとなった。
ジャネーロの街は、国の辺境であるにも関わらずかなり発展した街であった。
国境であるため街は警備兵を中心として発展しているようで、兵士の憩い場となる酒場が多くあり、その店では非番の警備兵であろう屈強な男たちが昼から麦酒を片手にカードゲームに興じていたりと盛況であった。
「冒険者が酒場に入り浸るフェバリエ王国と比べると治安は良さそうですが、昼から興じるなど愚の骨頂ですね。人間は脆弱なのだから、必死に体を鍛えて生存率を上げる努力をすべきと思うのですがね」
そんな人の営みを見てノインが不機嫌そうに鼻を鳴らす。私も同意だが、相変わらずこの女は口が悪いなと思う。
「ははは。ノインは相変わらず人間に対しては辛口だね。
あ、あの店、武具が売ってそうだね」
ノインの言葉に苦笑を見せつつ、リュウジが視線の先に剣と盾が描かれた看板の店を見つける。
「どうやら武具を扱う店の様ですね。リュウジ様が所望している武器がありそうなので立ち寄ってみましょう」
ノインに先導されてリュウジは武具屋に入る。
武具屋の中には所狭しと様々な武具が並ぶ。私はリュウジの視界を通してそれらの種類と値段の情報を取得し、大まかな価格設定を学習する。
ここではリュウジの武器と、ノインの追加防具を購入。普段は警備兵への装備点検と新調が主な商売内容であるため、店主の対応は丁寧なものだった。店主からおすすめされたものは妥当なものであったため、そのままおすすめされた「ショートソード」を購入した。
そして昼食は警備兵が食事時に利用する食事処を利用して地のものを食べる。
この街は辺境であるため食材の流通が少ないため、街でとれた穀物・家畜を利用した料理であった。
店で一番人気のメニューを注文してそれを堪能し、その後に腹ごなしにと街を見て回った。
やはりこの街は国境の街であるため治安が良いみたいだ。警備用のゴーレムが所々に配置されており、それ以外でも警備兵が多く見受けられた。だが、街の民たちはそれら監視の目におびえるではなく、伸び伸びと生活を送っていた。
民たちは農作業や畜産業、それ以外には飲食業や宿屋など様々な仕事に従事しており、医療施設や教育機関など施設も充実していた。この世界の基幹システムでもある『冒険者組合』の施設がないのだけが都市と比べて足りていないくらいだ。
それでも、この地を収めている辺境伯の『シャバート=ジャネーロ』がギルドの代替施設を独自に運営しているので、ほぼ都市と変わらぬ機能をこの辺境の地に作り上げていた。
リュウジが望んだ「人間の国を見たい」という要望は、この街でほぼ満たすことが出来るのだ。
これは本当に僥倖である。
一日で見て回れる範囲には限度があるため、この日は武具の補填と酒場での食事、そして街の雰囲気を見て回ることのみで時間を費やしたのだった。
日が傾いてきたため宿へと戻る。
ロックの騎乗機としての入国審査が伸びるようであれば、明日はこの街の教育機関施設へ行きこの世界の情勢についての情報収集ができればと明日の予定を演算していたが、それより先に審査についての進捗があったようだ。
「リュウジ様だよね。帰りを待っていたよ。
あんた宛に言伝を預かってる」
宿に帰ると受付にてそう告げられる。
「言伝は領主であるシャバート様からで、内容についてはここに記載されているよ」
受付の年配女性がメッセージカードを差し出す。そこには『国内持込審査を行っている騎乗型ゴーレムについて話があるので、明日の午前に領主邸宅までご足労頂きたい』という内容が記載されていた。
「そのメッセージカードを門番に見せれば中に案内してもらえるらしいよ。
もしも明日の都合が悪い場合はこっちのカードに都合のいい日時を書いて返信してくれ、ってことだったのだけど、あんたたち明日の予定はあったりするかい?」
年配女性がもう一枚の白紙のカードをピラピラと見せて訊いてくる。
急なことで判断に困ったリュウジが私に判断を仰いたので「領主の指定の時間に向かうで問題ないよ」と助言する。
「特に予定はないから、この時間に領主様のところに向かうよ」
私の助言を受けてリュウジが明日快く伺うという旨を伝える。
「そうかい。それなら良かったよ。もし予定があるならば領主様宅まで手紙を運ばなくちゃいけなかったからね」
はっはっは、と宿屋の女将が笑い無地のカードを仕舞う。
こうして国境の街『ジャネーロ』の一日は平和のうちに終えるのであった、まさかこれが嵐の前の静けさだとは、この時はまだ知る由はなかった。
【ちょい出し制作秘話】
人間の国についての国名や地名については、暦を文字って付けています。というか、まんまですね。
・フェバリエ王国:
最初にリュウジが転移させられた国。
フェバリエはフランス語の「二月」を意味したFévrierを文字っています。
・ジャンビエ都市国家:
今回入国した国。複数の都市群で形成された国。
ジャンビエはフランス語の「一月」を意味したJanvierを文字っています。
・ジャネーロの街
今回滞在することになった国境の街。
ジャネーロはポルトガル語の「一月」を意味したJaneiroを文字っています。
地名が出てきたときは、どの暦を文字ってるのかな? みたいに思っていただければ、地名が印象に残るかもしれません。




