第31話:試射
◆前回までのあらすじ◆
仲間になったゴーレム『ロック』が進化したことで得た能力は、変形だけでなかった。
なんと新たな武器も進化の過程でロックに与えていたのであった。
「いかがいたしましたか、我が主」
僕が声をかけると、巡航形態のロックが応える。
「君を進化させたときに、新たな武力を与えたんだけど、気づいているかい?」
助言された通りにロックへと問いかける。
「……この巡航形態へと変形できるようになったことと、身体強度が上がったとは理解していますが、それ以外にもあるでしょうか?」
恐る恐るといった感じで答える。僕も知らなかったことだから、そこまで畏まらなくていいよ、と思いつつ言葉を続ける。
「そうだね。身体構成を作り替えた時に魔力貯蔵球の仕様改変と、背中部分に特殊な魔力放出機構を追加してある」
「はい。認識していましたが、これが我に与えていただいた新たな武力とは気づいていませんでした。
我の足りない見識では単に他人からも助力いただけるようになる仕様変更と、巡航形態での緊急ブレーキ用の逆噴射機関だと愚考しておりました……」
ロックは正直に自分が思っていた内容を告げる。まぁそうだよね。僕も友に説明されなければそう思っちゃうかなと思うし。
「戦闘でいきなり使用すると反動など不測の事態が起きる可能性があるので、今のうちに試しておきたいと思うけどいいかな?」
そう問うと、間髪入れずにロックが「是非にもお願いしたく思います!」と応える。
そうだよね。新しい武器とか手に入れたら使いたくなるその気持ち、分かるよ。
僕はうんうんと頷きながら、操作把手を介して光球に魔力を注入する。
「お、おおおぉっ…… 我が体内に主の魔力がっ」
それと同時にロックが歓喜にも似た声をあげる。ちょっとキモかったが、軽くスルーして新武装の試射の準備に入る。
ゆっくりとブレーキをかけて機体を停止させ、ロックに砲身を展開するようにお願いすると「御意」という返答とともに機首部分の装甲が展開し変形時に内部に収納されていた砲身が出現する。
「あ、あの…… リュウジ様、何を?」
ただ一人状況を把握できていなかったノインが恐る恐るといった感じで訊いてくる。
「走行中だったから会話が聞こえてなかったのか。これからロックに与えた武力を試そうと思うんだ。少しだけ見ててね」
そう説明して、試射の準備を進める。
「術式展開――」
「御意」
僕の声に応えてロックが砲身に刻まれた紋様が浮かび上がる。これは友が演算して刻み込ませた魔術変換用の紋様だ。
「狙いは、そうだな…… あの岩にしよう」
僕は近くにあった大きな岩塊を指さすと、「ハッ」という声とともに砲身がそちらへと向く。
「よし。行くよ。
魔導波動砲、発射!!」
そして僕の掛け声とともに、ロックが魔導波動砲を発射する。
イィィィィ……ン――
ズドォォォォォォォ!!!
光球から供給された僕の魔力が術式によって高出力エネルギーに変換され銃口の前に収束されると、スキル【突風】によってエネルギー波となって放射される。
凄まじい威力に、その反動でロックの機体が大きく後方に弾かれ態勢が崩れかけるが、ロックが必死に機体を制御して堪える。
そして、放射されたエネルギー波は十メートルはあろうかと思われた岩塊を粉々に打ち砕き、そのまま減衰せずに遠方まで吹き抜けていったのだった。体制を崩しかけたことで的にした岩だけではなくその周辺の障害物なども吹き飛ばす結果となった。
――うーん。威力は想定内ではあったけど、ロックがこの衝撃に耐えきれなかったみたいだな。命中精度が不安だな。発射時は【浮遊】を解除して、期待を固定したほうが良さそうだ。もしくはむしろ巡航中に前方に向かって撃つほうが効率がいいか
機体に必死にしがみつく僕を尻目に友が冷静に結果を分析する。
「す、すみません。想定以上の威力で姿勢制御が維持できませんでした。お怪我は無いでしょうか?」
ロックが慌てた調子で声をかけてくる。
「ああ。僕は大丈夫だけど――」
反動の衝撃があるだろうと予測したいたため僕はとっさに期待に捕まることが出来たが、想定していなかった座席後部に座っていたノインが心配だ。と思って後方に意識を向けて気づく。ノインが慌てて僕にしがみついた為、とても心地よい女性のぬくもりが背中全体に感じられることを――
「ノイン。大丈夫?」
女性のぬくもりにすこし興奮してしまっている心情を悟られないように、できるだけ冷静な口調で確認する。
「は、はい。大丈夫です。って、はっ!
申し訳ありません。咄嗟だったとはいえリュウジ様に抱き着いてしまい――」
僕の言葉にノインが無事であることを伝えてくれるが、それ以上に僕にしがみついたことに対しての罪悪感が生じたのか、必死に謝罪してきた。
これは不可抗力だし、別に不快に思ったりなんてしていないので「別に気にしてないから大丈夫だよ。ノインに怪我がなくてよかったよ」と言葉を返す。
「は、はい。ご心配頂きありがとうございます……」
僕の言葉を受けてノインが応えるが、なんだか歯切れが悪い。
「どうしたの、なんだか元気がないようだけど?」
気になったので聞いてみる。しかし、ノインの反応が悪い。本当にどうしてしまったのだろう……
「あの、リュウジ様……」
なんだか意を決したという雰囲気で訊いてくる。ど、どうしたのだろう。僕は「どうしたの?」と、ちょっと緊張しながら問い返す。
「リュウジ様はロックに力を与え過ぎです。
もしかして、私が臣下として頼りないから、なのでしょうか……?」
するとノインがそう質問してきた。僕はそんなことは微塵も思っていないので、なんでそんなこと訊くんだろうと首をかしげる。
――やっぱり、リュウジは女心がわかっていないね。たまたまスキルがかみ合ったからだけど、ロックに対して『身体の進化』に加えて、魔導波動砲という『強力な武器』も与えたからね。彼女からしたら自分の存在を蔑ろにされてしまったのかと不安を覚えるのは仕方ないよ。
なるほど、言われるとそうかもしれないと思う。でもそれって女心は関係ないよね。どちらかといえば弟が生まれた時のお姉ちゃんの気持ち、みたいなやつだろ? そう友にツッコミを入れつつノインに言葉を返す。
「そんなことないよ。ノインは今も信頼を置ける仲間だよ」
その言葉を受けてもノインは不安はぬぐえない様子だ。
――素直な言葉だけでは彼女の不安は拭えないよ。こういう時は相手が納得する様な理由を与えてあげるべきだよ。例えば――
すかさずに友が助言をくれる。本当に頼りになる相棒だ。
「ロックに多くのものを与えている様に見えるのはまだまだロックが僕の臣下として力不足だと思ったからだよ。ノインは十分な戦力を持っているから、多くを与える必要がないんだ」
助言の通りにロックへ多くを与えた理由を告げる。これだけでは今度はロックが不満を抱くかもしれないので、さらに言葉を続ける。
「それに二人は役目が違うからね。
移動と強力な武力を擁するロックは僕の代わりに敵を討つ『剣』として、そして強力な防御スキルと回復スキルを持つノインには常に傍で僕を守る『盾』として期待しているよ」
二人に対して期待の言葉をかける。
その言葉を受けて二人は「はい。必ずやその期待に応えてみせます」と答えるのであった。
こうして僕は信頼できる二人の仲間を得て次の町へと向かうのであった。
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