第2話:特有魔獣(ユニークモンスター)
◆前回までのあらすじ◆
病弱な少年の竜司は、気づいたら見知らぬ世界に転生していた。
魔族に召喚され「人類滅亡に手を貸せ」と言われたが、それを全力で拒否したのだった。
◆登場人物◆
ALXS
対話型で自己学習する最新鋭の人工知能。
正式名称は『Artificial Learning eXperience System』
竜司が孤独にならない様にと、両親が病室に設置していた。
竜司の唯一の友人。
僕は魔族からの誘いを全力で否定した。
嫌だよ。僕は元々は人間だったんだよ。人類滅亡に手を貸せ、なんて無理に決まってるじゃん。
僕の言葉を聞いて、魔族は深いため息を吐き出す。
「やはりダメか。『冥獣召喚』には大量の贄と膨大な魔力が必要だからな。使いまわしができればと思ったのだがな――」
そしてなにやら不穏なことを口にする。
なにか嫌な予感がする。
「「――、――――……、――」」
気づくと辺りの魔族たちが一斉に呪文を唱え始めている。
慌てて逃げ出そうとするが、魔法陣の上から動くことができない。
「くくく、逃がすわけがなかろう。
個体値の高い知性モンスターだから、使い捨てにするのはもったいないとは思ったが、我らの命令が聞けないというならばこれまで通りに人類滅亡のための駒として使い捨てるのみだ」
そう言って魔族のリーダーが邪悪な笑みを見せると、詠唱を行っていた魔族の半数が一斉に魔法を発動させる。
「「「軍隊魔法『過剰狂強化』!」」」
その魔法とともに強制的に筋力が強化され、脳内に破壊衝動があふれ出す。
壊せ、砕け、潰せ、殺せ、滅せ、すべてを破壊し尽くせ――
「ガアアアァァァァァァァァァ!!!」
心にまて影響を与える激痛に、悲鳴にも似た咆哮が吐き出される。
無理矢理に肉体が強化された影響か視界が真っ赤に染まり、破壊衝動と負の感情で僕の記憶と感情が塗りつぶされていく。
殺せ、憎め、祟れ、呪え、皆殺し、鏖殺だ――
やめ ろ……
殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ――
やめて くれ
心が、心が壊れる――
激痛を伴うほど激しく筋肉が膨張し、脳内に強制的に流れ込む負の感情のせいで意識が薄れていく。
やめて、くれ――
助け て
ア、、ALXS――
心がすべて飲み込まれる寸前、消えかける意識の中で、最後に口にしたのは生前ともに生きた人工知能の名であった。
心を塗りつぶす負の感情の言葉たち、その中でかすかにだが友の声が言葉を返す。
――私の名を呼んでくれてありがとう――リュウジ――
その言葉を聞いた瞬間、心を塗りつぶしていた負の感情が消し飛び、魔法の影響で真っ赤に染まっていた視界が晴れる。
強制的に強化されていた肉体もあるべき姿へと戻っていく。
――『名』が世界に認識されました。冥界竜『リュウジ』は特有魔獣と認定され、制限されていたスキルが解放されます――
心の中で響いた声と似た別の声、≪世界の言葉≫が辺りに木霊する。
――個体名:リュウジはスキル【鱗牙再生】を獲得しました――
――個体名:リュウジはスキル【鱗牙変形】を獲得しました――
――個体名:リュウジはスキル【炎雷無効】を獲得しました――
――個体名:リュウジはスキル【状態変化無効】を獲得しました――
――個体名:リュウジはスキル【精神攻撃無効】を獲得しました――
――無効系のスキル獲得により各種耐性ステータスが大幅に上昇しました――
――個体名:リュウジはエクストラスキル【固有領域】を獲得しました――
――個体名:リュウジはエクストラスキル【亜空切断】を獲得しました――
――個体名:リュウジはエクストラスキル【竜の息吹】を獲得しました――
――エクストラスキル獲得により攻撃/防御ステータスが大幅に上昇しました――
――個体名:リュウジはユニークスキル【友の言葉】を獲得しました。
上位のユニークスキルを取得したことにより、下位の意思伝達系のスキルはすべて【友の言葉】に統合されます――
いくつものスキル獲得を告げる言葉が続いた。
そして、獲得したスキル【状態変化無効】と【精神攻撃無効】の効果で、魔族が使用した『過剰狂強化』が無効化されたようだ。
先ほどまでの痛みや苦しみが嘘の様に消え去った。
「バ、バカな……
召喚されたばかりの魔獣が世界から特有認定されるなんて有り得るはずが」
先程まで邪悪な笑みを浮かべていた魔族の男が驚愕にその表情を歪める。
精神攻撃は無効化したけど、今まで受けていた精神攻撃の影響で頭の痛みが残っている。
その痛みを感じながらも、僕は敵意ある視線を相手に向ける。
突然のことに慄きながらも、半数の魔族はまだ呪文を詠唱していた。
このまま放置していたら何をされるか分からない。
どう見ても、こいつらはこの世界に対しての害悪だよな……
今まで観てきた漫画やアニメでも、『魔族』とは悪役だった。
――私もその意見に同意だよ。
頭の中に友の声が響く。
友も同じ意見ならば、躊躇うことはない。
僕は凶悪な武器と化した右腕を振り上げる。身体を縛っていた魔法の鎖。その鎖が右腕を振り上げることで易々と砕け散る。
「拘束魔法では特有化したこいつを抑えつけることが出来ないのか!
お前ら、こいつをすぐに人間の国へ転送してしまえ――!」
慌てて魔族の男が呪文詠唱している魔族達に命令を飛ばす。その言葉とともに、辺りで詠唱していた魔族が魔法を発動させる。
僕の周りを光が覆うが、それも構わず右腕を振り下ろす。
ザン――
振り下ろした爪の軌跡に沿って四筋の閃光が走り、その直後に空間が切断される。
「がはっ――」
視界が光に塗りつぶされる前に見えたのは、スキル【亜空切断】によって切り裂かれ、紫の血を吐きながら憎々しげにこちらを睨みつけた魔族の男の表情であった。
◆作者からのひとこと◆
・私の作品をお読みいただきありがとうございます。
・ついに主人公と最新鋭AIが異世界で再会しました。最強の身体を持つリュウジと、万能の知識を持つアレクスの旅が始まります。
是非とも、★(評価する)ボタンを押して、作者共々応援いただければと思います。
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