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第20話:声の正体

◆前回までのあらすじ◆

魔力枯渇状態になったノインを休ませるために入った洞窟で、謎の声による警告を受けることとなった。

その声は精神干渉を及ぼすものであったが、【精神攻撃無効】を持っているリュウジには効果が無いようで――


「ノイン、この声に怯える必要はないよ。君はこんなものよりももっと怖いものを知ってるはずだ」


 僕はノインの肩を軽く叩いてそう言うと、身に纏っていた気配遮断の領域を完全解除し冥界竜としての気配を全開放する。


『……!!っ』


 それと同時に謎の声の主が驚愕する気配が感じ取れた。


「この『僕』が隣にいるのに何におびえる必要があるんだ?」


 そう告げると、ノインの表情から恐怖の色が消える。相手の精神攻撃よりも強い言葉で強制的に付与されていた恐慌状態を解除したのだ。


「それと一方的に条件を出してきた声の主に言いたいんだけど、「僕たちを簡単に倒せる」みたいたこと言ってたけどやってみたらどうだい?

 僕は逃げも隠れもしないよ。

 たいそうなことを言っていたが、出てくる勇気もない『臆病者』に僕が倒せるかな?」


 うーん、挑発するってやっぱ難しいな、と思いながら何とか挑発っぽい言葉を紡ぐ。頭の中で(アレクス)が「ははは。挑発としては30点かな」と辛口採点をしてくる。うるさいよ。


『ほ、本当にイイのか? 我ノ姿を見タら、地獄の業火ニ焼かレる以上の苦シミの末に死すラ生ぬるい壮絶ナ最期を迎えるコトとなルノだぞ!』


 謎の声がそう返答してくるが、その言葉から相当動揺しているのが読み解けた。なんだか発音が出鱈目になっていて、荘厳な言い回しが台無しになっている。


「だからいいって言ってるじゃん。はやく姿を見せてよ。

 あ、だけと地獄の業火に焼かれるってのは無理かな。僕には【炎雷無効】のスキルがあるから火と雷は効かないよ」


 もう謎の声に対する警戒心はなくなってしまったため、挑発というより軽口のような受け答えになってしまう。


『わ、分かった。今回は見逃してやろう。我の寛大な心に感謝するのだな!

 はーっはっは!』


 なんだか分からないけど、許されてしまった。なんでだよ。


「いやいや、許されなくてもいいから早く姿を見せてよ」


『うぐっ、本当に死にたいみたいだな。

 フン、我が姿を見せるまでもない。その魂、地獄の底へと叩き落してやろう。我がスキルの奈落誘獄手(アビスインヴァイス)でな――』


 その言葉と共に辺り一帯から慟哭の声が響き渡り、いくつのも眼が付いた腕が地面から無数に生え、僕たちを取り囲む。


『その腕は掴んだ者の魂を冥界へと引き摺りこむ、罪禍の魔手(シンフルハンド)

 今ならば見逃してやってもいいが、まだ抵抗するならば貴様らは地獄に堕ちることとなるぞ!』


 あれ、これヤバいかも?


 そう思うが、すぐさま(アレクス)が脳内で呟く。


――魂に直接影響を与えるスキルにしては込められている魔力量が少なすぎる。見た目に騙されてはダメだ。


 その言葉で我に返る。見た目は不気味で恐怖心を煽るものであるが、言われた通りよくよく見てみるとそこまで危機感を感じない。前に戦った黒髪の勇者が覚醒した時の方がよほど脅威に感じた。


――ちょうどいま結界を解いているので、戦闘用の【固有領域】を展開すればこの術のネタが分かるはずだ。


 そう助言をくれたので、それに従い僕はスキルを発動させる。


 結界が広がると互いの魔力がぶつかり合い、込められた魔力が強い僕のスキルで空間が塗り替えられていく。


「えっ」


 その結果を目の当たりにしてノインが驚きの声を漏らす。

 僕の魔力で構成された結界が広がると、不気味な腕だけでなく無数に転がっていた死骸が粒子となって消えていき、何もない空間へと変貌したのだ。


 そう、元々ここには何も存在していなかったのだ。


 白骨の山も、恐怖の表情のまま絶命した死骸も、そして黄泉へと誘うとされた不気味な腕たちも存在せず、それは僕らに恐怖を植えつけるために見せた幻だったのだ。


「なかなかによく出来た幻影だったね。でもその幻も、僕の展開した領域の中では効果ないみたいだね」


 固有領域で幻惑効果を無効化できるのを今知ったのだが、それを悟られないようにかっこよく言い放つ。


「そろそろ姿を見せたらどうだい?」


 そして視線を先ほどからこちらに語りかけていた声の主へと向ける。

 それは広場の奥、先ほどまでは幻術でただの壁であった所。そこは奥へと続く通路となっており、その通路に一つの人型の影が佇んでいた。


「なっ――」


 言葉を失い動けずにいる相手の姿は、光源が広場天井の光苔(ヒカリゴゲ)のみであるため、通路の陰となっていて目視することはできない。


「もし奥に逃げるならその通路に破壊のブレスを撃ち込むよ?」


 なんとなく相手の逃亡しそうな雰囲気を察して、僕は釘を刺す。


「うっ、ぐ……」


 そんなうめき声を漏らしながら、観念したように広場へと姿を現す。

 そして現れたのは、一体の『ゴーレム』であった。

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