第1話:転生
◆登場人物◆
祁答院 竜司
この物語の主人公。
病弱な少年で、病床で「次は強い身体を持ち、心躍る冒険がしたい」と願った。
ゆっくりと意識が覚醒する。
ポツリポツリといくつかの光源が揺れる暗い部屋。
見たことのない景色だ。
夜中に目が覚めてしまったのかな、と思いつつ視界が闇に慣れるのを待つ。
闇に目が慣れると自分が今いる状況が分かってくる。
暗い部屋に僕は四つん這いの状態で居て、小さな人々が僕を囲う様に立っている。
よく見ると小さな人は、青い肌に角、そして金色の瞳という『異形の姿』であった。
何だろう、この人達は?
さらに辺りを観察すると、どうやら青肌の者達が小さいのではなく、僕自身が大きくなったのだと気づく。
光源となっている蠟燭の光や、床のタイルの縮尺が全体的に小さいのだ。
けど、おかしい。
僕は自力で起き上がる事すらできず、ベッドに寝たきりであったのだ。寝返りも電動ベッドの補助が必要で、自力で四つん這いになったり、起き上がったりなど出来なかったはずだ。
視線を下に移す。目に映ったのは床に刻まれた魔法陣と、自らの両腕。
えっ?
目に映った両腕を見て驚き、目を見開く。
そこに映った腕は漆黒の鱗に覆われ、強靭な筋肉と凶悪な鉤爪が備わっていたのだ。
自分が知っている自らの腕は先天性の病気のせいで、骨と皮だけのミイラのようなものだった。
どうなってるんだ? というか、そもそも僕はなんでこんなところにいるんだ?
訳のわからないことが多すぎて、逆に思考が冷静になっていく。
もう分からないことは考えるのを諦めよう、と思考を半分放棄したことが功を奏し、混乱して取り乱すことにはならなかったのだ。
ゆっくりと深呼吸をして目を瞑り、これまでのことを振り返る。
病気が悪化して手術を受けたんだ。
で、目覚めたらここにいる。
ここは病院じゃない。そして、知らない風景、知らない異形の姿をした者達に囲まれている。
しばらく情報を整理し、真理に辿り着く。
そうか、僕は『死んだ』んだ……
そして思ったよりも冷静にそれを受け入れられた。
だとしたらここはどこだろう? 死後の世界? もしかしたら僕が好きなアニメみたいに異世界に転生した、とかかな?
閉じていた瞼を開き、再度自分を取り囲んでいる者達に視線を向ける。
異世界だとしたらこの人達は魔族とかかな? それとも悪魔?
どう見ても善良な人種には見えない。そんな異形の者たちを目の前に、僕は冷静に分析する。
青肌をした異形の者達は僕を見ながら、邪悪な笑みを浮かべ何か言葉を交わしている。
言葉は聞こえてくるが、言語がまったく分からない。
う〜ん、何を言ってるか分からないな。せめて何を言ってるかだけでも理解できれば、この状況についての手がかりになるんだけどな……
そう思っていると、どこからともなく声が聞こえてくる。
――冥界竜の知的好奇心が上昇。条件を満たしました。冥界竜はスキル【言語理解】を習得しました――
それは聞き親しんだ人工知能に似た機械的な声だった。
その言葉と共に体が一瞬だか淡く発光し、眼前の者達の言葉が理解できる様になる。
「《世界の言葉》が聞こえたということは、こいつにはスキルを獲得できるだけの『知能』があるということか」
「ほう。高い『個体値』だけでなく知能もあるとはな。今回の召喚は大当たりの様だな」
先ほどの機械的な声は《世界の言葉》と呼ばれるものらしい。その声は他人にも聞こえる様だ。
僕の知っている異世界作品でよくある『システムメッセージ』みたいなものだろう。
「【言語理解】のスキルを獲得したということは、我らの言葉が理解できるな?
貴様を我ら魔族の『戦力』――生物兵器として黄泉からこの地に召還した。
我らの望みは人間の殲滅と、奴らが作り上げた文明社会の破壊だ。
この世界にはびこり資源を食いつぶす諸悪の根源たる人間を抹殺するのが貴様の使命だ」
状況が分からず目の前の魔族に視線を向けていると、その中の一人が説明を始めた。
その説明はありがたいのだが、内容は物騒なものであった。
曰く、目の前の青肌の人たちは『魔族』と呼ばれる存在のようだ。その魔族が召喚魔法によって死後の世界から僕を召還したらしい。
そして魔族たちは召喚した魔獣を使って人類を滅ぼそうと企てていて、その計画を実行しろと命令している。
ふんふん、なるほど――って、なんだそれ!?
いやいやいや、ありえないし。
戦争など無縁な日本の、しかも病室の中しか知らないような無力な自分が人類滅亡の先兵になるとか無理難題にも程があるだろう。
「さぁ、我らに協力し人類滅亡のための礎となれ!」
説明を続けた魔族が両手を広げ、そう僕に言葉を投げかける。
いや、だからありえないし。
なので僕はしっかりとまっすぐに回答する。
「断る!」
と――
第一話をお読みいただき、ありがとうございます。
『面白いかも!』
『続きを読みたい!』
『陰ながら応援してるよ!』
と思われた方は、下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして、応援していただけると嬉しいです!
↓広告の下あたりに【☆☆☆☆☆】欄があります!
それと、イイネ機能が実装されましたので、いいなーと思ったエピソードがあれば「イイネ」ボタンポチりもよろしくお願いします。