第17話:旅立ちと、いきなりのやらかし
◆前回までのあらすじ◆
ヒュドラが仲間に加わったリュウジはついに旅に出る事となった
「よし、じゃあ出発するか」
そう言う僕の声は少し上擦っていたかもしれない。
夢にまで見た冒険の旅への一歩を踏み出すのだ。心が昂らない訳がないのだ。
「はい。行きましょう」
僕の歩みに合わせて紫髪の美女――ノイン――が共に歩き出す。
洞窟があったのが山岳地帯の中腹あたりで、僕たちが次に目指すのはこの山脈地帯を越えた先の商業都市ジャンビエだ。なのでまずはこの山脈地帯を抜ける必要がある。
僕たちは山岳地帯を抜けるために、山の側面をぐるりと回るルートを行くことにした。
山岳地帯はほぼ岩場ばかりで殺風景な景色が続く。
脅威となる害獣や魔獣もほとんど出現せず、順調な旅となった。
順調過ぎて冒険って感じの旅ではないけど、それでもずっと病室で過ごし外出した事のない僕にとってみれば十分過ぎるほど刺激的なものである。
――平和な旅だね。女性と二人きりだから、これは冒険というよりデートたね。
あまり変わり映えしない景色を見ながら歩を進めていると、友が茶々を入れてくる。昨日からことある毎に「女性と二人だよ」と言ってくる友に僕は少し困っている。
アニメで学園ラブコメ的な青春物語も好きだったけど、現実の女性と話すってのは話が別なんだよ。僕がそういう経験が少ないのは分かっているだろ?
脳内で友に言葉を返す。
――何言ってるんだ。母親や女看護師とは何度を話していただろ。何が違うんだい?
全然違うよ。母さんや、僕のお世話役だった看護師さんは色々と僕に気を使ってくれたけど、ノインは僕が初めて対等に話した女性なんだ。何か気に障ることを行っちゃったら「嫌い!」って言われるかもしれないだろ?
――そんなことはないと思うけどな。ノインは君に絶対忠誠を誓っている。云わば元の世界での看護師と立場は変わらない、むしろさらに遜った立場だと私は思うけどね。異性交流の練習にはもってこいじゃないのかい?
うーん、僕は主従関係ではなく対等な仲間としてありたいんだけどな……
友の言葉も尤もだと思いつつ、チラリと視線をノインに向ける。
切れ長の瞳が特徴的な美女で、スタイルも抜群だ。女性としてとても魅力的で、目が合えばドキドキもする。それも相まってなのか、いざ何かを話そうとすると、口どもってしまうのだ。
「いかがなさいましたか?」
目が合いノインが問いかけてくる。それだけで僕の心臓は跳ね上がり言葉が出てこなくなる。
――ははは。仕方ないな。しばらくは私が会話についてはサポートするよ。
頭の中で友が小さく笑って、話の話題について助言をくれる。
「そ、そういえば昨日新しく取得したスキルについて、どんな能力なのかって分かるかい?」
友が「彼女のスキルについて聞いてみて欲しい」と助言をくれたので、その話題を振ってみる。
「はい。スキル取得時に大まかですが、その効果については読み取ることが出来ました。
ユニークスキル【絶対の盾】は『盾を具現化するスキル』の様です」
ノインが僕の問いかけに答える。
「ユニークスキルってことは、通常のスキルよりも強力なものだよね。いま発動させることってできるかな?」
そう言うと、ノインは頷いてスキルを発動させる。
ノインが右手を翳してスキルを発動させると、目の前に仄かに輝く光の盾が出現する。ガラスのような半透明な盾は薄く脆そうにも見える。
――見た目だけでは判断できないよ。スキルを阻害・無効化する希少鉱物を食べた事で会得したものだ。その効果を引き継いでいそうだね。
友はそう分析していた。
「その盾に相手のスキルを無効化する効果がありそうだ。
ちょっと試してみるね」
そう言うと、僕は小さく息を吸い込む。
「ちょっ、リュウジ様っ!?」
ノインが驚愕に目を見開く。
僕は「大丈夫だから、そのまま盾を構えてて」と告げると、吸い込んだ息にほんの少しだけ魔力を込めて【竜の息吹】を吐き出す。
僕の吐き出した息は一条の破壊の奔流となってノインを襲う。
「ひっ――」
ノインが小さく悲鳴を上げるが、絶対の盾に当たったブレスは効果を失いその後ろに立つノインへはその効果は及ばなかった。
全力で放った時と比べれば範囲は狭いが、それでも盾で遮られなかった吐息はすさまじい威力で辺りの固い岩石群を吹き飛ばしていた。
――この威力を無効化できるなら、殆どの攻撃系スキルを完封することが出来るね。あとは物理攻撃への耐久力を確認したいかな。
それを見て友が推測が正しかったと判断し、さらに確認点を挙げる。
「思った通りその盾は相手のスキルを無効化する効果があるみたいだね。
物理攻撃の耐性についても確認していいかな?」
「は、はいぃ……」
僕の言葉にノインが頷くが、その表情は少し涙目だ。
出来るだけ込める魔力を抑えたのだけど、それでもとてつもない威力であった。最小限に抑えてもこんな威力なのは自分でも想定外で、可哀想なことをしてしまったなと思いつつスキルで生み出された盾へと近づく。
そして僕はその盾に向けて腰に佩いた剣で斬撃を放つ。アニメで見た抜刀術を真似てみたが、その刃は盾に弾かれてしまった。
やっぱりアニメみたいにカッコ良くはいかないな、と思いつつ、続けて両手持ちでの切り下ろしや、某有名キャラクターの必殺技っぽく刺突を繰り出してみたけど、それらは悉く盾に弾かれてしまった。
――リュウジには剣の才能はないみたいだね。身体能力は高いので、拳で殴った方が威力がありそうだ。
友の言葉に我に帰る。そして、自分がカッコ良く剣を振ることに夢中になっていた事に気づいて、慌てて剣を鞘に納める。
「えっと、斬撃には強いみたいだね。打撃に対する耐性はどうかな」
剣を振ることに夢中になっていたことを隠すように、かるく咳払いして僕は拳を握る。
「はい?」
そう答えるノインの表情が強張る。
そんなに身構えなくてもいいのにな、と呑気に思いながら思いっきり拳を半透明の盾に叩きつける。
と――
ガシャァァァァン!!
そんな破砕音とともに盾が砕け散った。
「ぅあっ……」
それと共にノインがよろけて、倒れかける。その体を僕は慌てて支える。
「ノイン、大丈夫?」
そう声をかけると、ノインは弱々しい表情で「だ、大丈夫です」と答える。
その言葉とは裏腹に、表情はとても大丈夫には見えない。
――スキル罰損だね。具現化系スキルの場合、具現化した対象が破壊されるとその反動が術者に返り魔力が失われるんだ。【絶対の盾】はその反動が大きかったみたいだね。まぁ、それ以上にリュウジの拳の威力が盾の耐久値を大幅に超えたのが罰損が大きくなってしまった要因と思われるよ。
友が状況を解説してくれる。そうなのか、僕が盛大に盾を壊してしまったことでノインが魔力不足になってしまった様だ。
それにしても、まさかあの盾が打撃に弱いとは思わなかった。
だって、希少な『ユニークスキル』だから打撃にも強い、ずこい効能の盾だって思うじゃん。
――リュウジは自分の能力を低く見積り過ぎだね。君の打撃は王魔金属を軽く砕く威力だからね。
心の中で言い訳していると、友が的確なツッコミをしてくる。
「ごめん。まさかここまでスキル破壊時の反動がこんなに大きいなんて思ってなくて……」
魔力が一気に減少し、生気を失った表情となったノインを見て少し反省する。
ノインは僕を心配させない様にと気丈に振舞おうとしているが、どう見ても休憩が必要な状態だ。
こうして、旅立って早々にやらかしてしまった僕たちは、早々に魔力回復のため休息をとらざるを得ない状況となってしまったのであった。
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