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第16話:ヒュドラの秘密

◆前回までのあらすじ◆

リュウジに助けられた魔獣のヒュドラ。

そのヒュドラには秘密がある様で……

「リュウジ様に、お伝えしたい事がございます」


 その言葉に少年は「えっ、急に改まって、何?」と聞き返す。


「私は呪われたスキルをひとつ保持しています」


「呪われたスキル?」


 少年はヒュドラの言葉に目をぱちくりとする。


「そのスキルの名は【暴食の業(グラトニー)

 不吉と呼ばれる『大罪スキル』で、そのスキルの影響で魔獣にとっては不要な『食欲』が私には過分に存在するのです」


 ヒュドラは意を決してこれまで誰にも明かしてこなかった秘密を打ち明ける。


 この世界に存在するスキルの中で最高位とされる『美徳スキル』。それと対を成し、不吉とされ忌み嫌われるのが『大罪スキル』だ。

 美徳スキルに匹敵する超絶な効果を有するが、それ以上に大きなデメリットがあるのが大罪スキルの特徴だ。


「【暴食の業(グラトニー)】って、あれだよね僕の知ってる作品(もの)だと大抵は最強クラスとされている大罪系のスキルだよね」


 少年は独り言のようにそう呟きながらしばらく考え込む。


「……ええー、すごいじゃん!

 そんなにすごいスキルを隠し持ってたなんて、それに【猛毒吐息(ポイズンブレス)】【超再生】【擬態】に僕の傷を癒した『回復系のスキル』もあるんでしょ、スキルだけで言ったら君の方が優れてるかも知れないね」


 しばらくの沈黙の後、少年は瞳を煌めかせてヒュドラを見返し、なんと呪われた大罪スキルをすごいと讃えたのだ。


 想定外の少年の反応に、ヒュドラは戸惑う。


 もしかするとスキルのデメリットを知っていないのかもしれない……


 ヒュドラはそういう思いに行きつき、恐る恐ると口を開く。


「【暴食の業(グラトニー)】を持っていると私自身に食欲が付与・増進されるだけでなく、その効果は()()()()波及してしまうのです。

 通常ならば食事という行為が不要な魔獣(あなた)にもその効果が及んでしまう、それを危惧しております」


「そうなんだ。うーん」


 仲間にも影響を与えるスキル効果に少年は小さく唸るが、すぐに明るい表情で言葉を続ける。


「でも、それってデメリットなのかな?

 僕は食事を不要とは思ってないし、食欲が増進されるってことは美味しく食事が採れるってことでしょ。ならそんなのはデメリットじゃないんじゃないかな……」


 その言葉にヒュドラはまたしても驚き、そして救われた気持ちになる。


 姉たちに不遇な待遇をつけ続けられ、誰にも伝えることが出来なかった『呪われたスキル』も受け入れられたのだ。彼女はこれまでのわずかなやり取りだけで、この魔獣が一生付き従うに値すると確信するのには充分だった。


「そう言ってもらえてよかったです。

 私の持つスキルがリュウジ様の負担にならないと分かり安心しました」


 そう告げるヒュドラの表情には、先ほどまでわだかまっていた不安が払しょくされた晴れ晴れとしたものであった。


「ははは。そんな、気にしなくていいのに。

 それに大罪スキルを持っているってことは、デメリット以上の超絶効果があるんでしょ?」


 少年の言葉にヒュドラは少し難しい表情を見せる。


「そこまですごい効果ではないと思うのですが……」


 そう前置きをしてあたりを見回し、洞窟内に転がる杭型の弾を見つけ、そこへと歩いていく。

 それはリュウジが人間の国へと転送された時に人間から攻撃され、足に刺さったまま運んできてしまった対魔獣兵器の(クイ)である。


「【暴食の業(グラトニー)】の効果は、どんなものでも捕食できるというものです。もともと保持していたスキル【悪食(あくじき)】が進化したのですが――」


 言いながら、杭型の弾に手を当て魔力を込める。すると杭に魔力が満ちて仄かに輝きだす。そしてヒュドラはその杭に齧り付き、ゴリゴリと音を立てて咀嚼して飲み込む。


「こんな感じで()()()()()()()()()()、というだけで大きなメリットはないと――」


 そこまで言ったところで、世界の言葉が響く。


――条件を満たしました。種族名:ヒュドラはユニークスキル【絶対の盾(イージス)】を取得しました。


「えっ」


 それを聞いてヒュドラが驚きの表情を見せる。


 それは彼女自身も知らなかったスキルの効果だった。


「ははは。

 その反応は自分自身も知らなかった効果ってことかな。

 多分だけど【暴食の業(グラトニー)】の効果は、魔力を通したものをなんでも食べられるようになるだけじゃなく、『捕食したものによっては新たにスキルを取得できる』という効果もあるみたいだね。

 いま捕食したその杭は人間が兵器として使用している貴重な鉱物を使用したものだ。それを捕食したことで条件を満たしてスキルを取得できたみたいだね」


 今の現象を見て分析した結果を少年が伝える。


 少年は【友の声(アレクス)】という解析能力に長けたスキルを保有しているため的確に状況を分析できたのだが、それを知らないヒュドラからは少年はとても知性の高い存在に見えた。むしろ、希少鉱物で出来た(クイ)が置いてあったのも、この少年が計算したものなのかもしれないとも思えていたのであった。


「これも予測だけど、捕食した量でスキルの練度も上がると思うから、それは全部食べた方がいいかもね」


 ヒュドラはその言葉を素直に受け入れて、杭をそのまますべて平らげる。


 ボリボリと杭を咀嚼する音のみが響く中、少年が思い出したかのように口を開く。


「そうだ。ここまで話をしていて今更だけどさ、君って名前はあったりするの?」


 杭の最後の一欠片を口に放り込んだヒュドラに少年が問いかける。


「いえ、私はリュウジ様ほどの強さは無いので名は付けられていません」


「そっか……

 でも、ずっと「君」呼びだと余所余所しいよね。せっかく仲間になったんだから、ちゃんと名前で呼び合いたいな」


 うーん、と少年が唸る。


「私など呼ぶ必要はないと思うのですが、もしリュウジ様が私を呼称したいというならば人間に化けたときに仮で名乗ってる九番目(ノイン)とお呼びください」


 少年が困った顔をしているのを見て、ヒュドラがそう告げる。


「なかなかいい名前だね。

 じゃあ、これからもよろしくね――ノイン」


 そう呼ばれ、ヒュドラは心の中でくすぐったいような、不思議な感情になった。


 九姉妹の中で最弱――九番目を意味する名前なのだが、なぜかリュウジに呼ばれると嫌な感情は湧きあがらなかった。

 むしろ、その感情が喜びにすら感じ――


「はい。よろしくお願いします、リュウジ様」


 そう答える彼女は自然と笑みを浮かべていた。

【ちょい出し設定集】

◾️スキルの種類◾️

・コモンスキル

  通常のスキルの総称。


・エクストラスキル

  コモンスキルよりも高位のスキル。

  種族や血統が条件となる。


・ユニークスキル

  世界唯一のスキル。その効果は絶大である。

  条件を満たしていても、既に取得者がいる場合は顕現しない。


・美徳スキル

  世界に認められた聖人に宿るスキル。

  ユニークスキルの中でも最高位と称される超絶な効果を有する。


・大罪スキル

  美徳スキルに対成す最高位スキル。

  超絶な効果を発揮するが、それと同等のマイナス効果がある。

  そのマイナス効果は仲間にも波及するため、忌み嫌われている。

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