第12話:仲間
◆前回までのあらすじ◆
ヒュドラが仲間に加わった。
◆登場人物紹介◆
・リュウジ
冥界から召喚された冥界竜。本作の主人公。
・ALXS
ユニークスキル【友の言葉】として、この世界にやってきた最新鋭AI。
・ヒュドラ
人間に襲われているところをリュウジに助けられた。本作のヒロイン。
不意な一言が切欠に、ヒュドラが新たな仲間に加わった。
(ところでリュウジ様。リュウジ様はどのようにして国を興すおつもりでしょうか?
もし私ができることがあればリュウジ様の傷が癒えるまでの間に私が行動いたします)
そう聞かれて、言葉に詰まる。ハッキリ言ってこの後のことなど何も決まっていないのだ。
(もしここを拠点として国を興すのならば、周囲の魔獣を制圧、有益な強さを持つ魔獣がいるなら懐柔してきたいと思いますし、別に拠点とする場所の目途があるならば斥候として情報収集してまいります)
どうしようかと悩んでいると、ヒュドラがいくつか案を提示してくれた。
――もし国を興すとなると、この周辺は立地的には向かないね。傷が癒えたら各地を回ってよい場所を探すのがいいと思うよ。
友の助言の通りだと僕も思う。こんな何もない山の中なんて人も集まらないだろうし、やはり僕は『冒険』したいんだ。最初に見つけた拠点に引きこもるなんてしたくない。
(しっかり拠点とすべき場所は探したいね。なので傷が癒えたら色々と世界を回ろうかなと思ってるよ)
とりあえずヒュドラには正直な思いを伝える。
(なるほど。では私はその旅のお供をいたします。リュウジ様はどのような国を思い描いているのですか?)
そう問われて、うーんと唸る。具体的なイメージは特にないのだ。転生前もずっと病室で過ごしていたため外の世界についてはあまり知らないのだ。知っているものといえば漫画やアニメで得た異世界転生系の作品に出てくる街のイメージだ。
だがそれも基本的には異世界の『人間』もしくは『人間形体になれるもの』に転生して活躍するものが多く、魔物が興す国とは少し違うのかもしれない。
(うーん、人間の国ってならばイメージができるんだけど……)
そう思っていると、その思念にヒュドラが同調して言葉を返してくる。
(そう、ですよね! 人間の国、すごくいいですよね。建物や設備が整備されていて、それに『食べ物』が特に美味しくて――)
そこまで捲し立てるように言い、ハッとなってまた小さくなる。
(別に黙らなくて大丈夫だよ。自由に意見を言ってくれれば。
それらしても、君は人間の国を知っているみたいだね。良ければ詳しく話を聞かせてくれるかい。実は人間の国については伝聞として知っているだけで、実際に見たことはないんだ)
そう伝えると、少し戸惑いながらも言葉を続けた。
(なんだか出しゃばってしまい、申し訳ありません。
強き者が統率する魔物の国にと違い、知能が高く器用な人間達の国には皆が守るべきルールがあり、多種多様な設備があり、脆弱なものでも快適に暮らせるような仕組みが出来上がっていました)
ヒュドラは人間の国がどのようなものなのか詳しく教えてくれた。やはり思った通り、僕の知っている異世界転生ものの作品の国とほとんど同じの様だ。
(すごく良く人間の国のこと知っているね。なんだがまるで見てきたみたいに)
そう感想を漏らすと、ヒュドラは「うっ」と言葉を詰まらせつつ理由を伝えてくれる。
(実は人間の作る『料理』が好きで、たまに【擬態】のスキルを使って人間の国へもぐりこんでいたんです。そして、何度も人間の国に出入りしていたら、【解析】を持つ人間に見つかってしまって私が拠点にしていた森に帰る途中に襲われて、あの状況になってしまったのです……)
なんと、このヒュドラは人間の国に何度も出入りしていたのだった。そりゃあ出入りしていたならば人間の国について詳しい筈である。
――人間に擬態することができるのか。リュウジ、もし可能ならばこのヒュドラに人間へ化けるスキルを使ってもらうように頼んでもらえないか? 目の前でそのスキルを捕捉すれば、人間に化ける術を会得できるかもしれない。
ヒュドラの情報を受けて、友が提案してくる。
人間に化けられたら、僕の知っているアニメみたいに冒険できるかもしれないと、さっそく頼んでみる。
(【擬態】を見てみたい、ですか。構いませんよ)
そう告げて、目の前のヒュドラがスキルを発動させる。
スキルを発動させると身体が発光し光の塊となり、さらにその光が変化していき人の形へと変わっていく。光は人間の身体を構成する肌や髪へと変質すると、輝きが失せて一人の人間の姿への変化を完了するのであった。
長い紫の髪に切れ長の目、整った鼻梁に薄い唇。体は丸みを帯びた成人女性となった。
って、なんで裸なんだよ!
僕は慌てて目を逸らす。
(ごめん。見てないから!)
慌てて弁明するが、人の姿となったヒュドラは思念ではなく口から発せられる音声で「いえ、どれだけ精巧に人間の姿に化けられたかを確認いただいて構わないですよ」と言葉を返す。
――ヒュドラの言うとおりだよ。しっかりとスキルを捕捉しておくべきだ。
それに合わせて友も意見してくる。
(いやいや、ダメだろう。異性の裸を見ていいのは結婚相手だけだよ)
慌ててそう返す。
「結婚とは人間の風習でいう番という事でしょうか?
でしたら私は構いませんよ。リュウジ様程の強さを持つ魔獣でしたら、子を成しても良いと思っております」
――相手もそう言っているし、問題ないよ。
(問題大有りだから。そんな会ったばかりの異性に裸を見せるのはダメだよ、絶対)
そう伝えつつ、初めて見た異性の裸に上気してしまった顔を手で覆う。
――まぁリュウジがそう言うならば、私は無理強いはしないよ。それに、捕捉できた情報だけでスキルの仕組みは理解できたからね。
友の言葉と共に、世界の言葉が響く。
――条件を満たしました。個体名:リュウジはスキル【擬態】を習得しました。
それは新たなスキルを取得したことを告げる声であった。




