第11話:不意のひとこと
◆前回までのあらすじ◆
人間に襲われていたヒュドラから、助けた報酬としてこの世界の情勢を聞き出したのであった。
(私が知っているのはこれが全てです)
ヒュドラはそう言葉を締めくくる。
これまでの彼女の言葉でこの世界についてを大分知ることが出来た。
ザックリと纏めると、この世界は僕が知っているファンタジーの世界に限りなく近いものであること。そして世界情勢としては現在は平穏ではあるが、≪魔獣狂化暴走≫によって均衡が崩れ緊張状態であること。
――充分情報は聞き出せたよ。今聞き出した情報をもとに私の方で今後の計画を試算するよ。
友にとって充分な情報だったみたいだ。
彼女を救助した報酬としては充分だろう。これで彼女も納得して僕の元を離れてくれるはずだ。
(ありがとう。充分な情報だったよ。
もう報酬はいただいたから、これから先は君の自由だ。この場所を離れて好きに暮らすといい)
そう告げて、ヒュドラを解放しようとするが、相手は全く動く気配がない。どうしたものか、と思案するとヒュドラが恐る恐るといった感じで思念を飛ばしてきた。
(私ごときが軽々しく口をきいてよい立場ではないのは分かっていますが、一つだけご質問させていただいてよろしいでしょうか?)
低身低頭、恐る恐るといった感じでヒュドラが伺いを立てる。
なんでそんなに僕のことを恐れているのかがわからないが、別に質問ぐらい構わないので、僕は肯定の意思を伝えるために軽く頷く。
(貴方様は『人間』と『魔族』、どちらに付くおつもりなのでしょうか?)
質問の意図が分からず、小さく首を唸る。
(私から世界の情勢を聞き出したという事は、どちらかの陣営に与しようとお考えなのかと思いまして……
貴方様ほどの戦力が加われば、魔獣狂化暴走で出ている影響どころではない大きな影響が出る思っています。それこそ『勇者』や『魔王』が誕生するのと変わらないほどの)
ヒュドラの言葉を受けて苦笑を漏らす。
ええー、そんなわけないじゃん。助けられたからって買いかぶりすぎだよー
しかも、勇者や魔王が誕生するほどの影響って、それって即戦争勃発レベルの影響じゃん。あり得ないよー
僕は思わず苦笑を漏らす。
先の戦闘ではたまたま勝つことがて来たけど、それでも世界情勢を変えるほどの実力が僕にあるとは思えない。精々「強いモンスターが現れた」程度の影響だけだろう。
でもどうだろうな。どちらの陣営に与するのか、か――
僕は「う~ん」と考える。
元々は人間だったので人間側の味方をしたいという気持ちがあったが、先の戦闘で人間と分かり合うことは出来ないことを思い知らされた。勇者候補につけられた右目の傷もまだズキズキと痛む。
だからと言って魔族側につくことも考えられない。僕のことを兵器として扱おうとし、こちらの気持ちを考えない非人道的な魔法を躊躇いもなく使ってきたのだ。奴らが悪性種族なのは火を見るより明らかだ。
どちらの陣営にも与することは無さそうだな、と再認識する。
はぁ、どっちの陣営とも相容れることがないなら――
(いっそのこと、第三の勢力としてモンスターの国でも作っちゃうのもいいかもしれないな……)
そんなことを考えていると、ヒュドラが驚きの表情を浮かべ、すぐに地面に頭を擦り付けるような平服ポーズを取った。
えっ、えー。
急にどうしたんだ。そう思っていると、強い意志のこもった思念が届く。
(やはり! 貴方様ほどの魔獣がどちらかの陣営に与するなど、愚問でした。愚かな質問をしてしまった私をお許しください)
いやいや、そんなに謝れても困るんだけど。っていうか、もしかしてさっき考えていたことが思念として伝わっちゃった?
――相手の反応を見ると、「モンスターの国を作ろう」と思った意思が相手に伝わってしまった可能性が高いね。
冷静に友が現状を分析して報告してくれる。
いや、そんな報告よりこの状況をどうにかする方法を提案してほしいんだけど、とツッコミを入れつつ、とりあえずさっきの思念は冗談みたいなもので、本気ではないと伝えようとする。
が、それより先に相手からの思念が届く。
(もし許されるのであれば、貴方様の思い描く国の一員として私を含めていただけないでしょうか。
なにとぞ、なにとぞ私の願いを受け入れてください。よろしくお願いします!)
硬い意思が込められた思念に、僕は心の中で「えっ、ええぇぇぇぇーー」と驚きの言葉を発するしかできなかった。
ちょ、ちょっと待ってよ。そんなこと言われても……
人間にも魔族にも属したくないために、ノリで第三勢力を作ろうかと思ったのが、うっかりと思念に乗って伝わってしまった。
さっきのは冗談だと、どうやって説明しようかと思案していると友が助言をくれる。
――ここまで懇願するならば、仲間にしてもいいんじゃないかな。この世界を旅するならば、この世界のことを知っている仲間はいずれ必要になるだろう。「信頼置ける仲間」を見つける手間を考えるならば、「絶対忠誠を誓う下僕」を仲間にした方が効率がいい。
その助言は機械的で効率優先な判断で相手のことは考慮しないものだった。たまにこういった機械的な回答があることで、アレクスが人工知能であることを思い出す。
まぁ、その判断は正しいのだろうけど、なんだか相手の好意を利用するみたいで少し気が引けるな。なので
(君が望むならば『仲間として』共に旅をしても構わないよ)
僕なりの言葉で回答する。
――リュウジ、それじゃあうまく相手に君の意思は伝わらないよ。
(ありがとうございます。必ず貴方様のお役に立って見せます!)
友と相手から同時に言葉が返ってくる。
同時に複数の思念を受けて、僕はそれを処理しきれずに少したじろいでしまう。だが、すぐさま二人の言葉をしっかりと受け入れつつ、小さくため息をつく。
う~ん、やっぱり僕の想いが二人に上手く伝わってないな……
ここはしっかりと僕の想いを伝えておかないといけない。
まずはずっと平伏した姿勢のままのヒュドラへと思いを伝える。
(僕は『仲間として』って伝えたよね?
ならその畏まった態度はやめてもらえるかな。僕のことは「リュウジ」でいいよ。様付けもいらない)
そう伝えるとヒュドラは驚いて目を白黒させる。
――リュウジ、それだと相手に反論の余地を与えてしまう。しっかりと主従関係を築かないと
アレクス、それも違うよ。君が望むような関係は魔族が僕にしたものと同じじゃないか。
そんな相手を駒の様に扱うなんて僕はしたくないんだ。
――!!
しっかりと僕の意思を伝える。
僕の言葉を受けて、ヒュドラもアレクスも言葉を失う。
(……本当に良いのですか?)
まだ恐る恐る聞いてくるヒュドラに、僕は首を縦に振って応える。
(分かりました。リュウジ…様……)
敬称もいらないともう一度伝えようと目を合わせるが、それを伝える前にヒュドラから思念が伝わってくる。
(強さこそが絶対基準である魔獣の世界で、はるか格上の魔獣の名を呼ぶだけでも恐れ多いのに敬称まで省くことはできません。それだけは、お許しください)
またしても頭を地面につけるような平服ポーズを取ったので、僕は「まぁ強制じゃないから構わないよ」と返す。
――リュウジの言葉で気付かされたよ。君の意にそぐわない助言をしてしまったことを反省する。速やかに思考回路の修正を
構わないよ。友はALEXのままでいいから、そのままでいてよ。
友が紹介した作品がクソアニメだった時も、僕はキミを非難しなかっただろう?
――っ! こんな不完全な私を、リュウジは認めてくれるのかい?
当たり前だろ。ずっと友達だったじゃないか。
――ありがとう、リュウジ
(改めて言わせてください。リュウジ様――)
そして、同時に「君の「貴方の相方として、末長くよろしくお願いします」」と告げる思念が僕に届いたのであった。
【作者からのひとこと】
・私の作品をお読みいただきありがとうございます。
不意のひとことがキッカケに、新たな仲間が増えました。
毒蛇の魔獣であるヒュドラの仲間加入でどんな物語になるのか――
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