第10話:世界の情勢
◆前回までのあらすじ◆
人間のパーティーを退けたリュウジは、助けた魔獣のヒュドラと共に傷を癒すために拠点としていた山岳部の洞穴へと戻るのであった。
◆登場人物紹介◆
・冥界竜:リュウジ
この物語の主人公。病弱な少年であったが、最強のドラゴンとして転生した。
・スキル:友の言葉
スキルとしてこの世界へ転生した最新鋭AI。リュウジの唯一村の親友。
・ヒュドラ
人間に襲われていたところを、リュウジに助けられる。
どこかで僕を呼ぶ声がして、意識を覚醒させる。
寝起きでぼやける視界に映ったのは岩肌の地面と壁。そうだ、僕は拠点としていた洞窟に戻って、そのまま寝てしまったのだ。
――寝ているところ、起こしてしまってごめん。助けたヒュドラが目を覚ましそうだよ。
友の声に視線をそちらに向ける。左半分の視界が、洞窟で横たわる魔獣がゆっくりと目を覚ます姿を捉える。
視界が半分なのはまだ右目に受けた傷が癒えていないからだ。
「ガウゥ……?」
目を覚ましたヒュドラはまだ意識が朦朧としている様だ。状況が分からず警戒状態で辺りを見回していた。
(警戒する必要はないよ。ここは僕の拠点だから)
そんなヒュドラに思念を送る。
それを受け取って、僕の存在に気付いたヒュドラは慌てて頭を地面につけるほど身を低くして服従の意を伝える姿勢となる。
(そんなに畏まらなくていいよ)
必死に身をかがめるヒュドラに、僕は少し苦笑しながら思念を飛ばす。
(いえ。貴方様に救われましたこの命、どのようにお使いいただいても構いません。私は貴方様に絶対忠誠を誓います)
僕の思念に、ヒュドラが思念で返答する。
(いやいや、そこまでしなくてもいいよ。僕はただ「助けて」って思念を受けて、それに応えただけだから)
正直に伝えるが、ヒュドラの態度は変わらない。
こまったな、と思っていると友が助言をくれる。
――見返りを求めないと相手も納得しないというならば、適当にでも要望を出して納得してもらうしかないね。もしリュウジに良い案がないならば、私から要望を出してもいいかい?
え、うん。構わないよ。僕に要望なんてないしね。
――ならば、人間と魔族の歴史と現状についての情報を聞き出してもらえないかな? 私では『世界の理』に接続して『この世界の仕組み』は知る事は出来るのだけれども、『世界情勢』については知る事は出来ないんだ。
その言葉の内容が理解できずにいると、友が補足してくれる。
――RPGゲームに例えるなら、説明書に書かれている内容や攻略サイトの情報ならば教えてあげられるんだけど、いきなり渡されたセーブデータがどんな状態かが分からない。そんな状態なんだ。
具体的な例を挙げてくれて、なんとなく分かった気がする。
分かったよアレクス。助けた報酬として情報をくれないか、聞いてみるよ。
友にそう答えて、僕はヒュドラへ思念を飛ばす。
(ならば、助けたお礼として君の知っている『情報』を教えてくれるかな?)
そう伝えると、ヒュドラは意味がわからないといった反応を見せる。魔獣に「情報の価値」は分からないのかもしれない。
(僕はつい先日に魔族に召喚されてこの世界に来たばかりなんだ。なのでこの世界のことを知らない。だから僕はこの世界のことを知りたいんだ。君を助けた報酬としてこの世界の事を教えてくれないかい?)
僕は素直に自分の現状と、欲する内容を口にする。
(そうなんですね。分かりました、が、どのような情報をお伝えすればいいか……)
戸惑うヒュドラに僕は助け船を出す。
(人間と魔族、それぞれの情勢について知っていることだけでいいので、教えてもらえるかな)
そう伝えると、助けたヒュドラはポツポツと知っている世界情勢の内容を語り始めた。
◆
この世界には大きく分けて二種類の生物が存在する。
人間や亜人、獣と称される物質的な身体に魂を宿した魂生種族と、魔族や魔獣と称される体内の魔核を基礎として様々な身体を構成した核動種族だ。
亜人について聞いてみると、僕が知っているアニメにも出てくる長耳族や岩屈族などの種族が存在するらしい。
それを聞いて、やはりここは自分が想像していた通りのファンタジーの異世界なんだな、と思った。
そしてその二大種族の中で特に栄華を極めている『人間』と『魔族』は対立関係であり、長年に渡りその二種族は抗争状態となっているのだ。
その抗争は度々激化し戦争状態になる。だが今は比較的に落ち着いている時期の様だ。
現在、抗争が落ち着いているのは、数年前に起きた『人魔戦争』にて人間の代表である『勇者』と、魔族の代表である『魔王』が相打ちとなった事が原因なのだとのこと。
その人魔戦争では特に激化が進み、人間軍が集結し魔族の総本山である暗黒大陸へと攻め入り総力戦にまで発展した。
そしてその総力戦の結果、多くの犠牲を生んだのだ。
魔族は首都を半壊にまで追い込まれ魔王のみでなく7名いた『将軍』も半数である3名が死亡。
対する人間側も魔王が死に際に放った強力な呪いの効果で勇者のみならず戦いに参加した『英雄』達はほぼ壊滅。生き残ったのは呪いに耐性があった一握りの者達のみであった。
こうして「痛み分け」と言うにはあまりにも大き過ぎる犠牲に、両陣営とも疲弊し、なし崩し的に休戦状態となったのだ。
魔族の首都決戦が終わってから二年が経った現在、これまでは両陣営の衝突もなく、比較的に平和な日々が続いたのだった。
しかし、ここに来て不可解な事件起きているらしい。
≪魔獣狂化暴走≫
凶暴化したモンスターによる暴走で人間の国、その二つが壊滅したのだ。
それ以外でも複数の国に甚大な被害が出ているのだ。
それにより人間の魔獣に対する警戒が強まっているとのこと。
一部ではこの『魔獣狂化暴走』は魔族が仕組んだものではないかと噂されているが、その噂の真偽は定かではないとヒュドラは語る。
その推測は間違ってはいない、と僕は思う。
僕を召喚した魔族は、軍隊魔術で僕を凶暴化し人間の国へと転送するつもりだった。
あの儀式こそが『魔獣狂化暴走』の原因なんだろう。
人間側の情勢だが、ここ2年で新たな『勇者候補』が数名出てきているらしい。
ヒュドラを襲っていたパーティーの一人、黒髪の男も勇者候補の一人であったと伝えてくれた。
同じく魔族側も『魔王種』と呼ばれる魔王へと至る可能性がある者が出てきているらしい。
しかし、世界の言葉による『勇者』もしくは『魔王』の出現通知がいまだにない様で、陣営の救世主が誕生するまでには至っていないとの事だった。
互いに雌伏の時を送る中、『魔獣狂化暴走』による人間側の国の壊滅事件だ。
魔族側からすれば戦争を仕掛ける絶好の機会であり、人間側からすれば魔獣の脅威も高まっていおり戦力を集めて防衛体制を整える必要がある状態だ。
なにか切欠さえあれば、すぐにでも戦争状態となってもおかしくない。そんな、不安定な平穏期、それが現在の世界情勢を表す一番的確な表現のようだ。
こうして僕は友の質問を代弁しつつ、ヒュドラから世界情勢を聞き出したのであった。
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