第9話:決着、そして――
◆前回までのあらすじ◆
人間パーティーとの戦闘。相手の見事な連携攻撃に窮地に陥るリュウジであった。
万事休す。
金ピカ剣士の攻撃を受け止めていて、その他の対処が出来ない状態で、黒髪勇者の最大の一撃が繰り出される――
死を覚悟したその瞬間、僕のすぐ側を紫色の禍々しい突風が吹き抜ける。
「!! っ、ぐっ…… がはっ……」
勇者――黒髪の男――の全身に不吉な斑点模様が広がり、その表情が苦悶に歪むと、口から大量の血を吐き出した。
そして、必殺の一撃を繰り出していたその手は握力を失い、持っていた剣がすっぽ抜け地面に転がる。
「な、なにが…… う、ごふっ!」
僕を押さえつけていた金ピカ剣士は疑問を口にするが、その直後に吐血し膝を折る事となった。
――これは、【猛毒吐息】。ヒュドラか。
友の言葉に僕は振り返る。そこには瀕死で動けなかったヒュドラが力強さはないが首をもたげながら口を開いている姿があった。
どうやらギリギリの体力を振り絞って毒の息を吐き出して僕の危機を助けてくれたみたいだ。
――【不屈の徳】は格上相手に超絶な加護を与えるものなので、あの男からしたら格下にあたるヒュドラの攻撃は無効化出来なかったみたいだね。
友が状況を分析して報告する。
最強の美徳スキルも万能ではなかったみたいだ。
猛毒吐息の直撃を受けた黒髪の軽戦士はその効果を無効化出来ず全身猛毒に侵され倒れ伏し、余波を受けた金ピカ剣士も立つことができないぐらいのダメージを受ける。
ヒュドラの毒の効果は凄まじいものであった。
ていうか、僕も間近で毒の息を受けたのに大丈夫だったな……
――スキル【状態異常無効】の効果で毒が無効化されているよ。やはり『無効系』のスキルは効果絶大だね。生前に壮絶な闘病生活を経験したリュウジだからこそ発現した強力なスキルだ。
僕の疑問に友が答える。なるほど、スキルのお陰で影響がなくて済んだのか。
僕は助けてくれたヒュドラに「ありがとう」と思念を飛ばしつつ、敵対した相手へと視線を向ける。
この世界は弱肉強食の様だ。平和的解決はできないのだと、これまでのやり取りで思い知った。
なので、不本意ながらとどめを刺さなくてはいけないなと目を向けたのだが
ファァァァァァ…………
全身猛毒に侵されて地に伏せていた黒髪の軽戦士に優しい光が降り注ぎ、毒が消えていく。
これって
視線を移動させると少し離れた場所で純白の聖女が祈りを捧げていた。
やっぱりあの聖女は回復役か
――ヒュドラの猛毒を無効化、もしくは完全なる解毒ができるという事は、あの女も強力なスキルを持っているね。完全勝利するならばまずは治癒士を潰すが定石だ。
友の言葉に頷く。
異世界に転生して初めての殺人の対象が女性であるのは気が引けるけど、人間とは平和的解決が望めないならば仕方ない。
そう自分に言い聞かせて、僕は聖女に向けてスキルを発動させる。
スキル【亜空切断】
そう念じ、聖女に向けて腕を振る。
「うおぉぉぉぉぉぉ、やらせるかぁぁぁ、シーぃぃぃぃナぁぁぁぁぁっ!」
いち早く僕の攻撃を察知した金ピカ剣士が毒に侵された身体に鞭を打って必死に駆ける。そして、スキルが発動する直前に聖女を突き飛ばすようにして救う。が――
ザン――
ズシュゥゥゥゥゥッ!!
代わりに亜空切断を食らい、金ピカ剣士の左腕が宙を舞う。
「うぐあぁぁぁぁぁぁぁっ」
「ベガぁぁぁっ!」
金髪男の苦悶の声と、聖女の悲鳴がこだまする。
僕はその悲痛なやり取りに一瞬だが気を緩めてしまった。
ごめん、本当は君たちを傷付けたくなかったんだけど仕方ないんだ、と思ったその瞬間
――油断したらダメだ、リュウジ!!
友の声と共に右目に激痛が走る。相手のやり取りに気が緩んだ一瞬の隙を狙って黒髪の軽戦士が『光の剣』を操り攻撃を仕掛けてきたのだ。
咄嗟に目を閉じたが、もしかしたら片目を潰されたかもしれない。
「ははは。一矢報いてやったぜ」
聖女の祈りでわずかながらに毒が回復した黒髪の男が悪意に満ちた笑みを浮かべる。
な、なんで。そこまでして戦いを続けたいんだ!
右目の痛みよりも、相手の愚行に対する怒りが勝る。
あぁ、もうこいつらに哀れみや情けなど無用なのだ。
今の一撃で全て吹っ切れた。
思い切り息を吸い込み、体内の魔力を充填させる。心の中で友も「こんな奴らに手加減する必要はない。最大の一撃を食らわせてやれ」と背中を押す。
(もう、お前らには情けなどかけない。消し飛んでしまえ――)
そして荒ぶる気持ちと全力の魔力を乗せた【竜の息吹】を解き放つ。
ズ ド ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ン!!!!!
友が「使用すれば人間の国すら吹き飛ばす」と言わしめた超威力のエネルギー波が目の前の木々ごと人間の仲間集団を吹き飛ばす。
吹き飛ぶ寸前に黒髪の男が何かをしていたようだが、もう気にすることはなかった。
ブレスを撃ち終わると、目の前には粉々に砕け散った木々と破壊の本流で抉り取られた地面がどこまでも広がったのであった。
はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……
僕は大量の魔力を放出して乱れた息を整えつつ、荒野となった目の前の風景を見つめる。
さすがにこれだけの破壊の本流を食らったのだ、あの人間たちが生き残っているとは思えない。念には念を入れて周囲の気配を探るが、周囲に人間の気配は残っていなかった。
唯一感じ取られた気配であるヒュドラへと視線を向けるが、ヒュドラも竜の息吹の余波で飛ばされたのか後方の木々に寄りかかるような状態で意識をなくしていた。
さて、どうしたものか……
そう思案した後、この子を放置する訳にもいかないという結論に至る。
僕は全身傷だらけのヒュドラをそっと抱え上げる。
――やはりその子を助けるんだね。まずは拠点にしていた洞窟に戻って傷を癒すことをお勧めするよ。ヒュドラは【超再生】を持っているから、魔素がある場所で安静にしていたら自動的に回復すると思うよ。けど、それより心配なのはリュウジの右目だ。眼球まで傷ついていなければいいんだけど……
心配してくれてありがとう。
派手に暴れちゃったし、ここはすぐに離れた方がいいな。
ねぇ、アレクス。僕は疲れちゃってうまく頭が回っていないから、拠点にしていた洞穴までの案内をお願いしていいかな?
――もちろんだよ。
そして僕は友の案内の声に従って再度山脈部の洞穴へと戻るのであった。
【ちょい出し設定集】
◾️スキルの種類◾️
・コモンスキル
通常のスキルの総称。
・エクストラスキル
コモンスキルよりも高位のスキル。
種族や血統が条件となる。
・ユニークスキル
世界唯一のスキル。その効果は絶大である。
条件を満たしていても、既に取得者がいる場合は顕現しない。




