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早すぎたサンタクロース

作者: ウォーカー

 今年ももうすぐクリスマスがやってくる。

冬の町はクリスマスイルミネーションに彩られ、

子供たちはサンタクロースからのプレゼントを待ち望む。

だが、世の人々のほとんどは知らない。

サンタクロースは実在する、ということを。



 サンタクロースは実在する。これはまぎれもない事実である。

サンタクロースと言えば人々は、白髭に赤い衣装の老爺を想像するだろう。

それはサンタクロース本人であり、実はサンタクロースには家族がいる。

サンタクロースを家長として、サンタクロース夫人、

サンタクロース長男長女をはじめとする子供たちがいる。

サンタクロース一家は魔法使いの一族であり、

クリスマスを通じて人々に魔法で活力を与え、

その代償として人間の増えた活力を魔力として収穫、吸収する。

クリスマスは一般的な子供にとっては楽しいイベントだが、

その他の人々には必ずしも楽しいだけとは限らない。

子供を持つ親はクリスマスプレゼントを準備するのも大変だし、

そもそもクリスマスプレゼントを貰えない、恵まれない子供たちもいる。

サンタクロース一家は、家長のサンタクロースを中心に魔法を使い、

クリスマスで苦労している人々にいくらかの助力を与え、

時には恵まれない子供には直接クリスマスプレゼントを届ける。

そして、クリスマスを楽しんだ人々からは、細やかな魔力を吸収する。

そうやってサンタクロース一家は、一年間を過ごす糧となる魔力を得ていた。


 サンタクロース一家にとって今年も書き入れ時のクリスマスが近づいている。

しかし今年は少し事情が異なっていた。

家長のサンタクロースが、歳のせいか、

腰をいわせてしまい、動けなくなってしまった。

さらには、幼いサンタクロース一家の子供たちは悪い流行病に罹ってしまった。

動けるのはサンタクロース夫人の他、長男長女の数人のみ。

これでは世界中のクリスマスを行うほどの魔法を使うことはできない。

困ったことになったと、サンタクロース一家は対策を立てることになった。


 今年はサンタクロースの体調不良で、クリスマスが行えそうもない。

そこでサンタクロース一家の人々は考えた。

今年はクリスマスを前もって早めに始めることができないものか。

今はまだクリスマスまで一週間以上もあるが、

そのような理由で、サンタクロース一家の中で無事な人々は、

今年はクリスマスを早めに行うために動き始めることにした。

すると、困ったことになった。

クリスマスの準備をする人々に魔法で活力を与えるのは良いとして、

恵まれない子供たちに先にプレゼントを配ったのが良くなかった。

夜が明けて突然、枕元に現れたプレゼントを見て、人々は騒然。

夜中の大量不法侵入か、はたまた怪奇現象かなどと騒がれる始末。

サンタクロース一家の事情や、ましてや魔法のことを公表するわけにもいかず、

早めのクリスマスプレゼントは人々には理解されなかった。


 次にサンタクロース一家の人々は、人々に協力してもらおうと、

街頭活動を行うことにした。もちろん、魔法などのことは伏せておく。

「今年はクリスマスを早めに行って、年末に余裕を持って過ごそう!」

「何事も早め早めが良い!」

そんなことを叫びながらプラカードを持って町を練り歩く。

しかし、ただでさえ忙しい師走の町の人々には、相手にもされなかった。

そこで次に、サンタクロース一家の人々は、ちょっと過激な言動に出た。

「今年のクリスマスは中止にしよう!」

「クリスマスを中止して、皆で理解し合おう!」

などという主張は、モテない男の僻みとして笑いものにされるだけだった。


 仕方がなく、サンタクロース一家の人々は、

クリスマスの準備を早めに行っている人々を助けることに集中した。

人々に魔力を注入すると、栄養剤のような効果がある。

活力的になった人たちは、クリスマスの準備に熱が入り、

返ってクリスマスパーティの規模を大きくしてしまうことになった。

ある家では、活力的になった親が、

クリスマスプレゼントを前もって用意して隠しておいたところ、

それを子供がクリスマスより前に見つけてしまい、

クリスマスも前に大騒ぎになり、余計に魔力を消耗させられる始末だった。

こうして、サンタクロース一家の、クリスマスを前倒しにするという計画は、

儚くも失敗に終わってしまったのだった。


 そうして今年もクリスマスイブ。

クリスマスの一連のイベントが始まりを迎えた。

町ではクリスマスムード一色。

家族連れやカップルはクリスマスを楽しみ、それを支える人々は大忙し。

そんな中、サンタクロース一家の人々はどうしているかと言うと、

ほとんど動けず何もできずにいた。

ただでさえ家長のサンタクロース本人が体調不良なのに、

さらにクリスマスを早めようと動き回ったせいで、

無事だったはずのサンタクロース一家の夫人や長男長女も疲れ切っていた。

これではクリスマスを用意する人々に魔法で活力を与える余裕はない。

残された魔力で、恵まれない子供たちに、

プレゼントを与えるのがせいぜいだった。

これでは、クリスマスを楽しんだ人々から、

活力を魔力として吸収することは期待できない。

サンタクロース一家は今年、クリスマスに寄与していないのだから、

クリスマスで増えてもいない人間の魔力を奪うことはできない。

ある一定の活力は人間に残して置かねばならない。

そのためにサンタクロース一家は、

魔法でクリスマスを盛り上げていたのだから。

耕してもいない畑から作物を収穫するような真似はできない。

来年のサンタクロース一家は厳しい生活を強いられそうだ。

だが事態はサンタクロース一家の思うようにはならなかった。


 サンタクロースがいないクリスマスは、きっと楽しくないだろう。

サンタクロース一家の人々はそう考えた。

しかし、実際は、そんなことはなかった。

サンタクロースがいようといまいと、人々はクリスマスを楽しんだ。

もちろん、サンタクロース一家は何もしなかったわけではない。

恵まれない子供たちには細やかながらプレゼントを贈ったし、

少しの魔法で人々に僅かな活力をもたらした。

でも、そんなことを超えて、人々はクリスマスを楽しんでいた。

その様子をしみじみと眺めていたのは、サンタクロースとその家族たち。

「見てみろ。人々は、サンタクロースがいなくとも、

 しっかりとクリスマスを楽しんでいる。」

「はい。この様子だと、人々から多少の活力を吸収しても影響ないでしょう。」

「わたしたちが、恵まれない子供たちに、

 魔法でプレゼントを与えた影響は確かにあるでしょうが、

 そもそもわたしたちサンタクロース一家が何もしなくとも、

 人間がもたらす活力の魔力は、

 わたしたちが一年間過ごすのに十分だったようです。」

「・・・そうか。

 もしかして、もう人間には、

 わしらサンタクロースはもう必要ないのかもしれないな。」

最初、人々は、厳しい冬を乗り切るのに、サンタクロースの存在に頼った。

それから人々は進歩し、もうサンタクロースの助力がなくとも、

厳しい冬を乗り切り、クリスマスを楽しむことができるようになった。

それを知ったサンタクロース一家の人々は、

自分たちの役割が終わりつつあると実感していた。

楽しげな喧騒の中、クリスマスイブの夜は更けていった。


 クリスマスイブの夜が明けて、翌日のクリスマス。

相変わらず人々はクリスマスを楽しみ、あるいは忙しそうにしていた。

誰もがクリスマスの影響を受けずにはいられない。

それでいて、サンタクロースの存在を意識するのは、幼い子供たちだけ。

賑やかなクリスマスの喧騒の中で、寂しそうにしている人々がいた。

それは、サンタクロース一家の人々。

今までサンタクロース一家の人々は、魔法を使い、

クリスマスの準備をする人間に活力を与え、

代わりにクリスマスを楽しんだ人々の活力から魔法を得ていた。

しかし今、人々がサンタクロース一家の支援なしに、

クリスマスを楽しんでいるところを目の当たりにした。

自分たちはもう必要ないのかもしれない。そう思った。

人間に必要とされなければ、自分たちは消え去った方が良いのかも知れない。

賑やかなクリスマスの町でうなだれるサンタクロース一家の人々。

そこにふと、通りすがりの声がした。

「おじいちゃん、どうかしたの?」

振り返るとそこには、幼い子供の姿があった。

親の目を盗んで一人歩きし、サンタクロースに気が付いて近寄ってきたようだ。

その子供は美味しそうにキャンディーを舐めている。

少し離れた場所では、大きな荷物を抱えた両親らしき大人が会釈している。

きっとあの大きな荷物の中身は、この子のクリスマスプレゼントなのだろう。

この子もまた、サンタクロースの存在などなくとも、

クリスマスを楽しんでいるのだろう。

だからサンタクロースは、不意に子供に尋ねた。

「子供や。お前は、サンタクロースが必要かい?」

この年頃の子供なら、

本当にクリスマスプレゼントを用意してくれたのは誰なのか、

気が付いていることかも知れない。

だからサンタクロースは知りたかった。

自分は必要なのか。

する子供は、笑顔でこう答えた。

「サンタクロースはいるよ。

 だって、サンタクロースがいなければ、クリスマスはできないもの。

 サンタさんはね、クリスマスのしょうちょうなの!」

きっと覚えたての言葉なのであろう。

象徴などという、ちょっと難しい言葉を使って子供は答えた。

でもその言葉の意味は、サンタクロースに届いていた。

自然と顔が綻んでくる。

「そうか、象徴か。

 それなら存在するのも悪くはないな。」

「恵まれない子供たちだっているものね。」

そう言って肩を叩いたのは、サンタクロース一家の長男だった。

「じゃあね、おじいちゃん。ありがとう。」

事情を知ってか知らずか、子供の言葉は、

サンタクロース一家の人々の心を突いた。



 今年もまたクリスマスがやってくる。

ある時期から、クリスマスの準備をする人々に、

急に活力が湧いてくることはなくなった。

サンタクロース一家が魔法を使わなくなったから。

でも人々はそんな事情など知らず、クリスマスを楽しむ。

自らの力でクリスマスを楽しむ人々の活力は、

魔法の助けが無くなってむしろ多くなったほどで。

それでもなお、サンタクロース一家は存在し続けている。

人々全てに介入する必要はない。

ただ、どうしても救われない、

恵まれない子供たちにクリスマスプレゼントを届けるために。

それがクリスマスの象徴としてのサンタクロースの役割だと信じて。



終わり。


 クリスマスは単独でお祭りとして成立しています。

では、サンタクロースの存在はクリスマスに必要なのか?

サンタクロースが実在する世界で、それを考えてみました。


結論としては、サンタクロースは物事全てに介入する必要はない。

人々はサンタクロース無しにクリスマスを楽しむことができる。

でも、それからあぶれた人々のために、最小限の魔法があれば良い。

という話になりました。


お読み頂きありがとうございました。


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