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ノスタルジックファンタジア  作者: 黒崎 香蓮
第一章 魔女と家 ~Mega at Bimus~
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第3話 所在 ~Licus~

 ねねの目の前にある木皿が空になってしばらくしたあたりで、対面に座っていた女性がゆっくりと話しかけてきました。


「落ち着きましたか?」

「はい……」

「お話、できそうですか?」

「……はい」


 先ほどまで泣いていたせいでより真っ赤になったねねの目を、女性が優しく拭いてくれます。森の中での孤独感も相まってまた泣いてしまいそうでしたが、今度はぐっとこらえました。


「私はシルイといいます。この森の……。まぁ、管理というか、お世話をしています」


 シルイと名乗った女性はタオルを畳み、改めて椅子に腰を落ち着かせます。ねねのように長く綺麗な白髪。ねねのように赤ではありませんが、やや青みがかった銀色の目をしています。外見的特徴もそうですが、名前も日本人らしくありません。


 そもそも家の内装自体あまり見ないものばかりです。見慣れない植物や宝石、本が綺麗に飾られ、暖炉が一基据え付けられています。

 これだけ聞くと西洋風インテリアの範疇ですが、ねねが一番違和感を覚えたのは家電製品が一つも置いていないことについてです。照明機器さえ一つもなく、光源はすべて不思議な形のランプに頼っています。


 ぼんやりとねねが周りを見ていると、シルイは少し困ったように笑いながら「あなたは?」と聞いてきました。


「あ、ね……ねねといいます」

「ねねさんですね。……そうですか……」


 慌ててねねがぺこりと頭を下げると、シルイがどこか残念そうな、悲しそうな顔でねねの顔を覗き込みます。


 数十秒の間無言の時間が続きました。ねねも聞きたいことがたくさんあるのですが、あまりに急な出来事だったせいでうまく言葉が出てきません。必死に言葉を探すねねでしたが、先に静寂を破ったのはまたシルイのほうでした。


「ねねさんは……。森の外から来た人、ですよね」

「森の外……」


 尋ねられ、ねねはぼんやりと自然公園のことを思い出します。自然公園の外から来たかと言われればそうなのですが、自然公園自体を森と表現するのもしっくりきません。


 シルイの尋ねる「森の外」というのがねねの考える「森の外」なのか分からず答えを迷っていると、気を利かせてシルイは別の聞き方をしてきます。


「ねねさんはどこからこの森に?」

「へ、えと、学校……。ええと……」


 ねねが続けて学校付近の地名と大まかな自然公園の話をすると、シルイのほほ笑みに少し悲しげな色が加わりました。シルイの僅かな表情の変化を感じ取り、ねねも少しおびえた表情になります。


「い、いけないことでしたか……?」


 ねねが恐る恐る尋ねると、シルイは少しはっとして取り繕うような表情をしました。


「そんなことはないですよ。いけないことなんてありません」


 シルイはわたわたと両手を振ってにこやかに否定しますが、やがてその表情も少し曇り「ただ……」と言葉を続けます。


「ごめんなさい。私ではねねさんを元の世界に帰してあげることはできません」

「元の……世界……?」

「……。ここはノスタルジオ南西、ソルヴェアといいます。ねねさんが住んでいた世界とは違う世界です」


 きょとんとした表情をするねねを見て、シルイがゆっくりと説明を始めました。


 状況が呑み込めていないねねに理解してもらえるよう言葉を選び、意味をすり合わせながらの説明だったので少し長い話になりましたが、ねねが受けた説明はおおよそこんなものでした。


 一つ、ねねが住んでいた場所と今いる場所は違う世界であること。

 二つ、ねねがいるのはノスタルジオという国のソルヴェアという地名ということ。

 三つ、ねねがここから日本に帰ることはとても難しいということ。


「ここ最近こちらに迷い込んでくる人が多いんです。こちらから向こうへ行ったという話は聞きませんが……」


 最後にシルイがそう呟いて、再び二人の間に静寂が訪れました。恐らくシルイの言った迷い込んでくる人というのが、鈴木の言っていた行方不明者なのでしょう。


 鈴木のことを思い出し、次いで両親のことがねねの頭によぎります。そして帰れないという言葉を思い出してようやく、ねねはもうこの三人に会えないんだと理解しました。


 ようやく本当の意味で自分の置かれている状況に気づいたせいか、こらえていた涙がまたあふれ出しました。


 シルイはまた慌てた様子で駆け寄り頭を撫でてきますが、今度は心配より同情のほうが近い様子です。先ほどと違い、自分がつらい現実を教えたという自覚があるからでしょう。

 何か声をかけるでもなく、泣きじゃくるねねを優しく抱きしめるようにしながらシルイはしばらく撫で続けていました。



 再びねねが泣き止むのには、家に来た時よりも長い時間を要しました。その間シルイはただねねを優しくなでていただけですが、自分に寄り添ってくれているということはしっかりねねには伝わっていました。


 ねねも、もし普通であれば今日出会ったばかりの相手に抱きつき泣いたりしませんが、この異常な状況や理解のできない現状がそうさせたのかもしれません。


 制服の肩口で涙を拭いシルイにか細く礼を言うと、シルイはただ「いいんですよ」と答え少し離れました。ただ、先ほどまで座っていた椅子に戻らず、膝立ちでねねに視線を合わせながらゆっくりと尋ねます。


「これからどうしたいか、わかりますか?」


 ねねはふるふると首を横に振りました。流石にこんな時に、この先どうしたいかがすぐ決められるほど、強くはありません。


「私はねねさんがしたいことを、なるべくサポートしてあげたいと思ってます。ねねさんが望むのならここでずっと過ごしてもいいですし……。もし、もうちょっと栄えた街で過ごしたいというのなら友人をあたってみてもいいです」

「は、い……」


 泣きはらして疲れたからか頭も働かず、ねねはぼんやりと返事をするばかりです。シルイは少し困ったように微笑み、頭を撫でます。


「今日は疲れたでしょうし、お風呂に入って寝てしまいましょう。明日、ゆっくり考えればいいですから」


 ねねが頷くのを確認して、シルイが立ち上がります。


「あいてるお部屋がありますから、そこを使ってください」


 シルイはねねの手をつかみ、ゆっくりと歩きます。ねねはぽてぽてとその後に続きます。

 廊下から階段を上り二階へ。三つあるうちのドアの一つ、廊下の一番奥の扉へねねを案内します。


「少し薄暗いですけど、この部屋が空いているので好きに使ってください」


 シルイがドアを開け、ねねはゆっくり部屋に入ります。小さな窓が一つついているだけで確かに部屋は薄暗いと感じました。しかし、ベッド、机、本棚、ランプ、クローゼット。きちんと生活に必要な家具はそろっていますし、どれも良いもののように思えます。


 シルイは空いてる部屋といいましたが、埃がたまっているようなこともありません。そこそこの広さのある部屋はきちんと隅々まで掃除が行き届いています。


「ぇ、あ……。こんな立派なところは、とても……」

「いいんですよ。使われないお部屋はかわいそうですから」


 ねねが遠慮するように一歩身を引くと、シルイはほほ笑みながらそう返しました。ねねのことを安心させようとしているのかもしれません。


「ぁ、りがとうございます……」

「いいえ。自分の部屋だと思って好きに使ってくださいね」


 静かに頭を下げるねねにシルイが優しく微笑みます。空気を入れ替えるために窓を開け、ランプに明かりをともすと、シルイはゆっくりと部屋の入口へと歩いていきました。


「私はお風呂の準備をしてきますから、ゆっくり身を休めててください。一階にいますからね」


 少し心配そうにねねを見た後、そういってシルイは部屋を出ていきました。


「……帰れ、ない……」


 立っているのもつらくなって、ねねはベッドへ倒れこみます。疲れからか眠気はやってくるのですが、一向に寝ようという気になれません。背中をかばうように横向きに寝転がり、部屋の様子を改めてみてみます。


 天井のランプはオレンジ色の暖かな光を放っています。日のように揺らめく様子はありませんが、電球のような明かりでもないような気がします。


 窓のすぐ外は森のようで、すぐ近くに葉っぱが見えます。方角は分かりませんが、確かに日光は入りにくそうです。


 頑丈そうな机には羽ペンが置かれ、すぐ横には立派な本棚が一つ立っていました。本棚の中身はぎっしりと本が詰まっています。


「本棚……。何か、ないかな……」


 ねねはゆっくりと身を起こし、本棚へ近づきます。小さなねねにとって目の前の本棚はかなり大きく見えます。一番上の段の本は手が届きそうにありません。


 自分の目線の段に詰まっている本の背表紙をゆっくり目で追っていきます。どれもアルファベットによく似た文字で題打たれ、どれも比較的ねねのよく知る英単語と酷似していました。


 ねねが学校の授業で馴染み親しんできたアルファベットとは形が少し違いますが、おしゃれな英字フォントだと思えば決して読めないわけではありません。


「植物の、辞典……。羽、と……魔法……?」


 ねねは一文字一文字知ってる単語を見つけ背表紙に書かれたタイトルを読んでいきますが、普通の内容そうなものから御伽噺みたいなタイトルのようなものまで様々です。もしかしたらジャンルごとで分けているわけではないかもしれません。


 ぴたりと、背表紙を確認していたねねの目が一冊の本で止まりました。


「り、リクオ……ローダー……?なんだろう……」


 他の本より数段大きく分厚い本に、「Liquo Lodar」と綴られています。後ろはともかく、前はねねの見たことのない単語でした。後ろにrがつけばリキュールになりますが、どうも掠れて読めないなどではなさそうです。


「……?」


 さらに不思議なことに、本棚から引き出してみれば本があけられないように紐でぐるぐる巻きにされていました。その上表紙には日本語で「うるさい!」と汚い字で書かれた紙が貼ってあります。紙も、よく見てみれば見慣れた付箋紙です。


 ねねは好奇心に負けてゆっくり紐をほどきました。もしかしたら現実逃避できる何かが欲しかったのかもしれませんし、日本語の書いてある付箋を見て気が緩んでしまったのかもしれません。


 理由はどうであれ、ねねはその本の紐をほどき、開いてしまいました。


 中に書いてあるものを一目見ようとゆっくり目線をおろし……。


「ぷはぁぁぁぁ!ようやく解放された!!」

「にぁぁぁぁぁぁっ!?」


 手に持っていた本がぴょんことねねの手から離れ、大きな「声」をあげたのです。


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