8話
芦屋 奏太:子役をきっかけに芸能界に入った人気若手俳優。お菓子とインスタント食品が大好きで、今一番ハマっている趣味はポーカー。
スライム:スピードと魔力操作に優れているが直接攻撃には弱い。
黄金ディストピア:別の次元に奏太だけの王国をつくることが出来る。ポイントを使用することにより、魔物や魔道具の創造、怪我の回復などが出来る特殊魔法。
パニックアロー:魔力で作った矢が命中すると相手の「視覚、聴覚、嗅覚」に異常を引き起こす特殊魔法。
断崖絶壁の森で可愛い綿菓子ことチョコラティエが手に持った物を掲げて奏太に見せた。
「ほら見てくださいよ、これが魔石ですよ。奏太さんがこの世界に来て初めて倒した魔物の魔石です!」
「赤くてキラキラしていてまるで宝石みたいだね!」
野球のボールとピンポン玉の中間くらいの大きさのルビーのようなそれは太陽の光に照らされている。
「魔石ってそんな感じなんだね」
「持ってみてください」
「おお、なんとなくミカンの重さに近いかも………これがレッドオークの魔石か」
魔石を持った触手のような手を揺らしながら奏太が感慨深げに眺める。
「これが僕のこれからの人生にとって大切になるわけだもんね?」
「はい。手に入れた魔石を使えば、奏太さんの特殊魔法「黄金ディストピア」を成長させることができます」
「どんなふうになるのかすごい楽しみだよ」
「チョコラティエも楽しみです」
可愛い綿菓子がモコモコしている。
「それじゃあ詳しい話は中でしようか」
「それがいいです。黄金ディストピアの中にいれば安心ですからね」
「いでよ「黄金ディストピア」」
奏太の声に呼応して巨大な両開きの門が出現した。ロダンの地獄の門のような雄大かつ重厚な芸術作品のような門。
音も無く開かれたその中へ奏太とチョコラティエは姿を消し、門自体も森から消え去った。
◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆
「海だー海だ海だ海だーーー!」
そこは一面海に囲まれた孤島。島の中央には一軒家と大きなヤシの木が立っている物語に出てきそうな空間だ。
「よかったー、異世界に来てこれでようやくゆっくりできるよ」
「大丈夫ですか奏太さん?なんかはしゃぎ過ぎじゃないですか?」
「全然そんなこと無いよ。あー安心したら何だか喉が渇いたな」
「お水でいいですか?」
「コーラ!」
「ふぇ!?」
奏太の言葉の勢いにチョコラティエが少し仰け反った。
「辛い仕事を終わらせた時、僕はキンキンに冷えたコーラを飲むって決めてるんだ。猛暑の中の撮影の時は特に美味しい。喉が爆発するくらいのキツイ炭酸が最高なんだ」
「なんだか良く分からないけど凄い熱量です………」
「チョコラティエはコーラを飲んだことが無いの?」
「ありません」
「それなら僕の気持ちが分からなくてもしょうがないな」
「そうですか………」
分からないような顔をして頷いた。
「あとお菓子も欲しい!プリッツと堅あげポテトとチップスターと、ほかにも色々、お菓子とコーラが無ければ僕は生きていけない!」
「お、落ち着いてください。一体どうしてしまったんですかレッドオークとの戦いではあんなに冷静だった奏太さんが………」
「ゴメン、取り乱してしまった。恥ずかしい話なんだけど僕は家には無限にお菓子を常備しているくらいのお菓子ジャンキーなんだ。お菓子とコーラのことを考えたら居ても立ってもいられないんだ………」
「わかりました、それじゃあすぐにディストピア商人を召喚しましょう」
「頼むよチョコラティエ」
「どうぞお食べ!」
そう言うと大きなヤシの木の口の中に赤い魔石を投げ入れた。
「ヤッシーーー!」
ヤシの木は目を真ん丸に開けて甲高い声で叫んだ。
「このヤシの木喋れるんだ!?」
「出でよディストピア商人!」
驚いて跳び上がるスライムの隣で、ボワン、と小さな爆発がして地面から白い煙が立ち昇って、黄色いアヒルが飛び出してきた。
「あ、どうもどうもワタクシの名前はガシャガシャと申します。しがないディストピア商人やらせてもらっています」
体長1mくらいの黄色いアヒルが流暢に話した。
「これがディストピア商人か………欲しいものがあったら君に頼めばいいんだよね?」
「その通りでございます。お持ちのポイントと商品を交換させていただきます。生魚から生魚まで豊富に取り揃えておりますのでどうぞご贔屓によろしくお願いします、はい」
「生魚!?」
「岩名、鮎、虹鱒、山女魚、鮭、鰻、なんでも取り揃えております、はい」
「川魚ばっかりだな………っていうか僕が欲しいのはコーラとお菓子なんだよ!プリッツとかチップスターとか堅あげポテトとかそういうやつ」
「生魚味のコーラですか?」
「ちょっと何言ってんのよ。そんな気持ち悪い味のやつなんか誰も求めてないよ。普通やつだよ普通のやつ、無いの?」
「あります」
「ふぇ?!」
「普通のコーラもありますし、プリッツ、チップスター、堅あげポテトのご用意もあります」
「あるの?」
「あります」
静寂が孤島に響き渡った。
「じゃあなんで君はさっきから生魚の話ばっかりしているの?」
「それは………」
「それは?」
「へへへ、すいやせん………」
黄色いアヒルはにやにやしながら頭を下げた。
「アヒルにもてあそばれた………」
スライムはうんざりした顔をした。
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