7話 ~スパチャ~
芦屋 奏太:子役をきっかけに芸能界に入った人気若手俳優。お菓子とインスタント食品が大好きで、今一番ハマっている趣味はポーカー。
スライム:スピードと魔力操作に優れているが直接攻撃には弱い。
黄金ディストピア:別の次元に奏太だけの王国をつくることが出来る。ポイントを使用することにより、魔物や魔道具の創造、怪我の回復などが出来る特殊魔法。
パニックアロー:魔力で作った矢が命中すると相手の「視覚、聴覚、嗅覚」に異常を引き起こす特殊魔法。
断崖絶壁から冷たい風が強く吹き付けてきて、彫刻で飾られた雄大な門と森に当たって音を立てる。
「やった………」
芦屋 奏太は数百メートルほど高低差のある崖を覗き込みながら言った。
「すごいです、すごいですよ奏太さん!転生して最初の戦いでいきなりレッドオークを倒してしまうなんて本当にすごいです!」
宙に浮かぶ可愛い綿菓子がピョンピョン跳ねたりくるりと回転したりしながら褒めてくれる。
「ありがとう」
「死んでるよね?」
「それは間違いないです」
チョコラティエと一緒に見つめる崖の下には動かない赤い点。あれが僕のことを執拗に追いかけていたレッドオークの生れの果て。
特殊魔法「黄金ディストピア」に入ることが出来るのは僕が認めた存在だけ。そうでない存在が門をくぐると強制的にワープさせる。
僕がやったことは簡単で、レッドオークを門の中に誘い込んで断崖絶壁の向こう側へワープさせた。
「1メートルは一命取る」という言葉があるそうだ。足元の高さが1mあれば落ち方によっては命を落とすという意味だ。
レッドオークがいくら強くても数百メートルの落下は耐えられなかったようだ。
勝利。
実感は無いけどこれは僕にとって異世界での初勝利だ。
「なんかちょっと卑怯だったかなとも思うけどね………」
「そんなこと無いですよ!」
チョコラティエから本気の熱量が伝わって来る。
「これは本当にすごいことですよ。チョコラティエには逃げるしか考えられませんでしたから。これは全然立派な勝利です、もっと誇って良いんですよ?」
「ありがとう」
心の中が温かい。
あまり勝ったという実感は無いけどそれでも褒めてもらえるのって嬉しいなと思う。ひとりだったらこんな気持ちにはなっていなかった。
「おめでとうございまーす!」
明るい女性の声が辺り一帯に爆音で響いた。
「え!?」
と思ったら突然目の前に派手な服装の人達が30人ほどあらわれた。ひとり以外は全員何らかの楽器を持っている。
「芦屋 奏太さん、レッドオークを見事倒してレベル15になりました。おめでとうございます!」
軽快な演奏と共に一糸乱れぬ行進が始まる。これはたぶんマーチングバンドというものじゃないだろうか。
「これはなんなの?」
派手な演奏が続いている中、声を張り上げてチョコラティエに聞いてみる。
「レベルアップ記念の特別演奏です!」
「そんなのあるんだ………」
演奏が止まって全員で礼をしてくれたので僕も礼をして顔をあげたらいつの間にかマーチングバンドの皆さんは消えていた。
「ねぇチョコラティエ」
「なんでしょうか」
「もしかしてレベルアップするたびに毎回あの演奏が始まるの?」
嬉しいけどこんなに爆音で演奏をしていたら魔物をおびき寄せちゃうんじゃないかと心配だ。
「そうじゃないです。あれは普通のレベルアップとは違う特別なレベルアップをした時に始まります」
可愛い綿菓子ははっきりと言った。
「特別なレベルアップ?」
「はい!神様からスパチャが届いてレベルが上がったよ、というお知らせです」
「スパチャ?」
まさか異世界の森でその言葉を聞くとは思ってもみなかった。
「レッドオークを倒した奏太さんは本当はレベル8になるはずだったところを、神様から頂いたスパチャのおかげでレベル15にまでアップしました」
「そんなことあるんだ!?」
「神様にありがとうを言ってください」
「神様ありがとうございました」
スパチャの事はまだ良く分からないけれど、レベルが上がったことは嬉しい。
僕は空に向かって頭を下げた。
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