5話 ~特別な魔法~
芦屋 奏太:子役をきっかけに芸能界に入った人気若手俳優。お菓子とインスタント食品が大好きで、今一番ハマっている趣味はポーカー。
スライム:スピードと魔力操作に優れているが直接攻撃には弱い。
深い深い異世界の森の中を赤いモンスターに追いかけられながら走っていたら、森が途切れ広大な断崖絶壁が広がっていた。
「うわわわわ!」
危うく落ちそうになった僕は慌てて後ろへ飛び退いた。
「崖だ………もしかしてこれを狙っていたのか?」
まだ距離はある。それなのに殺意はビシビシ感じる。余裕で逃げているつもりが実は追い詰められていた。
「あいつ凶悪な顔のくせに意外と頭が良いぞ」
「奏多さんこれは良くない状況です」
空にフワフワと浮かぶ可愛い綿菓子、チョコラティエは今までにない緊迫した声で言った。
「レッドオークと奏太さんではレベル差があり過ぎて直接戦うのはあまりに危険です。ここはアレを使いましょう」
「アレか………」
「いますぐにやらないと手遅れになるかもしません」
「わかった」
僕が選んでゲットしたいくつかの魔法。今から使うのはその中でも主力となる魔法だ。
「黄金ディストピア」
奏太の声は地表に光輝く六芒星を生み出し、そこから噴水のような勢いで一気に巨大な両開きの門が出現した。
「格好いい………」
追い詰められていることも忘れうっとりと見惚れているのは、ロダンの「地獄の門」のようなもの。
両開きの巨大な門を飾るのは、人間と魔物が入り混じった緻密な彫刻。
「開け」
門は主人の言葉に応じてゆっくりと開いてゆく。深い森の中にむせ返るほど濃密な魔力のにおいが立ち込めていた。
「これで安心です。この中に逃げ込めばあいつは入ってこれません」
チョコラティエがほっと息を吐いた。
黄金ディストピアは独立した空間にある王国。ここに入れるのは奏太が許可した存在だけ。相手がどんなに強かろうとも手出しすることは出来ない。
森の奥からどんどん殺気が迫って来るのを感じる。まともに戦えば勝ち目がないことは分かる。普通なら今すぐに逃げるべきだ。
普通なら。
だけど僕は途中で足を止めた。
「チョコラティエさぁ………」
「なんでしょうか?」
不思議そうに首をひねる。まだ距離があるとはいえどうしてこんな所で会話なんて?と思っているだろう。
「あいつを倒す方法が何があるんじゃないかな?」
僕は言った。
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