3話
芦屋 奏太:子役をきっかけに芸能界に入った人気若手俳優。お菓子とインスタント食品が大好きで、今一番ハマっている趣味はポーカー。
スライム:スピードと魔力操作に優れているが直接攻撃には弱い。
僕は跳んでいる。
深い深い森を必死に跳んでいる。
すぐ後ろにはゴフゴフ言いながら追いかけてくる魔物の気配。
「がんばってください奏太さん、敵は3mくらい後ろにいますよー!」
すぐ後ろにいると思っていたけど、ちょっとだけ距離に余裕があるぞ。
「捕まったら食べられちゃいますよ!もぎゅもぎゅもぎゅもぎゅって食べられちゃいますよ!」
チョコラティエが空を飛びながらかなり癖のある応援をしてくれている。
僕はスライムだから足は無い。だから逃げるといえば跳ぶことになるんだけど、初めてだから難しい。
木にぶつからないように注意しないといけない。少しでも足を止めたら終わりだ。
「頑張ってください奏太さん!敵は4mくらい後ろにいますよー!」
さっきよりも敵を引き離している。スピードは僕の方が上だ。そう思ったら気持ちが楽になった。
「うおー!」
跳ぶ、跳ぶ。
スライムの特性として素早さがある。
キャラメイクの時に素早さにポイントを割り振っておいて良かった。それがいま完璧に役に立っている。
「いい感じです、いい感じですよ奏太さん!相手は6mくらい後ろです。しかもゼーゼーいってます」
よしよしよしいい感じだ。僕はまだ全然疲れていないし、跳ねる感覚にも慣れてきた。
「うおーーー!」
跳ぶ、跳ぶ、跳ぶ。
「やりました!相手は走るのをやめました。だけど油断したらだめですよ。相手との距離は10mです」
やった!
僕は安全のために相手との距離が30mを超えてから、立ち止まって振り返った。
サイとカバを足して凶悪にしたようなそいつは歩いている。離れていてもわかるくらい悔しそうな顔だ。
「逃げ切った!」
「おめでとうございます奏太さん、転生していきなりのピンチを乗り越えましたね!」
「ありがとう、応援のおかげで助かったよ」
「奏多さんが頑張ったからですよ」
「いやいや、チョコラティエが敵との距離を教えてくれたおかげだよ。そのお陰で振り返らずに済んだから」
「そうですか?役に立ったのなら良かったです、ふふふふふ………」
チョコラティエは嬉しそうに空中でモコモコしている。なんてかわいい綿菓子だろう。
「まだ諦めてないようですね」
じっとりとしたふたつの目が、まだこっちを見ている。
「見た目通りの執念深さだよ」
「ちょうどいいじゃないですか、アレを試してみるのはどうですか?」
アレというのはあの魔法の事だろう。
「実戦でいきなりは無茶じゃない?」
「大丈夫ですよ。相手は疲れていますので失敗しても問題は無いはずです」
「魔法を使った途端に急に倒れたりとかはしないよね?」
「それは大丈夫です」
「わかった、それならやってみるよ」
魔法。
初めて魔法を使うんだと思ったら緊張で足が震える。僕はスライムだから足は無いけどそれくらいの気持ちだ。
やってみよう。魔法を使いたいから異世界に来たみたいなところもある。
さんざん追いかけまわしてきたあの凶悪な顔の魔物に一矢報いてやる。そう思ったらなんだか楽しくなってきた。
「パニックアロー!」
体がふわっとした感覚に包まれた。
綺麗な着物を着た美しい女性が姿を現した。そして構えた大きな和弓から光輝く矢を放った。
音も無く一直線につき進む魔力の矢。
美しい………。
僕は感動していた。
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