19話 ~ネズミに転生した男2~
主人公視点ではありません。
俺の名前は坂井龍平、人間だった。
それじゃあ今は人間じゃないのかって言われれば、全く違う。今の俺はブルーヴィシュラットっていう哀れなネズミの魔物だ。
最初は全く訳の分からなかったが、少しずつ分かってきた。まず俺が異世界に転生したというのは確実。
そして金色をした、やけに神々しいスライムの下僕であるという事も確実だ。それだけではなくあのスライムが俺と同じ転生者であることも確実だと思う。
あいつは俺たちを使って魔物を探させている。
一時期歴史ものの小説を読んでいたから知っているが、これは戦でいうところの斥候だろう。この広い森の中をあいつは待機していて、俺たちから報告を受けてから動く、人間の発想としか思えない。
あいつはスライムで俺はネズミ、あいつが主人で俺は下僕。どうしてこんなことになっているんだ、腹が立つ。
確かに俺は空き巣だった。だからある程度の罰を受けるのは仕方ないと思うが、俺は誰も傷つけなかった。ただの軽犯罪でこの罰はどう考えても重過ぎるだろう。
けどあいつだってスライムだ。人間じゃなくスライムになっているということは、あいつだって何かの罪を犯した犯罪者に違いない。けど空き巣よりも軽い罪ってなんだ?傘をパクったとかか?
どうなってんだよ神様、そんなんでいちいち罰を与えてたら全人類がそうなっちまうよ。
状況としては最悪、普通の人間なら死んじまいたいって思うかもしれないが俺は諦めていない。
希望はある。
少しずつだが毎日強くなっていると感じる。昨日よりも少し早く、長い距離を走れるようになっている。俺だけじゃなく他の奴らもそうだから、これは勘違いじゃない。
あとこれを言うのは少し恥ずかしいんだが、毎日一緒に顔を合わせているうちに他のネズミたちと友情みたいなのが芽生えてきた。
俺たちはスピードはあるけど力はない。お互いに声を掛け合って他の魔物とかち合わないようにしないといけない。そうしているうちに段々と仲良くなっていったんだ。
俺が最近気になっているのはミーちゃんという雌だ。最初はネズミなんかに興味の無かった俺だったが、だんだんだんだん可愛く見えてきて、今では他の奴と話している所を見たら嫉妬しちまうくらいだ。
きっとミーちゃんは俺に気があるはずだ。けど確実に付き合うためには、俺はこの群れで最強にならないといけない。だからこっそりトレーニングをして鍛えたりもしている。こういう発想は元人間じゃないと無いだろ。
あと、あのスライム野郎が初日にくれたドックフード、これがとんでもなく美味かった。頑張ればまたあれが食えるんじゃないかとみんな期待している。
ってことで俺は今日も魔物を探して森を走っている。あのスライムには腹が立つけど、俺たちを他の魔物と戦わせようとしない事だけは褒めてやる。
俺は諦めないぞ。
ネズミであっても楽して楽しく生きてやるんだ。
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