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16話


芦屋あしや 奏太かなた:子役をきっかけに芸能界に入った人気若手俳優。お菓子とインスタント食品が大好きで、今一番ハマっている趣味はポーカー。


スライム:スピードと魔力操作に優れているが直接攻撃には弱い。


黄金ディストピア:別の次元に奏太だけの王国をつくることが出来る。ポイントを使用することにより、魔物や魔道具の創造、怪我の回復などが出来る特殊魔法。


パニックアロー:魔力で作った矢が命中すると相手の「視覚、聴覚、嗅覚」に異常を引き起こす特殊魔法。


 

「わっ!」


 深い森の中で目の前に現れた赤いミミズの鞭のような蹴りを後ろに飛ぶことで躱した。


「どりゃ!」


 そこから一気に距離を詰めて体当たりをお見舞いした。考えるよりも先に体が動いた。


「ぼぼぼ………」


 よろけて後ろに数歩下がった赤いミミズことレッドヘイトワームは意外そうな表情。反撃を食らうとは思ってもみなかったらしい。腹を摩りながらじっと見てくる。


 まるで人間。


 両手両足があって頭がある体形は人間に近い。人間のような体を持っていて人間のような顔をする。それが不気味だった。


「ぼぼんぼぼ?」


 顔を歪めてこっちを見ている。「スライムの癖に何調子に乗ってんの?」そう言われている気がした。こいつは僕の事を舐めている。


 パニックアローで目にもの見せてやる。そう思った瞬間にレッドヘイトワームは両手を鞭のように振るう連続攻撃に来た。


「しゅばばばばば!」


 速い。


 後ろに飛び跳ねて躱す、後ろに飛び跳ねて躱す。長い手足が撓るその攻撃は攻撃は厄介。けれど素早さに優れたこのスライムの体は集中力を切らさなければ対応できる。


 躱す、躱す、躱す。


「ぼお………」


 レッドヘイトワームは急に動きを止めた。


「ぼぉ………ぼぉ………ぼぉ………」


 頭を下げ肩で大きく息をしている。どうやら疲れたらしい。これは距離を取るチャンスだ。


「ぽーっぽ!」


 顔をあげたレッドヘイトワームが口をタコみたいに窄めている。「なーんちゃって」と言っているような気がした。


「ぽぽんぽぽ!」


 馬鹿みたいな顔をしながら腹太鼓を叩いている。疲れていると思ったのはどうやら演技だったようだ。


「なんだお前!」


 カッとなってぶん殴ってやろうかと思ったが、冷静さがまだ残っていた。むやみに突っ込んでいくのは駄目だ。


 雷波。


 相手の体の中で魔力を爆発させる技。ポイントが足りなくて取得できなかったこの魔法。試した事すらないこの技をぶっつけ本番で習得して食らわせるしかない。


「しゅば!」


 うねうねと揺れていたミミズが突然蹴りを放ってきた。また同じパターン。こいつは油断させて攻撃をしてくる。分かっていたから驚きもしなかった。


 雷波をイメージしつつバックステップを繰り返していたとき、突然、体が沈み込んだ。


「うわっ!?」


 鞭のような蹴りが命中して体ごと後方に弾き飛ばされた。痛い、そして熱い。体の肉が持って行かれたような感覚。


 土魔法だ。


 距離を詰めてくる相手を見ながら気が付いた。土の性質を沼のような柔らかいものに替えたに違いない。


 やられた。


 鞭の連続攻撃に目を慣れさせておいて、土魔法で足止めをする。賢い。自分の特性を最大限に生かす戦い方を心得ている。


 殴られる、殴られる、殴られる。


 一度止まってしまった動きは鞭の連打で釘付け。


 痛い。


 熱い。


 チョコラティエが何かを言っている声が聞こえる。


 熱湯をぶっかけられたように痛みと熱さを同時に浴びながら視界がグチャグチャになっていく。


 絶望的な状況の中でこの状況を僕はどこか他人事のように捉えていた。


 大丈夫だチョコラティエ、きつい攻撃だけどこじゃあ死なない。鞭は早いし痛いけど殺傷力は無い、心が折れなければ耐えられる。


 空虚な精神の中に殺意が満ちて行く。


 殺そう。


 調子に乗ったこのミミズをぶっ殺そう。打たれるたびに熱い感情が膨れ上がっていく。


 すると、体の中に今までになかった力が湧いてきた。熱した鉄球のような力の塊が体の中心にドシンと着地した。


 これは純度の高い魔力の塊だ。どうやら僕は怒ると力が湧いて来る性質らしい。


 ふと閃いた。


 こんな発想は今までになかった。だけど僕の特性を考えてみれば十分にあり得ることだ。


 ミミズをぶっ叩く。


「ボフォバ!?」


 その汚い声に僕は満足感と達成感を覚えた。まさか自分が攻撃を食らうなんて思ってもいなかったらしい。


 僕はスライム。


 体の形を変えれば僕にだって鞭のような手足を作り出すことは出来るんだ。腹の立つことだけどこいつのおかげで新しい攻撃方法を取得した。


 ただ長い手で殴るだけじゃなく、そこには湧き上がる力をしっかりと乗せてやった。魔力は筋力を遥かに凌駕する力を持っている。その結果、自分でも信じられないほど力強く相手をぶっ叩くことが出来た。


 勝てる。


「おらぁ!」


 伸ばした手で汚いミミズをもう一度ぶっ叩いてやった。


「ボボボボ!」


 僕の手にはミミズの頬の肉を血と共に削ぎ取った感覚があった。魔力で強化した鞭は鞭を超える。散々僕を馬鹿にしてきたミミズの驚いた表情が痛快だった。





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