13話 ~願いと対価~
芦屋 奏太:子役をきっかけに芸能界に入った人気若手俳優。お菓子とインスタント食品が大好きで、今一番ハマっている趣味はポーカー。
スライム:スピードと魔力操作に優れているが直接攻撃には弱い。
黄金ディストピア:別の次元に奏太だけの王国をつくることが出来る。ポイントを使用することにより、魔物や魔道具の創造、怪我の回復などが出来る特殊魔法。
パニックアロー:魔力で作った矢が命中すると相手の「視覚、聴覚、嗅覚」に異常を引き起こす特殊魔法。
深い深い森の中に神がいる。
スライムとなった芦屋 奏太は圧倒されるよりも早く言葉を発した。
「お越しいただきましてありがとうございます」
白い靄の塊に向かって頭を下げた。
「私に話があるのだろう?話してみよ」
「はい」
せっかく来ていただいた神様を自分のせいで待たせてはいけない。押しつぶされそうな存在感を感じながら奏太は語った。
チョコラティエにどれだけ助けられたか、どれだけ感謝しているか、どれだけ明るい気持ちにさせられたか。纏まらない頭で必死に言葉を紡ぎ出した。
神はただ黙って聞いていた。そしてしばらくの沈黙ののちに言葉を発した。
「お前の願いは今後もチョコラティエと一緒にいたいという事だな?」
「はい!」
「それではチョコラティエ、お前はどう思っているのかを直接私に話してみなさい」
その声は洞窟の中に響き渡る風の音に似ている。
「僕も同じです!奏太さんと一緒にいると楽しいです。必要だと言って貰えるのが嬉しいです」
地面に足をついたチョコラティエが言った。
「そうか、たったの3日で友情を築いたか………お前たちがそこまで想い合っているのなら私としても無下に断るつもりは無い」
「本当ですか!?」
「ただし、それなりの対価を払ってもらおうか」
「対価?」
「そうだ。チョコラティエは特別な生命体であるから、いくら神とは言え生み出すことは容易ではない。であるから、それに対する対価を私に支払ってもらおうか」
「一体何をすれば………?」
「私を楽しませてみせよ。それができるのであれば私としても、お前たちのために手間をかける価値があるというものだ。私からこうしろという事は言わない、自分自身でなにか考えて私に提案してみろ」
「楽しませる………」
奏太は考える。
神様と出会ったのはこれが初めてではない。入院中のベッドで眠っている時はいつも神様とポーカーをしていた。
つまり楽しいと思い気持ちに神様と自分にはそこまで大きな差は無いという事。そうすると、自分が楽しいと感じたことを提案すればいい。
神とチョコラティエの視線を感じながら必死に頭を回す。
ある漫画を思い出した。
最近完結してしまった国民的人気漫画。抑圧されていた女性キャラクターが双子の妹と一緒に長年苦しめられていた大勢の敵をバッタバッタと薙ぎ倒していった。スリルとスピード感と絵の迫力が素晴らしくて血が滾った。
「赤い魔物を倒します」
奏太は言った。
「31日以内で100体の赤い魔物を倒します」
「ほう………」
白い靄が少し揺れた。
「強力な力を持つ沢山の魔物達に対してスライムである僕が立ち向かいます。僕自身もどうなるか分からない命をかけた壮絶な戦いになると思います。どうでしょうか?」
手の平サイズのスライムでしかない自分が、強力な力を持つ赤い魔物に立ち向かい、薙ぎ倒していく姿は傍から見れば面白いはずだ。
「ふふ………そうか、命をかけて戦うか。お前は以前レッドオークを倒していたな」
「はい」
正直言って不安はある。けれど簡単にできそうなことを言ってもしょうがない。
「まあ確かに面白そうではある」
「それでは!」
「ただし、わたしから一つ条件を付けよう」
「条件、なんでしょうか?」
「以前と同じ方法で倒すことは禁止する」
「え?!」
「おびき出して崖にワープさせるのを100回繰り返されても面白くもなんともないのでな。あの方法を使った場合は回数にカウントしない、それならば認めてやろう。どうする?」
靄のようなただの白い塊、それなのにそこには間違いなく威圧感があった。
「わかりました、それでお願いします」
即答した。
迷う時間なんかで神様を待たせてはいけない。約束してくれた。今はそれだけで十分、あとはやるだけだ。
強い決意が心の中で固まった。
「試練の間はチョコラティエが一緒にいることを許可しよう」
「ありがとうございます!」
「楽しみにしているぞ」
白い靄のような存在が笑った気がした。
そして消えた。
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