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  突然の理不尽

 それは、突然の理不尽だった。


 「……、はへ?」

 「だから、沙羅を公国特種学府に転入させることになったから、その連絡に来た」


 私が籠もっている西園寺家の隠し部屋、そして現在目の前に立っているのは公国の中でもトップクラスの機密である成香。その口から、言うのもおぞましい言葉が聞こえてくる。

 公国特種学府に転入? アホか、んなバカな。

 思わず近くにあった棚に体をぶつけてしまう、なんかガラガラガラって音がした。研究室だし紙とか材料とか散らばってるけど、それにプラスアルファが追加されたなあ〜。片付けようかな、嫌でも面倒くさいし。

 よし、さっさと研究に戻ろう! 今は悪夢を見ているに違いない、研究すればどうにかもとに戻るはず!

 ……やめよう、現実逃避よくない。


 「いやいやいや、成香さん、冗談きついですって、まさか私が公国特種学府に行くなんて、そんな訳無いでしょ、アハハハハハ、ハア……」


 ため息をついて、心を落ち着かせる。

 まず思ったことは─んなアホな、だった。いや!だって!私を学府にいれるなんて!そんなことあり得るわけ無いでしょ!


 「そ、そもそも誰がそんなことを!」

 「京香だ」

 「……、ワンモア」

 「京香だ。今代の大公殿下であらせられる、好霊京香殿下だ」

 「……、頭痛くなってきた。頭痛薬プリーズ」

 「ない」

 「ッざけんな! ず、頭痛薬、頭痛薬よ! 我を見放し給うか! さっさと帰ってこいッ!」


 何いってんだこいつって顔で成香が見てくる。それは、私も聞きたい、何やってんだろ私。

 この世の理不尽を呪い、この世に神などいないことを再確認した上で、造物主なる理不尽生産者に向かって脳内で膝蹴り100発を浴びせかけ、理不尽消費者たる私への仕打ちを嘆き悲しみ、一通り叫び終わって漸く成香と向かい合う。


 「……、それで、それは本当の話? ジョークにしては笑えないんだけど」

 「残念なことにジョークではなく本当の話だ」

 「ジョークだった時の一千倍くらいは笑えない話ってわけ?」

 「その通り。詳しいことはここに書いてあるから、ちゃんと読むように、だとよ」

 「……、何考えてんだ、京香のバカ」

 「大公殿下に不敬だろ?」

 「それなら成香は私より先に不敬罪で処刑されてるよ」

 「これはこれは。ご忠告恐れ入ります、西園寺子爵令嬢」

 「ぶっ飛ばすけどいい?」

 「お嬢に俺はぶっ飛ばせないだろ?」

 「戦争ッ、戦争したいのッ!?」

 「んなわけないからさっさと読め」


 まるでマシンガンの如く会話を重ねたあと、黙って手紙を読む。そして、読み始めて3秒でうげぇっ、となった。

 読み終わった時、多分私の顔はげっそりしていただろう。


 「……、この手紙にかいてあることは本当の話?」

 「それは俺が保証していい」

 「……、分かった。私が調べることにする」

 「物わかりが良くて結構、茉莉はどうしたい?」


 今頃布団ですやすや寝ているであろう茉莉のことを考える。朝に弱い茉莉だけど、今日に限ってはいつもよりも更に寝起きが遅い。そろそろ昼になるんだけど……?


 「私としては連れていきたいけど、本人次第だね」

 「分かった。あと、沙羅については紅亜嬢の助手という扱いでの転入になる」

 「別にそんなことしなくてもいい気がするけど……?」

 「どうしても、と星菜卿がおっしゃられてな」

 「……、あぁ、なるほど……」


 星菜さんの考えはさっぱり読めないけど、あの人が必要というのなら必要なのだろう。多分、理由を聞いても教えてくれないだろうし。

 にしても、星菜さんか……。

 幼い頃は良くしてもらったし、今でも半ば親代わりみたいな存在ではあるんだけど、本当によくわからない人だ。

 さてさて、今回は何を企んでいるんだか……、頼むから、怖いことはやめて欲しい。


 「……、ふわぁ……、おは……よ…、お姉……ちゃん」


 などと考えていると、眠そうな茉莉が部屋に入ってきた。

 身支度も何も整えていない茉莉は、まさに無防備そのもの! 髪の毛ぴょんぴょんしてるのも可愛い、眠たげな眼も可愛い! そう、何もかもが可愛いッ!

 こんな女の子が存在していいはずがないッ!


 「……、なあ、沙羅、その手は何だ?」

 「ハッ!? 私は一体何を!?」


 成香が全力で呆れた顔をしてくる、私なにかしちゃいました?


 「……、どうしたの……?」


 眠たそうな声で茉莉が聞いてくる、その声も……、ハッ!? 私は妹に何を!?


 「喝ッ!!」


 自分のほっぺたを両手でひっぱたく。その音に対して成香は、最初は驚き、次に呆れ、最後にはため息をつかれた。

 あれ、私何か(ry


 「……、どう……、したの……?」


 茉莉の甘い声にまたまた良識が吹き飛びそうになるのを辛うじて自制ッ! 私、よくやった!


 「沙羅……」


 わかった、わかったから! 私が悪かったから! 妹にちょっとでもよこしまな気持ちを抱いた私が悪かったから!

 だから、そんな蔑んだ目をするなッ! 私が悲しくなるだろッ!


 「?」


 寝ぼけ眼を擦りながら、茉莉がポカーンとした目で見てくる、可愛い。いやだって仕方ないじゃん、可愛いものは可愛いんだよッ!

 ほら、かつての名言の中にもあるだろう?

 ─可愛いは、正義!


 「それで、沙羅、結局学府へと転入することには同意してくれた、ということでいいんだよな?」

 「あ、うん、それは構わないよ。でも、どこに配属になるのかは教えてくれないかな?」

 「高等第三期だな。選択タイプは術士二科、それは構わないだろ?」

 「うん、それなら別にいいよ」


 ちなみに、術士二科だと精霊術士としては失格とされがちだ。戦略科とか戦技研究科とかのエリートからみればそうなんだろうけどさ……。

 とはいえ、術士二科にだって凄い人達はいる、らしい。細かいことは知らないけど。


 「転入期間は三ヶ月。その間に調査を終えるように、とのことだ」

 「三ヶ月、ねぇ……」


 その間に、言われた調査を終えられるのかちょっと不安ではあるんだけど。ただ、言われたなら仕方ない。仕方ない、仕方ないんだけども!


 「……、ちょっと、きつすぎない?」

 「それと、これはついでに言っておくが、陸上空母型オルトロスの行動開始時期は三ヶ月後と見積もられている。この意味がわかるな?」

 「つまり、私も陸上空母型オルトロスの討伐に参加する、と」


 それに対しては無言で返す成香。この時点で、肯定の返事が返ってきたものと見做していい。

 となれば、次の陸上空母型オルトロス討伐作戦も近衛軍団が主体になる、ということになる。


 「……、次の陸上空母型オルトロス討伐作戦について、大公会議はなんて言ってるの?」

 「陸上空母型オルトロスが修復未了の時に突破浸透攻撃するにしても、修理完了後に迎撃作戦を展開するにしても、どちらにしろ中央軍団だけでは戦力不足とのことだ。

  現在緊急で北部辺境軍団の再編を行っているらしいが、そのついでに戦力を引き抜く心づもりだろうな」


 今回の北部戦線半壊に伴い、北部辺境軍団は事実上壊滅した。北西部担当部隊は戦力の四割を完全喪失、北東部担当部隊については実に七割を完全喪失している。精霊術士戦力だけは全戦力の二割程度の喪失に留まっているが、それにしたって北部辺境軍団はその存在価値をほぼ失ったに等しい。

 精霊術士だけで戦争しているわけではない。機甲戦力も歩兵戦力も重要なファクターの一つだ。

 そして、その駒のほとんどを失った北部辺境軍団は、次の攻勢を支えられはしまい。


 おそらく、大公会議は北部辺境軍団を解体した上で、主要な機動戦力を中央軍団に編入する気なのだろう。そして、残った残骸を北部辺境軍団として北部戦線に再配置し、防衛に割り当てる。


 「そういえば、〈祠〉はどうなったの?」

 「現在調査中だが、割と破壊されたみたいだな。そこまでいかなくとも、近くにメビウス共がいるせいで、精霊密度も低下している」

 「うにゅ……」


 〈祠〉は、メビウスとの戦争において重要な役割を担う施設だ。見た目は神社とかに置いてある祠と同じだけど、中に精霊核が収納されている。

 精霊核は、奥多摩地方にある旧都城、「不動アカラ城」の地下から採掘されるんだけど、この精霊核からしか精霊は放出されない。

 そして、精霊は精霊術の発動に当然必要なわけで。


 思ったよりも〈祠〉が破壊されているということは、想定よりも精霊密度が低下しているということ。これは、作戦の実施も難しくなるね……。


 「メビウスが出張ってきてるってことは、魔導回廊も構築されてるよね?」

 「今のところはさしたる規模でもない。精霊の吸収もそこまで起こっていないはずだな」

 「とは言っても、時間経過で大きくなるしね……」


 メビウスのコアにあたる魔導核は、近くの魔導核との間に「魔導回廊」という概念的な存在を構築する。当然、触れることもできないし攻撃して破壊できたりもしない。

 そして、この「魔導回廊」は、近くにいる精霊を吸収する性質を持つ。いやまあ、正確には「精霊が現世に出現する地点」に対して近いっていうことだけど、んまあ細かいことは気にしなくていいや。

 「魔導回廊」は、メビウスが密集すればするほど、当然、単位面積あたりの存在量が上昇する。メビウスが制圧した地域をさっさと奪還しないと、いつの間にやら沢山メビウスが来ていて、いつの間にやら魔導回廊が増え、いつの間にやら精霊密度が極度に低下している─そんな事もありえる。


 ホント、さっさと陸上空母型を撃破して、こちらの領土を奪還しないと。


 「とにかく、沙羅は学府に入学すること。高等第三期の扱いとなるから留意すること。以上の二点を押さえるように」


 色々考え事をしていると、成香にそう言われた。慌てて復唱する。


 「りょ、了解。私は学府へと入学し規定の調査を実施します」

 「よし」


 ふう、と一息つく成香。


 「ここからは成香個人として話させてもらうが、学府に転入する前に一度、星菜卿と話した方がいいと思う」

 「何考えてるのかは教えてくれないと思うけど?」

 「それについては完全に同意する。ただ、星菜卿の顔を見るだけでも、ある程度のことはわかるだろう?」

 「あのポーカーフェイスに勝てるとは思えないけど、全力は尽くすよ」

 「頼んだぞ。俺は、あの人の考えは全く読めないからな」

 「鳥頭だしね」

 「ハッ?」

 「ごめんなさい許してそんな怖い顔しないでホラー嫌いなんだよ怖いんだってッ!」


 あっ、そういえば。


 「茉莉、学府に生徒として行くことになったんだけど、茉莉も一緒に来る?」


 その言葉に、寝ぼけているときにしか見られないアホ毛が、ぴこん、と反応した─ような気がする。気のせいかもしれないけど。


 「……、行く」

 「ということらしいから、成香、手続きよろしく」

 「俺に丸投げしていることに対して一切の感謝が感ぜられないんだが?」

 「むしろなんで感謝すると思った?」

 「よしお嬢、お前は殺す」


 そう言ったが刹那、〈エレクトロンフィスト〉をこちらに向けてくる。あれ? 結構ガチおこモード? これ、私死にました?


 「ちょいちょいちょ……」

 「問答無用ッ!」

 「みぎゃあっ!!」


 待って!

 私! まだ! 「話せばわかる」って言ってないッ! 問答無用はその後の約束……!


 「死ねぃ!」

 「ストップ、ストップ、ストーップ! 待って死ぬから! それは死、って羽交い締めNG! うっわ、電撃、電撃ながれてっ、痛っ!」


 羽交い締めにされたうえに、首筋に電撃流されたんだが!? 死ぬんだが!?


 「ええぃ、反省しやがれっ! お嬢は俺にもっと敬意を持てッ!」

 「痛い痛いっ! 決まってる、関節決まってる!」


 関節技まで受けたんだが!?

 しかも、電撃受けたんだが!?


 「そ、そもそも旅ニート生活してる成香に……」

 「おい、殺すぞ?」


 超絶冷たい声でそれを言われたっ!

 やばい、死ぬ、殺される! 私まだ死にたくないっ! 誰か、ヘルプ、ヘルプッ!


 「覚悟はできてるんだろうな?」

 「できてない! 死にたくない!」

 「そのひん曲がった性根を叩き直してくれる!!」

 「みぎゃあ!!」


 というわけで、いつも通り成香から攻撃を受けるのでした、めでたくないめでたくない。


◇◇◇


 「入ってもよろしいですか?」

 「あっ、琴羽? 入っていいよ」

 「失礼します」


 ドアを開けて、琴羽さんが入ってくる。

 毎回思うんだけど、私よりも早い時間においてちゃんと着替えてるの凄くない? 割と、私早起きだよ?


 「? いかがなさいました?」

 「いや、琴羽って早起きだよなあ、と思って」

 「沙羅様程ではありませんよ」

 「なら琴羽、今ここにいないはずだけど?」

 「そうですね、ではあと5時間後に本物の琴羽が訪れることでしょう。今ここにいるのは幽霊の私なので。身繕いなどは御自分でお願いします」

 「ちょ、待ってよ! ストップ、ストーップ! 待って、何でドアから出ようとしてるの? 待って、いやホントに閉めるなっ!」


 琴羽さん、待って!

 というか、別に私悪くなくない? ちょっとからかっただけじゃん! 今日の琴羽さん酷くない!?


 「いえ、少し沙羅様をからかいたくなりまして」

 「あっ、琴羽おはよう。本物の琴羽も早起きだね」

 「では、第三の私が本物ということで。失礼します」

 「ちょ、待たんかい!」


 またドア閉められたんだけど!?


 「第三の私です、おはようございます」

 「あっ、琴羽おはよう。本物の琴羽も早起きだね」

 「では、第四の私が……」


 待って、無限ループ突入してるって!


 「えっと……、月が綺麗ですね?」

 「……、沙羅様、頭がフリーズしてしまっていますよ」

 「だって無限ループじゃん! この会話あと何回すればいいの!?」

 「沙羅様が満足されるまでですかね」

 「もう私満足、オーケー?」

 「はいはい。それではお着替えしましょうか?」


 お願い、と言って私は身を投げ出す。朝からどっと疲れたんだけど。

 琴羽をからかうと、時々こうなる。会話は楽しいんだけど、凄まじく時間を食われる、あと無限にボケとツッコミが続く。

 と、いうか。


 「琴羽、ここに来た理由忘れてない?」

 「身繕いでしょう? 話している間にいろいろ整えておりました」

 「……、いっつもこんな無駄話してるのって、ひょっとしてそんな理由?」

 「ええ。いつも、とまではいきませんが、殆どの場合は身繕いの用意をしていますよ」


 ………?

 いやまて、ツッコミどころがあるぞ?


 「そこから動いた様子なかったけど?」


 琴羽さんは私の方に近づきながら、その問いかけに答える。


 「えぇ、足技でいろいろと」

 「……、ごめん、ひょっとしてからかわれてる?」

 「気づかれるのが三億年遅いかと」

 「んなわけあるかぁ!」


 かくして今日も、琴羽さんと私の会話は平穏?なのでした。

 ……、ホントに?


◇◇◇


 「にしても、沙羅様がここにとどまるとは珍しい。てっきり体調が元に戻れば、隠れ家へと戻ると思っていましたのに」

 「そのつもりだったんだけどねぇ……」


 琴羽さんについては口も硬いし、何よりも京香達との正規の連絡を担っている。成香からの情報を伝えておいた方が良い。

 んまあ、情報漏洩を防ぎたいんだったらあんまりいい手段ではないけど。


 ということで、かいつまんで話しておく。


 「……、なるほど、それで西園寺公爵家にとどまるわけですか」

 「うん。直に琴音さんとか京香から連絡が来るかもしれないから、そのつもりでいてね」

 「わかりました」


 さて、私もするべきことをしなければ。


 「それで、海凪様はいつ帰ってくるの?」

 「体調のこともありますし、今週末には返ってくるとのことでした」


 琴羽さんが、事もなさ気に応える。んまあ、実際調べるのに大した苦労もしてないんだろうけど、それにしたって、ねぇ。

 というか。


 「今更だけど、あの子だって私と同じくらいは疲弊してるはずだよね」

 「ええ、相当お疲れのようでした」

 「それなのに、学府に行ったの? えっ、あの子って馬鹿なの?」

 「沙羅様と同じでは?」

 「どーいう意味、それ?」


 はあ、と言ってため息をつく琴羽さん。


 「自覚がないなら別に構いません」

 「いやほんとにどーいうこと!?」


 よくわからなかった、結構マジで。

 にしても、体調悪いのに学府行くとか……、やっぱりあの子、ズレているというかなんというか。


 んまあ、そういう性格なんだろうけどさ。


◇◇◇


 ちょっとお腹が空いたので、食堂に向かった。


 「うぅ……、お腹が痛い……」

 「……、義父上、何をしてるんですか?」


 机の上に突っ伏している春琴義父上がいた。

 えっ? なんで?


 「おお、沙羅殿……、実は、朝からトンカツを食べてだな……」

 「……、高級食材を朝から食べるとは……、しかも、お腹壊すのは当然では?」


 ちなみに、豚は生育数が少ない貴重な食料だ。

 葦原公国自体、日本列島の中央部に存在する山岳地帯の軍事国家。他の地域は全部メビウスの支配域なので、当然放牧なんてできない。貿易しようにも、そもそも他の地域の国家はおそらく全滅済み。とどめに遠洋航海可能な船もなければ貿易品もないという、まさに末期戦国家そのもの。なんでこんな状況で戦争を続けられるのか逆にわからない。

 とはいえ、続けられているのは事実。ホントに、どうしてこんな状況でも戦争を続けられるのか……。あきれるべきなのか、尊敬するべきなのか、凄まじい執念だなと思うべきなのか、私には分からない。


 「仕方ないだろう、公爵殿がゲン担ぎをするなんておっしゃったんですから……」

 「と、いうと?」

 「沙羅殿も御存知だろう? ここら一帯に存在するテロ組織─昇月の杯」

 「……、また何かあったんですか?」


 向かい側の席に座って、真面目に話を聞く姿勢になる。

 それに気付いたのか、春琴義父上は顔を上げて、真面目な顔になる。


 「今回、我々は北部戦線に向かっただろう? その隙を付く形で、昇月の杯が東京の旧スカイツリー跡地を占領。周囲の電波をハイジャックして、周囲の民衆に反乱を呼びかけました」

 「……、本当に、飽きませんね、あいつら」

 「沙羅殿も、彼らが止まれない理由はご存知でしょう?他の誰よりも、自身が最も(・・・・・)

 「それはそうですが。それで、どうしたんです?」


 お手上げといった感じで、義父上は両手を上げた。


 「今回は警察部隊が動いて鎮圧した。運良く、中核部隊が出払っていたようですね」

 「なるほど……。昇月の杯のアジトは、相変わらずつかめないのですか?」

 「それができないのは、沙羅殿も重々承知でしょう?

  それに、仮に掴んだとしてどうする?血を流してでも鎮圧するか?

  その結果として貴重な精霊術士を失うくらいなら、放置したほうがましだと、私は思いますよ」


 それはたしかにその通りだ。

 テロ組織とはいっても、ここ数年間は息を潜めている。中央軍団まで動員して根拠地らしき場所を総当りで潰したためか、昇月の杯の中核部隊である精霊術士隊は数年間にわたって現れていない。

 あくまで根拠地を潰しただけで、昇月の杯自体には大きなダメージを与えられていないから、まだ残っているとは思うけど。


 「はあ……、頭が痛い……」

 「ついでに胃も痛いですよね?腹痛薬でも用意しましょうか?」

 「胃が痛い理由の四分の三は沙羅殿だ」

 「これは手厳しいご指摘を」


 色々あって春琴義父上と話してしまったが、もともとの目的は食事だ。お腹空いたんだもん、真面目な話ししてたらもっとお腹すいたし。


 バイキング形式なので、適当なものをトレーに乗せていく。


 「あっ、このトンカツおいしそう」


 トレーに乗せとこ。


 席について、おいしく食事をいただく。うん、美味しい。ちなみにこういった食事の対価として、貴族は最前線で戦わなきゃいけない。

 うん、メシマズよりはいいかもしれん。


 「さてさて、高々三ヶ月しかないんだし、今のうちにどうやって調査を進めるのか考えとこ」


 手紙には、"公国の未来がかかっている"などという物騒な文言も書いてあったことだし。

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