その三
ひとしきり食べ散らかした新司と一緒に、シフトの済んだ蛍が出てゆくと、あとには坂東医師と真樹啓介だけが残された。
「――ますますわからなくなってきましたねぇ。もしヤミの、つまり違法営業の駄菓子屋なんてものがあったとして、いったいどこの誰がそんなことをしているのか……」
土壁へ背をもたれたまま、真樹は天井のシミをにらみながら坂東医師に問う。
「まったくです。――それと真樹さん、ちょっと気づいたことがあるんですがね」
「なんです?」
三本目のキャメルへ火をくべかかっていた坂東医師の言葉に、真樹は身を起こす。
「姫町に近いのは何も小学校ばかりじゃないでしょう。それなのに、なぜか患者は小学生ばかり。――単なる偶然にしては、ちょっと整い過ぎてはしませんか」
坂東医師の指摘に、真樹は手をポンと打つ。
「そういえばそうですね。新司みたいな食い意地の張ってる中学生だっているだろうに……盲点だったなぁ」
「小学生だけしか行かない場所、そういう点に着目すればおのずと謎の駄菓子屋の正体もわかりそうですね。まあ、あまり手間のかかる話には見えないから、真樹さんには役不足かもしれませんけれど……」
「毎度毎度、あまり相応の役があるってのも厄介なんですけどね。まあ、ひとつ音更先生にもよろしくお伝えください。及ばずながら僕も力になります、とね――」
ひとしきり話が済むと、真樹は一旦台所へ引っ込み、露のほどよくついたビール瓶をちらつかせた。
「難しい話のあとはこれに限ります。この後がお暇なら、どこかで一杯……」
二人分の真新しいグラスを見せる真樹に、坂東医師は是非とも、と答えるのだった。