たけポン言うな
『ひっぐ……ひっぐ……』
『ワンワン!ワンワン!』
幼い少女が猛犬に吠えられて泣いていた。
それを見つけた一人の少年が彼女の元へと走り寄る。
『xxxに近寄るな!』
少年は両手を広げて猛犬から彼女を守ろうと立ち塞がる。
『xxxくん……』
その足はがくがくと震えているものの、決して折れることは無い。
勇ましい背中を見た少女は何を感じたのだろうか。
「何処となく見覚えがある夢だったけど、あんなことあったかな」
猛は登校後の教室で今朝の夢の内容を思い返したが、それが本当にあったことなのかどうか確証が持てない。
夢の少女の顔は不鮮明だが、何処となく昨日の写真の少女のような気がする。
ただし、昨日の写真騒動が印象的だったため想い出が勝手に捏造された夢なのかもしれない。
「肝心なところが思い出せないんだよなあ」
例えそれが捏造だったとしても、反射的に口から出た言葉が嘘だとは思えない。
夢の中で少女の名前を呼んだと言う事は、そもそも名前を知っていたのかもしれない。
「あ~ダメダメ。考えたってキリがねー」
思い出せそうで思い出せないというのはストレスが溜まる。
それゆえ猛は考えることを止めて、ホームルームが始まるまでの少しの間、睡眠をとるべく机に伏せた。
昨日の夜は例の写真のせいで中々寝付けなかったからだ。
「たけポンおはよ」
「たけポン言うな」
だがその睡眠は知佳によって妨げられることになった。
「昨日はよく眠れた?」
「てめぇ、分かってて言うんじゃねーよ」
「今日はお姉さんが添い寝してあげよっか」
「別の意味で眠れねーよ」
「やーらしー」
「男子は九割やらしさで出来てるんだよ」
十割という説もある。
「それで謎の女の子の正体は分かったの?」
「まだ。日下部が『わっち』の居場所に心当たりがあるみたいで調べてくれてるからそれ待ち」
「『わっち』さんが知ってると良いね」
「まぁな。つーか、川辺は関係ないだろ」
「え~良いじゃん。面白そうだから仲間に入れてよ」
「まぁ良いけどさ」
下手に断ってまた心霊関係で弄られたらたまったものじゃない。
しばらくの間、猛は知佳に頭が上がらないだろう。
「でもその子、なんでたけポンに憑りついたんだろうね」
「たけポン言うな。後、憑りつかれてねーから」
「もしかしてその子のこと虐めてたんじゃないの?」
「ねーよ……多分」
「うわ、心当たりありそう」
「本当にねーよ。でも俺がそう思ってなくても本人はそう思ってるケースもあるだろ」
猛としては絶対にそんなことはしていないと言い切る自信があるが、それでも記憶にない部分で何かをやらかした可能性が無いとは言いきれない。
「大丈夫だよ」
「え?」
「言い出した私が言うのもなんだけど、その子は絶対にたけポンに虐められたなんて思ってないから」
「たけポンって言うな。なんで川辺がそんなこと分かるんだ」
「女の勘かな」
「なんだよそれ」
まったく理由になっていないが、はっきりと断言されると本当にそうなのかと思えてくる。
猛の気持ちは少しだけ軽くなり、心の中でこっそりと知佳に感謝をした。
女子に面と向かって真面目にお礼を言うなど、恥ずかしくて出来ないのが男子なのである。
虐め云々を自分から言い出して自分でフォローする自作自演だと考えてはならない。
「それにもしかしたらその子、たけポンのことが好きで好きでたまらなくて出て来ちゃったのかもよ」
「たけポン言うな。それに出て来てねーし、名前も覚えてない相手のことを好きなわけないだろ」
「覚えてないのはたけポンだけでしょ。向こうがそうとは限らないじゃない」
「そりゃあそうだが、俺の事をあの子が好き?無い無い。あと、たけポン言うな」
「分からないよ。女の子の好きなスイッチは何で入るか分からないからね。たけポンの何気ない行動で惚れちゃったのかも」
「どうしてもそっちの方向に持って行きたいのな。たけポン言うな」
そもそも小学生の頃しか会っていないのに好きだと思われていてもどう反応して良いか分からない。
猛が恋していたならまだしも、記憶に残ってすらいない相手なのだから。
「でもさ、もしその子が普通に生きていて、たけポンのことをずっと好きだったって告白して来たらどうする?」
「どうするって……………………とりあえず、たけポン言うな」
小さい頃からずっと好きでした。
それは本当だろうか。
嘘告では無いのだろうか。
その子との接点を思い出せず好きな理由が不明なままでは、トラウマが影響して信じられない可能性の方が高い。
「まぁアレだな。相手が好みだったら付き合っても良いかなとは思うけど、俺の何処が好きになったのかは教えて欲しいかな」
後半が本心だ。
やはり相手の想いの確証がなければ、相手の事を信じられないのだろう。
「ふ~ん。そっかそっか」
「なんだよ」
「私、たけポンと一緒に居ると楽しいから付き合おうよ」
「うるさい馬鹿」
「ひっどーい!ちゃんと理由を説明したじゃない」
「せめてその嘲るような気持ち悪い笑いを止めてから言え、あとたけポン言うな」
「お、ツッコミがいつもよりワンテンポ少し遅かったね。動揺してる?」
「ねーよ」
するに決まっている。
いくら女子を信じられないとはいえ、女子とイチャコラしたい健全な男子であることに変わりは無いのだから。
「ふんだ。いいもん、もし私が事故で死んだらたけポンに憑りついてやるんだから」
「絶対に止めろよな!たけポンって言うなよな!」
「髪の毛洗っている時に背中を撫でてやる」
「言ってはならないことを!」
「あははは!」
「もう怒った。お前が死んだら体中にカエルを纏って魔除けにしてやる」
「絶対に止めてよね!」
「そのまま墓参りして念仏唱えまくってやるから覚悟しろよな」
「いやああああ!」
「ふははは、それが嫌なら俺より先に死なずに生きるんだな」
「絶対に生き抜いてやる」
知佳は気付いていた。
猛が冗談を言いながらも、『事故で死んだら』という不謹慎な言葉に無意識下で怒っていたことに。
そして『俺より先に死ぬな』と言う部分がかなり本気だったことに。
そんな猛だから、知佳は話しかけたくなってしまうのだ。
絡みたくなってしまうのだ。
そしてそれは他の男子相手には決して出来ない事だった。
「そうだやることあったんだった」
「なんだよ急に」
「女の子は気まぐれなんです」
「はいはい、行った行った」
「ぶー、いいもーん」
知佳は唐突に話を打ち切り猛の元から離れると、スマホを取り出して誰かとメッセージのやりとりを始めた。
「一体何だったんだ」
妙な気分だったけれど、眠気が強かったからか猛は今のことを忘れて仮眠を始めた。
『『わっち』藤高にいるんだって』
『マジで!?』
その日の昼休みに日下部からSNSで連絡が来た。
昨日相談したばかりなのに、もう『わっち』の居場所を特定したらしい。
女子のネットワークおそるべしだ。
なお、藤高は同じ県内にある各種スポーツの強豪校。
ただし猛が通っている高校とはかなり離れた場所にある。
『運動得意だとは思ってたけどまさか藤高だとはなぁ』
『バレー部の次期エースらしいよ』
『え、あいつって背が高かったっけ?』
『それが中学でめっちゃ伸びたんだってさ。今はもう百八十越えてるみたい』
『マジかよ。俺よりでけぇじゃん』
話を聞いてみると、『わっち』だけではなくて『シュン』も藤高に通っていて次期サッカー部のエースらしい。
『しかもその二人付き合ってるんだってさ』
『ファ〇ク!』
『ひがまないひがまない』
『あの時のメンツ、リア充だらけじゃねーか』
『猛もすぐに仲間入りだよ』
『心当たりが全く無いんだが』
『それはどうかな』
『?』
日下部の意味深なメッセージを追求しようかと迷っていたら、先に次のメッセ―ジを送られてしまった。
『二人をグループに登録しておくから、例の子については直接二人に聞いて』
『分かった。サンキュな』
『ううん、二人のためだもの』
『あいつらのためってどういうことだ?』
『気にしないで』
あの少女について知ることが、久しく会っていない『わっち』と『シュン』のためになるというのもまた意味が分からない。
今日の日下部のメッセージは変なところが多いけれど、猛の経験上こういう時はスルーするのが吉だ。
日下部の機嫌を損なわせると何をして来るか分かったものでは無いからだ。
例えば心霊ネタで徹底して嫌がらせをしてくる可能性がある。
美人だけれど性格が捻くれている。
それが成長した日下部の性格だった。
「あいつ良く付き合ってられるな」
猛は日下部と付き合っている幼馴染の事を尊敬しかけたが、そいつがイケメンであることを思い出してきっぱりと忘れることにした。
「お、来た来た」
SNSの幼馴染グループに新たに二名が登録された通知が来た。
ご丁寧に名前が『わっち』と『シュン』になっている。
アプリ上とはいえ、幼馴染との再会。
その日の昼休みは幼馴染達全員でひたすらトークで盛り上がった。
「ここを左か」
謎の少女の情報はあっさりと手に入った。
『わっち』がその子の家を知っていたのだ。
名前は聞いたことが無いけれど、一緒に帰ったことがあったとのこと。
「この辺りってたけポンと同じ学区じゃない?」
「たけポン言うな。後、なんで俺が通っていた小学校を知っている」
「前に言ってたじゃん」
「そうだっけか」
その日の放課後、早速その子の家に向かっていた。
本当は猛自身が向かうつもりは無く、幼馴染の女子にお願いするつもりだった。
小さい頃に遊んだだけの縁が切れている男が突然やってきたなんて、相手からしたら恐怖でしか無いと思ったからだ。
その点、女子ならば少しは安心だろう。
しかし女子達は予定があるからときっぱりと断った。
それなら後日にするかどうか、めんどくさいから行きたくないなど色々と揉めたけれど、最終的にバカップル男子の一言が決め手になり猛が向かうことになった。
『もし本当にその子が亡くなってたら女子に任せるのは酷じゃね?』
女子に辛い役目を背負わせてしまうことになる。
それは男として認められない事だった。
それならば不審者として扱われる方がまだマシだと思えるのが猛という人間である。
『じゃあ私がついてくよ。面白そうだし』
『は?』
『それに私がいればたけポンが不審者って思われにくいんじゃない?』
『ぐっ……たけポン言うな』
無関係な知佳がついて来ているのはこういった理由であった。
男子一人よりも女子とセットの方が相手が警戒しないだろうとのこと。
それは確かに正しいかもしれないが、無関係の知佳を連れて行くのは猛としては抵抗があった。
しかし幼馴染達も賛成し、押し切られてしまった。
「住所的には学区の境目っぽいから、俺とは別の学校だったかもな」
「ふ~ん、そっか」
同じ小中ならば猛かバカップルの誰かがその子を見つけてもおかしくはないはずだ。
もちろん偶然学校で出会わなかっただけの可能性もあるが。
「しっかしこの辺り懐かしいな」
「こっちは来ないの?」
「まぁな、用事ねーもん」
同じ学区内であっても、通学路とは離れているただの住宅街であれば訪れる理由はない。
猛の友達もこの辺りに住んでいないから遊びに行くということもなかった。
「あの頃は街中走り回ってたからな。この辺りも何度か……」
想い出に浸りながら住宅街を歩いていたら、一軒の家が目に入った。
その家は出入り口付近に犬を飼っていて、猛達を睨んでいた。
猛はすっと体を移動させて知佳とその犬の間の位置に割って入った。
「ワンワン!ワンワン!」
そういえば夢の中でもこんな感じの家で犬に吠えられていたような気がする。
ただしその時は犬がもっと大きかった覚えがある。
子供の頃の印象だから大きく感じたのか、それともこれは別の犬なのか。
夢と現実がごっちゃになり、猛は少しだけ頭がズキズキした。
「変わらないんだね」
「ん、何か言ったか?」
「ううん、なんでもない」
軽い頭痛に顔を顰めていたら、知佳が何かを口にしたのを聞き逃してしまった。
別に何ともないと言ったが、知佳は珍しく真面目な顔になって何かを考えている様子だった。
妙な沈黙が二人を支配する中、目的地まで最後の角に差し掛かった。
ここを曲がったら後は百メートル程歩くだけ。
あの子は本当に亡くなっているのか。
突然訪れて嫌悪感を抱かれてしまわないか。
そんな不安により猛はいよいよ緊張しはじめた。
知佳も変わらず何も言わない。
そうして二人はついにその家に到着した。
そこはごく普通の一軒家だった。
荒れ果てた様子も無く、生活感が漂っていたので誰かが住んでいるのは間違いない。
「え?」
猛が驚いたのは、表札を見つけたからだった。
そこには見覚えのある名字が書かれていたのだ。
「私の家にようこそ、たっくん」
隣にいた筈の知佳が玄関付近に移動し、そんなことを言い放った。
表札に書かれていた文字は『川辺』
ご丁寧に名前の『知佳』までも小さく書かれていた。
「え?え?どういう……え?」
想い出の女の子の家に向かったはずが、何故かクラスメイトの知佳がそこを我が家だと言う。
あまりの驚きで混乱する中、脳裏にある思い出が蘇った。
『ちーちゃんに近寄るな!』
『たっくん……』
夢の中の想い出、その時に自分が叫んだ女の子の名前。
川辺 知佳。
想い出の女の子の家に住んでいて、『ちーちゃん』と呼んでも不思議ではない名前。
答えは一つしか無かった。
「お前があの女の子……でも、なんで?」
なんで黙っていたんだ。
なんで性格が全く違うんだ。
なんでこんなことをしたんだ。
疑問は尽きない。
だが知佳はそれらに答えることはない。
ここで言うべきことはすでに決めてあったからだ。
「たっくんの事が好きです」
知佳からは普段の快活な雰囲気は鳴りを潜め、猛をしっかりと見つめながらも両手を前で組んでもじもじしている。
それは間違いなく恋する乙女の姿であった。
「(川辺が、あの子で、ちーちゃんで、俺の事が好き?)」
仲の良い女子からの告白。
猛の脳裏に過去のトラウマが蘇る。
これもまた手の込んだ嘘ではないのか。
『や~い、騙された』
そう揶揄われるのがオチでは無いのか。
そんなことは無いと思いたいのに、きっとそうに違いないと警鐘が鳴らされる。
その時、トラウマを克服しろよと誰かが叱咤するかのように、猛の脳裏に過去の想い出が蘇った。
「(ちーちゃん……か。そうだ、思い出した。あの夢は事実だ)」
ずっとぼやけていた記憶が鮮明になる。
猛犬からちーちゃんを守ったこと。
木陰に隠れるように佇んでいたちーちゃんの手を取り一緒に遊んだ出会いのこと。
いつも自分のそばから離れず静かに笑っていたちーちゃんのこと。
そして突然遊びに来なくなって心配した時のこと。
「(だから微かにだけど覚えていたんだ)」
物静かで印象は薄かったけれど、いつも自分の傍に居た。
近すぎて何をするにも目に入っていたから、忘れることは無かったんだ。
そしてそれはちーちゃんが猛の傍に居たかったということでもある。
そこに猛犬から守ったあの時の事を含めて考えると……
「(ちーちゃんは俺の事が好き)」
今回は嘘告の時には無かった確証がある。
もちろんそれは猛がそうあって欲しいと願った幻かも知れない。
ここで幻の確証に縋ってしまえば、騙されていた時に完全に立ち直れなくなる。
「(ちーちゃん……川辺……)」
正直なところ、ちーちゃんに対する想いは特にない。
本当に存在を忘れかけていたのだから。
でも知佳に対しては別だ。
気兼ねなく接してくれる知佳は一緒に居て居心地が良い。
もちろん顔立ちもタイプであるし、知佳が彼女だったらと何度思ったか分からない程だ。
勇気を出して告白を受け、騙されていなければ幸せになれる。
勇気を出して告白を受け、騙されていれば不幸になる。
猛は人生の大きな岐路に立たされていた。
「(馬鹿か俺は!そうじゃないだろ!)」
大事なのはそこじゃない。
自分が苦しむとかそういうことはどうでも良い。
「(こいつを悲しませないのが一番だろうが!)」
ここで猛が怖気づいて断ってしまったら、この告白が本気の場合に知佳が傷つく。
もし嘘だったとしても、傷つくのは猛だけだ。
だったら猛がやるべきことは一つだけ。
猛はそういう人間なのだ。
そういう人間だからこそ、知佳が惚れたのだ。
「俺はちーちゃんのことは正直なところ何も思っていなかった」
猛は自分の想いを素直に伝えることにした。
「だけど川辺とは付き合いたいなってずっと思ってた」
その答えに驚いたのか、知佳は目を見開いた。
そしてその目から頬に大粒の涙が零れ落ちた。
「お、おい……」
好きな女の子を泣かせてしまったことで猛は慌てる。
これまで告白のシーンでこんな展開は経験したことがなかったからだ。
「うれしい」
だけれども、それが喜びの涙であることが分かると猛は安心した。
そして理解する。
知佳が本気で自分の事を好きでいてくれたのだということを。
「たっくん!」
「お、おい……」
知佳は猛に正面から抱き着いた。
これまで様々なスキンシップでアピールしてきたが、ここまで露骨なのは初めての事だ。
「うれしい……うれしい……」
きつく抱きしめながら猛の肩口に顔を押し付けて何度もつぶやく。
これが嘘でも友達扱いでもなく、本気の恋する想いなのだと実感する。
これまで以上に知佳の事が愛おしくなり、両手を優しく背中に回して受け入れた。
幼いころの初恋の相手と結ばれた喜び。
女性不信を乗り越えて好きな相手と結ばれた喜び。
種類は違えど、二人は強い恋心が爆発している。
「たっくん」
「かわ……ちーちゃん」
どちらからともなく見つめ合い、二人の距離はゆっくりとゼロに近づいた。
触れるだけの拙いキス。
これから二人はゆっくりと恋を……ということにはならなかった。
繰り返すが、二人は強い恋心が爆発している。
知佳は今日のために猛以外の幼馴染達に正体を明かして協力してもらって準備をしてきたのだ。
女子達が断ったのも、この日に作戦を決行させたのも、狙い通り。
そして準備はそれだけではなかった。
「あのね、今日、両親帰って来ないんだ」
ようやく手に入れた彼女からこんなことを言われて我慢できる猛では無かった。
「突然の引っ越しだったの」
「だからどこの学校にもいなかったのか」
若さが暴走したかのように激しく愛を伝え終わった後、疲れた二人はベッドの中で語らっている。
今の姿は気にしてはならない。
「引っ越す前に連絡先くらい教えてくれれば良かったのにさ」
「それが出来たら苦労しないよ」
「なんで……ってあ~恥ずかしがり屋だったもんな」
「恥ずかしがり屋って言わないでよ。人見知りだっただけなの」
「違うのかい」
「全然違うよ」
知佳は親の都合で急遽引っ越すことになり、高校生になりこの街に戻って来た。
その間に人見知りで大人しい性格を直した。
「う~ん、まだち~ちゃんと知佳が同一人物ってのが信じられないよ。変わり過ぎじゃない?」
「だってたっくん、根暗な私より明るい私の方が好きかなと思って」
「え、俺のために変わったの?」
「……うん」
可愛い事を言い出した知佳に我慢できなくなり、再戦を仕掛ける猛。
高校生の体力は底なしである。
そしてまた一段落して語らいを再開する。
「もう、がっつきすぎ」
「ごめん」
「そんなんじゃ私達もバカップルなんて思われちゃうよ」
「あ~そうだな」
幼馴染のバカップルを見る度に爆発しろと呪詛を念じていたが、自分もそうなる未来しか見えなかった。
それほどまでに、今の猛は知佳にドハマりしている。
「バカップルと言えば、知佳はいつあいつらに正体明かしたんだ?」
「つい最近だよ。今回の事を相談したかったから」
「それじゃあ『わっち』達のことも事前に知ってたんじゃないのか」
「うん」
知佳から相談された流れで、どうせなら『わっち』達とも再会したいという話になり日下部が居場所を調べていた。
心霊写真の作戦中に丁度それが分かったのだった。
本来は日下部が『思い出した!』と言って知佳の家の場所を猛に教える予定だったのだが、『わっち』も作戦に参加したいと言い出したので予定が変更された流れだった。
「はぁ、俺だけ仲間外れだったのか」
「寂しい?」
「いや、何かムカつくからお礼回りする」
「もう、素直じゃないんだから」
怒っているフリをしているが、文字通りにお礼をして回るのだろう。
トラウマを乗り越えて素敵な彼女をゲットする手助けをしてくれたのだから。
「でもこれであの時のメンバーが全員揃ったわけか」
「全員付き合っているってのも面白いよね」
「まぁな。あの時はマジでそんなこと思ってなかったんだけどなぁ」
「私だけは思ってたけどね」
「だからそういうこと言われるとまた続きをしたくなるって」
「ごめんごめん。流石にまだ疲れてるからもうちょっと待ってよ、たけポン」
「たけポン言うな」
「なんでいつも否定するの。可愛いじゃんたけポンって。それともたっくんの方が良い?」
「可愛くてなんか恥ずかしいから嫌だ。でもたっくんは……」
「二人っきりの時だけの方が良いかな?」
「…………」
「きゃっ!まだダメだって、あ、もうっ!」
これから彼らはひたすらバカップルを続けるのだろう。
それこそ仮に本当に片割れが亡くなったのならば、相手に憑りつきそうな程にラブラブなのだから。
たけポンだけは、愛する人であっても憑りつかれたら大騒ぎしそうであるが。
「たけポン言うな」