表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

〜大崎美森視点〜落ちこぼれの僕を救ってくれた学園一美少女の先輩が居場所がなくて傷だらけで一人ぼっちだったので僕が居場所になって命を懸けて救ける事にした。


短編「落ちこぼれの僕を救ってくれた学園一美少女の先輩が居場所がなくて傷だらけで一人ぼっちだったので僕が居場所になって命を懸けて救ける事にした。」の視点逆バージョンです。


主人公視点と照らし合わせてお読むことをおすすめします。





人付き合いは総じて面倒だ。

誰もがみんな何を考えているのか分からない。

平気な顔をして嘘をつく。


それに一人でいても娯楽にはこと欠けないし。


何より楽でいい。


私、大崎美森は昼休み一人屋上でヘッドホンをして動画を見ていた。

ヘッドホンから流れる沢山の人の声、色んな音を聞くと誰かに、何かと繋がれてるような気がした。


だから、独りぼっちでも寂しくなんてない。



「……ん?」



ふと、人の気配がしたので前を見ると男の子が居た。


……見たことない生徒だ。

屋上にはあまり人が来ないんだけど、もしかして新入生かな?


……保健室にでも移動しよう。


ヘッドホンを外しながらそう考えていたら新入生がこちらに向かってくる。



「……誰?」



しまった。思わず不審そうに言ってしまった。


……まぁ、どうでもいいか。

誰に嫌われようが、避けられようがどうでもいいし。


ふと新入生の顔を見ると一瞬だけ、とてもさみしそうな顔をした。

疑問に思った瞬間、顔色が変わり真っ青になった。


あぁ……このあざだらけの顔を見たらそうなるよね。

まぁいいや……さっさと保健室に逃げてー


ガシッ


ーえ?


気がついたら手を掴まれてた。



「と、とりあえず行きましょう!!」


「……は?いきなり何を言ってー!?」


さっきあったばかりの新入生に手を引かれ、保健室へと連れられた。

手を振り払うことも出来たけどどこか懐かしさを感じて出来なかった。



保険室



「ちょ! 痛っ!! 下手くそ!」


「す、す、すいません!!」



ぎこちない動きをしながら私は新入生くんに傷の手当てを受けていた。

確かに下手くそで痛いけど……私のために必死てしてくれてると思うとちょっと嬉しかった。


……何考えてるんだろう。私、どうせまた痛い目見るに決まってるのに。



「……ねぇ、もう私とは関わらない方がいいよ」


この男の子もどうせ新入生で私のことなんか知らないから優しくしてくれるんだ。

だから、突き放すことにした。


それに



「……私の噂聞いたでしょ? 尻軽とかDV彼氏がとか……こんな厄介な女に構ってたら君も変な噂が流れてせっかくの高校生活が無駄になっちゃうよ?」



私のせいで君が嫌な思いするのはちょっと嫌だから。

こう言ったら大半の人は私との関わりを切っていった。



だけど、彼は首を振った。


「……たとえそうだとしても僕は美森先輩をこのまま放っておけません」


「どうして?」


「……今度は僕が助ける番なんです」



その寂しそうな顔……どこかで見た。



「……何それ」



その言葉と寂しそうな表情のせいで言葉がとっさに出てこなくて、ただ黙って俯いてしまった。



「……よし、これで」



なんとか手当てが終わった。

一息つくと美森先輩は立ち上がってベッドで寝た。



「あ、あの……もうすぐ授業ですよ?」


「私、体調悪いからここで寝る」


「あ、えと……そうですか。じゃあ、また放課後来ますね」


………………



「君、名前は?」


私がそう聞くと彼はこちらを向いてどこか懐かしそうな顔して言った。


「和谷光樹です」


「……そっか、和谷くん。ありがとね」



そういうと和谷くんは嬉しそうにはいと答えた。


わや……みつき……あれ? なんだろう? その名前……どこかで……


そう思いながら瞼を閉じた。



その背中を覚えている。

展望台で一人ぼっちで寂しそうにしていた。

見た瞬間、思った。


ああ、この男の子は私とおんなじなんだって。


名前とここに来た理由を聞いたらポロポロと話始めた。


友達もいなくて、家には自分の居場所がなくなるんじゃないかって不安になってそんな事をとても寂しそうで、悲しいそうで……まるで道に迷った子供のように不安そうな顔して話してた。


そんな彼の姿にシンパシーを抱いた。


だからかな? 

思わず抱きしめて頭を撫でた。

まるで自分を慰れているかのような感覚で、私も少し泣いていた。


その後、このまま放っておけなくてご褒美なんて言って初めて出会った男の子と遊んだんだっけ。


あの日はとても楽しかったことを覚えている。


だからかな。


忘れないで欲しかったから一緒に取ったクマのぬいぐるみをあげて



「今日のこと忘れないでねっ!!」



そんな事を言った。


それでまた会いたい。会えたらいいなって思ったから


「またね」って言ったんだ。



目が覚めると空は夕暮れになっていた



「ああ、もう放課後か」



夢を見ていた。

昔あった出来事の夢。



「まさか……ね」



そんな事を一人で呟きながらヘッドホンをつけてスマホで動画を見る。


数十分ほど見ていたら誰かに肩をトントンと叩かれた。

振り返ると和谷君が居た。



「……あ、本当に来たんだね」



まさか、本当に来るとは思わなかった。

だから、驚きと藩の少しの嬉しさが私の心の中に生まれた。

……あれ? なんで嬉しいって思っちゃってるんだ?



「はい……心配だったので。体調は……もう大丈夫そうですね……何してるんですか?」



その言葉ではっとしてなるべくいつものように話す。



「んー? 通信制限で全然動画が動かないんだよ。今めちゃくちゃいいところなのにー」



「……あ、そのアニメ今流行ってますよね。僕も家で見てますよ。一人暮らしなんで家では配信ばかり見ていて」


「へー………」


ああ、そうだ。いいことを思いついた。

アニメも気になるし、今日はまだ家に帰りたくないし。和谷君は人畜無害みたいな顔してお人好しなところもあるし。


……こんなの利用しなくちゃ損だよね。



「……じゃあさ、君の家で続き見せてよ」



ほんの出来心と気まぐれでそう言った。



という事で私は和谷君の家にお邪魔することになった。



「お邪魔しまーす」


「はい!! あ、そこのソファに鞄とか置いていいですから!」


「う、うん……」



て、テンションが高いな……


正直、和谷君の反応が予想外だった。


まぁ、なん言うか、少しは動揺とかするのかなって思ったらとても嬉そうにいいですよ!!なんて言うから逆にこっちが動揺した。


楽しそうにスーパーに寄ってジュースやお菓子とか買っている姿を見たらなんだか申し訳ない気持ちになった。

利用してやろうと思っていた自分のことが嫌いになった。



「あ、和谷君の部屋見ていい?」


「え……まぁいいですけど。どうしてですか?」


「エロ本とかあるかなって思って」


「あ、ありませんよ……」


そんなやりとりをしながら和谷君の部屋に入る。

……へぇー綺麗にしてるんだ。まぁ、引っ越したばっからしいから当然か。


勉強机やベッド、本棚……あ。


私の視線は棚に置いてあるクマのぬいぐるみに釘付けになった。


見たことのあるぬいぐるみ。


あの日みっちーと二人で取ったぬいぐるみだ。



『……今度は僕が助ける番なんです』



あの言葉の意味が分かった気がした。


そっかぁ……



「みっちー私のこと……覚えていてくれたんだ」



クマのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめる。


嬉しかった。私の事を覚えていてくれたこと、思い出を大切にしてくれていること、私の事支えようとしていること。


もしかしてみっちーならー



『顔が良くても欠陥品じゃ、いらねぇよ』


『あんたさえ、居なければ……』



っ!?



「うっ……おえっ」



思い出したくない言葉がリフレインする。

思わず、吐きそうになった。

前屈みになり口を手で抑える。

気持ち悪い、息がしづらい、苦しい。


大丈夫、落ち着け、落ち着け、ゆっくり、少しずつ、少しずつ……


心を落ち着かせ、過呼吸になりかけているのを必死に抑える。



「ああ、やっぱりダメだ……私」


心の底からそう思った。


希望なんて持っちゃダメだ。その分絶望するのは……傷つくのは自分なんだから。

そう。期待なんて大きければ大きいほど裏切られた時の傷が大きくなるだけなんだから。


だから、信じちゃだめだ。


それ以降私は放課後になると和谷君の家に来て一緒に配信を見るようになった。

昼休みに保健室で怪我を手当してもらい、放課後合流して家で夜まで配信を見て帰る。


お母さんにバレるかもってなんて心配しないで落ち着いて何かを見れるなんて最高だった。


そんな生活が1週間続いた。



「本当に便利だな〜和谷君は〜あはは〜」



帰り道、必死に……自分に言い聞かせるように言う。

そう……私は利用してるだけだから、だからもし和谷君に裏切られても問題ないんだ。


家に着くと玄関でばったりとお母さんと鉢合わせしてしまった。


やってしまったと思った。



「ちっ……最悪。あんたに会うとか」



冷たい目、怒りを含めた口調、声色。

本当に会いたくなかったとわからされてしまう。



「ぁ……ご、ごめんなさい……こ、これからお仕事?」



そう言った瞬間ガン!!と顔に痛みが走った。

玄関にあった置物で叩かれたみたいだ。


痛い……怖い……体の震えが止まらない。

がしっと髪の毛を掴まれる。


「は? 見ればわかるでしょ? ほんとあんたといるだけでイライラする」


「ご、ごめんなさい」


痛い……痛い。

髪の毛が引きちぎれそうだ。



「ほんと、なんで姿を見せるなって命令が聞けないのかなぁ?」



お母さんははぁとため息をつきながら髪を離し、置物を元の位置に戻し靴を履いた。



「あーそうだ。今度さ。ここにお客さん来るからあんた帰ってこないでね。まじで邪魔だから」


「ぇ……う、うん」


「帰ってきたらこの家から追い出すから。これ以上私の人生の邪魔しないでね。ここはあんたの居場所なんかじゃないんだから」



そう言い残してお母さんは仕事に行った。


…………………………


階段を上がり、部屋に行き、電気もつけずベッドの上で座る。


もう何もしたくない。というか何もする気が湧かなかった。


首にかけているヘッドホンをつけて動画を見る。


私にとってヘッドホンは孤独と悲しみと痛みを紛らわすための大切なアイテムだ。

これがないと私の心は保たない。


大丈夫、今日もヘッドホンが私の心を守ってくれる。


だから、悲しくなんてない。寂しくなんかない。

いつもの事だ。今更あんなこと言われてもなんともない。へちゃらなんだ。


お笑いの動画を見て気持ちを紛らわす。



ああ、ダメだ。思い出すな。



『ほんと、なんで姿を見せるなって命令が聞けないのかなぁ?』


ごめんなさい。


『あんた帰ってこないでね。まじで邪魔だから』


ごめんなさい。


『これ以上私の人生の邪魔しないでねここはあんたの居場所なんかじゃないんだから』


ごめんなさい。



どうして……酷い事を言われた後、昔の楽しかった思い出を思い出しちゃうんだろう……


お母さんと公園で遊んだり、一緒に買い物行ったり、クッキーを作ったり、あの頃の優しかったお母さんの笑顔ばかりが鮮明に甦る。


ねぇ……お母さん。どうすれば、昔の優しかったお母さんに戻ってくれるの?

お母さんが幸せになったら私にも優しくしてくれる?昔みたいにさ。


お母さんが幸せになるには私はー邪魔なのかな?



「寂しいよ……救けてよ……みっちー」



どうしてそんな事を言ってしまったのかは分からない。

届くはずのない言葉がぽろっとこぼれ落ちてしまった。


その直後、スマホが振動する。



「!?」



スマホの画面が暗転し、着信画面へと切り替わった。



「あ!? えっと、えっと……!!」



慌てながら画面を見るとみっちーからだった。


なんで……本当に……君は……

ダメだって分かってるのに拒否マークはなく、通話マークをタップしてしまう。



「…………もしもし」


『あ、美森先輩……こんばんわ。えっと……その……もう晩御飯とかは……食べました?』


やめて


「……まだだけど」


『あ、そうですか……えっと、今日ハンバーグ作ったんですけど……美味しくできたんです!! そ、それとつ、作り過ぎちゃったんですけど……良かったら……た、食べにきませんか? なんて……はは』



ダメだ。

ここで突き放さなきゃ……私は……もう戻れなくなる気がする。

みっちーの隣が私の居場所なんじゃないかって……そう思い続けてしまう。


怖い、怖い、怖い。


期待が、希望が、抑えきれないほど……溢れてしまう。


だから、拒絶しろ、突き放せ、今ならまだ間に合う。

まだ、ひとりぼっちなのは当たり前だってーそう思えるから。



「しょうが……ない……なぁ……和谷君のために美森先輩がお手伝いして……あげますかっ」


ああ、しょうがないのは私の方だ。

ダメだって分かっていても求めてしまった。寂しいって思ってしまった。

みっちーのそばにいたいって……


震えた声でそう言いながら心の底から思った。


涙を拭いていつものように振る舞って、家に着くと怪我した私を見て和谷君は慌てて救急箱を使って手当してくれて、その後一緒に食べたハンバーグは泣いてしまうほどおいしかった。


それ以降、私は晩御飯も和谷君と一緒に食べるようになった。


出会ってから1ヶ月が経ったある日


和谷っちのベッドで寝転びながらスマホをいじっているとお母さんから連絡が来た。


今日は帰ってこないで。


ああ、この前言ってたやつか……


………………



「……私さーあんまり家って好きじゃないんだよねー」



できるだけ、いつも通りを装って和谷っちに話しかける。



「……そうなんですか?」



和谷っちは宿題をしながら相槌を打つ。



「私のお母さんよく彼氏を連れ込んでてさー居心地すごく悪くってよくファミレスとかで夜遅くまで居座ってるの」


「……鉢合わせるとさーお前さえ居なければって言ってよく物で叩かれたりするんだよ」



こんなふうにとガーゼをした右目を指差した。

そうアピールした。


多分、今、和谷っちはこのまま家に帰ってしまうとって思っているはず。



「ここはWi-Fiあるし、配信もテレビで観れるし、晩御飯も和谷っちが作ってくれるし天国だよ〜」


「まぁ……材料代とかは出してもらってますから」


「今日は彼氏が家に来るから帰ってくるなってお母さんから連絡来たんだけどさ」


流石の和谷っちも瞳が揺らぎ、動揺している。

これはある意味賭けだ。



「ねぇ、和谷っち。今日泊まっていい? お礼に私、なんでもするよ?」



分かってる。


自分が美人って事も。

この流れで和谷っちが首を振る事がないって事も。

その考えが向こうにバレているって事も。


全部。


最後に……ダメ押しで和谷っちをベッドに誘って押し倒すために立ち上がった。

なんでもするって言うのはそういった事も含めるって暗に教えるために……

男の子は女の子とエッチな事をできるなら騙すために演技したり、人をいじめさせたり大抵なんでもする。


それは過去嫌と言うほど思い知らされた。


私はここに……居たい。

でも今、私にしてあげれる事、あげられるものってまぁ……この体しかないから。


私も何か和谷っちの役に立たないと……何かをあげないと……きっとここには居られなくなるから。


やっぱ初めてって痛いものなのかな〜とかそんな事を考えながら和谷君に手を伸ばしていると



「別にお礼なんていいですよ……僕も一人は少し寂しいなって思っていましたから。ずっとここに居てくれても大丈夫です」



伸ばした手を優しく握りながらそう言って笑った。


目が大きく見開き、瞳が揺れた。


なんで……そんな事……平然と……言っちゃうのかなぁ。

そう言うところが……


溢れそうになった思いをなんとか飲み込んだ。


だから代わりに



「……君は本当に、私の調子を狂わせてくるなぁ」



困ったように言った。



そして私は光樹くんの家に泊まるようになった。

自宅から日頃使っている私物を持ち込んでいった。


私物が増えていく度ここが私の居場所なんだなってそう思ってしまう。


でも不思議と悪い気分ではなかった。


朝を起きて一緒にご飯を食べて、昼休みは一緒に屋上で、放課後は二人で買い物して、一緒に家へと帰る。

私の隣にはずっと光樹くんが居た。


気がつくと私はヘッドホンを使わなくなり、首からかけることは無くなっていた。


ある日、家に服を取りに帰った時たまたま見てしまった。


お母さんと知らない男の人……その間にいる女の子。

3人は手を繋いで歩いていた。

その姿がすごく幸せそうでまるで仲のいい家族みたいだった。


お母さんは夜の水商売をしている。

だから……あの男の人はお客さんだろうか?

なら……あの子供は男の人の……?

ダメだ……分からない。


……いや違う。

知らないんだ。

私、お母さんの事何にも知らないんだ。

だから分からないし、憶測しかできない。


ねぇ……どうして私じゃないの?

自分の子じゃないのにどうしてそんな優しい顔するの?

私には……そんな顔してくれないくせに……


ああ、これをこの光景を見てしまってはっきりと分かってしまった。


お母さんの幸せには私は居ないんだ。

私は邪魔なんだ。



じゃあ……みっちーは?

優しかったお母さん……家族でさえ私の元から離れていく。


今は隣に居てくれるけど……いつか、好きな人ができて、恋人ができて……私のそばから居なくなるかもしれない……私が邪魔になるかもしれない。


その時……私は……ああ、ダメだ。



想像しただけでも怖い、寂しい。痛い……心が締め付けられそうで……不安になる。


だから私はー



数週間後



私は一人で学校から出て光樹くんのマンションに行き、ヘッドホンをつけ、手紙を置いてマンションを出た。


そして家に行き、倉庫から発電機用のガソリンを持ってリビングで待つ。




「あ、和谷くん。来ちゃったんだ」


「……な、何をしてるんですか? それガソリンですよね? あ、危ないですよ」



光樹くんは戸惑ったような表情で言った。



「うん……そだね」


何やら考え込んでいる光樹くんに簡単に説明する。



「……は、早く家に帰りましょう。今日はー」



光樹くんが話している最中にポイと彼に鍵を投げる。


切り捨てるように、諦めるように。


それは光樹くんが私に渡してくれた彼の家の鍵だった。



「もういいや。それいらない」


「……え?」



「危ないからさ、和谷君帰った方がいいよ。今からこの家燃やすから」



そう言いながらガソリンタンクを開け、自分にかけた。



「!?」



光樹くんは私の行動にただ唖然としている。



「ど、どうしてそんなこと……」


漏れた本音のように呟いた。


ガソリンまみれになりながら光樹くんの目をじっと見つめた。


………………


「まぁ和谷君ならいいか」


光樹くんにこの話をしたらどんな反応をするんだろうって気になったから話した。


家に行く途中お母さんを見かけたこと。

お母さんが知らない男の人と子供と一緒にいたこと。

その光景が楽しそうで……親子のようだったこと。



「だからさ、もうなんか……私って要らない子だったのかなって思って。この家も私の存在もお母さんにとっては邪魔なのかなって……」



……だから、君を切り捨てて全部燃やそうって決めたの。



「あーあー私の人生間違いだらけだったなぁー離婚した時一人ぼっちのお母さんについて行ったのも、騙されて付き合ったのも……」



とは言っても付き合った期間は1日だけで、付き合ったと言っていいのか分からないけど。



「間違いだらけなんて、そんな悲しいこと言わないでくださいよ」


「なんで……泣いてるの?」



どうしてそんなに悲しくてたまらなくて、とても辛そうな顔をするの?

もう、本当に……君は。



「……そんなに他人のことで頑張らなくていいよ」



こういうところだ。

自分ではわかってないんだろうけど、光樹くんは人の気持ちに寄り添える温かさを持っている。


私はその温かさに……救われていた。



「僕にとって美森先輩はもう他人なんかじゃない」



っ!!


やめて、やめてよ……これ以上君に迷惑をかけたくないんだよっ!!

一緒にいるのが怖いんだよ!!


これ以上、優しい言葉をかけないで!!

これ以上、喜ばせないで!!

これ以上、好きにさせないで!!



「………………うるさい。うるさい、うるさい!!……私にはそんな言葉届かないんだよっ!! 薄っぺらく感じるんだよ!」



そんな事ないよ……届いてるんだよ……薄っぺらくなんて思ってないよ……

本気でそう思ってくれてることくらい分かってるよ。

だって知ってるもん……ずっと隣で見てたもん……君のこと。


それでもっ……これ以上はダメなんだ。


これ以上甘えちゃダメだ。


突き放さなきゃ……切り捨てなきゃ……さよならしなきゃダメなんだ……



「私は他人なんかじゃないんでしょ? なら……私と一緒に逝ってよ!!」



そう叫んで、突き放すようにガソリンタンクを渡した。

そしてライターを両手で持って見せつける。



「どうせそんな覚悟もないくせにっー」



だから私のことはもうー



「いいよ」


「ーは?」



光樹くんは頷きながらガソリンを体にぶっかけた。



「何……やってるの?」



え?

なん……なんで? 


ち、ちが、私……そんなつもりじゃ……だって……普通は……あんなことしたら拒絶するでしょ? 心が離れていく筈でしょ?


もう、私なんかと一緒に居たくなくなるはずでしょ?


気がつけばライターが落ちてしまいそうなくらい指先まで体が震えていた。



「……本当に居場所なんかどこにもなくて、生きるのが辛いだけだっていうのなら僕も一緒に逝く。最後までそばにいるよ」



どうしてそんな事を言ってくれるの?



「だけど、少しでもまだ死にたくない。寂しい。居場所が欲しいと思っていてくれるのなら、僕が美森先輩の居場所になるよ」



どうして手を差し伸べてくれるの?



ああ、ダメだ。

心がぐちゃぐちゃになって今にも泣き出してしまいそうだ。


いいのかな? 私は……君の隣に居て……君のことを信じてー



『うわ……傷モノじゃん……気持ち悪っ』



っ!!



『あいつ顔だけはいいから一芝居打ったけど、体に痣とかあって萎えた。女として欠陥品』


『つーかただの地雷女でしょ』


『ウケるよなー!! ずっと守ってやるとか言ってる最中どの口が言ってるんだよって吹き出しそうになったわ!』


『やることやったらすぐ捨てるつもりだったもんね〜?』


『おいおい〜本当のことだから何も言えないぜ〜』


『きゃ〜さいてぇ〜』



頭痛と共に過去の出来事がリフレインする。

ああ、ダメだ。

息が苦しい、身体、動かせない。苦しくって。

光樹くんとなら……って一瞬思ったけど、やっぱりこうなっちゃうのか……



最後の最後で過去のトラウマがそれを否定する。



「……無理だよぉ……無理なんだよぉ……ここまでしてくれても……私は……」



弱々しくふるふると首を振った。



「わ、私……の元彼と別れたあと、偶然聞いちゃったの……1年前のいじめは元彼の告白が成功するためにやったんだって……私がいじめられてたのも、それを助けてくれていたもの全部作戦で……演技だったんだよ」



「…………『あいつ顔だけはいいから一芝居打ったけど、体に痣とかあって萎えた。女として欠陥品』って笑いながらいじめっ娘達に言ってた」



嗚咽で掠れながらも言葉を続ける。



「きっと和谷君は分からないよ……『ずっと』とか『守る』とか信じていた言葉が実は嘘で……自分の感情も騙されて生まれたもので……もう……何も信じられなくなってっ!!」



「いつか……っ……和谷君が私のそばから離れて行った時にっ……言ってくれた事……全部嘘だった時……その時、私……耐えられるのかなって……だから、私は君の事……信じたくても信じることが出来ないんだよ……ずっと」



ごめん、やっぱり私はダメみたい。

私にとって過去は……過去じゃなくて自身を縛る大きな枷だった。



「じゃあ、出来るだけそばにいるからずっと信じてくれなくていい」



「……え?」



「信じて欲しいから一緒に居たいわけじゃない。だから一生疑ってくれて構わない」



涙を堪えながら突きつけていたライターを手放し脱力したように両腕を下ろした。



「そこはっ……ずっとそばにいるからって……言えよぉ……ばかぁ……」


「そんなこと言ったら美森先輩は傷ついちゃうでしょ? それにそれは言葉なんかじゃなくてこれからたくさんの時間をかけて証明していくよ」



光樹くんは落ちていたライターを拾い上げ、右手はライターを左手は要らないと投げ捨てた合鍵を差し出した。


どっちを取るかは私次第だ。


このまま……二人でここで終わるか。

光樹くんを信じて……この先を生きるか。


もういいって思ったのに。

ちゃんと諦めるつもりだったのに、私の準備はできていた筈だったのに。


ああ、ダメだ。思い出すな。


どうして……こんな時に楽しかった思い出が溢れるように蘇ってくるの?


二人でお菓子を食べながら映画やアニメ、ドラマを見てあーでこーでと二人で感想を言い合いしたり。

学校の帰り道でクレープとか買って一緒に食べたり。

一緒にご飯作ったり。

朝、起きたらおはようって言い合って。

夜、寝る時はおやすみって言い合って。


そんな当たり前の……私にとっては当たり前じゃない日々が次々と溢れ出した。



「……君の家に行ったのもほんの気まぐれで、都合の良い一時的な宿代わりだったけど……段々と……君の隣が居心地が良くなって……思い出したの……一人ぼっちは寂しい」



気が付くと楽しかった。

眩しいくらいに毎日が輝いて、モノクロのようだった世界も段々と色づいてきて。


私も……それを受け入れていて。


そしてここ数ヶ月の毎日はこれまでの人生とは比較にならないくらい楽しかった。

すごく、嬉しかった。


だから……


私はゆっくりと手を伸ばし鍵を握りしめた。



「光樹くん……わ、私……ずっと……君の隣に居ちゃあ……だめですか?」



溜まっていた涙がつうと頬を伝う。

溜まっていた心の奥底で蓋をしていた本心が剥き出しになった。



「最初から、いいって言ってる」



鍵を大切に握りしめながら子供のように泣き出す私をみっちーは優しく抱きしめた。







桜が満開に咲き誇っている坂をゆっくりと一人で登った。


何百回、何十年登っている桜のトンネルの坂。

この坂を登りきった先に見晴らしがいい展望台がある。


私、大崎美森にとっては人生が変わった思い出の場所。

時が過ぎ、おばあちゃんになってもここは変わっていなかった。


はぁ……流石にこの年になると坂を登るだけできついねぇ……


息を切らしながら登りきって見えたのは満開に咲き誇った大きな桜の木と



「あ!! おばあちゃん来たー!!」


私の3人の孫たちがこちらに手を振っている姿。


少し遅れて3人の母親である娘がこちらに気づき手を振る。

隣にいる娘の夫が頭を下げた。


家族水入らずというやつだ。



「おじいちゃん、さっきまで遊び相手してたから疲れてベンチで休憩してる」



孫が指さした先に光樹が疲れている様子で座っていた。

お疲れと声をかけ隣に座る。



「はは、流石に年かなぁ」



そう言いながら目の前で遊んでいる孫達を見て笑った。



ここまで、長いようで短かった。


恋人になって、夫婦になって、母親と父親になって、とうとうおじいちゃんとおばあちゃんになった。


毎日が楽しいだけじゃなかった。

喧嘩をして1週間くらい口を聞かなかったりもした。

だけど、たくさん一緒に泣いたり、一緒に笑った。


あなたはいつも優しくて。


結婚する時も和谷じゃなくて大崎の方を残してくれた。

大崎という姓は唯一残された私とお母さんの繋がりだったから。


たとえ、暴力を振るわれていたって、嫌われていたって、私にとっては唯一の母親なんだ。

代わりなんていなかった。


だから、大崎でなくなることに少し寂しさを感じていた。

あなたはそんな私の思いを分かっていてくれていたのね。



『これからたくさんの時間をかけて証明していくよ』



貴方はあの日の言葉通りいつもそばに居てくれて、たくさんの時間をかけて孤独も寂しさも過去も全てを蹴散らした。



「ん? どうかした?」



そう言っていつもの優しい笑顔を向けてくれる。



『ずっと』という言葉が好きじゃなかった。


だけど貴方のおかげで好きになれた。



「愛しています。これからもずっと」



桜の花びらが春風で舞い散りる中、シワシワになった手を重ねながら言った。









最後まで読んでいただきありがとうございます!


「面白かった」と思ったら


下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。


面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


ブックマークもいただけると本当にうれしいです!



こちらは主人公視点になります! 是非お読みください!!


https://ncode.syosetu.com/n9866hl/





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] (´;ω;`)
[良い点] 地獄のような日々を過ごした 彼女が本当の幸せを手にいれることができて良かった。 末永くお幸せに… ( ;∀;)
[一言] (´;ω;`)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ