第7章 空島世界 10~様々な想い
ちょっと遅くなりましたorz
第7章 空島世界 10~様々な想い
●S-1:アレキサンダー男爵領/男爵邸
男爵邸の廊下を二人の男が歩いていた。
急ぐでもない、立ち止まるでもない。
のんびりと世間話をしながらだった。
このところ忙しい男爵家の面々には珍しい。
二人はクローリーとマーチスであった。
この組み合わせもまた珍しい。
「クローリーさんがワタシをご指名とは不思議なこともあるものですネェ」
マーチスの疑問は当然だった。
彼はクローリーの仲間たちの中では今一歩外様のような立ち位置なのだった。
集まる時には普通にいるものの、個別にという場面は記憶にない。
「そーっスかね?」
クローリーにはそんなつもりはなかったのだから、困ったように首を傾げた。
「むしろアンタだからこそなんスけどな」
「ホゥ?」
今度はマーチスが首を傾げる番だった。
「アンタは異世界召喚者のエルフたちの中で少し毛色が違うんスよな」
「そうですかネェ?」
「なんつーか。偏りが少ないんスよ」
「ハァ?」
マーチスは眉を顰める。
「一番偏ってる気がしますがネェ」
「そーでもないっスな。例えば……」
クローリーは仲間たちの顔を思い浮かべる。
「さにゃは頭は悪くないっぽいが、そっちの世界の基礎教育の知識しかないって話っスな」
「中学生でしたしネェ」
「ヒンカ婆ちゃんは博識っぽいんスが……知識の得意分野がどーも偏在してるっス」
「まあ、そうかもしれませんネ。歴史とかには詳しいようですが」
「賢者は……独特のスタイルっすから」
「サブカルには強そうですがネェ」
「ルシエはそもそもそっちとは違う世界から来たようっス」
「ケモミミは至高の存在デス!!」
「……で、ラベルはなんか、こう……」
「武闘派みたいなものデスから。むしろシュラハトさんに近いかも知れまセン」
「んで、そこに行くとアンタは」
クローリーがマーチスの鼻さきを指さした。
「アンタはその誰とも話を通じることができる広さを感じるんスよ」
「おや」
マーチスは少し困惑した。
「ワタシは雑学家だからでショウ。強いて言えば……人に学問を教える立場だった分だけ緩いのかもしれまセンが」
「だから、アンタにしか訊けないこともある気がしてたんス」
「買い被りデス」
「ん-。いや、訊きたいのは知識的なことではないっス」
「ホウ?いったい何を?」
「エルフの……この場合アンタらじゃなくて空島エルフのっスが、ルゥが言ってたんスよ」
確かにどちらもエルフ呼ばわりでは判り難い。
「話が飛びますネェ」
「いや。こっちが本題なんス」
クローリーは一瞬、逡巡した。
「ルゥが言ってたんス。異界の門があるって」
「異界の門?」
マーチスも一瞬、考える。
言葉の意味をどう解釈して良いかを迷ったのだ。
言葉通りに考えるならば……。
「それは異世界召喚の魔法と関係ある話なのデスかネェ?」
「ちょっとばかり違うっスな」
実のところはクローリーも半信半疑なのだ。
「異世界との行き来ができる扉のようなモノらしい?っス」
「ハハァ……」
「それを儀式魔法で一時的に作るのが異世界召喚魔法なんスが、今の魔法技術ではこちらへ呼び寄せるだけの一方通行なんス」
クローリーは召喚魔法の儀式のことは知っていても詳しくはない。
何しろ、基本は魔術師としては落ちこぼれに近いのだ。
知識はあっても触れたわけではない。
「あー……ということは、アレでスナ。一方通行ではなくて相互に行き来できるという意味ですカナ?」
「そう、らしいっス」
「それはまた便利極まるモノですネエ」
確かに都合が良い。
しかし、それ故に疑問は残る。
「それならもっと相互の交流が起きても不思議ではないはずデスが……何かワケありっぽい感じデスネェ」
「そこまでは聞くことが出来なかったっス。続きは再会してからっスな」
「……それでワタシに訊きたいことが見えまセンが?」
クローリーの話は回りくどいような印象を受けた。
これもまた珍しい。
「単刀直入に訊きたいっス」
クローリーはいつになく真剣だった。
「つまり、こちらからそちらの世界へ行けるとなったら……アンタは戻ってみたいっスか?」
「なるホド……」
マーチスにも少し理解できた、気がした。
「どちらかというとワタシがではなく、沙那さんたちがどうするかを知りたいのでショウ?」
マーチスが悪戯っぽく笑う。
「まー……そーっスな」
クローリーはとぼけた。
「それは各自によると思いますネエ」
マーチスは頭を掻いた。
個人によって立場や事情が様々なので、予想はできるが判断はしかねるのだ。
「ただ、ワタシに関してなら……戻る気はないですネエ」
マーチスは自分の左手を撫でた。
切り落とされてしまった肘から先は精巧な義手である。
「一見するとここより遥かに進んだように思えるワタシの世界でも、この腕は治せまセン」
左手の指を動かして見せる。
「ワタシたちの世界の科学ではも未だに実験段階でしかない自在に動かせる義手ですが、こちらでは魔法を使って作って貰えましたしネェ」
マーチスの義手はクローリーの泥人形自動人形の魔法技術によって、本来のもののように動かせるようになっていた。
完全に生来のものというほどではないが意識して動かすことが可能だ。
自分の意志に合わせて動かすという点においては魔法技術の方が優れているのだった。
「このせっかく見事に動く腕が、あっちの世界でも魔法通りに動くか自信はありまセンからネェ」
贅沢にミスリル鉱を使っていることを考えてもこの世界限定になるかもしれないのだ。
「それを考えると戻る気はないですネエ。それにここならクローリーさんちで衣食住が保証されていマスし」
「そっか……」
「ヒンカさんもこちらの世界の魔法で転生を受けたそうなのでワタシと事情は似たり寄ったりでショウ。ラベルさんは……戻っても殺し合いの世界ですし難しいところでショウ」
ラベルは革命後の混乱で国が荒廃しゲリラともテロリストともつかない世界をしていたのだ。
マーチスが知る限りその戦乱は40年以上になるはずだ。
生まれたころには戦いが当たり前の世界に生きてきて、それに厭きないとはとても思えなかったが。
「ルシエさんは事情が判りませんが半々というところでショウ。ワタシ的にはケモミミ美少女はいなくなって欲しくありまセンが」
ルシエは自分の背景をほとんど人に話していない。
何よりマーチスとは全く別の世界から来ているのだからメンタリティも違うかもしれないのだ。
「ただ、沙那さんは……戻りたがるかも知れまセン」
クローリーの顔が僅かに強張る。
「彼女はまだ子供に近い中学生という立場でしたし……なによりこの状況を夢の中の出来事として捉えてるフシがありますので……望郷の想いは強いかもしれまセン」
「……そーっスかー……」
賢者が忘れ去られているのは、どちらの世界でも引き籠り生活には変わりないからであろうか。
「ただ、ワタシは少し疑問があるのデス」
「?」
「異世界間の往来が可能かどうかは何とも言えないのですが その先がその人のいた元の世界である保証はあるんですカネエ?」
「……どーいう意味っスか?」
「いえね。ワタシもいっぱしのオタクですから判らなくはないのですが……色々と矛盾命題があると思うのデス」
マーチスは足を止めずに言った。
彼は彼なりの世界の考察をしていたのだ。
「異世界が存在するというのはワタシの世界にも良くあるフィクションの定番ネタでもあるんですが。とてもよく似た進化や歴史を持っているものの微妙に違う進み方をした世界が平行線上に存在するっていうことが多いのデス」
マーチスはクローリーの表情を確認するように語った。
この世界も彼の世界も人間のメンタリティが良く似ている。
科学や魔法などの技術の進化がまったく違うのにも関わらず、だ。
同じ世界でも人種や民族あるいは宗教が違えばメンタリティも大きく違ったりするものだ。
それが大きな違いが無いことにマーチスは疑問を持っていたのだった。
「意外と……と言っては何ですガ、特定の世界同士しか繋がっていないと仮定すれば……可能性はあるとは考えられますでショウ」
マーチスのはやや希望的観測だった。
だが、想像を裏付ける材料はあったのだ。
「何故そう考えたかと言いますと……ワタシ、沙那さん、ヒンカさん、賢者さん……これまでの話からするとですネェ世界の情報がそっくりと言うべきでしょうか、誤差が少なすぎるというべきでスカ……ほとんど同一としか思えないのデス」
「……そうなんスか!?」
クローリーが目を剥いた。
「待つっス!今のは聞き捨てならない話っスよ?」
「おや?……何がデショウ?」
「アンタの言いっぷりからすると、異世界はいくつか存在するとか言う単純な話じゃなくて無数に存在するって聞こえたっスよ?」
クローリーが驚いたのはもっともだった。
彼ら魔術師の知識として異世界の存在はかなり昔から認識されている。
ただそれは、この世界に国や地方領主が存在するようにぼんやりとした幾つかの勢力世界があるというものであった。
例えば、悪魔の支配する世界、神々の支配する世界、勇者たちが集まる世界など……何かしらのテーマを基に存在しているという多元宇宙論なのである。
しかし、マーチスの話は違う。
僅かだが差異のある無数の世界が存在し、仮にAという世界に沙那が存在したとして……Bという世界にもほとんど同じ容姿で性格の沙那も存在する。
同じようでどこか違いがある。
ほんの小さなことかも知れないがほとんど同じなのに、どこか違う存在がある世界が可能性の数だけ存在するかもしれないということなのだ。
「……ドッペルゲンガーみたいっスな」
クローリーたちこの世界の冒険者にとっては自分とほとんど同じ見た目の魔神として知られる存在だが、まさにそれ自体が魔神ではなく違う世界の自分の姿である可能性などが想起されたのだ。
「それじゃアレっスか。召還を続け捲れば第2、第3のさにゃが現われたりとかもするんスかな」
もちろんあくまで可能性だ。
無数に並行世界が存在していればという仮定ではあったが。
「サァ?そこまでは判りまセンが。あり得ない話じゃなさそうですネ」
マーチスが話したのはあくまでも自分個人のサブカル的な趣味の知識から紡ぎ出した予想図でしかない。
「ワタシの世界にはそもそも魔法はなく、異世界召喚などもできませんでシタから。異世界の存在を事実としてご存知のクローリーさんよりも理解度は低いのデス」
マーチスは肩を竦めた。
自分自身も異世界に飛ばされたという体験があるだけでしかない。
何度も行き来すれば別だがまだ一度しか経験はないのだ。
判るわけがない。
「ってことはー……一つ一つ検証していくしか何も判らねーってことしか判らねえんスなあ」
クローリーは大きく伸びをした。
少し力が抜けたのだ。
「何も判らねーことに気付いたってだけなんスな……」
「それは互い様デス」
マーチスはこの他愛もない会話を喜んでいた。
どこか仲間たちとゲームの攻略をしているような気分だったのだ。
●S-2:男爵邸/中庭
「なあに?これ」
マリエッラは小さな小瓶の中に入った白いものを眺めていた。
沙那が持ってきたものだった。
何と形容すれば良いのだろうか。
僅かに黄色味がかった獣脂のようにも見える。
独特の匂いが少しきつい。
いや。確かに脂ではあったのだ。
「カカオバターだよー」
沙那の声は明るい。
「これで美味しいチョコレートができるのー」
満面の笑顔だ。
マリエッラは少し首を傾げる。
「チョコレートってこの前、ヒンカさんが試作品もってきたわよねえ?」
「うん。それー。美味しかったでしょー?」
マリエッラはその時の食感を思い出す。
体験したことのない歯触りと砂糖の甘味が思い出された。
「そうねえ」
「でも、あれは油が代用品だったからー」
沙那がふふんと人差し指を左右に振った。
「それがココアバターになったらさらに美味しくなるんだよー!」
本物の味を知ってるからこその自信だった。
沙那からすれば駄菓子屋のチョコからちょっとお高い高級チョコにグレードアップするようなものだ。
「抽出が大変だったらしいんだけどー、何とかなかったみたい」
「へぇ。ならちょっと期待してみたいわねぇ」
マリエッラが微笑む。
沙那が考案した食べ物はだいたい美味しかった。
次は何を言い出すのか期待してしまうところはある。
ただ、沙那の求める食物はお菓子が圧倒的に多かったが。
「えへへー」
沙那は不釣り合いに大きな胸を張った。
「あ。でも、これ、お肌にも良いんだよー?」
「お肌?」
「そー。お肌のお手入れになる化粧品の材料にもなるんだよー」
「あらぁ」
マリエッラには食べ物が化粧品になるという発想はなかった。
この世界ではむしろ牛の尿が化粧品なくらいなのだ。
「うん。だからいっぱいできたら少し分け貰おー。若いうちからのお肌の手入れは大事だって、おねーちゃんが言ってた」
「へぇ」
沙那から家族のことが話題に出るのは珍しい。
姉がいたのだなと判ればなるほど、沙那がマリエッラに懐くのも理解できる。
「何歳くらい離れてるのぉ?」
「んー。5つ違いだからー……マリちゃんと同じくらいじゃないかなー?」
「あら。あたし、そんなに若く見えるのかしらぁ」
マリエッラはくすくす笑った。
彼女に妹はいなかったが、もしいたら沙那のようなものだったかなと思わないでもいられなかった。
「でもぉ、お菓子だと結構高くなりそうよねぇ」
「そこっ!」
沙那がぴっと指を立てた。
「大量生産して子供でも買えるくらいにするのが目標だよー!」
「子供でも?」
「そー!」
沙那の鼻息は荒い。
彼女のいた世界では子供がお小遣いで板チョコを買うことも当たり前だったのだ。
しかし、この世界ではその日の食事も困難なのが普通だった。
クローリーたちの頑張りによって男爵領内では充分な食料が供給されつつはあったが、お菓子などはまだまだだ。
やっと屋台でモノが買えるくらいにはなりつつあったが、焼芋などがせいぜい。
もう少し色んな……特に甘味は充実させたいところだった。
「みんなに行き渡るくらいが理想かなー」
誇らしげに胸を揺らす少女が愛おしく見える。
この少女は自分の我儘や欲望だと言いつつも多数と利益を分かち合おうといているからだ。
自分だけで独占しようという思いはなく、みんなで笑顔になろうとごく自然に考えているようなのだ。
例えるならケーキが1ラウンドあったとして、それを独占するよりは人数分切り分けてみんなで幸せになろうというようなものだ。
1ラウンドで足りなければそれを2……3……いや、もっと多く用意しようとするのだ。
それが異世界の常識なのか、それとも沙那という個人の特質なのかマリエッラには判断しかねるが、どちらにしても好意的な印象を抱かせる。
もしもこの世界の人々の多くが沙那の様であったのなら……。
争いも搾取も格段に少なくなるだろう。
そう思うと自分や姉ルチアの境遇も違ったものだったろう。
「そのお肌の、化粧品も安く作れるようになると良いわねぇ」
マリエッラは心底そう思った。
多くの農民たちは厳しい農作業や重労働で肌も指先もボロボロになることも珍しくない。
石鹸の普及や温水が使えることによって劇的に改善されつつあるものの、一般的に化粧品を使うことはほとんど考えられないのだ。
それが、もしかしたら……価格が下がって買えるようになれば?
想像するだけでも素晴らしいことだった。
人間が実用品だけで生きていけるわけではない。
多少なりとも何かの贅沢が希望を与えるのだ。
少なくともマリエッラはそうだった。
クローリーとシュラハトと出会わなければ絶望の中で死んだように生きていたに違いないのだ。
沙那の奇特な行動や考えは、そこに光を灯すように感じられた。
「そりゃそーだよー。便利なものや綺麗なものとか色々増えていくとー……何か色々進んでいく感じで楽しいでしょー?」
にぱっと満面の笑みを見せる。
「そーそー。ラベルちんが電気をどうにかするって言ってたしー。これからどんどん変わるハズだよー!」
「電気?」
「そー!電気が使えると色んなものが作り出せるようになるしねー」
「へぇ……」
沙那が言っている電気は単純な明かりや熱という意味ではない。
電気を使うことで化学変化を起こして新たな……というよりは必要な物質を作り出すことが目的なのだった。
彼女の生活していた世界では電気は想像以上に様々なことに使用されていた。
電気なしには社会が成り立たない程だ。
事実、沙那のいた世界の技術の進化は発電が行われてから爆発的な発展をしたのだった。
「クラフト・ゲームみたいだよねー」
「クラフ……ゲーム?」
「そー!ボク、そういうの大好きでー……」
そう何か良く判らない話を始める沙那の姿に眺めながらマリエッラは思った。
面白そうだからとノリと勢いでクローリーと沙那をくっつけようと考えていたマリエッラだったが、それは間違っていなかったのかもしれないと。
風変わりな領主のクローリーと異世界の常識や知識を持つ沙那の組み合わせは、意外と多くの民衆に福音を齎しそうに見えるのだ。
少なくとも富を独占しようとするのではなく、多数の人々と共有しようとする為政者はなかなかいない。
もしかしたら世界を変える勢いになるかも知れない。
私腹と自己保身ばかりの教会や帝国中枢とは比較にならない。
血に染まったものではない『革命』が起こせるかもしれない。
マリエッラはそう思わずにはいられず、また、そう願いたかった。
●S-3:空のどこか/通報艦エーギル号艦橋
「4時方向!上空!正体不明物体接近!」
「推定距離7000!」
「正体不明とは何事だ!3秒以内に確認せよ!」
アイリが鋭く叫んだ。
だが焦っている様子は見せない。
努めて冷静さを保とうとしているのだ。
「副長!降下角度10!最大船速!」
確認報告より先にアイリが命令した。
もちろん勘だが間違いはないという自信があった。
襲撃を受けるのは彼女の想定内でもあったからだ。
エーギル号の決して大きくはない翼の動翼が重々しく作動し、前後の気体のバランスを調整する。
「手の空いている者は艦首に走れ!」
10人ほどの乗員が甲板を前の方に走った。
飛行船で前後を素早く変化させるのに最も効果的なのは重量物の移動なのだ。
人間が一人……仮に60キロと仮定して、10人移動すれば600キロの重量が動くことになる。
これが数秒の出来事ならば船体のバランスは大きく変わる。
エーギル号はその巨体をわずかに前傾させて加速を始めた。
「ドラゴン!敵来襲!」
「……判っていたさ」
アイリが小さく嗤う。
緩降下することで水平飛行よりも速度は上がる。
高度は位置エネルギーである。
高度と引き換えに位置エネルギーは重力加速度を得た加速となって、本来の速度よりも上昇する。
可能なら急降下すべきなのだろうが、それは船体が耐えられない。
それでも飛行船では可能な限りの加速だった。
「敵数、4体!」
「応戦しますか!?」
副長が上ずった声で訊いた。
「いらん」
アイリは短く答えた。
「逃げるのが先だ」
ドラゴンから速度で逃げ切れるかは微妙な所ではった。
「……ん。が、煙幕は焚いておけ」
「は!」
副長は小さく敬礼した。
「煙幕発生装置作動!」
「煙幕、アイ!」
部下たちも応答は早い。
「さあて……ここからが腕の見せ所だ」
彼女は軍人であり指揮官だった。
弱気を見せるわけにはいかない。




