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1章 エルフ?な不思議少女~9 第一のエルフ

9 第一のエルフ


 印象のないメイドにクローリーたちは部屋に案内された。

「わー。なんかすごーい」

 沙那はかなり驚いた。

 今までのどのベッドより清潔そうだったからだ。

 ノミやシラミの心配はしなくて良さそうだった。

 彼女が通されたのは来客用寝室だったのだが豪華さとは無縁なものの隅々まで掃除が行き届いていうように見えた。

「まさかクロちゃんが偉い人だったなんてねー」

 ぼふんとベッドに転がる。

 この夢の中で初めて感じるまともなベッドだ。

「…………なら、なんでボクをここに連れて来たのかな?」

 そこにドアがノックされた。

 ドアの向こうからマリエッラの声が聞こえた。

「さにゃちゃん?クロと一緒に離れに行くわよぉ?」

「マリさん?……離れって何ー?」

「たぶん行けば分かると思うけどぉ」

「……うん。今行くー」

 持ち物がほとんどない沙那には準備するものがない。

 胸のリボンを指先でちょっと整えるのが精いっぱいだ。

「……でも、なんだろー?」



 クローリーに案内された離れは小さな建物だった。

 元々は倉庫に使っていた蔵の一部である。

 ただ、それよりも沙那には特に目を引くものがあった。

 漢字で書かれた大きな木の札が下げられていたのだ。

 『秘密要塞戦略研究所』

 全くもって意味不明だったがこの夢の中で初めて見る日本語だった。

「おー。入るっスよー」

 クローリーが声をかけて無造作にドアを開ける。

 一瞬、むわっとした生温かい空気が流れ出る。

「お~~。クローリー殿か?久しぶりであるな、ブフゥ」

 小太りの男が振り向いた。

 部屋の中は痛みかけた食べ物などが転がっていて散らかり放題だった。

賢者(セージ)殿もご壮健そうっスな」

「今日も色々研究中でござるよ」

 中にいたのは若い男だった。

 肌の艶からすると20代?といったところだろうが雰囲気に若さはない。

 明るい金属光沢の銀色の髪がエルフであることを示していた。

 伸ばし放題でバサバサの髪をバンダナで縛り、レンズの大きな黒縁の眼鏡。

 色褪せたTシャツは弛んだ贅肉ではち切れそうだった。

「そのオーガ娘の柄、もう擦り切れかかってるじゃないスか。新しい服用意するっスよ」

 元はナイスバディで可愛らしいオーガらしい娘の絵が描かれていたらしいが大分薄くなってしまっている。

 沙那はなんとなく見覚えがあるような気はしたが、それが何かは思い出せなかった。

「構わないでござるよ。ブフゥ」

「さにゃ、紹介するっス。こいつが賢者(セージ)っス」

 クローリーは沙那に振り返って紹介した。

「んで、賢者(セージ)殿、こっちが最近拾ったエルフのさにゃっス」

「お?」

 賢者(セージ)は沙那を見た。

 ガン見である。

 濁った瞳で、息が荒い。

「おおおおおお!?それは帝邦の新しい制服でござるな!?ブヒィイイッ!しかもセーラーということは中等部!ブフブフブヒイイイッ!」

 くわっと目を開く。

「……ということは日本人でござるな。ブヒフフ!髪の色は違っていても、そうでござるな!?」

「あ、うん……そうだけど…」

 ぐいぐいと身を乗りだす賢者(セージ)の勢いに沙那は後退る。

「お。じゃあ、2人は同じ国の人だったっスか?」

「そのようでござるな!グヒイヒヒ」

「その日本っていう国はどういうところなんスか?」

 クローリーは沙那に尋ねる。しかし、返事をしたのは賢者(セージ)だった。

「とても裕福な国でござる。現在はGNP……国民総生産が世界2位といわれているが1位との差は僅かで間もなくアメリカを超えて世界1位になろうかというほどでござる」

 賢者(セージ)は大きく胸を張った。

「………え?」

 沙那は首を傾げる。

 彼女の知る日本はGDP(国内総生産)が世界3位でアメリカと比べたら数分の一である。

 一人当たりGDPに至っては先進国で最下位という体たらく。

 失われた30年といわれる長い構造不況の真っただ中である。

「大学生が高級外車を乗り回していて、BMWが六本木カローラなどと言われるほどでござるブフウ」

 沙那が柳眉を寄せた。

「聞いたことない……」

「そんな世界からここに飛ばされて残念な気持ちもござるが。拙者もこの世界に来てクローリー殿に三顧の礼をもって迎えられた以上、この無限の知識と知恵で全世界に名を轟かせようと思うでござる!」

 むはー。と鼻息荒い。

「それが下水道……なのー?」

「おお。さっそく拝見されたか。この深慮遠謀、読みの深さを先々知ることになるグフフウィ!」

「……えっとー。下水が……?」

 沙那は首を捻る。

「さにゃ殿なら少しは理解できるかもしれぬでござるな。……硝石でござるよ」

 賢者(セージ)はにやりと笑った。

「排泄物を集めて発酵させておけばいずれは硝石になるのでござるブヒィ」

「硝石……肥料?」

「発酵したものはもちろん肥料として使えてとてもエコロジーでござる。しかしっ」

くわわっと目を見開く。

「そこには硝石が発生するのでござる!そう。火薬の原料でござるよ!!ブヒブヒイ」

 賢者(セージ)は力説し始めた。

 自分の得意な話になると早口になるのは癖の様だった。

「火薬があればこの中世のような世界では強力な武器になるのでござる。爆炎魔法などがあるようだがそんなもの比較にならない破壊力!そして、鉄砲に大砲!」

 そして拳を突き上げた。

「圧倒的な軍事力で、まさにこの世界の諸葛亮孔明のごとく活躍できるというもの!ブヒャホエムハハハッ」

 息が荒い。

 そして臭い。

 加齢臭とは違う、体臭が臭うのだ。

 それは男子しかいない運動部の部室の臭いとでもいえばいいのだろうか。

 沙那はたまらず鼻を摘まんだ。

「本来なら空気から作り出せるハーバー・ボッシュ法もあるのでござるが。この原始的な世界では難しいようでござってな」

 ぶはははははっと高笑いする。

「おっと……中学生には難しすぎたでござるな?グフヒッ」

 賢者(セージ)は自慢げに腹を揺すった。

「その前にお風呂ぐらい入ったらー?」

 沙那はさらに首を傾げた。ほとんど真横だ。

「しかし……巨乳ロリ女子中学生とは……クローリー殿もなかなかやるでござるな!ブヒイイイイッ」

 賢者(セージ)はじろじろと沙那を舐めるように見た。

 彼は実のところあまり巨乳が好きな方ではなかったが、それはそれ、美少女は目の保養になるのだ。

「あ、うん……がんばってねー……」

 沙那はマリエラの後ろに隠れた。

 そのまま後退しながら秘密要塞研究所の外へと退散した。



「さにゃと同じ国の人だったんスなー。話は分かったっスか?」

 クローリーは困惑した表情の沙那に訊いた。

「ん?ん~~~~~~~~~~~~~~わかんないっ」

「どした?」

「同じ名前の国ではあるみたいだけどーなんか様子が大分違うよー?」

「そーなんスか?」

「少なくともボクが知ってる感じとは違う……」

 沙那は腕を組んだ。

 彼女はバブル期の日本のことは全くわからなかった。

 理解していれば賢者(セージ)が40年近く前の人物と分かったはずではある。

 歴史としても景気が良かったらしいとしか知らない。

「だいたいうちの制服は40年くらい前から変わってないって聞くしねー……」

「……そーっスか」

 クローリーは不思議に思った。

 同じ日本という名のとてもよく似た、しかし、異なる世界が多数存在しているのではないか。

 沙那と賢者(セージ)には少ないが差異があるのではないのか?

 この時、時間軸の違いについては思いついていなかった。

「あ、でも、言ってることはなんとなくわかる気はするよー」

「お?」

「硝石っていうのはー……たしか硝酸カリウムだから、あとはリンがあれば農業用の化学肥料になるの。それは確か」

「ほほー?じゃあ、爆炎魔法よりすごい爆発魔法っていうのは?」

「……火薬かあー。ボクはレシピ分からないから何とも言えないー」

「存在はするんスな?」

 クローリーはまだ見ぬ火薬という名前を心に刻んだ。

「それだけどね。その前に……お金がいっぱい要るんじゃないのー?」

「おっおっ……耳が痛いっスな」

「だからー、ボク思ったんだけどー」

 沙那はクローリーを見つめた。

「……その前に石鹸作ろー?買うと高いっていうから、いっぱい作って売ればお金になるんじゃないのー?」

「…………」

「だいたい石鹸ない生活とかヤだーっ!許せないーっ!それとお風呂とシャワーと冷蔵庫とトイレー!」

 クローリーはぽむと手を叩く。

「そんなに簡単にできるんスかね?」

「石鹸自体は元手はあんまりかからないはずー。ちょっとアブないけどー」

「費用が少ないならやってみてもいいっスが……」

 沙那はオリーブの木を指さした。

「油は大量に手に入りそうだしねー」

 微笑む沙那をクローリーは不思議な面持ちで見つめた。

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