第6章 エルフの船 4~ワタリダョ!全員集合!
第6章 エルフの船 4~異世界召喚者ダョ!全員集合!
●S-1 ぺんぎん海岸:通報艦エーギル
クロちゃんが呼び寄せたのは仲間全員と言ってよかった。
ボク、シュラハト、マリエッラ、賢者、ヒンカばあちゃん、マーチス、ルシエ。そして鍛冶師のガイウスっち。
あ。どうでもいいけどイズミちゃんも連れてきたよ。
「……多いな」
アイリさんが渋面で呟いた。
そりゃそーだ。
一応、簡単な説明はみんなにしてある。
「ヒンデンブルグ号みたいにならないと良いのじゃ」
ヒンカ婆ちゃんは懐かしそうに船内を見回していた。
それって100年くらい前に大事故起こしたやつだよね?
直接見てたりしたなら婆ちゃんは想像以上に婆ちゃんだ。
ボクもTVで歴史映像で見たことあるけど。
カラーで色付けされてるやつ。
「なるほどなァ」
シュラハトが何かに納得していた。
「どーしたのー?」
「ああ。いや。地上との接触を避ける云々って話だ」
「んー?」
「簡単なことだ」
シュラハトはでっかい背中を伸ばして笑った。
「飛行魔獣が来襲したときだ。俺たちはどういう感じだったか覚えてるか?」
「たいへんだったー……かな?」
「手も足も出ないって気になったろ?」
あー。それは事実だ。
どうしていいか判らなかったしね。
「あれと同じだ。空から攻撃されたら手の打ちようが無ぇ」
「うん」
「んなモン。帝国の王侯貴族が手に入れたらどうなると思う?」
「あっ!」
「あっちへこっちへ戦争仕掛けまくるだろーぜ」
そうか。そうなんだ。
クロちゃんと一緒だと気が付かないけど、領民に富を還元しようとする帝国貴族は皆無に近い。
略奪と地位向上に使うための武器にするだろう。
みんなの豊かさに繋げるよりも武器に転用したがる傾向がある。
異世界召喚者がどうして召喚されるか考えてみれば一目瞭然だ。
「悪用されないようにってことだろ」
そっかー。やるだろーなー。
ボクだって世界征服の野心とかあればやるかもしれない。
「地上人なのに変わっているのだな」
アイリさんが驚いたようにシュラハトを見た。
「何がだ?」
「地上人は強欲で好戦的と聞いていたのだが……」
「それは……合ってるぜ」
シュラハトは笑った。
ボクは詳しくは知らないけど、シュラちゃんは修羅場を歩いてきた人なのだ。
「俺だって地位や権力があったら悪用するかも知れないぜェ」
「なんだと!」
「ま、それは冗談だが。あんたらの言う地上人にも色々いるのさ。俺は喧嘩は好きだが戦争は嫌いな方でね」
「……ふん」
シュラハトは戦の専門家でもある。
色々思いつくものがあるんだろう。
不思議そうな顔をしているボクに説明してくれた。
「例えばな、手の出せない空から鉄炮を上からバラ撒いたらどうなると思う?」
「……反撃できない?」
「そうだ。数万の軍勢だって防げない。それにどんな大軍だって陣形をズタズタにできる」
「え、えーっと……」
「そうなったら、少ない軍勢でとどめを刺すこともできるし。城だって役に立たないしな」
「そっかー……」
「だから、迂闊に渡せないのも仕方ないさ」
ぽんぽんとボクの頭を撫でる。
たしかに。ボクの世界でも制空権を獲った方が圧倒的に有利だ。
空への対抗手段がほとんど存在しないこの世界では圧倒的になるだろう。
爆撃し放題。
「山を越えたり海を越えたりって交易に使うと便利そうなのにねー」
それに旅や冒険にはとっても便利だと思う。
飛行機よりも船に近いんだから結構快適かもしれないしね。
「そういう奴ばっかりだったら平和なんだがな」
その方が楽しそうだからなんだけどなー。
子供のころ読んだ童話とかには気球で世界を旅するとかあったのに。
あれは憧れたんだけどなあ。
実際、ボクがこの飛行船を再現できたなら空の旅がしたいよ。
大航海時代ならぬ、大航空時代なんちて。
みんな思い思いの船で空を飛ぶとか良さそうだけどなあ。
絵的にもカッコイイじゃない。
『世はまさに大航空時代!』ちゃーんちゃーんちゃーんってBGM付きで大昔のアニメみたいな映像が浮かんじゃうくらいだ。
「なるほどな。問題ないと思うぞ」
ドワーフの棟梁ガイウスが部品を持って頷いた。
手に持っているのは青白い光沢の……おそらくはミスリルでできた何かだった。
その形は一言でいうと剣のようだった。
大きさはナイフっていうか短剣?
でも両刃じゃなくて片刃っぽいかんじだから、8Q3の使う短刀っぽい?
ううん。もっと薄くて細長ーい何かなんだよね。
「それ何に使うのー?」
ボクが訊いた。
ここは空気読まない女子の面目躍如だ。
「推進機の部品だ。より薄い板材を船体表面にも使うが」
アイリさんは事も無げに言った。
と、いうことはきっとこっちには理解できないはずと思ってるからだな。
どーせ判らないだろうから言っても構わないと思ったのだろう。
でも、甘い。
「タービンブレードでスカ」
マーチスだ。
さすが元学校の先生で雑学王。
TVの雑学バトルに出たら優勝しそうな無駄知識の塊みたいなおじさんだ。
「な……!?」
「発電機よりもジェットエンジンみたいな感じでスネェ。大きさ的にもブレードがこのサイズということは直径が5~60センチくらいでスカ」
「えー?ジェット機なのー?」
「ああ。似て非なるものかもしれまセン。もしかしたらターボプロップかもとも思ったのデスガ」
「……お前、この世界の人間じゃないのだな」
アイリさんが驚く。
何処まで合ってるのか。いや、そもそもボクには何言ってるか判らないんだけどさ。
「ええ。だから異世界召喚者と言ったでショウ?あくまでワタシの知る範囲での仮定の問題なのデスガ」
「えーと……どゆこと?」
「飛行船は空気より軽いガスで浮かぶのですが、それだけでは浮かぶだけデス。前や後ろに進むために何かしらの動力が必要なのデスヨ」
「それは何となく判るけどー……」
「ワタシたちの世界ではエンジンでプロペラを回すことが一般的ですが、方法は何でも良いのデス」
ん?プロペラ?そんなの見なかったけどなー。
「ワタシの趣味で言えばプロペラがある方が程よくノスタルジックで良いのですが……直径1m弱のポッドが何か所かあるように見えましたので、おそらくは低圧のジェットやそれに類する噴射式の推進機なのだと予想するデスヨ」
「へー」
「気流に立ち向かえる力はあるのでしょう」
「でも、その小さい剣みたいな……ブレードってジェットに使うのー?」
「ああ……」
マーチスは何かメモが出来そうなものを探そうとして、諦めた。
丁度良い筆記用具が無かったらしい。
たぶん、絵にすると判りやすい系なんだろうね。
「タービンとかジェットというのは、そのような小さな羽根を車輪のように並べるのデスヨ」
「水車みたいにっスかね?」
「違いますが似たようなものデス。風車や水車も歯や羽が多い方が良く回るデショ?」
なーるほど。
「だから軽くするためにミスリルなんだー!」
「それと耐熱でショウ」
ボクたちに説明してくれるマーチスにアイリさんはかなり驚いているようだった。
ということは、外れていないってことだよね。
ううむ。飛行船はジェットじゃなくてもっとロマンチックなもので飛んでほしかった。
「あれ?……すると燃料は……?」
ジェット燃料はケロシン。白灯油ともいう。
マニアなオイルでもなんでもなく、キャンプに使うオイルランプやトーチの燃料でホームセンターで普通に売ってるのもその仲間だ。
でも、ボクが思ったのはそこじゃない。
石油が出る場所があるっていうところなんだ。
石油が手に入りやすくなれば世界が変わる。
発電しやすくなったり、いろんな化学物質が手に入る。
レーヨンが作れるようになれば高価なシルクじゃなくてもサラサラで軽い感触のぱんつ……もとい下着も作れる。
以前にヒンカ婆ちゃんが樽で石油を所持してたけど、あれは砂の国でしか産出されないので入手法を色々調べてるところだったんだ。
「そこまでは判りマセンが」
「魔素だ」
アイリさんだった。
泣き笑いのようにも見えた。
「お前たちには隠し事が出来なそうだな」
何か憑き物が落ちたような表情だった。
「我々の渦巻機関は魔素で動くのだ」
「う?」
「へ?」
「クロちゃん、出番だよー!」
「……何が何スか?」
クロちゃんがめんどくさそうな顔をした。
だって。魔素だよ?
魔法の分野じゃん。
というか、どういう効果があるのかも判らない。
ボクもマーチスも常識的な科学の範疇から外れたらお手上げなんだよー。
「いや。……魔素で何かの魔法的な現象を起こすのは判るんスが、それをどう何に使うかが分かんねーことには……」
あ。そっか。
ここは小学校理科の出番だ。
「熱はより温度の低……冷たい方へ移動する性質があるんだよー。だからそれを後ろに向けて噴出すと反動で前に進むことが出来るのー」
「……それはさにゃ世界のエルフ的な魔法の話っスか」
「うん。まー、そういう感じ……かな」
ということは石油じゃなくて魔素で空気を燃やして噴き出すって意味なのかなあ。
「燃やすわけではないよ。なるほど。世界毎に色々な魔法があるのだな」
アイリさんだ。
「魔素は流れに方向性を与える触媒なのだ。それによって空気の流れを制御して後方へ噴流として推進する」
「えーっと……?」
「簡単に言えば渦巻機関は魔素を空気と混ぜ合わせるためのものだ」
「ははあ。気化器みたいなものスナ。……むむ?すると燃焼させる必要がないのデハ?」
「加速の魔法かもっスな」
クロちゃんは疲れてきたのかヤンキー座りをしていた。
行儀悪いぞ。
「魔素は速度を上げる魔法でも使うっス。それ自体に流れを作る魔法を付加できるんスよ」
「何となくつかめてきましたヨ。まさに気化器なんですナ。空気に混合させることで加速させる対象である空気を増やすのデショウ」
「……どーゆーこと?」
「魔素それ自体で加速させた空気を吹き出すために……空気に良く混ざるようにコネコネするようなモノなのでショウ」
「……それ、ミキサーじゃん」
「そうなのでショウ。……あれ?ということは渦巻機関とやらには……面白い使い方ができそうデスネ」
マーチスは何かを思い付いたらしい。
ちょっと悪い顔になった。
悪戯を考え付いたワルガキのようだった。
「ん。でも、加速の魔法は高価っスよー」
でた。
クロちゃんの魔法は宝石とか貴金属とかあるいは入手困難な材料とかが必要なことが多いんだ。
安く使えれば色々便利なんだけどー。
洗濯の魔法でも大事だったしね。
「で、それをそこそこ安く作る方法をこのエルフさんたちは御存知で船を動かすのに使ってるんスな」
痛いところを突かれてアイリさんが眉を顰めた。
それって……もしかして。
材料が揃ってるボクたちなら同じものを作れる可能性が高いってことー!?
「そんな顔しなくても、悪さにはあんまり使う気はないっスよ。あんまり、ね」
クロちゃんもちょっと悪い顔だ。
いや、元々ちょっと悪い顔だけど。
「まあいいぞ。修理くらい手伝おうじゃないか。やる気が出てきたぞい」
ガイウスっちがパンと手を叩いた。
おっさん特有のやる時のポーズだ。
●S-2:ガイウス鍛冶工房
もはや鍛冶屋さんのレベルを超えてなんだか怪しい研究所のようになってる鍛冶工房では部品の作成が行われていた。
ミスリル製のブレードを幾つも作るのだけど、大きさや形状はもとより重量合わせが大変そうだった。
タービンのようなものは構造上重量バランスがとても大事なのだそーだ。
この大きさだと1グラムでもギリギリ許容範囲らしい。
そんな細かい重さを計測する方法はボクらにはないから、精密秤を借りた。
なんか1グラム誤差までで良いなら100均のキッチンスケールでも良さそうなんだけど。
ついでにこっちの大雑把な秤の錘を計測してもみた。
これでより正確になった……はず。
一連の作業で感じたのは、空のエルフの作るモノはとても精度が高い感じがした。
モノ作りではすごく重要なことだ。
ネジ一本でもつ作りの良し悪しは全体の精度に繋がる。
前にヒンカ婆ちゃんの銃をコピーできなかったけど、当時はそこまで精度の高いものを作る習慣がなかったからだった。
今回のことで技術力が上がれば頼もしい。
ともかくも、一つ一つ修理は進んでいった。
実は推進機よりももっと大変だったのは飛行船の外板だった。
気嚢を構成しているのがゴム風船でもなければ布のようなものでもないからなんだ。
なんと薄いミスリルの板でできていた。
ふにゃふにゃの風船じゃなくて硬い外殻のものを硬式飛行船っていうらしいんだけど、何が大変っていうと板と板を繋ぐ方法なんだ。
溶接……なんかはできないから、板と板の端を重ねてリベットで繋ぐんだけど適当なリベットがない。
繋ぐ時はそこそこ柔らかく、でも強度を求められるので大変だった。
なんか、ドワーフ族に伝わる秘法で何とかしたらしいんだけど……。
ボクたちには見せられないとかっていうんで、結局方法が判らなかった。
うーん。
ご飯粒とかじゃないよね?
2週間ほどして工事が完了しそうな時に、ソレは来た。




