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第6章 エルフの船 1~ボクはいまだに夢の中

第6章 エルフの船 1~ボクはいまだに夢の中


●S-1:男爵邸客室


 教会の鐘で目が覚めた。

 以前はなかったけど、クロちゃんにお願いして時報のように鳴らすと便利だよって言ったんだった。

 そして部屋は……もうすっかり見慣れたいつもの夢の中のクロちゃんちの客間だ。

 そう。ボク、花厳 紗那(かざり さな)はまだ夢の中みたいだった。

 いい加減ながーい夢見てるので、そろそろだれか起こしてくれても良いと思うんだけど。

 逆になかなか面白い夢だし、ボクもピストル持ってバキューン!って活躍してるアクション巨編だし、もうしばらく見ていたいなという気もする。

 ベッドの周りには4匹のぺんぎん人形が立っている。

 クロちゃんが作ってくれた……ゴーレム?の一種なんだって。

 ボクの護衛にってことらしいんだけど、可愛すぎてペットかに縫いぐるみに近いよねー。

 自分で動くから、ぺットの方が近いかな。

「きゅー」

 たぶん、おはようって意味なんだろーけど。


 扉が開く。

 あ、扉って言っても隣の部屋と続き間になってる扉ね。

「おはよう。起きてるう?」

 金髪のセクシー美女が現れる。

 マリちゃんことマリエッラさんだ。

 実はすごい神官さんなんだけど、なんかボクの面倒をいろいろ見てくれるお姉さん。

 ボクもおっぱいは大きい方だけど、マリちゃんにはちょっと負ける。

 お姉さんというかお母さん的な柔らかーい感じなんだ。

「おはー」

 ボクは目覚めがいい方だ。

 アラームが鳴るとぱっと目が覚める方で、ぐだぐだと布団に潜り込むタイプじゃない。

「今日はドレスにする?メイド服が良い?」

 ハンガーに掛かった服を見せてくる。

 この、ボクを着せ替え人形にするところは何とかして欲しい。

「ふつーのでー!」

「そーお?可愛くてぱんつ見えちゃうようなのが良くなあい?」

「良くないー!」

 いや。ボクも年頃なんでエロ可愛い服は好きな方だよ。

 でも、見せる相手がいーなーいー……。


「おー。起きたっスか?」

 廊下から聞こえてくるすっとぼけた声はクロちゃんだ。

 黒髪のまあまあ背が高いこの家……アレキサンダー男爵家の当主でもある。

 見た目はそう悪くないんだけどー……垂れ目が信用できないんだよねー。

 なんていうか。アニメの主人公……の友達キャラみたいだよね。

 いや。モブキャラかな?

 性格は、まあ……うん。

 どうでもいいけど、いつも着替えのときとかお風呂のときとかに登場するのはどうにかして欲しい。 

 もしかしたらドえっちで、ボクの裸を見ようとしてるんじゃないのー?

「女の子の着替えに入ってくるなー!」

 枕を叩きつけてやった。

 羽毛が宙を舞った。


「さにゃちゃんの肌にコーフンしてるのかもお?」

「きゅー!」

「やっぱ変態なんだー?」

「ちげーっス!」

 ボクはこのクロちゃんに助けてもらった……のが夢の始まりだった気がする。

 なんとか召喚の儀式で呼び出されたって設定のボクは戦闘力がなさそうだから要らないって捨てられかけたところをクロちゃんが拾ってくれたんだ。

 そういえば最初のときも水関係だったし、必ずボクのお色気シーンがセットなのは何故ー?

 あれから色々あって、そろそろ1年半。

 ボクは中学2年生14歳だったから、そろそろ16歳が見えてくる……という夢の中だ。

 いや。それならもうちょっとセクシー美女になっててもおかしくないのに、あんまり変わってないから間違いなく夢の中の設定なんだと思う。

 しかし、この夢の中の世界は面白いけど色々不便だった。

 物語によくある中世ヨーロッパ風ファンタジーな世界で、怪物とかも出てくるしね。

 今では多少は改善されたけど、食べ物が美味しくなかった。

 どこの町もトイレの臭いが漂ってて臭ーい!

 そういうのを何とかする感じで夢の中は進んできた感じ。

 

「なんでぇ。みんな起きてんか」

 廊下を歩いてくる声がする。

 シュラちゃんだ。

 クロちゃん同様の黒髪だけど体格は全然違う。

 長身でマッチョ。マッチョっていってもボディビルダーみたいなのじゃなくて、鍛え抜かれた軍人さんみたいな感じ。

 ぶっきらぼうでちょっと怖いけど、実は優しい頼りになるお兄さんだ。

 お兄さんというか……オジ兄さん?

 親戚にこういうお兄さんがいたら色々頼りになるだろうなーって感じの人だ。

 クロちゃんの相棒みたいな人で、マリちゃんと3人で冒険者をしていたって設定らしいよ。

 大きな剣を使う凄腕の戦士らしい。

 古強者って感じかな。

 タオルを首にかけてるから、顔を洗った直後なのかもしれないね。


「ほら。デカブツ。邪魔だよ。どくのじゃ」

 この、のじゃ言葉はヒンカ婆ちゃんだ。

 見た目はボクと同じくらいなんだけど、中身はお婆ちゃんなんだって。

 だからボクは婆ちゃんって呼んでる。

 すっごい物知りでアメリカで博物館?図書館?とかに勤めてたって言ってた。

 植物にも詳しくてジャガイモとかもだけど、ココアとかも植えてくれたんだー。

 ホットチョコレートを飲めるのもヒンカ婆ちゃんのおかげなんだよ。

 アメリカっていえば……この夢の世界の言葉は英語っぽい感じ。

 英語とは少し違うんだけど良く似てる。

 ボクは英語得意じゃないんだけど、何とかなってる。

 文字にキリル文字みたいのも混じってるところが困りものだけど、ローマ字発音でもなんとかなるのは助かってるー。

 って。夢の中なんだから日本語で良いのにねー。

 めんどくさっ。

「おはよー。ヒンカ婆ちゃん」

「お。おはようなのじゃ」 

「今日の朝ごはんはなあにー?」

「ポトフっぽい何かじゃったな」

 何かってなにー!?

 たぶん、お芋の煮込み料理なんだろうけど。

 この地域には最近まで芋類がなかったから試行錯誤中なのかもしれない。


「オヤオヤ。みなさん。お揃いデ」

 このちょっと発音が怪しい声はパー……じゃない、マーちんだ。

 パーチス改めマーチス。めんどくさい。

 まあまあおじちゃん……かな?

 学校の先生だったっていうボクと同様に異世界召喚者(ワタリ)だ。

 蛮族との戦いでボクやルーちゃんを庇って……左腕を失ったんだけど……あれ?ある?

「オ。これでスカ」

 マーちんは手袋をはめた左手を見せる。

「ガイウスさんの工房で作ってもらった義手でスヨ。なかなか良くできてるデショウ」

「う……うん」

「そこにクローリーさんの魔法でちゃんとそれっぽく動くようにもできてるノデス」

 そう言って、指をワキワキと動かした。

 う、動く!?

 数を数えたり食事でフォークを握るくらいできそうだよ。あれ。

「それにですネエ」

 マーちんはにやりと」笑った。

「ここには男のロマンが詰め込まれているのデスヨ」

「え?……男のロマン?」

「ええ。ロマンでス」

 マーちんの顔どこか誇らしげだった。


「ブホウ!男のロマン……それは萌えでござるな!」

 小太りなお兄さんの賢者(セージ)さんだ。

 ボクはセーちんって呼ぶけど。

 いつもは自分専用の小屋に引き篭っているんだけど、今日は珍しくこっちにも顔を出すみたい。

「その義手の中には美少女の妖精とかが住んでいて甘酸っぱい会話とかをするのでござろう?一人称が『うち』でおたくを『ダーリン』などと呼ぶと更に萌ええええええええええっ!でござる」

 何言ってるんだろう?この人。

 たまに、いや、ちょいちょい会話にならない宇宙語をしゃべるんだ。

 美少女なら今も目の前にボクやヒンカ婆ちゃんがいるじゃないかー。

「まさに男のロマンでござるよ」

 それ、ロマンじゃなくて馬鹿野郎(マロン)じゃないの?


「みんな揃って朝ごはんって珍しいよねー」

 ボクはほんとにそう思った。

 だいたいみんな自分のペースで生きてるから時間が合わないことが多いんだ。

 実際、ルーちゃんことルシエさんはここにいない。

 高速船スカーレット号で交易のために海に出てるんだ。

 色々便利なモノや珍しいものを仕入れてきてくれるからすっごく助かるんだけど。

 わりとボクのあこがれるタイプかも知れない。

 冷静沈着な美少女船長。

 しかも剣の腕も一流なんだ。 

 せっかく夢の世界なんだから、ボクもああいう強さがあっても良さそうなのにねー。

 たださあー。一言いいたいんだけどー。

「ボク、着替え中だから……みんな出てけーっ!」



●男爵領:城下町


 アレキサンダー男爵領っていっても、大した町はない。

 はっきり言って田舎町だ。

 外国風の石造りの建物は異国情緒を感じる素敵な雰囲気はあるんだけどねー。

 そこに急造の木造の長屋?が並ぶ。

 新しい住民たちのためのものだ。

 とにかく手っ取り早く、安価で、風雨を凌げる住宅ってことなんだけど。

 これが微妙に時代劇風で、ヨーロッパ風の街並みには似合わない感じがする。

 でも、活気がある。

 クロちゃんの領地経営は福利厚生第一で、低コストで生活できるようになってる。

 ボクが今まで見てきた帝国の街並みはどこもくらーい感じだった。

 税が高すぎて生活に余裕がないんだ。

 それに比べると、男爵領は税が安め。

 いや。違うなー。

 どかすか税をかけるより、累進性の高い税率なんだ。

 お金持ちほど多く取られるアレね。

 貧しい者からはすこーししか取らない。

 その分、住みやすく……家賃の安い公共住宅に他にはない上下水道や公衆浴場とか。

 良いことずくめなんだけど、実は早く豊かになっていっぱい税を納めてね!のためなんだ。

 中流市民層が多いほど国は豊かになるからね。

 ボクのいた世界がそう!

 歴史を紐解いても古代ローマや20世紀のアメリカや日本とか、豊かな庶民が多いほど経済発展したものだしね。

 ボクは生まれてなったけど、日本も昔は『一億総中流』とかっていって、人口の8割くらいは中流家庭だった時代はアメリカを買い占めることができるほどの海外資産を持っていたんだって。

 バブルっていうんだっけ?

 クロちゃんはそういうのを再現したがっているみたい。

 日本は何を失敗したのか一気にバブルが弾けちゃったらしいけど、上手くコントロールすればもっと緩やかに着地できるみたいなんだよねー。

 実際、隣の中国なんかはすごーく緩やかに景気の終息をさせてって、ある日いきなり大不況みたいにはなかなかならない。

 これはヒンカばあちゃんかマーちんに詳しく聞かないとかなー。


 とにかくも!今、男爵領は景気が良くなってる雰囲気がある。

 町のあちこちに屋台が立ってるし。

 お祭りの縁日みたいな感じもする。

 ルーちゃんたちが船で海外から仕入れてきたり、ヒンカばあちゃんが奨励してる芋類の栽培とかも順調なせいで食べ物に余裕があるせいかもしれない。

 この国は主食が小麦だしねー。

 実は穀物の中で小麦は収穫量があまり多くないんだ。

 意外かもしれないけどお米の方が作付け面積当たりの収穫量は遥かに多い。

 水田だとさらに水を流すことで土壌が痩せないから休耕することなく毎年収穫できたり。

 人口のわりにアジアの国がそこそこ食料を確保できる理由なんだねー。

 え?じゃあ、男爵領も稲作すれば?って?

 それはちょっと難しいんだ。

 お米は熱帯の植物だから、男爵領みたいに涼しい土地には向かないんだ。

 品種改良できれば良いんだけどねー。

 本来の稲作は日本が北限だったっていうしね。

 北海道とかでは難しかったものを品種改良で解決したらしーよ。

 そういえば、黄河文明は米じゃなく小麦文明だったしね。


 寒い地域や荒れ地でも栽培できるジャガイモとかはそりゃあ便利さ。

 おかげで今じゃ屋台でジャガイモが気軽に食べられるってわけ。

 ボク的にはトウモロコシの方が良いんだけど、そっちはまだなんだ。

 それでもルーちゃんが運んでくる硝石が肥料になるからいずれはできるかも。

 え?硝石は火薬の原料だって?ま、そーなんだけど。

 化学肥料の重要な三要素のうちアンモニアとカリウムが確保できるから硝石は都合がいいんだ。

 普通はそうそう手に入らないものって思うかもしれないけど、乾燥した地域にはたまに自然の硝石の鉱脈があるんだ。

 ハーバー=ボッシュ法っていうアンモニアを合成する方法ができる前は、チリ硝石とか天然の硝石鉱脈が有名だったみたい。

 高温高圧に耐えられる窯が作れれば合成可能なんだけど。

 今は技術的に難しいから蒸気機関の窯とか作って技術の蓄積をしてもらってる。

 

 ボクは10歳くらいの男の子が店番をしてる屋台で茹でたジャガイモとベーコンを油で揚げたモノを買った。

 値段は3センなんだけど、小銭がないので1ウェン銀貨で払う

 あ。センとかウェンは男爵貨幣アレキサンダー・コインの単位だよ。

 センは銅色で一番下のお金。

 男爵貨幣アレキサンダー・コインは陶器で貴金属を一切使ってないんだ。

 日本の硬貨だって銀貨なのに銀を使ってないのと同じ。

 セン=銅貨、ウェン=銀貨、テール=金貨という感じで、魔法で着色されている上に偽造防止用に魔法のサインが入れてあるんだ。

 クロちゃんの個人的なサインだから魔法で偽造もむずかしいはず。

 でも、それが本題じゃないんだ。

 ボクはわざと大きい単位のお金を使ったんだ。

 どういう事か判る?

 それはお釣りを出せるかどうかの確認なんだ。


 帝国世界は識字率が1割くらいで、基礎的な教育も行われていない。

 どーいうことかというとー……両手の指の数以上の数の計算ができないんだ。

 不思議に思うかもしれないけど、文字も書けないから帳簿なんかも付けられない。

 計算できないからお釣りも出せないんだ。

 だから帝国世界の庶民生活では金額はピッタリしか出しちゃいけない。

 計算できないと釣りが貰えないんだ。

 当たり前のようなことが、当たり前にできない。

 だから、クロちゃんは学校を作って義務教育化したんだ。

 ボクが子供が店番している屋台を選んだのは、学校の授業の成果の確認さ。

 果たして……。

 男の子はちゃんと7センのお釣りを出してきた!

 合格だ!

 こういうのもボクらの仕事なんだ。

 お腹空いてるからじゃないよ?


 ボクはジャガベーくんを齧りつつ街を歩く。

 少しづつ発展していく風景が楽しい。

 ところどころに井戸を掘った時に出たメタンガスを利用したガス灯が見える。

 元が湿地帯だった土地と川を利用した小さな運河を小舟がゆったり進む様子は、どこか修学旅行で行った倉敷みたいだった。

 このミスマッチな風景は飽きない。

「きゅー」

 ボクの腰くらいの背丈のぺんぎんたちが何か言いたそうな鳴き声をあげた。 

「あ。そっか。ボクだけ食べてるからかー」

 ボクは腰のポーチから小魚ビスケットを取り出した。

 いちおー、ボクのお手製だぞ。

 しゃがんで、ぺんぎんたちにおやつを与えた。

 この長閑なスローライフな夢はいつまで続くんだろう。

 

 その時のボクはこれから起こる大騒動の予感なんて欠片も感じていなかったんだ。

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