5章 第一次辺境紛争~12 急襲!ダークエルフ(第一部最終話)
今回で第一部終了となります。
次回からは各章のあらすじと登場人物のまとめを書きます。
まとめが終わったら第2部になります。
また書式が変わりますが、よろしくお付き合いくださいませ。
12 急襲!ダークエルフ(第一部最終話)
●S-1:開拓村跡地郊外
その轟音と爆発は森に潜伏していたノワールたちにも確認できた。
何が起きたのかは判らない。
ただ、一瞬にして飛行魔獣が全滅させられたことは判った。
すさまじい威力だった。
「エルフの大魔法……」
そうとしか思えなかった。
エルフは明確な敵だ。
ダークエルフである彼女にとって遥かな昔に袂を分かったハイエルフたちは紛うことな敵なのだ。
そしてかつてハイエルフたちは人族に肩入れした以上、人族も敵だった。
「またしても人族に加担するのか……」
こうなっては元を断たねばならない。
大魔法を使ったエルフを狙う。
ノワールは決心した。
一刻の猶予もない。
伯爵の本陣がくる前に何とかしなければ。
惜しむらくは、今のノワールは伯爵と連絡を取れる状況ではなかった。
●S-2:開拓村郊外の丘
「さー。一矢報いたところで帰るっスかね」
これで相手が退いてくれれば良い。
クローリーは仲間の顔を見回した。
みんな一様に安堵の表情だった。
危険な敵の飛行魔獣を殲滅した安心感から誰もが胸を撫で下ろしていたに違いない。
そして、それが……それこそが油断だったのだ。
足音もなく忍び寄る影が漆黒の刃の短剣を沙那へ振るう。
誰もがあっと思った瞬間には甲高い高い金属音と火花が宙を舞っていた。
ノワールの刃が沙那の背中に突き立とういう瞬間、一陣の風が吹くように短剣を受け止めた。
勝利を確信した彼女の目に映ったものは、蒼いベレー帽の少女の姿だった。
無表情のまま細剣を握ったルシエだ。
ルシエはいつも目立たないようにしているからこそ、ノワールをもってしても見落としていたのだ。
「残念。短剣じゃ届かない」
ルシエはノワールの短剣を細剣受け止めながら、刃に沿って滑らせ薔薇の花状の格子でできた護拳柄で絡めとる。
類まれな剣士でもあるルシエだからこその技だった。
ノワールの決死に攻撃も容易に防いでしまった。
「降伏すれば命は取らない」
ルシエは冷たく言い放つ。
攻撃の失敗に絶望的な色を見せたはずのノワールが口元で小さく笑った。
少なくともルシエには笑ったように見えた。
その時、陽が陰った。
そこには巨大な……シュラハトの大剣よりも更に2周りは大きな剣を振りかぶった鬼人がいたのだ。
「影移動っス!」
クローリーが叫んだ。
魔法によるものなのか鬼人自身の能力なのか。
その姿を影に溶けるように姿を隠す技だ。
クローリーが叫んだように魔法にも存在する厄介な代物だった。
ルシエの脳内を鋭く計算が走る。
彼女の細剣は多島海はトエの逸品だ。
簡単には折れない。
しかし、膂力の凄まじい鬼人の振るう大剣の一撃を耐えるとは思えなかった。
「(斬られる!)」
ルシエがそう覚悟した瞬間、激しい衝撃を受けた。
何かが体当たりしてルシエを吹き飛ばしたのだ。
そこに大剣が振り下ろされた。
ぼとり。
何かが地面に落ちた。
人間の腕だった。
「いやあ。腕一本で済むとはラッキーですネエ……」
左腕を肘から先を斬り飛ばされたパーチスが立っていた。
笑っていたが顔は蒼白だ。
立っていること自体が奇跡的だった。
「パーチ……お前……」
いつも冷静なルシエが狼狽えていた。
「言いませんでしたか?ワタシは獣耳少女の味方なのデスヨ」
「パ……」
パーチスは右手の指先でを振って、ちっちと舌打ちする。
「それともう一つ言っておきましょう。ワタシの本名はマーチスですヨ。覚えておいてくだサイ」
「な……」
「パチモンのマーチスなんでパーチスってことに……って、面白くなかったデスカ?」
自身の最期を確信していた言葉だった。
そのままパーチスは崩れ落ちた。
腕を切断したショックで気絶したのだ。
いや。耐えられずに死亡することもある重傷である。
刹那。
鈍い音が2つ。
沙那がミニスカートの中から引き抜いた粗製デリンジャーが白煙を吹いていた。
外しようのない至近距離だ。
腹と胸に被弾した鬼人の動きが止まる。
間髪入れずに、ルシエの細剣が鬼人の喉元を貫いた。
ノワールは失敗を悟った。
自分の攻撃が防外れても、防ぎようのない一撃で確実に目標を倒す二段構の作戦がパーチスという闖入者によって止められてしまったのだ。
次の瞬間、遅れて反応したシュラハトたちによってノワールとその部下たちは一人残らず討ち取られてていた。
「おい!目を開けろ!パー……マーチス!」
ルシエの悲痛な涙声が丘に響き渡った。
●S-3:男爵領男爵邸
目が覚めた。
見慣れた白い天井。
不思議とどこか落ち着いた気分だった。
「おーう。なるほど、天国に来たみたいですネエ」
男はいつものとぼけた口調だった。
視界に入るのは美少女、美女、美少女、美少……女っぽい何か。
「おっぱいに、おっぱいに、おっぱい。つるぺた……は範囲外なんですがネエ……」
「目を覚ましたっスか」
クローリーの安堵の声だ。
「男は見たくないですネエ……って、ここはルシエたんが『してして!パー様!あたしをお嫁にして!』とか言って抱き着いてくるところじゃないんデスカ」
「その分なら大丈夫そうっスなー」
クローリーが呆れ顔で笑った。
「さあ。ルシエさん。ワタシの胸に飛び込んできてくだサイ。ああ、服は着てなくていいデスヨ」
「……何言ってんだ。おめえ」
シュラハトがマーチスの額をゴツッと殴った。
加減を知らないのでとても痛い。
ルシエは涙を浮かべてこちらを見ていた。
「おや……?痛いということは夢でもないヨウデ」
マーチスは左腕を動かしてみた。
肘から数センチ先を残して、そこにはあるべきものが無かった。
それは夢ではないらしい。
「しかし……こちらは痛くないというのガ……」
半分失った左腕に痛みはない。
むしろ、傷が塞がってるようにも感じられた。
「おやあ。これはフシギフシギ……?」
「あ、それは……マリちゃんに感謝してねー?」
沙那に言われてマリエッラの方を見ると、何でもないというように軽く手を振っていた。
マーチスは眉を寄せた。
「……まさか。……治癒の秘術デスカ!!?」
伝説には登場するが見たことのない奇跡の業だ。
しかし、それとしか思えない。
「うん。たぶん、それだよー」
「……神官なのは知ってましたが……使い手は神官の中でも特別の存在デスヨ?」
「あ。それは秘密なんだってー」
沙那が唇の前に人差し指を立てた。
「いろいろあってねえ」
マリエッラが笑顔で誤魔化す。
クローリーとシュラハト、そして沙那しか治癒の秘術が使い手の命を縮めることを知らない。
「完全に元に戻すことまではできなくて……ごめんなさいねえ」
「いやいや……」
「マーチス……」
ルシエは今にも泣きだしそうだ。
少女を泣かせるほどマーチスは朴念仁ではない。
「あー。テステス」
マーチスは咳払いをした。
「ワタシは常々思っているんデスガ。片腕の船長とか片目の隊長とかってとても伝説の英雄っぽいんじゃないカナト?」
「あ。ボク、知ってるよー。それ」
沙那が手を挙げた。
「それってワンp……」
「なら、ワタシは髪の毛を赤に染めますかネエ」
「やせ我慢しやがって」
シュラハトもマーチスを見る目は優しい。
「シュラハトさん」
マーチスがにやりと笑う。
「やせ我慢は男のプライドの最後の砦デスヨ」
「おまいさん。優しいんスな」
クローリーの見る目も優しい。
「いや。お人好しっつーか……っスなー」
「おやおや」
マーチスは上半身を起こした。
「お人好しはむしろあなたでショウ?クローリーさん」
「そうっスか?」
「あからさまに怪しい風体で胡散臭い名前の男を拾ったり。色んなハグれエルフ少女たちを拾っタリ……」
「それは何となくっスなー」
クローリーはトボけた。
「そのせいか、クローリーさんが車輪屋と呼ばれるのは……大博打うちでも、やり手という意味でもなく別な意味を思いつきまシタヨ」
「なあにー?それー?」
中学生だった沙那には英語の慣用表現はまだ分らない。
「運命の輪デス。そっちの方がしっくりくる気がシマス」
「むー?」
意外と逆位置なんじゃないかと少しばかり沙那は思った。
「買い被り過ぎっスな」
この世界にもタロットカードのようなものはある。
少し違いがあるが概ね大差ない。
「ワタシもその車輪に乗せて貰いたいと考えまスヨ」
マーチスは思った。
もう最初のころからこの黒髪の青年にどこか惹かれていたのかも知れない。
そして、もうガイウスの工房でどんな義手を作って貰おうかと考えを巡らせていた。
何かに役に立つギミックが欲しいかな?などと。
(第一部・完)




