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5章 第一次辺境紛争~7 空飛ぶペンギン


7 空飛ぶペンギン


「ホウ。焼芋デスカ」

 パーチスが沙那の足元を覗き込んだ。

 学校の校庭で沙那が子供たち焼芋をしていたのだ。

 校庭の落ち葉を掃き掃除して集めて焚火にし、ついでにサツマイモを投げ込んだのだった。

 すべての作物が順調というわけではないが、芋類は大量に収穫できた。

 まだ農薬がほとんどないので植物は病気が心配だったが、サツマイモは特に上手くいっていた。

 つい最近まであまり食糧事情が良くなかった帝国の一部であるから、みんな興味深々である。

 しかも、焼けたサツマイモ特有の甘い匂いが漂ってくると、子供に限らず大人まで集まってくる。

「焼くなら持ってくると良いよー」

「余分はありませんか。しかたアリマセン。そこで買ってきマショウ」

 豊作だったのでそう高価ではない。


「そろそろかなー?」

 ぺんぎんがペンギンソードで焚火を混ぜ返すと表面が黒焦げのサツマイモが姿を現す。

 それを細い棒で刺してみて柔らかく通ったら食べ時だ。

 程よく焼けたものを何個か拾い、折って湯気が立ちあがる出来立ての焼芋を子供たちに渡す。

 学校に来る子供たちは成長期で食欲旺盛なものだから、みんな大喜びだ。

 もちろん子供に行き渡ったら、大人にもお裾分けする。

 寒くなってきた時期には格好のおやつだ。


「ねー。せんせー」

 焼芋を受け取った女の子が沙那を見あげた。

「この……煙って上に飛んでいくけど……」

「うん」

「この煙を捉まえられたら、お空を飛べるの?」

「ん?んー」

 沙那は眉を寄せた。

 完全な間違いではないが、正解でもない。

「それはねー……空気が温まるとー」

「熱気球デスナ」

 籠いっぱいのサツマイモを抱えたパーチスが戻ってきた。

「煙じゃなく、温かい空気は上に登るのデスヨ」

「へー!」

 女の子は目を輝かせた。

「じゃあ、あたしも飛べるようになるのかな?」

「道具が揃えば可能デスヨ」

「やったあ」

「でも、危ないから先生たちが安全を確認してからになりマスヨ」

 そう言いつつパーチスは焚火にサツマイモを何個か放り込んだ。

 そして紙袋を取り出すと大きく開いて、まだ炎が残る焚火の上に暖かい空気を集めつつ手を放した。

 紙袋はゆらゆらと不安定に揺れながら浮きあがり、そして風に流されて飛んで行った。

 すぐに温度が下がって落ちてしまったが。

「こういう風に。でも見てわかるように危ないから子供だけで試しちゃいけナイヨ」


 その様子を見ていた沙那は微笑んだ。

 たぶんパーチスは子供好きなのだろう。

 そして説明だけではなく、目の前で実験してみせるのは凄く判りやすい。

 子供には尚更だ。

「子供てすごいでスネエ」

 パーチスも満更でない顔つきだ。

「熱気球なんてすっかり忘れていまシタヨ」、

「そーだねー。でも、この子たちには未来の技術だよねー」

「そーでもないデスヨ」

 パーチスは焚火の中の芋をひっくり返す。

「記録にある最初の熱気球の実験はマリー・アントワネットが見てる前でヴァルサイユ宮殿で行われたのデスヨ」

「え?えー!?」

「ほんとデスヨ」

 パーチスは変な雑学に妙に詳しい。

「ブホゥ。孔明灯の方が先でござるよ」

 賢者(セージ)が現われた。

 やはり匂いに釣られたのだろう。

 子供たちが後退る。

 なんとなく不気味なおじさんだからだ。

「三国志に出てくるんでしタカ?あの紙風船みたいなやつデスナ」

「ふーん。なら、もっと昔から思いついて試した人いそうだよねー」

「アルキメデスの原理でもありますカラナ」

「へー」

「ブフゥ」  

「人が乗れたら山越えとかに便利そうだよねー」

 



    *    *    *



 翼を広げた大鷲のような姿……それが飛行中の有翼魔(ヴロック)チューソンの姿だった。

 人間大なのでかなり大きいのだが、白昼でも高度を高くとっていると魔物だとは気付かれにくい。

 偵察には打って付けだった。

 獲物を物色中の猛禽類のように緩やかに弧を描くように飛んでいた。

 眼下の森……切り開かれつつあるが……には人族が小屋や集落を建てつつあるのが見える。

 警戒している兵士などは見えない。

 いや、兵士どころか見張り台なども数えるほどしかない。

 侵攻を警戒している様子は微塵もなかった。


 人族の目に付きにくいところまで退ると、他の有翼魔(ヴロック)たちも集まってきた。

 チューソンは有翼魔(ヴロック)の中でも上位種にあたるヴロック・メイジャーなのだ。 

 伯爵配下の有翼魔(ヴロック)のリーダーでもある。

 そして、軍団の先触れの指揮官だった。

 有翼魔(ヴロック)が情報を交換し合う。

 チューソンは臆病な性格なので偵察は徹底的だ。

 

 展開している人族の兵士は僅かで、数人のグループが4つほど巡回しているに過ぎない。

 驚くほど手薄に見えたが油断はできない。

 魔術砲撃部隊を有しているという情報から、魔法的な何かしらの備えがあるかもしれないのだ。

 少なくとも猪人族(オーク)の軍勢を易々と一蹴したはずである。

 警戒しすぎるということはない。

 何といっても人族と戦うのはかなり久しぶりである。

 定命の蛮族ならば世代が2~3交代していてもおかしくない年月だ。

 チューソンとて前の人族との戦闘は経験がない。

 人族がどういう戦い方をするのかが良く判っていないのだ。

 あるのは150年前の記録のみで、そこから人族がどう進化したかが判らない。


「やはり1つ当てさせるか」

 チューソンは悩んだ挙句にそう結論した。

 配下の歯鬼族(ホブゴブリン)でもぶつけてみよう。

 どう殲滅されるかを観察するのだ。

 蛮族、特に魔族と呼ばれるものは種族の序列が明確だ。

 下位の種族は使い捨てだ。

「こんなことなら猪人族(オーク)の死ぬ様を見ておけば良かった」


 手ぶらで伯爵の前に出るわけにもいかないため、チューソンは部下たちに指示を出した。

 彼に与えられた兵力だけでも1000は超える。

 半分くらい死んでも問題ない。

 どころか全滅しても良い。

 それが彼ら蛮族の考え方なのだ。



 

「チューソンたちがどのくらい死ぬかで人族の魔術砲撃部隊の運用が判るとは思うが……少しだけ気になることがある」

 伯爵が椅子にもたれつつ首を傾げた。

 カクテルグラスの中で、たっぷりと注がれたブランデーを転がす。

 彼の領地にいる奴隷の人族たちが作ったものだ。

 人族は酒の作り方が上手い。

「エルフ族が関わっているんじゃないかとね」

 

「それはあり得ないかと思います」

 ダークエルフの美女ノワールがその疑問に答えた。

「あの引き篭もりたちが人族に干渉するなんて……」

 古の時代に分かれたとはいえ近似の種族だからこそ推測できる。

 エルフは地上の人族には本来無関心なのだ。

 当然、人族に肩入れすることは、まずあり得ない。


「遥かな昔にはエルフ族と人族が轡を並べて戦った例もある。絶対にないとはいえないな」

「ですが……」

「分かっているよ。帝国建国以降はエルフが現れていないこともね」

「なら……」

 不服そうなノワールに伯爵は微笑で応えた。

「辺境の小領主ごときが魔術砲撃を行ったから疑っているんだよ」

「エルフの上位魔法かも知れないということでしょうか?」

「可能性は低いとは思っているが……」

「では……?」

「もしもエルフだったならば……こちらの長所が一つ、それも大きなものが失われるんじゃないかと思ってね」 

「……空のことでしょうか?」

「そう」

 伯爵は微笑んだままだが、目は笑っていなかった。

「それもチューソンが証明してくれるかな」

「……しかし……エルフが……」

 伯爵は手を横に振った。

「なに。報告を待つさ」




「チューソン様!飛翔物です!」

 部下の声にチューソンは目を剥いた。

「馬鹿な……」

 そこには確かに何かが空中に浮いていたのだ。

 見たこともない不思議な生物のような形をしていたが、明らかに人工物だった。

 その姿は……。



「ほんとに飛んでるー!」

「せんせーすごーい!」

 子供たちが燥いでいた。

 空に浮かんでいるものを見て大騒ぎだった。 

 

 紗那は子供の思い付きの熱気球を作ろうとしたが上手くいかなかった。

 温度が下がろとすぐに落ちてきてしまうからだ。

 そこで井戸から算出されるガス……ヘリウムを詰めてみたのだ。

 こちらの方が元気よく飛ぶのだが、革の風船では縫い目から漏れてしまってやはり落ちてきてしまう。

 そこでルシエのスカーレット号に積載している漏れ止め用の帆布を使ってみた。

 香料諸島(スパイス・アイランズ)でゴムを塗りこんで作られた布はなかなか具合が良かった。

 

 とはいえ人を乗せるのは危険すぎるので、ぺんぎんさんの登場である。

「きゅーきゅー」

「きゅきゅきゅー」

「きゅっきゅっ」

 ぺんぎん隊を紐で縛ってぶら下げてみたのだ。

「飛べない鳥が飛んでるんだよー。すごくないー?」

 紗那は満面の笑みで胸を張った。

「あんなに喜んでるしー」

「きゅきゅっきゅー」

「きゅううー」


「……あれは喜んでいるのか?」

 ルシエが疑わしげな顔で言った。




 空飛ぶペンギンはチューソンを驚かせていた。

 そもそも彼はペンギンを知らない。

 アレキサンダー男爵領内でもペンギンを知っているのは紗那の他には南方洋へ航海した経験のあるルシエだけなのだ。

 北の方にあるこの地では不思議生物に見えても仕方がない。 

「やつらは空中戦力も持っているのか……」

 しかし、噂に聞く天馬騎士(ペガサスナイト)竜騎士(ドラゴンナイト)などとは違う。

 異質のものだ。

 飛行できる纏まった戦力を持つのは蛮族の強みであっただけに驚きを隠せない。

「いったい……どれだけのものを持っているというのだ」  

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