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5章 第一次辺境紛争~1 開戦前夜と戦闘序列

いよいよ戦争とか始まります。

1 開戦前夜と戦闘序列


 猪人族(オーク)の軍勢迫る!

 との報が入った時、クローリーは読書中だった。

 集中して読み込んでいたというわけではなく、沙那がぺんぎんたちに餌の小魚ビスケットを与えているのを横目に見ながらのんびりしていたというのが正しい。

 だからこそ、知らせはまさに寝耳に水だった。


 なにより戦争の準備など全くしていないのだ。

 アレキサンダー男爵領は最辺境の蛮族領と隣接するエリアに位置しているものの、この1世紀近くはまとまった規模の戦闘は起きていなかった。

 自然と軍備も緩くなり、形ばかりの哨戒任務をこなすだけになっていた。

 かつて駐留していた帝国軍も撤収して久しい。

 アレキサンダー港が規模だけはそこそこ大きいのは帝国海軍が常駐していた名残である。

 それもこれもこの地を去った今は、およそ戦える状況にはなかった。


 クローリーは慌てて騎士たちを招集することにした。

 とはいえどうして良いものか見当がつかなかった。

 アレキサンダー男爵領に所属する騎士は3名。

 それに付随する従士や戦士たち総勢60人ほど。

 報告された猪人族(オーク)は300匹。

 数の上では全く勝負にならないのだ。

 考えあぐねた末に仲間たちも集めることにした。



    *    *    *  



 ベイクドポテト……焼いたジャガイモの屋台の前で小さな少年がポケットをまさぐっていた。

 5~6歳くらいだろうか。

 やがて鈍い銅色のコインを取り出した。

 少年は屋台のおやじにそれを差し出した。


「これじゃ足んねえなあ……」

 親父が困った顔で腕を組んだ。

 少年の手にあるのはアレキサンダー領で最も小さい価値の硬貨である1センが1枚だった。

 屋台のベイクドポテトは3セン。

 だいぶ足りなかった。

 少年は焦ってポケットを引くり返したりもするが何も出てこない。


 そこに手が伸びた。

 1セン硬貨が2枚。

 大人の腕だった。

「これで足りまスカ」

 パーチスだった。

「あ……先生……」

「ワタシも食べたかったところデス。1個を3分の1と3分の2に分けて食べまショウ」


 パーチスは親父から古紙に包まれたポテトを受け取る。

「さて。問題デス。ワタシが2セン。アナタが1セン。2人で分けるにはどうすれば良いデショウ?」

「え?え……?」

 唐突に訊かれて少年は一瞬たじろいだ。

「……3つに分けて……先生が2つ、ボクが1こ?」

 指折り数える。


「ふむう。……大正解というわけではありませんが、半分正解デス」

 パーチスがポテトを取り出す。

「では……アナタの言う通りにしまショウ」

 無造作にポテトを折ってみせた。

「オ……オオゥ?」

 あまりに適当だったために、大きな塊が1つと、小さな破片のようなものが2つできた。


「この場合……アナタは1つ」

 大きな塊を少年に手渡す。 

「で……残りの2つはお金を2枚出したワタシの権利なのでいただきマース」

 パーチスは小指の先ほどの破片と、親指くらいの大きさのものを取った。

「これで公平デ-ス。アナタが1つ、ワタシが2つ。ではいただきまショー」

 そう言って2つの欠片を口に放り込んだ。



 パーチスはアレキサンダー男爵領の発展を目にしていた。

 庶民はほとんど物々交換だったものが、お金で物を買うことが出来るようになったのだ。

 ましてや子供がおやつを買うなどとは少し前なら考えもできなかったことだ。

 急激に変化したとまではいわないが、近代化の裾野になる部分が確実に広まっていることを感じた。

 

 パーチスは「ありがとー」と手を振る少年と分かれて道を歩き出した。

 車輪屋の郵便馬車の幅に合わせてすれ違えるほどの拡幅された道路を、軽やかに馬車が走る。

 人間が全速力で走るのと同じ程度の速度だが、長い距離を走るためのペース配分なのだろう。

「平和ですネエ」


「パーちーん」

 後ろから声を掛けられた。

 まだ幼さが残る少女の声だ。

 沙那がぺんぎんたちを引き連れて走ってきた。

 その姿を見てパーチスは首を傾げた。

「走るときのためにスポーツブラの使用を推奨しマスヨ」

 細身の体格や年齢に似合わないくらい大きな胸が揺れていたからだ。

「千切れても知りませんセンヨ」


「へっへー。見てたよー」

 沙那はパーチスのセクハラ一歩手前の発言を無視した。

「パーちん。優しいねー」

「気のせいデス」

 パーチスは困った顔で否定した。

 少年とのやり取りを見られていたのだ。 

「あれは正当で正しい取引デスタ」

「ふううううう~~ん?」

 沙那は顔を背けるパーチスの周りをくるくると回った。

 少女の真っすぐな視線に耐えられずにパーチスは目を逸らす。

「クロちゃんが気に入るのがちょっと判った気がする―」 


「あ。そうそう。緊急事態だから急いで来て欲しいってクロちゃんが呼んでたよー?」

「ホウ……?」

「何の話があるかは判らないけどー……みんなちょっとピリピリしてたー」

「ピリピリ?……トウガラシの食べ過ぎ……ではないでショウネー」

 この時、パーチスには今後の人生を決定してしまう選択を突きつけられることに、まだ気付いてはいなかった。



    *    *    *  



 リシャルが執事として騎士の招集をかける前に早くもアレキサンダー男爵領に仕える3人の騎士が男爵邸に参上していた。

 不思議なことにクローリーにではなく、リシャルの前に集まっていた。

「おやおや」

 リシャルは苦笑いした。

「随分と情報が早いのですね」


「それは御存知のことでは?」

 鈑金鎧(フルプレートアーマー)に身を包んだ第1の騎士フランクルは表情を変えなかった。

 痩せた中年の騎士だ。 

「おそらく同輩たちも同じ考えかと」

 何代も前から男爵家に仕えているが、前当主及び現当主への不満を隠さない人物だった。

 領民に甘い税率のあおりを受けてその生活が苦しいからだ。

    

 第2の騎士ベルガイヤも頷く。

 こちらはより若い。20代半ばくらいだろうか。

 男爵家自身もそうだが支配層であるはずの騎士家の収入は少なめだ。

 それに反発する騎士の一人でもある。

「この苦境にあってはエドアールを廃してリシャル様のお力で男爵領一丸となるべきかと」



 リシャルは柔らかな笑顔のまま、第3の騎士を見る。

 やや背が低く少し丸い……ゴム毬のような青年だった。

 容貌だけなら騎士というよりも商家のボンボンあたりにいそうだ。

 追従笑いを浮かべておろおろしている。


「オルテガ卿も同じ意見ですか?」

 リシャルは値踏みするように眺めた。

 オルテガと呼ばれた第3の騎士は困ったように笑う。

「自分は……蛮族に迎合したくはありません」

 その言葉に他の2人の騎士の視線が突き刺さる。


「それはどういうことでしょう?」

 リシャルは2人を手で制して続きを訊く。

「そ……それは……」

 オルテガは辺りをきょろきょろと見る。

 好意的な視線が無いようだったが続けた。

「蛮族がこちらの身分や財産を保証するとはとても思えないからです」


 リシャルは興味深そうにオルテガを見詰める。

「ここで謀反を起こして勝利しても蛮族が主軍となってはどういう交渉ができるか分かりません」

「そうですね」

「これは何者かが我が領を混乱させるための離間の計かと考えます」

「ふむふむ」

「つまり、これは混乱を起こすことが目的で迂闊に乗ってはいけないものかと思います」


 リシャルは破顔した。

「よくできました」

 赤点ギリギリの学生を見るような目だった。

「まさにその通りだと思いますよ。随分あちこちに不穏の種を撒いているようですが」

 フランクルとベルガイヤがお互い目を合わせる。

 想定外に困惑しているのだ。


「謀反人を取り押さえてください」

 その声と同時にオルテガが鞘のついたままの長剣(ロングソード)でベルガイヤの膝後ろを払って転倒させる。

 不意のことで起き上がる前にオルテガに取り押さえられた。


 フランクルは年齢の分なのか少し動くのが遅れた隙に、いつの間にか背後に忍び寄っていたメイドのリエラが左腕を抑えて脇の下に短剣を突きつけた。

 慌てて振り解こうと暴れると、リエラは容赦なく短剣を差し込んだ。

 どんな重装の鎧でも最も弱い部分に突き立った刃はあっさりと心臓まで届いた。


「フランクル卿は蛮族相手の戦いで善戦空しく非業の戦士を遂げた……ことにしましょう」

 リシャルは冷たく言い放った。

「謀反を起こすときに無能な部下は要りませんので」


 リシャルからすれば裏切りや謀反を考えた場合、相応の成果が見込めなければ行わない。

 言ってしまえば大きな国を一度で手に入れらるような状況でのみ考慮に値すると思っていた。

 ちょっとばかりの地位向上のために行うのはリスクが高すぎる。

 アレキサンダー男爵領程度では自分の名声と引き換えにするほどのものではない。


「目先の小さな利益に目が眩むようでは困りますよ」



    *    *    *  



 普段バラバラに行動しているわりに集まるのは早かった。

 そしてアレキサンダー男爵領の騎士は何故か1人しかいなかった。

 不思議に思い何か言葉を発しようとた矢先にリシャルがその疑問に答えた。

「フランクルとベルガイヤは敵の先遣隊と接触して戦死されました」

 ぎょっとしたクローリーがリシャルを見る。

「領域外の巡察中の出来事だったようです。貴重な戦力を……無念です」

 沈痛な面持ちで目を伏せた。

「しかたねーっスな」

 クローリーはこういう時に一番頼れそうな男に視線を向ける。


 黒髪で長身筋肉質の戦士シュラハトは大きな欠伸でそれに応えた。

 並みの騎士や戦士では覚束ないほどの戦場を経験してきた男だ。

 こういう時でも落ち着いている。

「さすがにちっとばかり厳しいな」

 緊張感を全く感じさせない声だった。

「オレが100匹、クロが100匹片付ければ……残り100くらいを騎士連中に何とかして貰うか」


 その口ぶりにマリエッラがくすり笑う。

 緩やかにウェーブのかかった腰ほどまである金髪の肉感的な美女である。

 クローリーとシュラハトの3人で冒険者生活をしてきたので少々の荒事には動じない。


 異世界召喚者(ワタリ)特有の金属光沢のピンクブロンドの小柄な少女の沙那はぺんぎんを抱いて座っている。

 その金属光沢の髪は嫌でも目立つ。

 帝国の人々はその特徴を持つ人間をエルフと呼ぶ。

 抱かれたぺんぎんは居心地良さそうにすりすりしている。

 現代日本の中学生の彼女はこの世界の基準から……いや元の世界でもかなり豊かな胸の持ち主なのだ。

「きゅっきゅー」

 

 ぺんぎんは……ぺんぎんに見えてペンギンではない。

 そもそも(フリッパー)があるのに手もあるのだ。

 しかも4羽もいる。

 大きさは沙那の膝丈ほどで、1羽づつ微妙な差異がある。

 ぺんぎんたちはクローリーが作った魔法で動く泥人形(ゴーレム)で疑似感情が与えられて自分で動く。

 普段は沙那のペットのように足元をを纏わり付いているが、いざとなれば戦える沙那の護衛でもある。

 親衛ぺんぎん隊……と呼称している。

 ぺんぎんたちはじたじたと周囲を動き回り、何事かお互い頷き合っている。


「勝算はあるのか?」

 大きな青いベレー帽を被った少女ルシエが訊いた。

 青銀色のショートカット……彼女も異世界召喚者(ワタリ)なのだ。

 少し違うのはもふっとした髪の毛……に見えた獣耳がぴょこぴょこ動いているところだ。

 彼女は沙那たちとは違う世界から来たのである。

 獣憑き(ライカンスロープ)と勘違いされやすいので普段は耳を隠しているが、そういう種族であって紛れもなく人族である。

 どういう経緯かは不明だが自分の船を持つ船乗りで、滑るように水面を走る高速スクーナー船スカーレット号を操っていた。

 洋上にいることが多いのだが、ちょうど帰港したタイミングだった。

 

 ルシエは腰に差した細剣(レイピア)を小さく鳴らす。

「船の出番はなさそうだけど。逃げるときはいつでも出れる」

 その俊敏な身のこなしで戦うこともできる彼女はクローリーたちには欠かせない戦力でもあった。

「私の部下たち20人ほどいるが……少ないな」



「戦いは避けたいのじゃが……」

 少し古風な帝国語を使う少女はヒンカだ。

 金髪のツインテールで充分に美少女の範疇に入る容貌なのだが、沙那やルシエに比べると胸がとても残念だった。

 本人もそれを気にしているのだが仕方がない。

 彼女も金髪が光沢を帯びている異世界召喚者(ワタリ)だった。

 アメリカ合衆国の公務員……というより学芸員だった彼女はこの世界へきて長く1世紀に及ぶ。

 それは禁断……というよりも確立されていない魔法である転生魔法で生まれ変わった姿だからだった。

 転生しても金属光沢の髪のままとは、魔術学院で発表したら驚きをもって迎えられるだろう。


 その経歴から博学なために様々な形でその知識を役立てている。

 帝国には存在しなかった植物の苗や種を持ち込んだのも彼女で、栽培方法などを教えていた。

 ココアやチョコレートが作れるようになったのも彼女の功績であった。

 芋類などは常に食料難の帝国世界では大きな福音である。

 今はまだアレキサンダー男爵領の中だけでしかないが、世界の食糧事情を一変させる可能性がある。

「せっかく国が豊かになろうという時なのに……はた迷惑なことじゃ」


「むう……鉄砲がもっと数が揃っていれば……無念でござるよ。ブブー」

 若いが不健康に太った男が呟いた。

 もはやボロボロになってきているTシャツには擦れて薄くなってしまった絵柄が入っている。

 鬼のような角を生やした虎縞ビキニ姿の少女を象った絵だ。

 鬼人族(オーガ)にも見えるが人間により近い姿である。

 やはり金属光沢の黒髪をバサバサに伸ばした彼は異世界召喚者(ワタリ)であり、クローリーが初めて出会ったエルフだった。

 念願の火薬を手に入れ、火縄銃の製造を始めたのだが……。

「戦争の形を変革できそうでござるのに」


「ここはタワーディフェンスでショウカ」

 パーチスが眼鏡を抑えつつ言った。

 彼を呼ぶかどうか迷ったものの、すぐに知られてしまうのだからと集められていた。

「砦や城塞に篭っての防御戦闘で数の不利を埋めてしまいマショウ」


 実のところパーチスは不満だった。

 スパイの立場としては利敵行為を行うべきなのだが、この襲撃について彼は何も知らなかったからだ。

 蛮族単体の侵攻にしては唐突過ぎる気がしていた。

 1世紀近くも攻めてこなかった蛮族がいきなり行動を起こすのは不自然過ぎた。

 もしかしたら猪人族(オーク)だけではなく多方面からの攻撃を行うように何かしらの戦争工作が行われた可能性が高い。

 ならば……彼の雇用主であるイストから連絡があっても良さそうなものだが、それもない。

 

「(これは……単純に捨て駒としてしか見られてないからデショウカ)」

 最初から何も期待されておらず、たまたま有益な情報が得られたらそれで良い……という凄く雑な使い方をされているのではないだろうか。

 パーチスはそう考えていた。

 アレキサンダー男爵領の発展の度合いをマメに報告してきたつもりなのだが、特に何か指示があったこともない。

「(人は利益が無ければ動かないものですガネエ)」

 証拠はない。

 ただ、大事に使われたり重要に思われているとは思えなかった。


「タワーディフェンス?……そもそも城郭も城壁もねーっス」

 クローリーが笑った。

「昔は砦が幾つかあったらしいんスが。今じゃ荒れ果てて使い物にならねーっス」

 アレキサンダー男爵領は豊かな土地ではないため、駐留する帝国軍が去ってしまうと設備を維持できなかったのだ。

 生産性のない軍事施設は真っ先に放棄されている。

 そもそも男爵邸自体が小さな城館であり、戦闘は全く考慮していない構造である。

 最前線でありながら、およそ戦闘には全く向いていないのだ。


「なもんで、迎え撃つのは野戦スな。それも畑や人家が無いところでやるっス」

「本気デスカ?」

 パーチスが驚いた。

 数で圧倒的に不利なのに野戦を行うのはそれ自体が無謀だ。

「こんなことになるとは考えてもいなかったスけど。領主とか騎士とかっていうのはこんな状況の時は真っ先に命を懸けるのが義務っスから」

「ノブレスオブリージュってことデスカ」

「いやー。そんな立派なもんじゃないっス。

 クローリーは否定するように手を振った。

「人の上に立つっていうのは、そのくらいの覚悟は必要ってことっス。最悪は領民たちが逃げ出す時間を稼ぐだけでも十分なんス」


「と、いうことで。情報が早かったので先手を打つっスよ」

 クローリーは全員を見回した。

「領内に入る前に繰り返し奇襲をしながら敵の戦力の漸減を図るっス」

 卓上に間に合わせの地図を広げる。  

 きちんとした正確な地図など帝国にはないので、クローリーが大雑把な地形を描いただけのものだった。

「一般的な軍隊の行軍速度は1日20kmくらいっス。まー、途中休んだりもするからもうちょっと遅いはずっスが……」


 クローリーは手を伸ばして帝国チェスインペリアル・チャトラの白いキングの駒を置いた。

 森の中だ。

 より正確にいうならば森の中の道路の上である。

 もちろん整備された街道のようなものではなく、獣道に毛が生えたようなものだが蛮族領域へと延びる数少ない道路だった。

 帝国側ではそこを蛮族の道……蛮族回廊(バルバロス・コリドー)と呼んでいる。


「今のところの情報だと蛮族回廊(バルバロス・コリドー)を通ってくると思われるっス。300匹は少なくないっスからなー。森の中をやみくもに突っ切るわけにはいかないのかも知れねーっスな」

「……これが大体正しければ、領内まで3~4日ってところか」

 シュラハトが目印を頼りに目算した。

 地図は正確ではないので目印になる地形から想像するしかない。

「その間に減らすだけ減らすっス。……息つく暇がないくらいに襲撃しまくるっス」 


 クローリーはナイトとビショップとルークの駒を並べる。

「で、こっちは3手に分けるっス」

「こちらの数が少ないのにさらに分けるのですか?」

 騎士オルテガが驚いた様に訊いた。

 封建世界では騎士が領主にこのような口を利くのは処分されても仕方がないのだが、クローリーはそういうことも平気で許していた。

「そうっスよ。で、3隊が入れ代わり立ち代わり攻撃するっス。疲労させて行軍速度を落とすっス」

「なるほど……」


「向こうが持ってきてる食糧次第っスが、運が良ければ食い物が無くなって撤退するかもしれねーっス」

「……というかメシがなくなると半分は逃げ出すからな」

 シュラハトが頷いた。

「そうならなくても森を抜けるまでに半分は打ち取っておきたいっスなー」

「ナルホドー。そして疲れ切った150と元気な80で決戦するわけデスナ」

「まー、そういう予定っス」

「悪くはねえな」

「っということで良いっスか?」 

 反対の声はなかった。

 そもそも代案を出せるような者がいないのだ。


「でー……第一陣はオルテガ卿とその部下20余騎っス。魔法の支援を兼ねてリシャルも付けるっス」

「は。……自分が先陣でありますか」

「良いスか?こっちは数が少ないので兵士を失わない程度に……嫌がらせみたいな程度も良いっス。行動自体は卿に任せるっス」

「は!」

 オルテガの目が輝いた。

 集団戦闘は初めてだが、1つの部隊の指揮権を丸々渡されるとは思ってもみなかった。

 信頼されたとみて感動していた。


「次にー、第二陣はパーチスっスな。フランクルの部下たち20を指揮して欲しいっス。あ。命令を聞かないやつが出ないようにおっかない監視役を付けるっス。シュラさんよろしく」

「ワタシ、デスカ!?」

 パーチスは腰が抜けるほど驚いた。

「新参かつ戦闘の経験はありまセン、ガ」

「あー。ほら、工房で何か作ってじゃないスか。あれは考案者じゃないと上手く使えなさそうなんで、やって欲しいっス」

「……」

 隠していたわけではないが弩砲(バリスタ)のことだろう。

 男爵邸に設置する予定ではあったものだが……。

「では、2頭曳き以上の馬車を3台お貸し願いタク思いマス」

「んー。なら郵便馬車を転用するっス。用意しておくっスよ」

「感謝いたしマス」

 パーチスはこの時に一つの考えが浮かんでいたからだった。


「最後の第3陣がオレとその他でベルガイヤの兵を指揮するっス。お?ハーレムになるっスな?うひひ」

 確かに残ったエルフは女性陣ばかりだった。

「拙者もいるでござるよ。ブホウ」

 賢者(セージ)が存在を主張した。

賢者(セージ)には別にやって欲しいことがあるっス」

「ブホッ?」

「ルシエさんについて行って欲しいっス。鉄砲込みで」

「フゴゥ?」

「噂の鉄砲威力を見せて欲しいんス」

「おお!お任せあれえええええ!ブヒャホウ!」


「それはどういうことなの?」

 ルシエが少し不満そうに訊いた。

「船で川を遡って欲しいっス。もしかしたら出番ないかも知れないっスがね」

「ん……?」

 ルシエの美しい顔が少し歪んだ。

「可能性の問題っスが……多分、ここか……ここか……ここ……あたりっスかねえ」

 クローリーは指で地図を指し示す。 

 すぐにルシエの表情が変わった。

 悪戯っぽい笑顔になっていた。

「なんとなく理解した。そういう意味か。なに、出番がなかったとしても構わないよ」

「理解が早いっスなあ」

「なるほど私向きだ。鉄砲も理解したよ。一発撃てるくらいには練習させておくよ」


「そしてー、本陣はここっス」

 男爵領の外縁、薪を集め木炭を作る小屋がある場所を示した。

「ここにはヒンカさんにいてもらうっス」

「あんたじゃないのかい?」

 ヒンカが驚いた。

「オレは兵隊指揮して戦うっスからなー。ヒンカさんにはここで連絡を受け取る係をお願いするっス」

「どういうことなのじゃ?」

「みんな森の中を移動しながら戦うっスから。お互い連絡が取りにくくなるっス。だから、必ず連絡が取れる場所を作っておくんスよ」

「それで何をすればよいのじゃ?」

「全体の位置を把握して、何かあったら帰りの連絡兵に伝言すれば良いっスよ」、


「あー。あと、一番大事なことをみんなに言っておくっス。危なくなったら逃げて良いっス。生き残ることが大事っスから」

 クローリーは改めて全員を見回す。

「最後の決戦には一人でも多い方が良いっスからな。死なない程度に暴れてくるっスよ」



 クローリーたちは戦いに赴くべく準備を始めた。

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