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4章 富国弱兵~13 新しいようでそうでない銃


13 新しいようでそうでない銃

 

 火縄銃は数丁制作されたが、そこまでだった。

 どう考えても金属バネを使う(クロスボウ)の方が性能も使い勝手も良いからだ。

 強く量産を希望した賢者(セージ)ですら、それに納得するしかない。


 驚くことに火縄銃レベルでは弩や弓に対して大きなアドバンテージがあるとは言えない。

 実用レベルに達した火縄銃やマスケット銃でも射程はたったの100mほど。

 最初期の銃に至っては実用射程は10m程度でしかなかった。

 この頃の銃というのは鈍重な中世騎兵の突撃には強かったものの、歩兵に対しては音と煙で驚かせる以上の効果はない。

 弓兵や弩兵と撃ち合いになると悲しいほど撃ち負けてしまう。

 射程で負けているうえに、装填速度が遅いのだ。

 しかも命中率は極めて悪い。

 軍用としては20世紀に入るまでは『面制圧』の武器であり、狙って当たるようなものではなかった。

 

 ガイウスがなんとか形にした銃もその範疇を外れてはいない。

 歴史的にも、性能が弓や弩などを圧倒するのは射程が劇的に向上した後装ライフル銃の登場を待たなくてはならない。

 それでもクローリーの意識はヒンカが提供した拳銃の再現の方にいっていた。

 沙那の自衛に使えると聞いたからだ。


「ま。わざわざ魔法の人形まで作るくらいだから心配なんじゃろ?」

 

 ヒンカがにやにやとする。

 薄い真鍮の板で筒を作り、そこに火薬を詰め、先端に弾丸と後端に衝撃を与えると火を噴く魔法の着火石を取りつけるのはそう難しくはなかった。

 クローリーは純粋な興味として効果が楽しみで数日で20個ほどを作り上げた。


「せっかく拾ったんスから、目の前で死なれちゃ困るだけっス」

「素直じゃないのじゃ」

「うるせっス」


 ただ、テストを何度か繰り返してみて、薬莢を再利用するにも薬莢の変形が著しい。

 それを修正するのも大変な作業だった。

 あちらを立てればこちらが立たず。


「旦那ぁ。それをもっと分厚く作って変形し難いようにする方が良いんじゃねえですかい?」

 

 ガイウスもここのところずっと銃の試作にかかりっきりである。

 単純な構造に見えて様々な技術の塊であるヒンカの銃の再現は困難を極めていた。

 とにかく強度が出ない。

 これに尽きた。


 そして薬莢は柔らかい金属じゃないと効果がなくなるということすら理解できていなかった。

 リバースエンジニアリングの欠点は、それが何の意味を持つパーツかが判らないでコピーするところだ。

 知らずに欠点までコピーしてしまうことも良くある。


 それにグリップセーフティのような機構も邪魔だった。

 スプリングも作るのが難しい。


「いっそのこと、問題になってる部分は全部なしってことにしませんかね?」

 

 ガイウスはそう提案した。

 最低限の作動を確保する機構だけ残して極力単純化できないかというものだ。

 再現の最も困難なコイルスプリングを全廃し、ブローバック機能も排除、撃ち出すだけに特化するのだ。

 ダブルアクションもなし、弾倉もなし。

 

「なるべく単純な構造で作って、上手くいったら少しづつ原型に近づけるて感じで」 


 ガイウスが蝋板にガリガリと図を描いた。

 それは単発式の銃で、中折れ式で薬莢を交換するようになっていた。


「ただ、強度の方はこれでも危ないかもしれねえなあ」



「なーにー?また鉄砲の話―?」

 沙那が顔を出した。

 もちろんぺんぎん隊も一緒だ。

 ここのところ、沙那は領内のあちこちを見て歩いていた。

 親衛ぺんぎん隊という護衛がいるから少しは安心感があるからだろうか。


 それでも少女が一人で歩き回れるほど治安が良い場所はそうはない。

 比較的治安の良い帝国内とはいえ、何処で何に襲われるか判らない。

 街道に山賊が出るのが当たり前な世界では危険極まりない。

 クローリーはそこが心配だった。


 彼が銃に飛びついた理由は、まさにそれだった。

 いざという時に沙那が自分を守るための武器を持たせたかった。

 ヒンカから聞いた話から考えると、拳銃はとても合理的な護身武器に思えたのだった。

 

「あー。まー。そうっスなー」

 クローリーは顔を上げた。

「鉄でも強度が足りないっていうんスよ。より硬いものってあれば良いんスが」

 正直お手上げだった。


「……んー?硬いものー?ダイヤモンドとか―……」

 沙那が真っ先に思い浮かべる硬い物質といえばダイヤモンドだった。

 鉄の数十倍といわれるからだが、そもそも鉄の代わりにはならない。

 複雑な加工できるような代物ではないからだ。


「あとはー……あ!」

 沙那は人差し指を立てた。

「こういうファンタジーな世界ならお馴染みのアレはー?ミスリルー」

 彼女にとって未だにここは夢の中の世界なのだった。


「あ」

 クロ―リーとガイウス、そしてヒンカの3人が顔を見合わせた。

「でも、手に入るっスかねー?」

「滅多に目にすることのない材料じゃからの」

「ふむ……」


 ガイウスは一瞬目を瞑ってから決断した。

「それ、やってみるか」

「お?」

「たまたまだが、少しばかり手持ちがあってな。かなり高くつくが……やってみるかの?」

 

「にゃー?」

 言ってみたものの沙那の方が少し驚いた。

「あるのー?」


「こういう時でもなければ使い道がないかもしれんしな」

 ガイウスは笑った。


 実のところ彼はクローリーたちに隠していることがあった。

 彼がこの地で鍛冶師をやっている理由だった。

 帝国辺境のこの地では鍛冶師といっても鍋や釜、農具などの日用品を作ったり修理の仕事ばかりしかない。

 わざわざ鍛冶の秘術を持つドワーフが数人の弟子を連れて住み着く理由がない。


 その理由になったのは、この地に小さいとはいえミスリル鉱脈があったからだった。

 もちろん彼と一番弟子しかそのことは知らない。

 ミスリルの技術を持つドワーフであるガイウスがこの地に移り住むことを決心させた理由だった。

 その製法は門外不出で、ほとんどの人族には知られることはない。

 ドワーフ族が為政者たちからも一目置かれるのは、様々な金属に通じているからだった。



 例えば隣国カストリア子爵家の家宝である『銀剣』クレーヴェは白く光り輝く魔剣である。

 その輝きは魔法の光ではなく、元々の刀身が光り輝くからであり、ドワーフの名工の手によるものと伝えられている。

 この剣はただ鍛えた鉄でなく、ニッケルの合金であった。

 その為に眩しいほどの白さを持つのだが、その製法はドワーフにのみ伝えられている技で、人族にはただ銀のような剣としてしか判らない。


 もしもヒンカがその内容を知ったのならば、即座に「ステンレス?」と思いついたろう。

 彼女の世界の伝説の剣と呼ばれるものの幾つかはニッケル成分によって光輝くものだったことが知られている。

 クローリーたちには全く判らないことではあったが。


 そういった一見不合理な合金の製法などもドワーフ族だけが持っていた。

 ミスリルもその一つである。

 鉄よりはるかに軽く、そして硬い。

 最終工程を経たミスリルの剣や鎧は桁違いに優れていて、一部の王族や有力貴族が家宝として所持しているに過ぎない。


 だからこそ、高額で取引される。

 ガイウスにとってミスリルは莫大な利益をもたらすであろう宝であった。

 アレキサンダー男爵家のような泡沫貴族に売るような安っぽいものでない。

 極秘にして闇に近い形で取引されるようなものだった。


 それをあっさり協力を了承してしまったのだ。

 大変なことだ。

 ただ、お金よりも何よりも、興味が勝ってしまったのである。

 不思議な異世界の機械の再現に使うというのは、芸術家に近い鍛冶師のガイウスにとって抗えない魅力だった。


 そしてなによりも……少しばかりの手持ちという言葉自体も大嘘だった。

 彼の工房が建つ土地は、すなわちミスリル鉱脈の真上だった。

 充分過ぎるほど材料はあるといって良い。

 勿論、このことは領主であるクローリーにも秘密であった。

 

 とはいえ、こんな面白そうな話に乗り損ねるほどケチケチしたくはなかった。


「やってみようかの」



    *    *    *



 制作にあたっていきなりミスリルで作り出すことはしない。

 無駄にできるほど豊富なわけではないのだ。

 まずは木材で模型(モックアップ)を作るところから始まった。

 パーツの組み合わせと、機械部分の動作の確認のためである。


 ここでいきなり原型のフルコピーを作らなかったのは、彼らが銃に対しての知識が不足しすぎていたからだった。

 習作としてシンプルな造りのものを製造し、そこから改良を加えていくつもりだった。

 そして、ヒンカの提案や指示を元に模型(モックアップ)が完成した。


 金属カートリッジの弾丸を用いることはそのままに、単発式で大きさはだいたいそのまま。

 賢者(セージ)のい火縄銃とは異なり、中折れ式で排莢と装填を手動で行う。

 形状としてはリボルバーに近いのだが、単発銃なので厚みが少なく携行しやすい。



 ヒンカや沙那の世界の銃と大きく異なっているのは弾丸である金属カートリッジだ。

 再利用しやすくするために厚みのある真鍮で、使用後も変形が少ない。

 本来は変形することで燃焼ガスを逃がさないことが薬莢の役目なのだが、ガイウスの考えは違っていた。

 

 参考にしたM1910と大きさを合わせようとしたために銃身がかなり短かった。

 なので薬莢自体を銃身に見立てたのだ。

 どういうことかというと、銃身の清掃と弾丸装填を簡略化するために、弾丸と火薬が装填された銃身のような金属カートリッジにすることで弾丸の再装填を簡単にしたのだ。

 つまり、射撃したらすぐに中折れ式の構造でカートリッジを排莢し、新たなカートリッジを装填する。

 カートリッジ本体が事実上の銃身なために数発撃つくらいなら直ちに清掃する必要がない。

 

 これにより銃身自体の強度がそれほど高くなくても、カートリッジの強度と合わせて耐えられれば良いという発想だった。

 欠点は、モデルにしたM1910のようにオートマチックの射撃ができないことや、弾丸であるカートリッジがそこそこ重くなることであった。

 それを解決するにはミスリルはうってつけだった。

 もはや原型をとどめない形になってしまったが……。


 その新しい銃を見た賢者(セージ)は即座に言った。

「おお!お色気ロマンな銃のデリンジャーでござるな!ブフッ」

 なるほど、短銃身のデリンジャーにしか見えない。

 

 その言葉を聞いたヒンカの提案で、銃にはさらに改良が加えられた。

 上下2段銃身にして、弾丸を2発装填できるようにである。

 まさに、どこからどうみてもデリンジャーでしかない。


 やがて試射が行われて安全が確認された上で、沙那とルシエにも渡されることになった。

 戦闘に使うことにもなりそうなルシエには4銃身のペッパーボックス型デリンジャーのような少し大型のものが渡された。 

 沙那は護身用ということでスカートの中、太腿にガーターベルトのようなホルスターで持つことにした。

 それを見た賢者(セージ)は渋い顔をした。


「どうせなら胸の谷間に隠す方が色っぽいと思うでござ……っ!?」

 賢者(セージ)はぺんぎんたちから成敗された。

 ぺんぎんサーベルで滅多打ちだ。

「……おっぱいリロードはロマンでござるのに……」

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