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3章 世界へようこそ~13 歓声

13 歓声


 港に戻ったクローリーたちは大歓声で迎えられた。

 海賊に数日は封鎖されそうだったものが、あっという間に解放されたのであるから当然だった。

 出航を控えると商材によっては劣化するものもあるし、無理矢理出航すれば海賊に捕まるかもしれない。

 多くの船長たちが考えていたのは、誰かが海賊に捕まっている隙にすり抜けたいというものだ。

 我慢比べで耐えられなくなった船が犠牲になることを期待している者がほとんどなのであった。

「うお!?何するんだ!!!!?」 

 リンザットが大勢の人に胴上げされていた。

 ただ囮になっただけのアダマストール号も、港に詰めた人々から見たら英雄だった。


「お主ら、本当に海賊を倒しに行ったんじゃな……」

 ヒンカは驚いた表情でクローリーたちを迎えた。

 口では勇ましいことを言っても実際には行動できない人間をたくさん見てきた。

 彼女は大きくクローリーたちを見直した。

「まー。貰った油が良かったっスからなー」

 これは照れ隠しでも何でもない。

 あれほど簡単に燃える油はクローリーは知らなかった。


「それにそっちのお嬢ちゃんも良くやったのじゃ」

 ヒンカはルシエに視線を移した。

「大したことはない」

 ルシエは真っ赤になって照れていた。

 あまり褒められることに慣れていないのかもしれない。

 大きなベレー帽の横からもふもふの耳が出てぴょこぴょこ動いていた。

「え……?」

 クローリーが目を疑った。

「わー。わんわんみたいな耳―!かーわーいーいー」

 沙那は喜んでいた。

 犬や猫などの動物が好きなのだ。


「あんた……獣憑き(ライカンスロープ)か?」

 シュラハトが警戒する目を向けた。

 獣憑き(ライカンスロープ)は人間が獣のような姿をとる恐るべき病気だと思われていた。

 ルシエは無言になった。

 この世界では多くの人に忌み嫌われる存在なのだ。

 そのために大きなベレー帽で特徴を隠しているのだが、何かの拍子に出てしまう時がある。

 油断してしまったとルシエは唇を噛んだ。


「かーわーいーいー!」

 沙那はルシエに抱き着いていた。

 彼女の感覚からすれば秋葉原にでもいそうなコスプレ少女にしか見えない。

 生モノであってもそれはそれで可愛い。

 ここは夢の中なのだから、そういうのも悪くない。

 沙那はそう思っていた。

 もふもふすりすり。もふもふすりすり。

「それにこの子、けっこーおっぱい大きいよー?クロちゃん」

「人をおっぱい星人みたいに言うなし……」

 

「この娘は痴女なのか?」

 ルシエはジト目で沙那を見る。

「いや、まあ、格好自体もわりと痴女っぽいっスが……たぶん違うと思うっス」

「クロちゃん、この子可愛いよー!連れて行こー?」

「私は捨て犬でも捨て猫でもないぞ」  

 ルシエは抗議した。

 とはいえ自分に懐いてくれる少女は嫌いではない。

 普通ならこの姿を見たら走って逃げるものなのだ。


「ああ。その子は病気とかじゃないぞ」

 様子を見ていたヒンカが冷静に言った。

獣憑き(ライカンスロープ)っていうのは勘違いじゃぞ?それはそういう種族なんじゃ」

「種族……?」

 クローリーは怪訝に思った。

 そんな話は聞いたことがない。

「かいつまんで言うとじゃな。異世界召喚者(ワタリ)は必ず同じ世界から召喚されるものではないんじゃ」

「違う世界からってことっスか?」

「そうじゃ。妾とおっぱい娘の世界はかなり近似性がありそうじゃが。妾とテリューも互いは全く異なる世界の住人じゃ」

 クローリーがかねてから幾つも色んな世界があるという仮説に近かった。

 肯定されているといって良い。

 

「テリューはこの世界の人間と少し外見が違ったじゃろ?あれは運動能力に優れた世界の人間じゃ。この世界の常人を遥かに凌駕する……戦闘力に優れる種族じゃ」

 テリューが軍事力として重宝されなかったのは、この世界に召喚されたときにまだ子供だったために何も見出されなかったためであった。

 ちょっと運動神経の良い子供としか見られなかったのだ。

 もしもその時点で大人だったのなら、また違った人生になっていただろう。

「で、そこのおっぱい娘はおっぱいの大きな牛胸族という種族で……」

「違ーう!」

「分かっておるわ。見せびらかしおって。妾も以前はダイナマイトバディだったのじゃ」

 つるぺたなヒンカは少しばかり沙那に対抗心があったようだ。

「そっちの犬娘はそういう種族ばかりの世界から来たのじゃ。前にも何人か見たことがある」

「病気じゃねぇのか?」

 シュラハトが驚いた。

 帝国では獣憑き(ライカンスロープ)は重大な呪いか病気で、治癒する方法はなく殺すしかないのが常識だった。


「そうじゃよ。妾やお主たちと同じ人間ではあるが、犬や猫といった既知の動物に似た特徴も持ってるってだけのことじゃぞ」

「あ。ほんとだー!尻尾あるよー?尻尾ー!」

 ルシエに抱き着いたままの沙那が、ルシエのスカートの中ら尻尾を引っ張り出した。

 もふもふ尻尾は沙那の大好物だ。 

 実家で飼っていた犬や猫を思い出す。

「おい。この痴女を何とかしてくれ」

 ルシエがクローリーを睨んだ。

「あー……さにゃは可愛いものを見ると暴走するっスよ。諦めてもらうしかないっスな」

 沙那の神の中から出てきたイズミもうんうんと頷いた。


「こりゃ驚いた。妖精連れじゃ!」

 今度はヒンカが驚く番だった。

 妖精を連れて歩く人間なんて見たことがない。

 召喚された妖精を見たことは何度もあるが、懐かせて連れ歩くなんて聞いたこともない。

「あんた、あれが見えるんスか」

「ふん。バカにするんじゃない。友人が魔法で呼び出すのは何度も見たことがあるのじゃ」

「へっへー。泉の妖精のイズミちゃんだよー。ボク専属のお風呂屋さん」

「……お風呂屋さん違う」

 イズミがぶんぶんと首を振った。

「こんなにくっきりとした妖精は私も初めてだ」

 ルシエもまじまじをイズミを見つめた。

「あなたたちはいったい……?」


「ふはっ……ふはは……あーははははははははっ!」

 ヒンカが大声で笑いだした。

 涙まで流している。

「お主たち、本当に面白いのう。うむ。妾もしばらくお主たちと一緒に行っても良いのじゃ」

「良いんスか?」

「妾は大したことはできぬが、お主の家の畑を色んな作物でいっぱいにしてやろうじゃないか」

「わ。それは助かるー!ボク、園芸はあまり詳しくないからー」

 作物の種を欲しがった割には沙那は家庭菜園……というよりプランターでハーブやイチゴやミニトマトとかを栽培した経験が多少ある程度で、がっつりの農業は判らなかったのだ。

 実際、今後ずっとアレクサンダー領での新種の作物栽培を沙那が担当したら、枯らしたり失敗の連続だったろう。

 種や苗を商っているヒンカの方がずっと詳しいはずだった。

「力強い仲間だねー!……あ、もふもふ尻尾ちゃん」

 沙那がルシエの尻尾を頬ずりした。

「やめろ。この痴女!」


    *    *    *


「ほんとにあんたも来るンすか?結構大変なことになるかもしれないっスよ」

 クローリーはアダマストール号に合わせて出港準備を始めるルシエに声をかけた。

「ああ。私のことを説明してくれそうなヒンカが行くのでは、私もついて行こうと思う」

「それは良いんスが。後悔しても知らないっスよ?」

 ルシエは犬耳をピョコっと動かした。

「私はこの姿だから。理解者がいる場所の方が良い」

「まー……船を持つ仲間が増えるのは助かるっスが」

「船も好きに役立ててくれて良い」

 ルシエは慌てて後ろに飛びのいた。

 犬耳を見た沙那が笑顔でにじり寄ってきたからだ。

「ただ、その痴女を近づけないで欲しい」

「痴女違うー」

「煩い。私を撫でるな。触るな。褒めるな」

 なぜか沙那に苦手意識を持ったようだ。



「ともかく。そっちの船について行く」

 ルシエは自分の船に戻っていった。 




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