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3章 世界へようこそ~12 海賊狩り

12 海賊狩り


 特殊な横桁の入った帆を持つ大型のザンク船が2隻、急加速していった。

 絹の国(シリカ)特有のものでアダマストール号よりもずっと速度が上だ。

 ハイナードに駐留していた軍船である。

 ルシエの説得に応じて出撃したのだった。

 もしかしたら敗北覚悟で決死の出撃をしたのかもしれない……ようにも見える。

「あいつら速ぇな」

 リンザットも舌を巻く。

 アダマストール号も帝国の帆船の中では速い方に入るが、絹の国(シリカ)周辺では鈍足な船になってしまう。

 振り返ると、少し後ろをゆっくりとルシエの船がついてきている。

 細身の船体の中型船。

 絹の国(シリカ)のものとも帝国のものとも少し違う。

 あえて言うなら双方の良いとこ取りをした縦帆の船である。

 3本マストのその船は帆の大きさに比べて船体が小柄なことから、いかにも速そうに見えた。

 尖った船首にはルシエが鎧もつけずに立っている。

 沙那の目からはかなり近代的な帆船に見えた。

 もっとも抱いた印象は『大きいヨット』だったが。


「加速良いのは良いんスが……めっさ揺れるっス」

 クローリーは甲板にしゃがみ込んでいた。 

 刃物の様な細身の船体で波を切り裂くルシエの船スカーレット号はとにかく揺れた。

 上下に揺れるピッチングは特に酷い。

 いつもなら仁王立ちしているシュラハトも何度かたたらを踏むほどだ。

「確かにこれは凄いな」

「そーお?楽しいけどー」

 平気なのは沙那くらいだ。

 遊園地の乗り物かなにかのような感覚なのだ。

「さにゃちゃん。ちょっと危ないわよお」

 さすがのマリエッラも心配になる。

 とはいえ、こちらも乗り物には強そうだった。

「女は乗り物に強いんスかねえ……」

 クローリーはぐったりしながら、女性たちを恨めしそうに眺めた。


 クローリーたちはスカーレット号に同乗していた。

 それは絹の国(シリカ)の軍船2隻とアダマストール号が囮になっているうちに、高速で小回りの利くスカーレット号で焼き討ちして回るという手筈のためだ。

 沙那が火炎壷の指示を出して、マリエッラが投げ込み、クローリーが火を点け、シュラハトは万が一の白兵戦に備えるのだ。

 クローリーは沙那が同行するのには反対したかったが、火炎壷は発案者の沙那じゃないときちんと作用しないかもしれないというのが大きかった。

 実のところイメージを持っているだけでそんなものの使用経験も何もない沙那ではあまり有効な指示を出せるわけではなかったのだが、クローリーたちには判らない。。

 なにより沙那自身がやる気満々だった。

「さにゃ、大丈夫っスか?殺し合いになるかもしれないんスよ?」

 クローリーはやはり心配だ。

 沙那は冒険者でも何でもないのだ。

「大丈夫!夢の中だもん。大活躍してみせるよー!」 

 大きな胸を張る。

 彼女はいまだにこの世界のことを夢の中だと信じているのだ。

 夢の中でならそこそこ活躍できるはず!という思い込みがあった。

「夢の中……スか?」

 クローリーは沙那のそういう感覚も判らない。


 与しやすい相手と思ったのか、海賊船2隻がアダマストール号に向かってきた。

 海賊船1隻が軍船2隻とじゃれ合うように追いかけっこをしている隙にだ。

 どうやら勝手気ままなチンピラ海賊の寄せ集めではなく、まとまった海賊団の様だった。 

 集団での連携行動に手慣れている。

 海賊船が近すぎないうちにリンザットは上手回し(タッキング)を指示した。

 風上に向かってジグザグに走っていたアダマストール号がぐるっと旋回し、そのまま風下に船を向ける。

 逃げの体勢だ。

 ただ、旋回する速度も逃げる速度もアダマストール号は海賊船よりも遅い。

 たちまち距離を詰められる。

 帆船同士の戦いはチェスにも似た駆け引きなのだが、船の性能に差がありすぎた。

 帝国は戦闘用に二段櫂船(ドロモン)を用いることが多い理由でもある。

 とにかく速度と運動性。

 火砲が無い世界では仕方のないことだ。

 船の性能が東方の国々よりも劣るのだ。

 リンザットが思わず舌打ちするとき、陽が陰った。

 

 そう感じさせたのは猛然と高速で斬りこんできたスカーレット号の巨大な帆の影だった。

 余計な動きを一切しないで真っすぐ突っ込んできたのだ。

 スカーレット号はアダマストール号と海賊船の間にするりと滑り込む。

「いまだよー!」

 沙那の叫びとともに火炎壷が投げ込まれた。

 紐をつけてぐるぐる回して勢いよく投げると、接舷していない海賊船まで届いた。

 陶器の割れる音がして石油が辺りに散らばる。

 火種を付けて放り投げたので、その時点でも火の手が上がった。

「クロちゃん!」

「ういーっス」

 クローリーは間延びした返事で答えつつ、火炎爆発球(ファイヤーボール)を唱える。

 海賊船の甲板上で火球が発生し、辺りに飛び散った石油に着火した。

 シュラハトが昔見た火船による延焼とは違い、瞬く間に海賊船が炎に包まれる。

 おそらく予想も警戒もしていなかったであろう。

「すっげえな……」

 シュラハトが見つめる先はもはや手遅れだった。

 手の施しようもなく海賊船が燃えていく。

「めっさ散財してるっスがねー」


「まず1つ。次」

 ルシエは戦果を確認するとすぐに意識を切り替える。

 右手を挙げて回す。

 舵を取る船員が帆の動きに合わせて、ゆっくりと舵を切る。

 急激な操作は必要ない。

 舵は細かい調整をするためのものと割り切っているのだ。

 スカーレット号は、その緩慢な操作と反比例して鋭く向きを変える。

 ぐっと船尾が沈み込んで回転を始めると、ただでさえグロッキー気味なクローリーは思わず嘔吐しそうになった。

 この少女はどこまで船の指揮に慣れているのだろう。

 しかし、沙那も負けてはいない。

「マリちゃんっ!」

 スカーレット号が海賊船に対して縦位置になるタイミングを計って叫ぶ。

「はいはあい」

 マリエッタも鋭く反応して火炎壷を投擲する。

 海賊船の進む軸に垂直だと左右への差がなくなり、単純に距離だけになる。

 それだけ投擲して狙いやすい。

 再び火炎壷が発火して燃え上がる。

 ふらふらしながらもクローリーは魔法でそこに更なる炎を追加した。


「すげーっスな……」

 燃え盛る火炎壷の力もだが沙那にだ。

 戦いはそれだけでも恐ろしい。

 初めてなら尚更だ。

 それなのに躊躇が無かった。

 生まれついての戦争狂(ウォーモンガー)なのだろうか。

 クローリーはエルフの習性が判らなくなった。

 もっとも実のところは、沙那が今もこの世界の中の出来事を夢と思い込んでいただけだったのだ。

 リアリティの高いVRゲームをしている程度の感覚である。

 もし、これが現実と気付いていたら躊躇どころか恐怖したはずであった。


「最後」

 ルシエは残り1隻に目を向けた。

 軍船2隻が巧みな操船で海賊船の速度を殺すことに成功していた。

 少し離れてはいるが、スカーレット号の速度なら問題ない。

 あっという間に距離を縮め、巧みな連携で火達磨にした。

「俺の出番なかったな」

 シュラハトが苦笑したが、それは作戦大成功の意味でもある。

 戦いは極力楽をして勝つ方が良い。

 伸るか反るかギリギリの激闘を望む者は、ただの血が好きな異常者だと言える。

 それでもルシエは腰のレイピアをカチャカチャ言わせて、少し物足りそうな顔をしていた。

 やはり少しオカシイ娘なのかもしれない 。

「まったくエルフってやつは……」


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