3章 世界へようこそ~6 ルチア救出作戦
6 ルチア救出作戦
「あんの馬鹿娘!大人しくしてろっス」
クローリーは頭を掻きむしった。
暫く水浴びもしていなかったせいで、フケがばらばら散った。
「しかし……連中にはどれだけ疚しいことがあるんだろうな?いきなり襲い掛かってくるとか普通じゃないぜ」
シュラハトは普段着に長剣を腰にぶら下げただけの街中スタイルだ。
情報集めに出る気満々である。
「教会っていうくらいっスのになあ……」
「さって。俺も早いところ聞きこんでくるぜ」
「あ、オレも出るっス」
「大丈夫なんか?体は?」
「いやこれが肩こりまで取れたような爽快感なんス。バリバリ動くっスよー」
「んじゃ、手分けして行くか」
2人は立ち上がった。
どうしようもないくらいお人好しなのだ。
そこにいきなりドアが開いた。
叩きつけるような勢いだった。
まさにクローリーたちが出かけようとしていた時だった。
そこには息を切らしてしゃがみ込むマリエッラがいた。
中々の美少女なのに涙で顔がクシャクシャだ。
「おねがい!お兄さんたち!お姉ちゃんを助けてっ!」
クローリーとシュラハトはお互いの顔を見合わせた。
* * *
マリエッラから凡その話を聞いたクローリーとシュラハトは目を白黒させた。
予想外に大きな話になってきたからである。
「……こりゃあ……飛んでもねえ話っスな」
「マジかよ……」
内容は眉唾な話なのだが泣きじゃくるマリエッラを疑う気持ちは湧かなかった。
「じゃ、まあ、戦争するつもりで魔法協会行ってくるっス」
「何するつもりだ?」
「あー。構成要素をがっつり買ってくるんスよ。前回、足りなくて失敗したっスからな」
「金あんのかよ?」
「大丈夫。取って置きがあるっスよ」
クローリーの最後の隠し財産は純金の腕輪だった。
最も高価な家宝の一つで、実家からこっそり拝借してきた品だ。
身分を証明するための魔法石が埋め込まれた逸品だが、バラバラに崩せば同じ重さのドカル金貨と同等の価値になる。
「お兄さん頑張っちゃうぞーっス」
「クローリーさん」
「ん?」
「あたしの全財産も使って」
それは最初に旅費と思って握りしめてきた小銭だった。
マリエッラの掌には銀貨1枚と銅貨6枚があった。
「お。こりゃあ……大金っスな。一個師団くらい吹き飛ばせるくらいの魔法の材料が買えるっスよ」
クローリーは恭しく小銭を受け取った。
高額な構成要素を買うには足しにもならないが、少女の決死の覚悟を無碍にするような男ではない。
「それと……買ってもらった服と靴を……」
マリエッラがその場で脱ぎ始めた。
膨らみかけた幼い胸が露わになる。
「だーーっ!ストップ!ストップー!」
クローリーが慌てて押しとどめる。
「女の子をすっぽんぽんにさせたら、オレが変態趣味のお兄さんてことにされるっスー。だから、それは勘弁」
「ああ。大丈夫だ。さっきのでお釣りがくるさ」
シュラハトが頷いた。
構成要素の値段も価値も分からないから口から出まかせだ。
「いいか。今度こそ、ここでお大人しくしてるんだぜ」
* * *
「さーて。ああは言ったが、どうする?」
物陰に隠れたシュラハトとクローリーがこそこそ話をしていた。
「シュラさん。複雑な作戦は得意っスか?」
「いーや。全然」
「じゃあ、話は簡単っス」
クロ―リーがにやりと笑う。
「正面突破っス。盛大に花火大会するっスよ」
「……お前に訊いた俺がバカだった。でも……」
シュラハトは抜き身の大剣を軽く振ってみせた。
「俺も暴れたい気持ちなんだ」
「ひっひっひっ」
クローリーが下卑た笑いをする。
悪巧みをしようとする時の癖だ。
「魔法の悪用の恐ろしさ。見せてやるっス」
* * *
爆音とともに巨大な扉が吹き飛んだ。
最大火力にブーストした火炎爆発球だ。
金目を惜しまななければ魔法は恐ろしい。
成績は平凡と呼ばれたクローリーだが、知識だけなら導師級だ。
普段は使いたがらない攻撃魔法をここぞとばかりにぶっ放す。
こんな使い方は帝国近衛軍の魔術撃部隊でもなければしない。
異世界召喚者の大魔法ならその数百倍の破壊力と聞くが、ここではこれで十分だ。
不意打ちで魔術師が全力魔法攻撃をしたら、すぐには対応できない。
対魔法戦闘の訓練を受けてでもいなければ、かなりの精兵でも大混乱なのである。
魔法で何ができて何ができないかを知るのは、同じ魔術師だけなのだ。
「おーらおらおらー。一列になると死んじゃうっスよー」
火炎爆発球よりも威力で勝る電撃列索だ。
術者から真っすぐ30mほど先まで貫く雷である。
魔法の周囲にも電撃の触手が伸びるために、通路のような場所だと敵を一掃できるのだった。
欠点は……大量の宝石を使うこと。
クローリーも過去に魔術学院で一度練習したっきりで使ったことがない。
残った敵はシュラハトが次々斬り伏せていく。
「あ。お前は逃がさねーっス」
最初に会った若い神官を見つけたのだ。
確実性を増すために必中の攻撃魔法魔法の矢を放つ。
クローリーよりも上位の魔術師が魔法を込めて作ったアイテムからなので、数本の礫がまとめて現れる。
全部命中したら余程頑丈なものでも即死だ。
魔法の矢を全弾被弾した若い神官は転がって動かなくなる。
2人は滅茶苦茶な勢いで奥へと進んでいく。
「場所分かってるのか?クロ」
「当てずっぽうスけどな」
クローリーは掌大の水晶を見る。
「こっちに向かってくるのはだいたい敵っス。遠くであんまり動かないののどれかだと思うっスな」
生命反応を表示する魔法だった。
水晶に光点として映るが男女などの特徴は表示されない。
あくまで位置しか判らない。
あとは動きによって識別するしかない。
「まー。奥に隠すっしょな。勝手に死なれたら困るだろうしー」
クローリーはこれと思ったら近づき声をかける。
「ルチアさーん。妹さんの依頼で迎えに来たーっス。いらっしゃますかー」
水晶球を頼りにどんどん突き進む。
「通りすがりの冒険者っスー。ルチアさーん」
かちゃりと音を立てて、ある部屋の扉が開く。
若い女性だ。
聞いていた年齢よりも若く見える。
「あ。えーっと……しまった!顔判らねーっス!」
「……バカか」
「つかぬことをお尋ねしますっスが、ルチアさんっスか?」
「おい」
「……はい」
ルチアは小さな声で答えた。
当然だが不審者を見る目で見ている。
「お。おー。訊いてみるもんス」
「バカか。本当かどうか分からねえじゃねえか」
「いやー……だって」
クローリーは目を細める。
「あの子がもちょっとボイーンでバイーンになって、もう少し大人で美人になったら……似てる気がするっス」
「それ、ほとんど別人だよな?」
「連れて行って会わせりゃ分かるっス」
「雑だな、おい」
雑なことでは人後に落ちないシュラハトでも呆れるほどだ。
「じゃ。妹さんの名前の最初の文字は何っスか?」
「あ……M……」
「はい!本物っス!」
「雑っ!」
クローリーはルチアの手を引いて元いた方へ逃げ出した。
シュラハトも何度か剣を払いながら追いかける。
「魔法で起こした混乱はそう長くは続かないっス。今のうちに逃げるところまでいかないと」
シュラハトは無言で頷いた。
こんな無茶な方法は短期決戦でしか通用しないことを理解しているのだ。
良く訓練された戦闘員は立ち直りも早い。
追ってくる敵には容赦なく火炎爆発球をぶち込んだ。
「さあ。もうちょっとスよ」




