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第10章 夢の中の現実 4~Ars longa,vita 

第10章 夢の中の現実 4~Ars longa,vita brevis


●S-1:男爵領郊外/前線


 侵攻してきた蛮族軍は男爵軍との戦線で向かい合っていた。

 状況は有利にも見えるが総攻撃に入る様子はない。

 間に合わせとはいえ簡易砦や防柵を盾にマスケット銃を準備している男爵軍に手こずっていた部分もある。

 それでも数ではかなり有利なはずだった。


 男爵軍が総数で約800人程度なことに対して、蛮族軍は3000を超えていた。

 攻撃側は防御側の3倍の兵力ならほぼ互角、4倍になると圧倒的に有利というのが戦の常識の世界で負ける要素は少なかった。

 それでも小競り合いに終始していた。

 おかげで男爵軍はなんとか持ちこたえている状況だった。


 占拠した農家の大きな納屋の2階から戦場を眺めている男がいた。

 伯爵である。

 魔族の中でも上位種である吸血鬼(ヴァンパイア)の彼が自分の城から出ることは珍しい。

 不測の事態に対処するためでもあったが、もう一つは自らの目で直接確認しておきたかったからだった。


 チューソン率いる飛行魔獣部隊を一掃した謎の大魔法も気になったし、なによりさらに何か他の大魔法があるのではないかとも思えた。

 異世界召喚者(ワタリ)のエルフたちがどれほどの大魔法を持ち込んだのかが知りたかった。

 状況によっては人間たちが逆侵攻してくるだけの戦力を持っているのかもしれないのだ。

 

 しかし、現状はその様子は見えなかった。

 マスケット銃の威力には驚かされたが、連射が利かないことが判ると恐れるほどではないと思えた。

 もしかしたら、あれは何かの策略のための呼び水かもしれないし、うっかり踏み込むとエルフの大魔法が炸裂するのかもしれない。

 とにかく現在は全てが手探りだった。

 損害がどれほど出ても問題のない小鬼(ゴブリン)猪人(オーク)たちを使い潰しながら確認する作業に入っていた。


 人間たちから蛮族と呼ばれる魔族は厳格な身分差のある階級社会だ。

 下層種族は奴隷以下の存在でしかない。

 吸血鬼(ヴァンパイア)という謂わば文字通りの貴族階級である伯爵などが支配するのが当然で、獣族はゲームの駒以下だった。

 幾ら死のうが気にもならない。

 例えるならば、煙草を燃やした灰程度のものだろう。


 ならば、被害を無視して突撃を指せ続ければ良さそうなものではあるのだが、伯爵はそうしなかった。

 逆に勇んで進もうとする魔獣たちの前進を抑えていた。

 彼は待っていたのだ。



 街道に帝国軍の代表的な行進曲進め。前に(セムパスプゥラ)が響き渡る。

 それだけで大規模な軍団が行軍していることが、帝国民ならすぐに判った。

 少年の鼓笛隊が先導する軍勢があった。


 先頭に位置するのは教会騎士団。

 陽光を浴びて光り輝く白銀の板金鎧(フル・プレート)に身を包んだ騎士たちが、煌びやかな装飾をされた馬鎧(バーディング)に包まれた軍馬に跨る。

 次いで、長槍(パイク)を空高く突き立てた槍兵部隊が続く。

 周囲を威圧し、勇ましく見せるための順番だった。


 実質的な主力である傭兵隊はその後に続いた。

 数は最も多い。

 総兵力の8割はこれだ。

 装備は少々不揃いな軽装歩兵たちではあるが、戦場経験豊かなものも少なくない。

 原則的に略奪は勝者の権利である帝国では稼げる職業の一つだった。

 食い詰めた者やならず者も多いが、その分だけ使い捨てることができる。

 1000年の安定した歴史を刻んだ帝国は常備兵はあまり多くない。

 経済的な負担になるため軍務はなるべく地方領主に押し付けて、必要なときには臨時で傭兵を募った。

 結果として仲介する傭兵ギルドが存在するくらいだ。

 この進軍している軍勢もそうなのだろう。


 その最後尾は弩弓(クロスボウ)隊だ。

 彼らは督戦隊でもあり、逃げようとする傭兵を見れば追い立て、あるいは射殺することで無理やり前進させるためのものであった。

 故に貴族級のほとんどはここに位置している。

  

 その中にイストの姿があった。

 彼が自ら軍を率いるのはかなり珍しい。

 あくまで彼は魔術師であり、貴族である。

 戦場に出る必要は少なく、代理人を立てるのが常だった。


 その彼が出馬してきたのは理由があった。

 クローリーの無様な姿を見たいのだった。

 本来なら優等生と不良学生ほどの差のあるイストとクローリーである。

 イストが歯牙にもかけないくらいのものであるはずだった。


 ただ……。

 高名な導師から評価されていたクローリーが気に入らない。

 それだけのことで妬み憎んでいた。

 2人は碌に面識はない。

 名前を顔が何とか一致する程度の関係でしかなかった。


 なのにイストはクローリーが嫌いだった。

 無能な辺境領主の跡継ぎでしかない、異世界召喚の儀式にも呼ばれないような下級の魔術師でしかない、それで民衆向けの下らない研究をしているクローリーが憎らしかった。

 人は不思議だ。

 確固とした理由にもならないようなことで人を憎めるのだ。

 子供のいじめに似た構図かもしれない。


 少し前には蛮族へ連絡を取り攻め込ませた。

 それで男爵領はなくなるはずだった……が、どういうことか蛮族を追い返してしまった。

 隣接するバラント男爵ルネ・ディ・リューを扇動して攻め込ませたが、これも撃退された。

 教会の枢機卿を動かしての再度のバラント男爵の侵攻も失敗した。

 大魔法のエルフまで投入してもなおだ。


 腹立たしい。

 クローリーに名を成させてしまっただけだった。


「無能な奴らが多すぎる」

 

 イストは苦虫を噛み潰していた。

 彼にとって多くの人間は彼に劣る無能で下劣な存在だった。

 クローリー程度に苦戦するとはなんという無能揃いだと思った。


 ならば、無能者に任せきるのではなく、優れた頭脳を持つ自分が指揮をとる必要がある。

 ただし、総大将としてではなく軍師的なナンバー2として。

 人間の世界は不思議だ。

 何か失敗があった時はリーダーがまず責められる。

 責任者なのだから仕方がない。


 しかし、成功した時には部下の誰かがクローズアップされやすい。

 これも妬みのためだ。

 リーダーを称賛するよりも、下級のものの活躍のおかげと考えたくなるものなのだった。

 ナンバー1よりナンバー2という意識がでてくるのはそのせいだった。

 今回も総大将はエステルラレン王ヘインリヒということになっている。

 帝国東方を預かる大物だ。


 帝国は広大だ。

 その領土を大きく分ける皇帝直轄領、と皇室から分かれた3大王朝と呼ばれる3つの王によって四方を治めている。

 エステルラレン王はその一つで、帝国東方の守りを司っており、本来は対蛮族の要なのだった。

 それが何故か蛮族に呼応して動いているのだ。

 帝国建国から1000年。

 様々なものが揺らぎ始めていた。

 

 ヘインリヒは、ただ、イストに担がれただけではなかった。

 イストが何を企んでいるかを考えてはいないが、しかし、その必要もないと思っていた。

 魔女を退治する……だけでは彼が動くには理由として少し弱い。

 教会に貸しを作れる程度にしか当初は考えていなかった。

 適当な代理を立てるつもりだった。


 それが変わったのは、蛮族を利用するという話を聞きつけたからだった。

 不倶戴天の敵である蛮族と手を結ぶことがありえるのだろうか?

 ところが密偵を放った調査の結果、事実らしいことが判明した。

 イストの行為は帝国への裏切り行為といえた。


 これは面白くなった、とヘインリヒは考えた。

 魔女討伐で教会に対して恩を売り、同時に蛮族に通じたかどでイストを逮捕して叛乱者を倒し、そしてのこのこ現れた蛮族の軍勢を殲滅すれば二重三重にも功績と名声を獲得できる。

 一石三鳥を狙えるなら彼自身が出馬するのも吝かではなかった。

 むしろ、名声を一身に受けるためにも行くべきだった。


 すなわち、ヘインリヒはイストに踊らされた振りをしながらすべてを平らげるつもりだった。

 この場合はアレキサンダー男爵領などどうでも良かった。

 クローリーたちは蛮族もろとも消え去る何かでしかない。

 そして、彼は2万を超える軍勢を率いてきた。

 イストのような若造など眼中にはなかった。



 ヘインリヒの帝国運から半日遅れた位置にもう一つの軍勢があった。

 数はそう多くはない。

 せいぜい1000といったところだろうか。

 ただ、この軍勢はちょっとばかり異様だった。

 重装、軽装、様々ないでたちだったが、その多くは歩いていなかった。


 ほとんどの兵士が馬車に乗っていたのだ。

 もちろん高級な馬車ではなく、荷馬車や幌馬車など雑多なものだった。

 その先頭には騎馬があった。


 ライトブラウンの短く揃えた髪。

 30歳前といったところだろうか。

 痩身だが逆三角形の筋肉質。

 均整が取れた感じではなく、骨格が良いために肩幅が広いのだ。

 神官のミュア・レールだった。


 イストの要請に応じて別動隊を率いてきたのだ。

 雑多な傭兵で編成された、何かの時のための予備兵力という触れ込みだった。

 上手く戦いに参加できなければ略奪にありつけないかもしれない貧乏籤でもある。

 だから思ったように兵が集まらなかった、という建前になっていた。


 だが、傭兵であるはずの兵士たちの士気は高かった。

 寄せ集めにしては規律もしっかりしていた。

 各々が様々な思いを持って瞳を燃やしていた。

 実は彼らは傭兵ではない。


 ミュアの率いる反帝国革命組織ヴルカーンだった。

 帝国各地を放浪しながら、現体制に不満を持った市民を集めていき大きな村……というよりもちょっとした街を作っていた。

 その中でも選りすぐりの精鋭である。

 資金は少ないために武器も何もかもが不足気味ではある。

 何をするにもカネが要る。

 だからこそ……。


 ミュアは掌よりも少し大きい乳白色の塊を見詰める。

 石鹸だ。

 表面には凹みで刻まれた車輪の印があった。

 アレキサンダー男爵領を現すマークだ。

 現時点では男爵領というよりも、どこかの新興商会と認識されていることが多かったが、ミュアはもちろん知っていた。

 自ら男爵領を視察したのだから。


 どういう経緯をたどったのかは判らないが、自力で石鹸を生産して販売しているのが男爵領の資金源らしかった。

 食糧も庶民に行きわっているようだったから、おそらく石鹸の効果だと思っていた。

 もちろん実際には石鹸は切欠でしかなく、様々な産業と交易の拡大によるものだったが、そこまでは理解できていない。

 ただ、この技術一つでもヴルカーンには大きな利益となるだろう。


 ミュアは騒動に介入して、そういった設備や技術を手に入れるつもりだった。

 もちろんほとんどのものはヘインリヒに奪われるだろうが、技術者の2~3人でも拉致できれば良いと考えていた。

 彼にとっては組織を運営する資金が欲しかった。

 

 そして、そのための騎歩兵隊だった。

 馬車に兵士を乗せて運搬し、戦場までの疲労度の軽減と、すばやく移動する手段として考案したものだった。

 今のところは雑多な馬車の混成だったが、将来的には戦闘用に改修した馬車をよういするつもりだった。

 戦場でに移動よりも、戦場『まで』の高速移動で展開する部隊であった。

 

 欠点は馬に大量の飼い葉が必要なことだった。

 地域によっては道中に生えている草を食べさせるというわけにはいかないだろう。


「さてさて。漁夫の利(ラハテンドリト)となるか楽しみだね」


 ミュアのような革命を目指す人間はどこかで一か八かの勝負しなければならない。

 失敗すればそこで終了だ。

 イストという野心家にして騒動を起こそうとする知己を得たことで、そのチャンスが巡ってきたと思っていた。

 今がそのチャンスなのだろう。


「まだまだ他の人に汚れ仕事はやってもらわないと」




 様々な想いと野心とが複雑に交錯していた。

 1000年の及んだ帝国世界の矛盾が崩壊し、巨大な戦乱の嵐が大渦となっていく小さな火種が、小さな辺境の男爵領で起きようとしていた。

 そして、後の世界に少なからず影響を与える人物の少なくない数が、ここに集結しつつあった。

 その中心にいたのが特別な才覚を持ったわけでもない風変わりな青年エドアード・アレキサンダー、通称クローリーであったことは不思議な光景であったかもしれない。


 もし、彼が何か持っていたとしていても……地方領主という立場くらいしかない。

 地方の庶民生活の水準を少しでも改善したい、それだけだった。

 ただ、そう考えること自体が十分に特殊だったのかもしれない。





●S-2:男爵領外縁/最前線司令部



「戦術的勝利などいくら重ねても、戦略の前には無駄でござる!」

 賢者(セージ)は一番後方に位置する砦の上で腕を組んでいた。

「高度な戦略の前には無力!……のハズでござったが……」

 眉を顰めて考え込む。


 彼の知っている知識ではそのはずだったのだ。

 大局的な見地から俯瞰する戦略の方が圧倒的に優れている。

 だから、シュラハトような戦士を侮蔑すらしていた。

 個々の勇士の能力は戦局に影響するほどの価値を持たない。

 と、信じていた。

 実際の戦場を見るまでは。


 しかし、それは全て創作物の知識だった。

 数で優勢だったはずの敵は男爵軍の頑強な抵抗で一時後退していった。

 物語では弱小勢力は一飲みにされてしまうものなのだ。

 唯一、無敵の天才軍師がいる場合を除いて。


 男爵軍とて数で劣るのにもかかわらず、前線の後方に100人近くの兵力を温存していた。

 これも訳が分からなかった。

『遊兵を作るべからず』はゲームや創作物での鉄則だ。 

 戦略ゲームなら全てのユニットを投入して、とにかく一撃与えるのが常道だからだった。

 

 だが、彼は今、現実の戦場を見た。

 脳内の考えと様々なものが違っていた。

 最初は、中世のようなこの世界なら銃を作れば世界を取れるとすら思っていた。

 銃の前には刃物など物の数ではない。

 戦争に革命が起こせると考えていた。


 違った。

 三段撃ちをしても装填速度の問題は解決されないどころか、数が数百では攻撃できる面積が狭すぎて戦場を支配することなどできなかった。

 拠点防御では有用だったが、およそ野戦には向かない。

 かなり狭い戦場でなら効果的かもしれないが。


 面制圧なら野戦砲や機関銃があれば良いのだが、機関銃はまだまだ作れそうにもなく、大砲もかなり困難で現状は弩砲(バリスタ)による鉄炮を爆発させることが精一杯だった。

 高度な戦略さえあれば……違う。

 戦略はそもそも政治の範疇なのだった。

 攻め込まれないように周辺勢力と手を結ぶのも戦略、攻め込むときも同調してくれる同盟勢力を作るのも戦略。


 兵站が重要という言葉も知っていたが、中世のようなこの世界ではそれは食料と同義だとしか認識していなかった。

 それも違った。

 食料はもとより、、それを運ぶための輸送力も重要だった。

 輸送力があれば兵力を素早く、大量に、移動させることもできる。


 馬車は思ったほど貢献しないことも意外だった。

 動力になる馬は大量の飼い葉が必要になる。

 これが例えトラックでも運ぶためには燃料が必要なのと同じで、馬の力は機械の力にはるかに劣っていた。

 さらに道が整備さてていなければ、車両の運用効率は落ちる。

 それは馬車ならなおのこと。

 何より馬は戦闘力としても必要とされているのだ。


 賢者(セージ)の知るゲームなどでは、道が通じていれば自動的に補給は届くはずだった。

 その手配の方がとても困難だとは想像もしていなかった。

 しかも、必要な量を送ったはずなのに届かないこともしばしば。

 何故か幾分かは途中で無くなってしまうのだ。

 

 盗まれているのか、事故なのか、書類上のミスなのか、全くわからない。

 決まって半分近くが届く前に失われてしまうのだ。

 もしここで、規律を引き締める必要があるなどと考えるようだったら、完全に無能な指揮官だ。

 有能な補給指揮官は、「半分近くが失われるなら、2倍3倍の量を手配すれば良い」と考えるものだった。

 歴史上、最も兵站に成功した例はそうだった。

 過剰なほどの物資を送りつけるのだ。


 もっとも、それが有名な「スパム」などに代表される事例になるのだが。

 不要なほどに大量に送りつけらえる代名詞である。


 

 賢者(セージ)は寄り目になって考える。


 戦略家を自認するなら、もっと色んなことができていたはずなのだ。

 周辺勢力の状況などの情報や知識、それもなかった。

 創作物だと何故か正確な情報が簡単に手に入るはずなのに、それもなかった。

 優秀なシノビキャラがいないことに不満を感じていた。


 マスケット銃が標準装備になったのも火薬の安定供給が可能になったからだったが、彼はそれに何ら寄与していない。 

 排泄物を発酵させて硝石を作るというのはほとんど意味をなさなかった。

 戦国時代の硝石が実はチリなどからの輸入品がほとんどだったことを、昭和末期から平成にかけての時代の賢者(セージ)には判るはずもなかった。

 調査と分析によって判明したのは平成も終わりに近くなってからなのだ。


 今なら判る。

 道路の整備はもとより、鉄道まで敷設しようとヒンカやマーチスが躍起になっていたことが。

 交易にも軍事にも大きな影響を与えるからだった。

 特産品を作り、鎖国に近い帝国で海洋貿易路を広げるためにルシエが走り回っていたことも。

 

 先を見通せないで何が戦略だろうか。

 これではまるで、物語に登場するやられ役の無能将軍のようではないか。

 時代についていけない落ちこぼれ。

 そう思うと悔しかった。

 諸葛孔明登場!のように華麗に歴史に名を成すようなスーパー軍師になるつもりだったのに。

 事態はまるで逆だった。


 あの小憎らしい生意気な女子中学生ですら石鹸の製法を伝え、化粧水を作り、男爵領の経済に大きく貢献してきた。

 銃を振り回し、蛮族や隣国の軍勢を追い払った戦の女神のように住民達に崇められてすらいた。

 何が違うのだろうか。

 自分が私立Fランク文系大学出のパッとしない男だからだろうか。

 あの娘が理系的な素養を持っていたからだろうか。



 もし、ここでそのまま拗ねてしまえば賢者(セージ)はその存在が歴史には残らなかったろう。

 ただのオタクなダメ人間でしかなくなる。


「そうか。ならば、拙者しか知らぬ分野で勝負するまででござる」


 女子中学生に勝てそうな分野は何だろう。

 アニメの知識……ではない。

 文系がハマりやすいのは歴史だ。

 信長の三段撃ちもそうだった。

 考える。考えるのだ。


 この世界は中世のようでいて、部分部分が近世に近い。

 未開人と侮ってはいけない。

 その割には変に遅れた部分もある。

 自分の知る世界とは違うのだ。


「ううむ。拙者も魔法を使えたら……ん?」

 魔法?

 確かに魔法は使えない。この世界の魔法は。

「拙者の世界の魔法なら……」


 沙那たちの行動は充分に魔法に匹敵した。

 同様のことができてもおかしくないはずだった。


「おい。日本人(ジャポニー)

 後ろから作業着姿のラベルが声をかけてきた。

 泥だらけだった。

 彼も戦っていたのだろうか。

「2基だけだが組みあがった。試射はしてない」


「お……おお?」

「かなり重いぞ。鉄だけでできてるよりはマシだろうが。4頭引きでなんとか運べるくらいだ」

「使えるでござるか!」

「たぶん」


 ラベルはそっけない。

 日本人はまだましとはいえ、先進国の人間に好感は持っていないのだ。

 自然と突き放したような態度になる。

 この世界では協力し合わなければならないという自制は働いてはいたものの、なかなかに難しい。


 それでも賢者(セージ)が依頼していた注文の品ができたようだった。

 まさにこの世界に彼が持ち込んだ魔法の一つであったのかもしれない。

 連射可能な機関銃ともいえるべきものだった。

 ガトリング銃に似た外見だったが構造はかなり違う。

 あの複雑な構造の再現は困難である上に、金属薬莢の弾丸が量産化できていない時点で作っても意味がない。

 

 だからこそ、いや、マニアックな歴史オタクだからこそ考案したものだったかもしれない。

 大した学力もない分、中途半端な知識を持っている。

 その中でも最も役に立ちそうなもののひとつかもしれない。


「……やってやるでござる」

 賢者(セージ)は釜のようなヘルメットを被りなおした。

 ラベルに尋ねる。

「敵を誘い込めそうな……広場になっているところが良いでござるな」


「前線から入ってこられそうなと言えば……あの放牧予定地が良さそうだが」

「どこでござるか?」

「おれが蒸気トラクターの試験をしてるあたりだ」

「ふむ」

 

 賢者(セージ)が顔を上げて、示された方向を見る。

「納屋があるでござるな」

「そりゃ、トラクターを置いているからな」

 ラベルは無表情で頷く。


「すると対面は……ううむ。柵と土盛で対処するしかなさそうでござるな」

「何をするつもりだ?」

 ラベルが賢者(セージ)のにたりとした笑み不信感を覚えた。


「簡単なことでござる。効果を最大にするための準備でござるよ」

 どこからともなく取り出した百羽扇を扇ぐ。

「機関銃を使った戦い。普仏戦闘や南北戦争での失敗と、第一次世界大戦での成功の違いを御存知でござるか?」 


「さあ」


「どんな優れた武器も使い方を誤っては役に立たないという意味でござるよ」

 賢者(セージ)はこの時、目指すような三国志演義の諸葛亮孔明のような華々しいデビュー戦を演じることになる。

「コンバット!」

youtubeで数話見てみましたがあんまり良く判っていません。

人間ドラマだなあ。思っていたのと全然違いました。


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