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第9章 竜の世界 4~Mistical Landscape

時間が空きましたが、がんばります!


第9章 竜の世界 4~Mistical Landscape


●S-1:ドラゴン気流/ディルクロ艦橋


 竜気流ドラゴニック・ストリームに乗った2隻の飛行船の行く手を妨げるものはなかった。

 てっきり監視や警護のドラゴンが飛んでくるのかと身構えていた一行は拍子抜けした。

 ゆったりと……実際の速度はかなり速かったが比較対象物がない空ではあまり高速で飛んでいる感じはしない。

 艦橋の窓から見える景色は予想を大きく外すものだった。


 一言で表すのならば、ひたすら山並みが続いていた。

 竜の里というのだから広大な森林か、あるいは岩石で覆われた火山帯や、あるいはは何かもっと幻想的な風景が広がるのかと想像していたクローリーは少々拍子抜けした。

 それがあるところから家々が目に入った。

 ドラゴンのものには見えない。

 せいぜい人間サイズが生活する大きさだった。


 時折見える人影は……エルフだった。

 いや。エルフにしか見えない。

 金属光沢色の髪を持つ、独特の姿だ。

 

「エルフがいるんスな」


 クローリーは思わず言葉を口に出したところで、コンコードが微笑んだ。


「そう……ね」


「エルフは生贄にとかって聞いてたんスが……こりゃどうして?」


 クローリーはルゥやアイリから、そう聞かされてきたのだ。


「牧場のようにエルフを飼って、必要になったらパクっといくんスかね」


「まさか」


 コンコードは笑った。

 空島ライラナーにいたエルフの美人管理官。

 どうにも性格が掴めない。



「なんつーか。こう……おりょ?エルフの町が見えるっスよ!なかなか大きい」


 クローリーがシートから身を乗り出した。

 そこに見えるのは彼ら帝国の人族世界とそう変わらない人間的な街並みだ。

 人工的な空島とも雰囲気が違う。


「ドラゴンはエルフと共存してる……には色々やり合ったりしてたみたいだし、なんなんスか?コレ」


「あれが……ドラゴンの里よ。行けば解るわ」




●S-2:竜の里/広場


 先行する空島エルフのエーギル号が緩やかに降下を始めた。

 どうやら目的地らしかった。

 目印らしいものは特にはないが、男爵領の飛空港と同様に広場にポールが数本立てられている。

 管制用の見張り台はない。

 ただの広場なのだ。


 地面は芝のような草が一面に広がっているが手入れされている様子はない。

 そもそも通常は使うことがないのだ。

 むしろ雑木林になってないだけマシというものだった。

 着陸場所があるだけ良しとすべきか。

 そもそもドラゴンの姿がいまだに一向に見えないのは何故なのだろう。


 クローリーたちを乗せた飛行船ディルクロ号がエーギル号に続いて降りていく。

 降りる先には老齢のエルフと中年のエルフの2人の男性が立っていた。

 迎えに来たようにも見えるが、何かをする仕草もない。

 ただ、ただ、飛行船を見ているだけだった。


「お迎えが2人っていうのは寂しいっスなあ。ま、盛大なお出迎えを期待してたわけじゃねーっスけど」


 クローリーは立ち上がって、仲間たちを見まわした。

 これでやっと船酔いから解放されると思うと少しは気が晴れた。


「さ。行くっスよ」

 

 腕を振り上げて気合を入れると、一応は貴族の端くれのように恰好はつく。

 クローリーの柄ではないが、誰かが号令をかけたりリーダーをしなければ動かないものもあるのだ。

 冒険者時代から不思議とそういう立ち位置になりがちでもあった。

 脳筋のシュラハトやセクシー美女のマリエッラにさせるわけにはいかないからだった。

 損な性分なのもしれない。



 ギリギリまで降下したディルクロではあるが、完全な着陸はできない。

 地面から1mくらい離れている。

 構造上、人や物を運ぶゴンドラ部分は吊り下げ式だからだ。

 飛行船の浮力に頼っている以上は仕方ないのだが、いつかは完全に着陸できる船を作りたいと思っていた。

 問題は構造や材質的に自重に耐えられるものが作れるかなのだが。


「とーちゃーく!」


 沙那がクローリーの脇をすり抜けるように通り過ぎて、扉を開けるなり飛び降りた。


「さ、さにゃ!?」

 

 驚くクローリーを尻目に沙那は見事に着地していた。

 思ったよりも身が軽いのかもしれない。


「まったく……子供っスなあ……」


 呆れるしかない。

 えっへんと大きな胸を張って自慢げな表情の沙那。

 そして……。

 ぺんぎんたちが続いた。


 こちらは……どて。ぐしゃ。ごろん。ぼて。

 見事な墜落だった。

 背が1mに満たないぺんぎんたちには少し高すぎたのだろう。



「待て。今、タラップを下す」


 ルシエは冷静だった。

 乗組員に指示を出し、扉の傍に近寄る。

 彼女なら飛び降りるのも苦ではないだろうが。


「ルシちゃん、黒ー!」


 沙那がひゅーひゅーと声を上げる。

 それを呆れる風でもなく、ルシエは落ち着いた様子で左右に手を振った。


「タラップ下すから危ないぞ」


 沙那とぺんぎんたちに退くように言ってるのだ。

 タラップは自動でも何でもない。人力である。

 木製のものだが重く頑丈な材質で作られており、荷物を背負ったり鎧姿でも耐えられるようになっている。

 乗組員は4人がかりでタラップを運び出すと、ロープを握ってゆっくりと下げ降ろす。



 その様子を眺めていた2人組のエルフが口を開いた。


「人間は不便じゃな」


「ボクは飛び降りたよー!」


 Vサインの沙那に老人の方が眉を顰める。


「下品な娘だ」


 言動がではない。

 姿がだ。

 制服のミニスカートを翻して飛び降りたのもそうだが、小柄な体に不釣り合いに大きな胸が目立っていた。

 セクシーとかではなく下品としか見えなかった。

 彼らの価値基準なのだろう。


「元気があると言って欲しいねー!」


 沙那もあまり良い言われ方をしないことは慣れている。

 でも、ここは夢の中の世界。

 大人しくしていることも遠慮することもない。

 とはいえ。

 いきなり敵対的な行動に出ないあたりは争いを避けたがる日本的なものだった。



「だいたい。じーちゃんたち、誰?ルゥくんたちの先輩か何かー?」


「ん?ああ……」


 老人は首を横に振った。


「儂らはドラゴンじゃよ」


 沙那の後ろでクローリーがひっくり返る音が響いた。




●S-3:竜の王城?

 

 王城(ロイヤル・キャッスル)と案内された先は、王城というよりもむしろ城郭(シャトー)という方が近い感じがした。

 それも豪華な邸宅ではなく、葡萄酒の醸造所という意味でのシャトーに見えた。

 要はこじんまりとした村長さんの家という感じだろうか。

 

 全体的に石造りではあるがクローリーが手で触れると繋ぎ目がないことに気づく。

 ヒンカたちの提案で男爵領でも使い始めたコンクリート、とも少し違う。

 とても不思議なものだった。クローリーを除いては。


 彼は魔術師であるからこそすぐに気が付いた。

 これは間違いなく魔法の建造物だった。

 非常に高度な,そして高価な材料をふんだんに用いなければ不可能な壮大なものだ。

 ドラゴンという言葉が脳裏を掠める。

 帝国皇帝の財力でもこれは難しい。

 そもそもこれほどの規模を可能にするほどの大魔術を使える者がいるとも思えなかったが。


 2人のエルフはゆっくりと、そして説明もなにもせず先導した。

 案内くらい欲しいなと思わないでもなかったが、文化が違うからかもしれない。

 手持無沙汰な一行はあちこちをじろじろ眺めまわして観察していた。



「あ、あの。僕は先代の大使の代わりに来た者なのですが、状況が良く判っておらず……」


 困惑気味のルゥが先を行くエルフたちに声をかける。

 彼が知っているのは事実上の生贄だという話と、そして、先代が亡くなった時に代わりの大使を送る習わしということだけだった。

 空島のために覚悟はしてきてはいるものの何も解らないのだ正直なところ。

 だからこそクローリーたちにも上手く説明ができなかったのだ。 


 そして今、その場に到着したのにいまだに何の説明もない。

 いきなり殺されるのだろうか。

 先代の大使は一人も戻ってきたことがないので、伝え聞くことも何もないのだ。

 ただ、行ったら戻っては来れないだけ。

 せめて事情を理解してから死にたかった。

 ルゥは思わず震えていた。

 エルフとはいえ、まだ少年なのだ。


「どーしたのー?寒いー?」


 ルゥの背後から沙那が抱き着いてきた。

 小刻みに肩が震えていたからだ。

 

「飾りが何もないお城って広々として、なんか寒々しいしねー」


 ルゥの後頭部に沙那の胸が当たる。

 そうか。

 ルゥは気づいた。

 破廉恥とまで言われることのある大きな沙那の胸を見ても、不快に思わなかった理由に辿り着いた。

 嫌らしいとは思ったことがない。


 ルゥが沙那に感じていたのは母性だったのだ。

 優しく柔らかいものに包まれる安心感。

 まだ中学生の沙那には母性というのは酷かもしれないが、それは確かに感じたのだった。

 自分がまだ子供といって良いくらいの未熟な存在であることが伝わる。

 少し大人なマリエッラとはまた違う。


 ルゥはほんの少し気が楽になるのを感じた。


「さて。ここいらで良いかな」


 老人が立ち止まる。

 何もない。

 扉もない廊下の突き当り。

 部屋というのも烏滸がましい。

 ただの広い空間(ホール)


 老人は振り返る。

 広間にはテーブルも椅子も何もない。

 調度品がないのはともかく、休む場所さえない。

 立ち尽くすルゥの固めた握り拳を沙那の手が優しく包む。


「楽にするが良い」

 

 老人の声は広間に良く響いた。


「儂がオフィオン。ここの王を司っている」




●S-4:竜王城/水晶宮


「何もないところだが、ここが水晶宮(クリスタルパレス)と呼ばれている……いわば迎賓館じゃよ」


「水晶……?」


 沙那が首傾げた。

 水晶という割にそれらしいものが何も見えない。

 壁が透明とかそういうわけでもない。


「水晶感がなーい!」


「素材がたくさんの水晶と、ダイヤモンドでできてるからっスかね?」


「ほう……。人間風情で」


 オフィオンが興味深そうな顔をした。

 出来の悪い学生が珍しく良い回答をした時の教師の様な表情でもある。


「なるほど、お主は魔術師なのだな?魔法障壁のことに気づいていたのか」


「理屈だけは……っスな。俺じゃ材料も技術も何もかも足りねーっス」


「……どゆこと?」


 沙那が目をぱちくりさせる。

 クローリーは視線を沙那に向けた。


「あー。魔法で作る壁なんスな」


 クローリーが手でパントマイムした。

 見えない壁を押したり、四角に模ってみたり。

 

「壁ー?」


「魔法の壁も色々あるんスが、こいつはきっと魔法の障壁(マジックウォール)の中でも、もっとも硬くて頑丈な絶対壁(パルテリ)っスな。ドラゴンの炎だろうが、噴火の火山岩の直撃だろうが大丈夫ってシロモノっすよ」


 沙那は眉を顰めた。

 例えが判り辛い。

 まだしもバズーカの直撃や機関銃の弾丸に耐えるとかの方が現実味があるのかもしれない。


「帝国の皇城の重要な部分にはそれが使われてるって噂もあるほどっス」


「……よけー判らない」


 オフィオンは2人を面白そうに眺めた。

 どうやら男の方は多少話ができるらしい。


「正解ではないが概ね合っている。エルフどもの攻撃ではびくともしないはずじゃよ」



「しかし、わっかんねーっスなー。自分たちはドラゴンだって言いながら、何でエルフなんスかね?」

 クローリーが周囲を見回す。

 目の前の自称ドラゴンのエルフ2人以外には空島エルフたちを除くと、クローリーの仲間たちしかいない。

  

「ドラゴンのドの字も見えないし、なんだか騙される感じっスな」


「ほう?」


「これでもオレは冒険者してたんで、ドラゴンと戦ったこともなくはないんス。小さいヤツでしたけど」


 オフィオンはじっとクローリーを見詰める。


「そうか。見たいかね?」


「へ?」

 クローリーが首を傾げる。


 目の前の空気が揺らいだ。

 そうとしか言えなかった。

 説明するのは難しいが認識するのも難しい。


 何が起きたのかすぐには理解できなかった。

 目の前のエルフが、わずかに揺らめいた瞬間……巨大な姿に代わっていたのだから。



「……マジかよ」

 クローリーの後ろでシュラハトが唸った。

 目の前でエルフの老人が一瞬でドラゴンになったのだ。


 大きい。

 ざっと尾まで7~80mはあるだろう。

 高さは10mをはるかに超える。

 人間など蟻と大差ない。


「ド……ドラ………」

 マーチスは瞳孔が開くような驚き方だった。


 皆息をのむほど驚愕していた。

 たった一人を除いて。



「かっこいー!なになにあれ?真っ白い竜だよー?クロちゃん!イリージョンってやつー?デビッド・カッパーフィールドみたいなー?」


 沙那だけ何か喜んでいた。

 マジックショーでも見てるような感覚らしい。


「これ、触ったら、タネが判るかなー?えいっ!……あれ?なんか本物っぽーい!良くできてるぅー!」

 オフィオンの足元をぺたぺたと沙那が触りまくる。

 失礼この上ない。

 しかし、彼女には怪獣の着ぐるみを着たイベントの人くらいにしか見えてないらしい。



「この娘は……」

 巨大な白竜の姿を現したオフィオンが、可哀そうなものを見る目で沙那を見詰めた。



「なるほどね。だからこの建物がやけに天井が高かったり、変に広かったりしてたのねぇ」

 マリエッラが関心したように、改めて物を観察した。

 調度品がないのも当然だ。 

 巨大化した時に邪魔になるし、破壊しかねない。


「納得できたかな?」

 オフィオンが尋ねる。

 声はあくまで穏やかだ。

 あの巨体とその口の形状から発する言葉にしては、明瞭な低国語だった。


「この姿なら判るであろうな?」


「……御見逸れしましたっス……」

 クローリーが土下座した。

「しかし、なら何でまた、エルフの姿に化けているんスか?」


「小さい体の方が生活するのに便利だからに決まっておるであろう」

 こともなげにオフィオンは答えた。


「え?でも、なんでエルフ?」


「この世界の標準的な生物の大きさがこれらしいのでな……」


「ん?今なんと?……いや……」

 ヒンカが小柄な体を捩りながら考えた。

「この世界というたな?……それはどいうことなのじゃ?いやいやいや。薄々は感づいてはいるのじゃが……」 


「言葉の通りだ」

 オフィオンは言った。

「我々ドラゴンは元々この世界の住人ではないのだ。そう。……エルフどもと同じように」


 その場の人間たちに見えない衝撃が走った瞬間だった。 

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